「はぁ...人生つまらんわ」

ワイこと山田バナ夫は、ため息をつきながらコンビニのバイトをこなしていた。

「レジ打ち、品出し、掃除...毎日同じことの繰り返しや」

ワイは25歳。大学を出てからずっとフリーターを続けている。特に目標もなく、ただ惰性で生きているような毎日やった。

「ワイの人生、このままでええんやろか...」

そんな疑問を抱えながら帰宅したワイは、ふと本棚に目をやった。

「お、これ昔買った本やんけ」

手に取ったのは、ニーチェの『ツァラトゥストラはこう語った』やった。

「懐かしいなぁ。大学の時、かっこつけて買ったけど全然読んでへんかったわ」

何となく開いてみると、ある一節が目に飛び込んできた。

「人間とは、乗り越えられるべきものである」

「ほーん、なんやこれ」

興味を持ったワイは、続きを読み進めた。

「汝の内なる獅子よ、目覚めよ!」

「獅子...?」

ワイは首を傾げた。

「ニーチェ言うてるで。人間は『ラクダ』から『獅子』になり、最後に『子供』になるんやと」

そう、ニーチェの説く「精神の三段階変容」や。

「ラクダは重荷を背負い、獅子は古い価値観を打ち壊し、子供は新たな価値を創造する...」

ワイは、急に目が覚めたような気がした。

「そうか!ワイは今、ラクダの段階なんや!」

今までの惰性の人生。それは、社会の重荷を背負ったラクダそのものやった。

「よっしゃ!ワイも獅子になって、古い価値観ぶっ壊したろ!」

ワイは、急に元気になった。

翌日。

「店長!ワイ、辞めます!」

ワイは、意気揚々とコンビニに乗り込んだ。

「えっ!?急にどうしたん?」

「ワイは獅子になるんです!今までの価値観をぶっ壊すんや!」

店長は呆れた顔でワイを見た。

「お前、またへんなもん読んだやろ」

「ちゃうんです!これはワイの覚醒なんや!」

そう言って、ワイはコンビニを飛び出した。

「さぁて、これからどないしよ」

街を歩きながら、ワイは考えた。

「獅子か...獅子ってなんやろ」

ふと、動物園の看板が目に入った。

「そうや!本物の獅子に会いに行こう!」

ワイは、意気揚々と動物園に向かった。

獅子舎の前。

「おー、でけぇ...」

檻の中で昼寝している獅子を見て、ワイは感動した。

「ワイもこんなふうになるんか...」

しかし、よく見ると獅子は檻の中で退屈そうにしていた。

「あれ?なんか違うな...」

ワイは、なんとなく違和感を覚えた。

「獅子って、もっと自由やないんか?」

そう思った時、ワイの目に何かが映った。

「あれは...バナナ?」

檻の隅に、一本のバナナが落ちていた。

「あかん!獅子さんがバナナ食べたら、お腹壊すで!」

ワイは、咄嗟にバナナを拾い上げた。

「はぁ...危なかったわ」

ほっとしたワイは、何となくそのバナナを食べ始めた。

「んま...うまいやん、このバナナ」

その時や。

「お兄さん、すごい!」

後ろから声がした。振り返ると、小さな男の子が目を輝かせてワイを見ていた。

「え?なにが?」

「お兄さん、獅子のバナナ食べたよね!獅子になれるんだ!」

「えっ...」

ワイは、思わず笑ってしまった。

「ちゃうで。ワイは獅子にはなれへんよ」

「えー、なんで?」

「だってな、ワイはバナナが好きやもん」

その瞬間、ワイの中で何かが「カチッ」となった。

「そうや...ワイは獅子やのうて、バナナなんや!」

ワイは、突如悟ったかのように叫んだ。

「獅子は強いけど、檻の中や。でもバナナは、人を笑顔にできる。それに、皮で滑らせたりもできるし、おもろいやん」

男の子は、キョトンとした顔でワイを見ていた。

「お兄さん、おかしいよ」

「いや、ワイはやっと分かったんや」

ワイは、バナナの皮を手に持ちながら語り始めた。

「ニーチェはな、獅子から子供になれって言うてた。でもワイは、獅子やのうてバナナから始めるんや」

「バナナ...から?」

「そうや。バナナは、人を笑顔にする。滑らせて笑わせる。それに、栄養もあるし、どこでも食べられる。つまり...」

ワイは、得意げに続けた。

「バナナこそ、ニーチェの言う『超人』なんや!」

男の子は、目を丸くしてワイを見ていた。

「お兄さん、すごい!」

その言葉に、ワイはますます調子に乗った。

「よっしゃ!これからワイは、バナナ哲学を広めていくで!」

ワイは、その場でバナナの皮を頭に乗せた。

「お前も、バナナの道を極めてみるか?」

男の子は、キラキラした目でワイを見上げた。

「うん!僕も、バナナになる!」

こうして、ワイのバナナ哲学は、一人の少年の心を掴んだのであった。

それから数年後。

「山田先生、またテレビ出演依頼来てますよ」

秘書が、ワイに告げた。

「おう、了解や。今度は何の番組や?」

「『現代を斬る!バナナ哲学の真髄』だそうです」

ワイは、にやりと笑った。

「ほな、バナナ持って行くで」

ワイは、今や「バナナ哲学者」として名を馳せていた。

「人生はバナナや。外側は頑丈やけど、中身はやわらかい。そして、熟すほど甘くなる」

これが、ワイの代表的な言葉や。

「バナナは、ニーチェの言う『超人』の象徴なんや。柔軟で、栄養があって、人を笑顔にする。そして、必要なら皮で人を滑らせることもできる」

ワイの哲学は、多くの人々の心を掴んだ。

「ところでみんな知っとるか?バナナには『バナナパワー』っちゅう効果があるんやで」

ワイは、テレビでよくこんな雑学を披露していた。

「バナナに含まれるビタミンB6が、セロトニンを増やすんや。これが、気分を良くする効果があるんやで」

視聴者は、ワイのバナナ雑学に魅了されていった。

そして今や、ワイの著書『バナナで超人になる方法』は、ベストセラーになっていた。

「ワイは、獅子にはなれんかった。でも、バナナになることで、ニーチェの言う『超人』に近づけたんやと思う」

ワイは、よくこう語っていた。

「人生は、自分に合った方法で歩めばええんや。ワイにとっては、それがバナナやった」

こうして、ワイこと山田バナ夫は、バナナを通じて自らの哲学を確立し、多くの人々に影響を与えるようになったのであった。

そして、ワイの次なる目標は...

「次は、バナナ共和国でも作るか」

ワイは、真剣な顔でバナナを見つめるのであった。

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