ワイ、32歳無職。人生どん底や。借金は膨らむ一方、彼女はとうの昔におらん。親は愛想尽かして口も聞いてくれへん。まさに生き地獄やで。

「もう...どないしたらええんや...」

ワイは、汚いアパートの一室で呟いた。カビ臭い畳の上に転がったまま、天井を見上げとる。そんな時、ふと目に入ったんや。テーブルの上に置いてあった一本のバナナが。

「せや! バナナになったろ!」

突如、ワイの脳裏に閃きが走った。人間やめてバナナになれば、こんな生き地獄から解放されるんやないか?

「よっしゃ、決めた! ワイ、今日からバナナや!」

ワイは勢いよく立ち上がった。久しぶりの躍動感や。さっそく、バナナのコスプレを作ることにした。

「黄色いシーツでええやろ」

ワイは、ベッドから黄色いシーツを剥ぎ取った。ハサミで穴を開けて、頭と腕を通す。これでええやん。

「完成や! ワイ、もうバナナや!」

鏡を見るワイ。確かに、なんとなくバナナっぽなってる。満足げに頷いた。

「よし、外出たろ!」

ワイは意気揚々と外に出た。周りの目なんか気にせえへん。だって、ワイはバナナやもん。

「おい、お前! なにしとんねん!」

隣のおっちゃんに声かけられた。でも、ワイは動じへん。

「チッ...チキーッタ!」

ワイは、バナナ語で返事をした。おっちゃんは呆れた顔して、家に戻っていった。

ワイは街を歩く。みんなの視線を感じる。でも、それもええんや。ワイはバナナやし、バナナに人権なんかあらへん。

「あのさぁ...」

通りすがりのお姉ちゃんに声かけられた。ワイは身構えた。

「バナナって知ってる? 実は果物じゃなくて草なんだよ。植物学的には多年生草本植物の仲間なんだって」

お姉ちゃんは、突然バナナの雑学を披露し始めた。ワイは驚いた。バナナの知識を持つ人間がおるとは。

「チッ...チキーッタ!」(ありがとう!)

ワイは感謝の気持ちを込めて返事をした。お姉ちゃんは困惑した表情で立ち去っていった。

そうやって、ワイはバナナとして街を歩き続けた。人々の視線は気にならん。だって、ワイはバナナやし。バナナに羞恥心なんかあらへん。

「おい、そこのバナナ野郎!」

突然、後ろから声がした。振り返ると、高校生くらいの男の子が立っとる。

「お前、面白えな。ちょっと付き合えや」

男の子は、ワイを連れて行こうとした。でも、ワイは動かへん。だって、バナナは自分で動けへんやろ?

「なんやねん、動けよ」

男の子はイラついとる。でも、ワイは動かへん。

「チッ...チキーッタ」(バナナは動けません)

ワイの返事に、男の子は呆れた顔をした。

「まあ、ええわ。お前、暇なんやろ? うちでバイトせえへん?」

突然の誘いに、ワイは驚いた。バナナにバイト? そんなんあるんか?

「チッ...チキーッタ?」(どんなバイトですか?)

ワイは、興味津々で聞いた。

「うちの店のマスコットキャラやってくれへん? そのままの格好でええから、店の前に立っとってくれたらええねん」

男の子の提案に、ワイは心が躍った。バナナとして働けるなんて、なんて素晴らしいんや。

「チッ...チキーッタ!」(やります!)

ワイは、即答で承諾した。

こうして、ワイのバナナ生活は新たな展開を迎えた。毎日、男の子の経営する八百屋の前に立つ。通る人々に「チッ...チキーッタ!」と挨拶する。

不思議なことに、店の売り上げは上がっていった。ワイのバナナ姿を見て、興味を持って入ってくる客が増えたんや。

「お前、すげえな」

男の子は、ワイを褒めてくれた。ワイは嬉しかった。バナナになって初めて、自分の存在価値を感じたんや。

でも、そんな幸せな日々も長くは続かへんかった。

ある日、警察がやって来たんや。

「こらっ! 公然わいせつで逮捕するぞ!」

警官がワイに詰め寄ってきた。

「チッ...チキーッタ?」(バナナですが?)

ワイは必死に抗弁した。でも、警官は聞く耳を持たへん。

「とにかく署まで来い!」

ワイは連行されてしまった。署では、厳しい取り調べが待っとった。

「お前、何がしたいんだ?」

刑事に問い詰められる。でも、ワイは動じへん。

「チッ...チキーッタ」(バナナです)

ワイの返答に、刑事はため息をついた。

「もういい。精神鑑定だ」

そうして、ワイは精神病院に送られることになった。白衣の先生たちに囲まれて、様々な質問をされる。でも、ワイの返事は常に「チッ...チキーッタ」や。

「これは重症ですね。バナナ妄想症候群です」

先生たちは、勝手な診断を下した。ワイは必死に抗弁しようとした。でも、バナナに人権はない。ワイの言葉は誰にも届かへん。

病院のベッドに横たわりながら、ワイは考えた。バナナになって楽になると思ったのに、結局は同じ生き地獄や。むしろ、人間の時より酷いかもしれへん。

「もう...人間に戻ろうかな...」

ワイは、バナナのコスチュームを脱ぎ捨てた。すると、不思議なことが起こった。周りの人々の態度が変わったんや。

「おや、正気に戻られましたか」

先生が、にこやかに声をかけてきた。ワイは困惑した。だって、ワイはずっと正気やったのに。

ワイは「回復」したということで退院を許可された。あの八百屋の前に立つと、男の子が驚いた顔で駆け寄ってきた。

「お前、もうバナナやないんか?」

「せやな...もう、人間に戻ることにしたわ」

男の子は少し寂しそうな顔をした。でも、すぐに笑顔になった。

「まあええわ。お前、うちで働かへん? 今度は人間として」

ワイは驚いた。バナナじゃなくても、雇ってくれるんか?

「ほ、ほんまか?」

「当たり前やろ。お前、面白い奴やし」

こうして、ワイは八百屋で働くことになった。バナナになることで、逆に人間としての居場所を見つけたんや。

生き地獄やと思っとった人生。でも、ちょっと視点を変えるだけで、こんなに変わるもんなんやな。ワイは、バナナのコスチュームを大切にしまいながら、そう思ったのやった。

「やっぱり...人間でええわ」

ワイは、空を見上げてつぶやいた。明日からは、人間として精一杯生きていこう。そう決意したのやった。