宇宙ステーション「アルゴス」の窓から、無限に広がる漆黒の宇宙を眺めながら、ジンは深いため息をついた。彼の筋肉は萎縮し、骨密度は低下していた。宇宙滞在が長くなるほど、人間の身体は衰えていく。それは宇宙飛行士にとって避けられない現実だった。
「ジン、今日のトレーニングの時間だぞ」
同僚のアキラの声に、ジンは重い腰を上げた。アルゴスには最新の筋力トレーニング設備が整っていたが、それでも地球上のトレーニングとは比べ物にならなかった。
ジンは専用のマシンに座り、レジスタンストレーニングを開始した。しかし、どれだけ頑張っても、地球上での筋力を維持することは困難だった。
「神様、どうか助けてください」
ジンは思わず呟いた。しかし、宇宙には神の声など届かない。ここには、科学と人間の努力しかないのだ。
その時、アルゴスに警報が鳴り響いた。
「緊急事態発生。全クルー、直ちに対応せよ」
ジンとアキラは急いで制御室へ向かった。モニターには、巨大な隕石が接近している様子が映し出されていた。
「衝突まで3分」
冷たい機械音が響く中、ジンは咄嗟に決断した。
「俺が出る」
「馬鹿な!」アキラが制止しようとしたが、ジンは既に宇宙服を着用し始めていた。
ここで、ちょっとした雑学を。宇宙服は約180kgもの重さがあり、地球上では一人で着用するのは困難です。しかし、無重力状態の宇宙では、宇宙飛行士は比較的容易に着用することができます。
ジンは宇宙空間に飛び出した。彼の手には、隕石を破壊するための爆薬が握られていた。筋力の衰えた体で、ジンは必死に隕石に向かって泳いだ。
「1分」
時間が迫る中、ジンはついに隕石に到達した。彼は爆薬を設置し、急いでアルゴスに戻ろうとした。しかし、筋力の低下した体は思うように動かない。
「30秒」
ジンは必死にアルゴスに向かって泳いだが、スピードが上がらない。彼の頭の中には、これまでの宇宙生活が走馬灯のように駆け巡った。筋力トレーニングに励んだ日々、同僚たちとの会話、そして地球への思い。
「10秒」
もはや間に合わないと悟ったジンは、目を閉じた。その時、彼の体が強い力で引っ張られるのを感じた。目を開けると、アキラが彼をアルゴスに引き戻していた。
「5、4、3、2、1」
爆発音と共に、巨大な隕石は粉々に砕け散った。アルゴスは無事だった。
制御室に戻ったジンは、大きく息を吐いた。
「ありがとう、アキラ」
「当たり前だ。俺たちはチームなんだからな」
その瞬間、ジンは気づいた。宇宙には確かに神はいない。しかし、そこには仲間がいる。互いに支え合い、励まし合う仲間が。
それからというもの、ジンの筋力トレーニングに対する姿勢が変わった。彼は以前にも増して熱心に取り組むようになった。それは単に自分の体のためだけでなく、仲間を守るため、そしてミッションを成功させるためだった。
宇宙の過酷な環境の中で、人間は常に限界に挑戦し続ける。そこに神はいなくとも、人間の意志と科学の力が、不可能を可能にしていく。ジンはそう確信しながら、再び無重力のトレーニングマシンに向かった。
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