ワイ、30歳の平凡リーマン。人生どん底やと思ってた矢先、出会い系アプリに手を出してもうた。

「どうせブスしかおらんやろ」

そう思いながらスワイプする指が、突如として止まる。

「ファッ!?」

画面に映るのは、まるで絵画のような奇妙な顔。目は左右非対称、鼻は横向き、口はどこにあるんやらわからん。

プロフィールには「ピカソです」の一言。

「エエやん!面白いやつおるわ!」

ワイ、思わずスワイプ。奇跡的にマッチ成立や。

「初めまして!ピカソさんですか?面白いプロフですね!」

「Hola! Si, soy Picasso.」

「えっ、スペイン語!?ガチモンやんけ!」

ワイ、慌ててスマホの翻訳機能を駆使する。

「あの...本物のピカソさんですか?」

「そうだ。私はピカソだ。」

「えっ...でも、ピカソって1973年に...」

「死んだ?ふふ、芸術に死はない。」

ワイ、困惑。でも、なぜかワクワクする。

「ほな、一度会いませんか?」

「いいだろう。だが、その前に課題がある。」

「課題?」

「そうだ。君の人生を絵に描いてみてくれ。」

ワイ、絶望。「無理ゲーやんけ!」

でも、どうしても会いたい。ワイは必死で絵の勉強を始めた。

美術館に通い詰め、ネットで情報を漁る。それでも、ピカソの画風の謎は解けない。

「くそっ、こんなん描けるわけないやん!」

ある日、疲れ果てたワイは公園のベンチで寝てしもうた。夢の中で、謎の声が聞こえる。

「お前、本当に描きたいんか?」

「描きたいに決まっとるやろ!」

「ほんなら、自分の心見てみい」

ハッと目が覚める。スケッチブックを開くと、そこには見慣れぬ奇妙な線が踊っていた。

「あかん...ワイ、こんな絵描いとったんか...」

現実を突きつけられ、ワイは泣きそうになる。でも、諦められへん。

再び必死で絵に取り組む。そんな日々が続いて3ヶ月。ある日、ワイは気づいた。

「待てよ...これって...」

ピカソの画風を完全に理解することはできへんかったけど、その魅力は分かった。

「芸術って、こんなに自由なんや...」

ワイはピカソにメッセージを送った。

「ピカソさん、完璧な絵は描けへんかったけど、芸術の自由さは分かったで」

返信はすぐに来た。

「よくやった。では、会おう」

待ち合わせ場所に向かうワイ。緊張と期待で胸がドキドキする。

そこで待っていたのは、若くてイケメンな男やった。

「えっ...」

思わず声が漏れる。

「君が描いた絵を見せてくれないか」

ワイ、恐る恐るスケッチブックを差し出す。男は真剣な表情で見入る。

「なかなかだ。君には才能がある」

「えっ...でも、ピカソさんは...」

男は微笑んだ。

「私はピカソではない。ピカソの名を借りた美術教師だ。君のような若者に芸術の素晴らしさを伝えたくてね」

ワイ、困惑する。でも、なぜか安心感もあった。

「あの...なんでピカソなんですか?」

男は答えた。

「ピカソは20世紀を代表する画家だ。彼の芸術は、既存の概念を打ち破り、新しい表現を生み出した。そして、彼には面白いエピソードがある。ピカソは晩年、自分の絵の署名だけで生活できるほど有名になった。ある時、レストランで食事をした後、現金の代わりにナプキンにサインをして支払ったという逸話があるんだ」

「マ?そんなガチモンやったんか...」

会話が弾む。ワイ、芸術の話に夢中になってしもうた。

「ほんまにありがとうございました。芸術の素晴らしさ、ちょっと分かった気がします」

帰り際、ワイは勇気を出して聞いた。

「また会ってもええですか?」

男は嬉しそうに頷いた。

その夜、ワイは思った。出会い系アプリで出会ったピカソ(もどき)。

人生って、キャンバスみたいなもんかもしれん。最初は白くて何もない。でも、そこに自分の色を塗っていける。

ワイの新しい物語は、まだ始まったばかりや。でも、もう寂しくない。だって、芸術という新しい世界と、その世界を共有できる人を見つけたから。

平凡やと思ってた人生も、これからはカラフルな抽象画みたいになるんやろうな。

ワイ、スマホを見つめながら呟く。

「出会い系アプリ、ありがとう。ピカソ、ありがとう。ワイの人生、これからが本番や!」