2045年、東京。

繁華街の雑踏の中、一人の男が異彩を放っていた。リーゼントスタイルの髪に、特攻服姿。まるで昭和のヤンキーそのものだ。しかし、彼の手には最新型のホログラフィックタブレットが握られていた。

その男の名は、佐藤龍也。32歳。職業は小説家。

龍也は、行き交う人々の視線を気にすることなく、歩を進めた。彼の目的地は、出版社だった。

社屋に入ると、受付のAIが彼を認識し、声をかけてきた。

「佐藤様、お待ちしておりました。編集部へご案内いたします。」

龍也は無言でうなずき、AIの誘導に従った。

編集部に入ると、編集者の山田が彼を出迎えた。

「佐藤さん、お疲れ様です。今回の原稿、素晴らしかったですよ。」

龍也は、ふんっと鼻を鳴らした。

「当たり前だろ。俺様が書いたんだからよ。」

その口調は、まるでヤンキーそのものだった。しかし、山田は慣れた様子で微笑んだ。

「はい、もちろんです。さて、今回の印税の件なんですが...」

山田がホログラフィック画面を操作すると、そこに大きな数字が浮かび上がった。

「1000万円です。おめでとうございます、佐藤さん。」

龍也は、無表情のまま頷いた。

「ああ、悪くねえな。」

山田は、龍也の反応に少し戸惑いを見せた。

「佐藤さん、1000万ですよ? 普通はもっと喜ぶものでは...」

龍也は、ため息をついた。

「山田さんよ、金なんて所詮数字にすぎねえんだ。大切なのは、俺の言葉が読者の心に届くことよ。」

その言葉に、山田は感心したように頷いた。

昭和時代のヤンキー文化は、1950年代後半から1980年代にかけて日本で流行した若者の反社会的サブカルチャーだ。特徴的な髪型や服装、独特の言葉遣いなどが特徴で、当時の社会に大きな影響を与えた。

龍也は、その文化を現代に蘇らせた小説で人気を博していた。

編集部を出た龍也は、繁華街を歩いていた。突然、彼の腕にはめられたウェアラブルデバイスが光った。

「龍也さん、新作の構想はいかがですか?」

AIアシスタントの声だ。龍也は、口元に薄い笑みを浮かべた。

「ああ、もうできてるぜ。今夜から書き始めるよ。」

「了解しました。執筆環境を整えておきます。」

龍也は、人混みの中を歩きながら、頭の中で物語を組み立てていた。彼の脳内では、昭和のヤンキーたちがサイバーパンクな未来都市を駆け巡る姿が躍動していた。

その夜、龍也はアパートの一室で執筆を始めた。部屋の壁には、ホログラフィックディスプレイが投影され、彼の思考を直接文字に変換していく。

「オラァ!未来のヤンキーども、かかってこい!」

龍也は叫びながら、指を動かした。文字が次々と浮かび上がる。

彼の小説は、昭和のノスタルジーと未来技術が融合した独特の世界観で、多くの読者を魅了していた。その斬新さが評価され、わずか2年で売れっ子作家になったのだ。

夜が明けるころ、龍也は執筆を終えた。彼は窓を開け、朝日を浴びながらつぶやいた。

「俺たちヤンキーの魂は、どんな時代になっても消えねえ。」

その言葉は、まるで彼の小説の一節のようだった。

龍也は、髪を整えながら考えた。彼の外見と内面のギャップこそが、彼の創作の源泉だった。昭和のヤンキー文化を体現しながら、最先端の技術を駆使して小説を書く。その独自性が、彼の作品を唯一無二のものにしていたのだ。

彼は、再びホログラフィックタブレットを手に取った。次の作品のアイデアが、既に頭の中で形になりつつあった。

「よーし、次は2000万を稼いでやるぜ。」

龍也の目は、決意に満ちていた。彼の存在自体が、一つのSF小説のようだった。昭和と令和、そして未来が交錯する物語。それこそが、佐藤龍也という作家の本質だったのだ。

街に朝日が差し込む中、龍也は新たな創作の旅に出発した。彼のリーゼントが、朝日に輝いていた。


104グッドライフ高崎望
20240718 -3