大学3年の春、サークル勧誘の季節。キャンパスは活気に満ちていた。
俺、田中誠(20)は、友人の鈴木と二人で新歓祭りを眺めていた。
「おい、誠。あそこの美術サークル、可愛い子多くね?」
鈴木の言葉に、俺は目を向けた。確かに、美術サークルのブースには魅力的な女子が数人いた。
「お、マジだ。ちょっと見てみるか」
俺たちがブースに近づいたその時だった。
「ギギギギギ...」
異様な機械音が聞こえてきた。
「なんだ? 工学部の実験か?」
鈴木が首を傾げる。しかし、その音は明らかに近づいてきていた。
「ドガアアアアン!」
突然の衝撃音。美術サークルのブースが木っ端微塵に吹き飛んだ。
「うわあああああ!」
悲鳴が響き渡る。煙の中から現れたのは、人の形をしているものの、明らかに人間ではない存在だった。
全身を金属で覆われ、右腕にはドリルのような巨大な武器。左腕には盾のようなものが取り付けられている。
「あ...あれは...」
俺の隣で、鈴木が震える声で呟いた。
「サークルクラッシャー...」
都市伝説として語られてきた存在。サークル活動を徹底的に破壊し尽くす謎の存在...まさか本当にいたとは。
サークルクラッシャーは、無言で次のブースに向かった。
「ギギギギギ...」
右腕のパイルバンカーが唸りを上げる。
「逃げろおおおお!」
学生たちが悲鳴を上げて逃げ出す中、サークルクラッシャーは容赦なくブースを破壊していく。
「どうして...どうしてこんなことを...」
泣き崩れる学生。しかし、サークルクラッシャーは一切の感情を見せず、ただ黙々とサークル勧誘のブースを潰していく。
パイルバンカーは、もともと建設現場で使用される杭打ち機のことを指す。SF作品などでは、これを武器化した設定がよく見られる。現実にはあくまで工事用の機械だが、その破壊力は本物だ。
キャンパスは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「誠、あいつ...こっちに来るぞ!」
鈴木の叫び声に、俺は我に返った。確かに、サークルクラッシャーはゆっくりとこちらに向かってきている。
「く...来るな!」
俺は咄嗟に近くにあった椅子を投げつけた。しかし、サークルクラッシャーの装甲に当たっても、まるで効果がない。
「ギギギギギ...」
パイルバンカーが唸りを上げる。俺は覚悟を決めた。
「鈴木、逃げろ!」
「バカ野郎!一緒に逃げるぞ!」
鈴木が俺の腕を引っ張る。
その時だった。
「待たれよ!」
突如、一人の男が現れた。白髪で、白衣を着ている。
「私だ!お前を作った佐藤博士だ!」
サークルクラッシャーが動きを止めた。
「なぜだ!なぜサークルを壊す! お前を作ったのは、サークル活動を盛り上げるためだったはずだ!」
サークルクラッシャーが、ゆっくりと佐藤博士の方を向いた。
「ギ...ギ...」
「何?喋れるのか!?」
「ギ...義務...サークル...壊す...」
「違う!お前の義務はサークルを盛り上げることだ!」
「盛り上げる...=...壊す...?」
サークルクラッシャーが混乱している。プログラムの矛盾に直面したのだ。
「違う! 盛り上げるとは、楽しませること。人々を笑顔にすることだ!」
「笑顔...?」
突然、サークルクラッシャーの体から煙が上がり始めた。
「自己...矛盾...エラー...」
「危ない!逃げろ!」
佐藤博士の叫び声とともに、俺たちは全力で逃げ出した。
「ドッカーーーン!」
振り返ると、サークルクラッシャーは大爆発を起こしていた。
後日、大学当局は「ガス爆発」として事態を収束させようとした。しかし、あの日の出来事を目撃した学生たちの記憶から、サークルクラッシャーの存在が消えることはなかった。
そして今も、新歓シーズンになると、どこからともなく「ギギギギギ...」という音が聞こえてくるという噂が、キャンパスに流れているのだった...。
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