2157年、地球は終わりを迎えようとしていた。
人類の過剰な資源消費と環境破壊により、地球の生態系は崩壊寸前。大気は有毒ガスで満たされ、海は酸性化し、大地は不毛と化していた。残された人類はわずか10億人。そのほとんどが地下都市で細々と生きながらえていた。

科学者たちは必死に解決策を模索したが、もはや地球を元の姿に戻すことは不可能だった。唯一の希望は、新たな居住可能な惑星を見つけ、そこへ移住することだった。しかし、既知の宇宙には適した惑星は見つかっていない。

そんな絶望的な状況の中、天才物理学者のアキラ・タナカが「対消滅エンジン」を発明した。これは、物質と反物質の対消滅反応を制御し、莫大なエネルギーを生み出す革命的な推進システムだった。理論上、このエンジンがあれば、光速の10%で宇宙船を推進させることができる。

人類は最後の望みを、この対消滅エンジンに託した。「ホープ」と名付けられた巨大宇宙船が建造され、5万人の選ばれた移民と、凍結保存された100万の受精卵を積んで、アンドロメダ銀河に向けて旅立つことになった。

出発の日、アキラは宇宙船の主任エンジニアとして乗船した。彼の妻と娘も乗船していた。地上に残された人々は、涙ながらに宇宙船の出発を見送った。

「ホープ」は順調に航行を続けた。対消滅エンジンは完璧に機能し、予定通りの速度で宇宙空間を進んでいった。しかし、出発から5年後、思わぬ事態が発生した。

エンジンの出力が不安定になり始めたのだ。アキラと彼のチームは必死に原因を探った。そして、ついに恐ろしい事実が判明した。対消滅反応が予想以上に激しく、エンジンの構造材を侵食していたのだ。

このまま航行を続ければ、エンジンは破裂し、宇宙船もろとも消滅してしまう。かといって、エンジンを止めれば、目的地に到達する前に船内の資源が尽きてしまう。

アキラは苦悩した。彼は、エンジンの出力を落とせば寿命を延ばせることを発見した。しかし、それでは目的地への到着が大幅に遅れてしまう。船内の資源と、エンジンの寿命のバランスを取りながら、どこまで航行できるか、必死に計算を繰り返した。

そして、ついに決断の時が来た。アキラは全乗員を前に、現状を説明した。

「このまま進めば、私たちの生きているうちに新しい惑星に到達することはできません。しかし、子孫たちなら到達できる可能性があります。」

乗員たちは動揺した。しかし、これが人類最後の希望であることを、皆理解していた。

アキラは続けた。「私たちは、この宇宙船を、人類の方舟としなければなりません。世代を超えて航行を続け、いつの日か、新しい家を見つけるのです。」

そして、「ホープ」は世代宇宙船となった。乗員たちは、限られた資源を大切に使いながら、宇宙船内で生活を営み、子孫を育てていった。

アキラは、対消滅エンジンの維持に生涯を捧げた。彼の娘も、孫も、エンジニアとなり、人類の希望を乗せた宇宙船の心臓部を守り続けた。

時は流れ、「ホープ」の出発から200年が経過した。アキラから数えて7代目のエンジニア、ユキ・タナカが、ある発見をした。彼女は、対消滅反応をさらに効率的に制御する方法を見つけたのだ。

この発見により、エンジンの寿命は大幅に伸び、推進力も向上した。そして、ついに待望の知らせが船内に響き渡った。

「居住可能な惑星、発見!」

観測チームが、生命の存在可能性が高い惑星を見つけたのだ。「ホープ」は、その惑星に向けて針路を変更した。

到着まであと10年。「ホープ」の乗員たちは、新しい世界への期待に胸を膨らませた。彼らの祖先が夢見た希望の地は、すぐそこまで迫っていた。

ユキは、対消滅エンジンのコントロールパネルに手を置きながら、静かに語りかけた。

「おじいちゃん、私たちやりました。あなたの発明が、本当に人類を救ったのよ。」

彼女の目には、喜びの涙が光っていた。

対消滅エンジンは、その時もなお、力強く稼働し続けていた。それは単なる機械ではなく、人類の意志と希望の結晶だった。宇宙の荒波を越え、幾世代もの時を超えて、ついに人類を新たな家へと導こうとしていたのだ。

「ホープ」は、輝く青い惑星に向かって、最後の航海を続けていた。

人類最後の希望は、今まさに実現しようとしていた。そして、新たな歴史の幕開けが、すぐそこまで迫っていたのだ。




小説なら牛野小雪がおすすめ【10万ページ以上読まれた本があります】

牛野小雪の小説season3
牛野小雪
2023-10-25