ワイ、今日も元気に目覚めるンゴ。でも、心の中では泣いとるんや。だって、今日もあの仕事に行かなアカンからや。
「はぁ...ごぼうになりきる仕事、ほんまつらいわ...」
そう、ワイの仕事は「ごぼう」になりきることなんや。なんでこんな仕事してるかって?そりゃ金がないからに決まっとるやろ!
ワイは重い腰を上げて、家を出る。駅に向かう道すがら、周りの人間を見てると羨ましくなるわ。みんな普通の仕事に行くんやろなぁ...
会社に着くと、上司のタマネギが出迎えてくれるんや。
「おはようごぼう君!今日も一日頑張ろうな!」
「...はい」
ワイは渋々返事をする。タマネギはいつも元気やな。だって、アイツはタマネギになりきるのが好きなんや。気が狂っとるわ。
更衣室に向かうと、同僚のニンジンとダイコンがおるわ。
「よぉ、ごぼう!今日も掘られる準備はできとるか?」
ニンジンが下ネタみたいなこと言ってくる。ワイは無視や。
ワイは嫌々ごぼうの衣装を着る。全身を覆う茶色のタイツに、細長い筒状の服。頭には葉っぱの帽子。ほんま、誰が考えたんやこんな衣装...
準備ができたら、いよいよ現場や。ワイらは大きな畑のセットに立つ。
「はい、本日のテーマは『美味しい野菜たち』です。みなさん、それぞれの野菜の特徴を活かして演技してくださいね!」
ディレクターがそう言う。ワイはため息をつく。また同じようなCMや。
「はい、アクション!」
カメラが回り始める。タマネギが元気よく飛び跳ねる。
「僕は甘くて辛い、料理には欠かせない野菜だよ!」
次にニンジンが腰を振りながら歩く。
「僕は栄養たっぷり、お肌にいいβカロテンがいっぱい!」
ダイコンは体を揺らしながら歌う。
「大根おろしにすりおろして、お刺身にのせてね!」
そして、ワイの番や...
「ワイは...ごぼうや。食物繊維が...豊富...」
ワイの演技、いつもながらひどいもんや。ディレクターが怒鳴る。
「カット!ごぼう君、もっと元気に!ごぼうの魅力をアピールして!」
ワイは内心泣きそうになる。ごぼうに魅力なんてあるんかい!
何度もテイクを重ねる。ワイの演技が良くならんせいで、みんなイライラしてきとる。
「もういい!今日はここまで!ごぼう君は明日までに練習してきなさい!」
ディレクターが諦めたように言う。ワイはほっとする。やっと終わりや...
更衣室に戻ると、ニンジンとダイコンがワイを睨みつけてくる。
「お前のせいで撮影が長引いたやんけ!」
「こんなんじゃ、ワイらの給料にも響くで!」
ワイは黙ってごぼうの衣装を脱ぐ。言い返す元気もない。
家に帰る途中、ワイは立ち止まる。近所のスーパーの前や。ウィンドウには野菜が並んどる。そこにごぼうの姿が...
「...」
ワイは無言でごぼうを見つめる。あんなもんに「なる」なんて、ほんま狂っとるわ。でも、これがワイの仕事なんや。
家に着くと、ワイはベッドに倒れ込む。明日もまた同じ日々が繰り返される。ごぼうになりきる日々が...
そんな生活を送ること数ヶ月。ある日、ワイは気づいてしもうた。自分の体が少しずつ変わってきとることに。
手足が細長くなってきとる。肌の色も茶色っぽくなってきた。髪の毛は薄くなって、代わりに葉っぱみたいなんが生えてきとる。
「嘘やろ...まさか...」
鏡を見ると、そこにはごぼうそっくりの姿をしたワイがおるんや。
「うわああああああ!」
ワイは叫ぶ。でも、声が出ない。代わりに「ごぼごぼ」っていう音がする。
パニックになったワイは、必死に会社に電話する。
「もしもし、タマネギさん!大変なんです!ワイが...ワイが...」
「あら、ごぼう君?どうしたの?」
電話の向こうのタマネギの声が聞こえる。でも、ワイの口から出るのは「ごぼごぼ」という音だけ。
「ごぼごぼごぼ!(ワイがごぼうになってもうた!)」
「ごぼう君?聞こえないわ。ま、きっと大したことじゃないでしょ。明日の撮影頑張ってね!」
タマネギが電話を切る。ワイは絶望的な気分になる。
その夜、ワイは眠れなかった。体がどんどんごぼうになっていくんや。朝になる頃には、完全にごぼうになってしもうた。
会社に行くと、みんな普通にワイを迎えるんや。
「おはよう、ごぼう君!今日の演技、期待してるよ!」
タマネギが笑顔で言う。ニンジンとダイコンも、いつも通りワイをからかってくる。
「なんで気づかへんのや...ワイ、本物のごぼうになってもうたんやで!」
ワイは必死に訴えようとするんやけど、口から出るのは「ごぼごぼ」という音だけ。
撮影が始まる。ワイの番になると、体が勝手に動き出す。
「僕はごぼう!食物繊維たっぷりで、お腹の調子を整えるよ!キンピラにしても、煮ても美味しいんだ!」
完璧な演技や。ディレクターが喜ぶ。
「すばらしい!これこそ求めていた演技だ!」
でも、ワイの中では悲鳴が響いとるんや。
「やめてくれ...ワイはごぼうやない...人間なんや...」
けど、もう遅い。ワイは完全にごぼうになってしもうた。
その日の撮影が終わると、スタッフがワイを持ち上げる。
「お疲れさま、ごぼう君。今日はスーパーに納品する日だったね」
ワイは必死に抵抗しようとするんやけど、もはや人間の体やない。ただのごぼうや。
ワイはスーパーの野菜売り場に並べられる。周りには本物の野菜たちがおる。でも、もうワイにはどれが本物で、どれが人間なのか分からへん。
お客さんがワイを手に取る。
「あら、このごぼう、いい形してるわね。買っていこうかしら」
ワイは叫ぶ。
「違う!ワイは人間なんや!ごぼうやない!」
でも、聞こえるのは「ごぼごぼ」という音だけ。
お客さんはワイをカゴに入れる。そして、レジに向かう。
ワイの最後の思考が頭をよぎる。
「ごぼうになりきる仕事...ほんまにつらすぎたわ...」
そして、ワイは野菜売り場から消えていくのであった。
次の日、スーパーのチラシにはこう書かれていた。
「本日特売!美味しいごぼう、只今絶賛発売中!」
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