俺の名前は鈴木太郎。平凡なサラリーマンだった。そう、「だった」。なぜなら今、俺はアルファオスだからだ。
全ては一ヶ月前、深夜のテレビショッピングで「アルファオス養成キット」を衝動買いしたことから始まった。「たった30日で貴方もアルファオスに!女性にモテモテ、上司にも一目置かれる!」というキャッチコピーに釣られてしまったのだ。
キットの中身は意外とシンプルだった。筋トレ用のダンベル、怪しげなサプリメント、そして「アルファオスの心得」と書かれた小冊子。半信半疑ながらも、指示通りに実践することにした。
まず筋トレ。毎朝5時に起きて、ダンベルを持ち上げる。最初は辛かったが、次第に体が慣れてきた。サプリメントは、ニンニクとマムシの粉末を混ぜたような臭いがしたが、勇気を出して飲み続けた。
小冊子の内容は、正直頭を抱えたくなるようなものばかりだった。
「常に堂々とした態度を取れ」
「弱音を吐くな」
「女性には冷たく接しろ」
「部下には厳しく、上司には媚びろ」
こんなの本当にモテるのか?と疑問に思いつつも、言われた通りに行動した。
そして30日目。鏡を見てびっくりした。なんと、筋肉ムキムキのイケメンに変身していたのだ!髪の毛はツヤツヤ、肌はピカピカ。まるでイケメン俳優のようだった。
その日から、俺の人生は一変した。
会社に行くと、女性社員たちがキャーキャー言いながら寄ってきた。
「鈴木さん、素敵!」
「昨日の企画書、天才的でした!」
「今度食事でも一緒にどうですか?」
俺は小冊子の教えを思い出し、冷たく接した。
「うるさい。仕事の邪魔だ」
すると女性たちの目がハートマークに変わった。
「わー、なんてクールなの!」
「私、鈴木さんのこと好きになっちゃいました!」
上司も俺の変貌ぶりに驚いていた。
「鈴木君、最近の君は輝いているよ。次期部長候補にしようと思うんだが」
俺は小冊子の教えに従い、媚びるように返事をした。
「ありがとうございます!社長の器です!」
すると上司は涙を流して喜んだ。
「さすが鈴木君!君こそ経営者の才能がある!」
街を歩けば、すれ違う女性が次々と振り返る。ナンパされることもしばしば。そのたびに俺は冷たく接し、「邪魔だ」と一蹴した。すると女性たちはますます興奮し、俺を追いかけてきた。
友人たちも俺の変化に驚いていた。
「太郎、お前どうしたんだ?」
「なんかカッコよくなってないか?」
「最近モテモテらしいな」
俺は高らかに宣言した。
「俺はアルファオスになったんだ」
友人たちは目を輝かせた。
「教えてくれよ!」
「俺もアルファオスになりたい!」
しかし俺は冷たく答えた。
「弱い奴には教えない」
すると友人たちは土下座をして懇願してきた。
「お願いします!先生!」
こうして俺はアルファオス養成塾の塾長となった。日々、弟子たちにアルファオスの極意を伝授している。
だが最近、少し疑問に感じることがある。本当にこれでいいのだろうか?女性に冷たくするのは正しいのか?上司に媚びるのはどうなのか?
そんな疑問が頭をよぎった時、不思議なことに筋肉が少し萎んだような気がした。慌てて「アルファオスの心得」を読み返す。すると不思議と筋肉が戻ってきた。
これが俺の新しい人生だ。アルファオスとして生きていく以上、疑問を持つことは許されない。俺は完璧なアルファオスでなければならないのだ。
そう、俺は鈴木太郎。かつての平凡なサラリーマンは死んだ。今や俺は最強のアルファオス。女にモテモテ、上司にも一目置かれる存在なのだ。
...でも本当にこれでいいのかな?
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