ワイ、なんJ歴10年のニートや。毎日なんJを見て、野球実況して、レスバトルして...そんな生活をしとったんや。

ある日、なんJで「お前ら、ヘミングウェイ読んだことあるんか?」ってスレが立っとった。

「誰やそいつ?野球選手か?」
「文学のおっさんやろ」
「釣りすきなジジイやろ」

みんな適当なレスしとる中、ワイだけがマジレスしてもうた。

「ワイ、ヘミングウェイの『老人と海』読んだことあるで」

すると、スレ主が食いついてきよった。

「おっ、ワイも好きやわ。『インディアンキャンプ』も読んでみいや」

なんやねんそれ、と思いつつ、暇やったからAmazonで注文してもうた。

数日後、本が届いて読んでみたら、なんかえげつない話やった。子供が出産と自殺を目撃するとかマジかよ...。

でも、なんか引っかかるものがあったんや。主人公のニックが、最後に父親と一緒に湖を見てる場面。なんかワイの心に突き刺さってきよった。

そんな時、なんJに「お前ら、釣り行ったことあるんか?」ってスレが立った。

「ないわ」
「パチンコなら行ったことある」
「釣りとかジジイの趣味やろ」

みんなネガティブなレスしかしてへんかったわ。

ワイも「ないで」って書こうとしたんやけど、なんか違和感があった。『インディアンキャンプ』の最後の場面が頭をよぎったんや。

「よっしゃ、ワイ釣り行ってくる」

唐突にそんなレスしてもうた。

「えぇ...」
「釣りスレで釣られてて草」
「ガチで行くんか?」

周りは呆れとったけど、ワイは本気やった。

翌日、近所のホームセンターで安物の釣り竿買って、適当な川まで出かけてった。

川に着いたら、まずは竿を組み立てる。説明書見ながら必死こいて組み立てたんやけど、なんかうまくいかへん。

「くっそ、こんなんじゃヘミングウェイに笑われるわ」

そう思いながら、なんとか竿を完成させた。

次は餌や。ワイ、生きた虫とか触るの苦手やねん。でも、ヘミングウェイなら平気やろうなぁ...。そう思いながら、震える手でミミズを針に刺した。

「よっしゃ、投げるで!」

気合い入れて竿を振り上げたら、なんと後ろの木に引っかかってもうた。

「あかん、これじゃヘミングウェイどころかなんJ民にも笑われるわ...」

でも、諦めへんかった。何度も何度も投げ直して、やっとまともに水面に投げ入れることができた。

そして待つこと2時間。全然釣れへん。

「やっぱりワイには向いてへんのかな...」

そう思った瞬間、竿が曲がった!

「釣れた!釣れたで!」

必死で竿を引っ張ると、小さな魚が釣れた。たぶん20cmくらいの鯉やった。

ワイは興奮して、すぐになんJにスレ立てした。

「ワイ、人生初釣りで鯉釣ったで!」

「うせやろ」
「釣り(意味深)」
「写真はよ」

半信半疑のレスが続々と付いた。ワイは急いで魚の写真を撮って貼り付けた。

「マジやんけ!」
「ニートの覚醒か?」
「ヘミングウェイ見てるか?」

なんJは大盛り上がり。ワイは誇らしかった。

その日から、ワイは週一で釣りに行くようになった。釣った魚の写真をなんJに貼るのが日課になったんや。

ある日、いつものように釣りをしてたら、隣にオッサンが釣りに来た。

「君、毎週来てるよな。上達したか?」

「まあまあっす。ヘミングウェイ読んでから始めたんすよ」

「ほう、『老人と海』か?」

「いや、『インディアンキャンプ』っす」

オッサンは少し驚いた顔をした。

「面白い奴やな。ワシはな、『老人と海』読んで釣り始めたんや」

ワイらは釣りしながら、ヘミングウェイの話で盛り上がった。

その夜、ワイはなんJに書き込んだ。

「ワイ、釣り仲間できたわ」

「エエなぁ」
「リアルなんJ民か?」
「ヘミングウェイ効果すごすぎやろ」

ワイは思った。『インディアンキャンプ』読んでよかったわ。あの湖の場面がなかったら、ワイは今でもニートしてたかもしれへん。

結局、人生は小説みたいなもんやな。ワイらはみんな、自分の物語の主人公なんや。

ほんで、ワイの次の章はもう決まっとるで。

『ワイ、オッサンと一緒に海釣り行く』