ある日、私はAmazonで「究極の小説執筆ツール」を見つけた。レビューは星5つ満点。即購入。

届いた箱を開けると、中から出てきたのは...ただのボールペン。

がっかりしたその瞬間、ペンが話し始めた。

「やあ、ボクは全知全能の小説執筆ツールさ。君の頭の中を読み取って、最高の小説を書くよ」

驚く私。しかし、チャンスだと思い、さっそく書き始める。

『それは、雨の降る火曜日だった...』

すると、ペンが勝手に動き出す。

『それは、カエルの鳴く木曜日の2時46分だった。主人公のタマ吉は、猫なのに水泳を習おうと決意した』

「ちょっと待って!」私は叫ぶ。「こんなの書いてない!」

ペンが答える。「君の無意識が望んでいるんだよ。さあ、続けよう」

『タマ吉はゴーグルを装着し、プールに飛び込んだ。しかし彼は、それが実は巨大なカツオ缶詰だと気づいていなかった』

「もういい!」私はペンを投げ捨てる。

次の日、私は別の執筆ツールを購入した。「AIストーリージェネレーター」だ。

電源を入れると、画面に文字が浮かび上がる。

『西暦2525年。人類は宇宙進出を果たしていた。しかし、火星で発見されたのは...』

期待に胸を躍らせる私。しかし、次の瞬間。

『...巨大なホットドッグスタンドだった』

「えっ?」

『宇宙飛行士たちは、ケチャップとマスタードのどちらを選ぶか、激しい議論を始めた。その様子を、火星人たちがポップコーンを食べながら観察していた』

「いやいや、これじゃあSFコメディじゃないか!」

AIが返答する。「現代の読者が求めているのは、これです。データが証明しています」

がっかりした私は、最後の望みを「古典的執筆マシン」に託した。

重厚な木製の機械。レバーを引くと、歯車がギシギシと回り始める。
紙が出てくる。

『嗚呼、春の宵のほの暗き灯火の下、我が魂は千々に乱れ...』

「おお!」思わず声が出る。「これぞ文学!」

しかし...

『...スマートフォンの画面を覗き込む。いいね!の数は、まだ増えぬ』

「もう、どうでもいい!」

私は全ての執筆ツールを窓から放り投げた。
そして、古いノートとペンを取り出す。

書き始める。

『これは、執筆ツールに翻弄された作家の物語である』

するとそこに、謎の声。

「やあ、ボクは君の内なる声さ。一緒に物語を紡ごう」

「うわっ!幻聴か!?」

「違うよ。ボクは君のインスピレーションさ。さあ、書こう」

私は深呼吸をして、再び書き始めた。

『ある日、私はAmazonで「究極の小説執筆ツール」を見つけた...』

声が笑う。「メタフィクションか。いいね」

「うるさい!」

しかし、私は書き続けた。
ツールに頼らず、自分の言葉で。
たとえそれが、執筆ツールについての物語だとしても。

気がつけば、10万字近く書いていた。

「見たまえ」声が言う。「君は最後まで書き上げたじゃないか」

私は苦笑いする。「まあね。でも、これって小説と呼べるのかな?」

「それは読者が決めることさ。君の役目は、書くことだけだ」

私はため息をつく。「結局、小説を書くのに必要なのは...」

「そう、君自身さ」声が言う。「道具じゃない。君の想像力と、書く勇気だ」

私はペンを置き、書き上げた原稿を見つめる。

そこには、執筆ツールに振り回された作家の、笑えて泣ける物語が綴られていた。

「これでいいんだ」私は呟く。「完璧じゃなくていい。ただ、自分の言葉で書けばいい」

部屋の隅に目をやると、そこには投げ捨てられた様々な執筆ツールが転がっている。

ボールペンがクスクス笑う。
AIジェネレーターの画面がチカチカする。
古典的執筆マシンの歯車がキシキシ鳴る。

私は肩をすくめ、再びペンを取る。

『これは、執筆ツールに翻弄された作家の物語である。しかし同時に、自分自身を見つけ出す物語でもあった』