美咲は東京の喧騒の中、いつもと変わらない朝を迎えていた。しかし、この日が彼女の人生を大きく変える日になるとは、まだ知る由もなかった。

オフィスに向かう満員電車の中、突然の急ブレーキで体勢を崩した美咲は、後ろにいた男性に支えられた。振り返ると、そこには穏やかな笑顔の青年がいた。「大丈夫ですか?」その声に、美咲は心臓が高鳴るのを感じた。

彼の名は健太。その日を境に、二人は急速に親密になっていった。コーヒーショップでの何気ない会話、休日の美術館デート、夜景の綺麗な丘での星空観賞。すべてが夢のようだった。

美咲は健太のすべてが愛おしかった。彼の優しさ、知的な会話、そして何より、彼女を見つめる眼差し。これが運命の人なのだと、美咲は確信していた。

しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。健太に海外転勤の話が持ち上がったのだ。アメリカのニューヨークで、3年の契約。チャンスではあったが、同時に二人の関係に大きな試練をもたらすものだった。

「一緒に行こう」健太は美咲を誘った。しかし、美咲には東京で大切な仕事があった。長年夢見てきたプロジェクトのリーダーに抜擢されたばかりだった。

苦悩の日々が続いた。愛する人と、自分の夢。どちらも簡単には諦められなかった。

決断の日、二人は東京タワーの展望台で落ち合った。夜景が美しく広がる中、健太が口を開いた。

「美咲、君の夢を諦めてほしくない。僕たちはここで別れよう」

美咲は驚いた。「でも、私たちは運命の人同士じゃないの?」

健太は優しく微笑んだ。「だからこそ、一度別れる必要があるんだ。本当の運命なら、必ずまた出会える」

涙があふれた。しかし、美咲は健太の決意を受け入れた。最後の抱擁を交わし、二人は別々の道を歩み始めた。

それから3年。美咲は仕事に打ち込み、大きな成功を収めた。健太のことは忘れられなかったが、彼の言葉を信じ、前を向いて生きていた。

そして、ある春の日。満開の桜の下、美咲は偶然健太と再会した。彼もちょうど日本に戻ってきたところだった。

目が合った瞬間、3年前に別れた時と同じ想いが二人の胸に蘇った。健太が口を開いた。

「やっぱり君が運命の人だった。もう二度と離れたくない」

美咲は涙を浮かべながら頷いた。「私も同じ気持ちよ」

二人は強く抱き合った。別れを経て、お互いの大切さを知り、個々の成長を遂げた今、二人の絆はより強固なものになっていた。

運命の人とは確かに一度別れる。しかし、それは永遠の別れではない。むしろ、本当の絆を確かめるための試練なのだ。美咲と健太は、その試練を乗り越え、より深い愛で結ばれた。

彼らの新たな人生の章が、満開の桜の下で幕を開けた。二度と離れることのない、真の運命の二人として。


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牛野小雪の小説season2
牛野小雪
2020-07-11