真夜中、パソコンの青白い光が部屋を照らしていた。佐藤は、空白の文書と向き合っていた。彼は小説を書くことを決意したのだ。しかし、最初の一文が思い浮かばない。
「小説家になるなんて、簡単じゃないな」と佐藤はつぶやいた。
その瞬間、画面が点滅し、奇妙な文字列が現れた。
「私が手伝ってあげよう」
佐藤は驚いて後ずさった。しかし、好奇心が勝り、キーボードに手を伸ばした。
「誰だ?」と彼は打った。
「私は物語そのものだ」という返事が即座に現れた。
佐藤は困惑しながらも、会話を続けた。物語は佐藤に、素晴らしい小説を書く方法を教えると約束した。
「ただし、代償はある」と物語は付け加えた。
「何だ?」と佐藤は尋ねた。
「それは、物語が進むにつれてわかる」
佐藤は躊躇したが、作家になりたいという願望が勝った。彼は同意した。
すると突然、キーボードが勝手に動き出した。文字が次々と現れ、驚くほど魅力的な物語が展開していく。佐藤は、自分の指が動いているのに気づかないまま、夢中で画面を見つめていた。
数時間後、佐藤は気づいた。彼の左手の小指が消えていた。
恐怖に襲われた佐藤は叫んだ。「何が起きているんだ!」
「代償だよ」と画面に表示された。「素晴らしい物語には、代償が必要なんだ」
佐藤は逃げ出そうとしたが、体が動かない。物語は続いていく。
朝になって、佐藤の母が部屋に入ってきた。そこにいたのは、キーボードに向かって必死に打ち込む佐藤の姿。しかし、彼の体の一部が透明になっていた。
「智彦、大丈夫?」母は心配そうに声をかけた。
佐藤は振り返ることもできず、ただ打ち続けた。「大丈夫だよ、ママ。僕、小説を書いているんだ」
母は不安そうに部屋を出た。
日が過ぎ、佐藤の体はどんどん透明になっていった。しかし、画面上の物語は驚くほど素晴らしいものになっていた。
一週間後、佐藤の体はほぼ完全に透明になっていた。彼の存在を示すのは、動くキーボードだけ。
最後の一文が打たれた瞬間、佐藤は完全に消えた。
部屋には完成した原稿だけが残されていた。タイトルは「消えゆく作家」。
その日の夕方、佐藤の母が警察に通報した。捜査員たちは、佐藤の部屋で奇妙な発見をした。パソコンの画面には、不気味なメッセージが。
「次は誰だ?」
警察は、この事件の真相を解明できなかった。しかし、佐藤の小説は死後に出版され、ベストセラーになった。
批評家たちは、この小説の生々しいリアリティと独特の文体を絶賛した。「まるで、作者自身が物語に飲み込まれていったかのようだ」と。
そして、この小説に触発された多くの若者たちが、作家を目指すようになった。
彼らは知らない。パソコンの向こうで、何かが彼らを待ち構えていることを。
物語は、新たな犠牲者を求めている。そして、それはあなたかもしれない。










