真紅の月が昇る夜、麗子は運命の男と出会った。
彼の名は鷹村翔。高校でも一際目立つ存在で、誰もが憧れる完璧な「アルファオス」だった。麗子は一目で彼に魅了された。
翔の眼差しは鋭く、微笑みは妖艶。彼が廊下を歩けば、生徒たちは自然と道を開けた。そんな彼が、なぜか麗子に興味を示したのだ。
「君、面白いね」
ある日、翔が麗子に声をかけてきた。麗子の心臓は高鳴った。
それから、二人は急速に親密になっていった。デートを重ね、麗子は翔のことをもっと知りたいと思うようになった。
しかし、翔には不可解な一面があった。
満月の夜、翔は必ず姿を消す。そして、翌日になると街のどこかで血なまぐさい事件が起きるのだ。
麗子は不安を感じながらも、翔への愛に溺れていった。
ある満月の夜、麗子は翔の後をつけることにした。彼がアパートを出て、人気のない公園に入っていくのを見た。
そこで麗子は、信じられない光景を目にした。
翔の体が歪み、獣のような姿に変貌したのだ。彼は爪と牙を剥き出しにし、闇の中へと消えていった。
震える手で携帯を取り出した麗子。ニュースサイトには、またしても猟奇的な殺人事件が起きたと報じられていた。
麗子は恐怖に震えながら、家に帰った。翌日、学校で翔と顔を合わせた時、彼は何事もなかったかのように振る舞った。
「昨日は楽しかったかい?」
翔の問いかけに、麗子は背筋が凍る思いがした。彼は、自分が尾行されていたことを知っていたのだ。
それでも麗子は、翔を愛していた。彼の正体を知った今でも、その気持ちは変わらなかった。
「翔くん、私...あなたのことを全部受け入れるわ」
麗子の告白に、翔は驚いた表情を見せた。そして、悲しげに微笑んだ。
「君は本当に特別だ。でも、僕の呪いを知った以上、もう普通の人生は送れないよ」
翔は麗子を抱きしめた。その腕の中で、麗子は幸せと恐怖が入り混じった複雑な感情を味わった。
それから、二人の奇妙な同棲生活が始まった。
昼は普通の恋人同士として過ごし、満月の夜には翔が姿を消す。麗子は翔の帰りを待ちながら、爪を噛んで過ごした。
ある日、麗子は決心した。翔の呪いを解く方法を見つけ出すと。
彼女は古い書物を調べ、オカルト研究家を訪ね歩いた。そして、ついに一つの可能性を見出した。
「純粋な愛の力で、呪いを打ち破ることができる」
次の満月の夜、麗子は翔を待ち構えていた。
獣の姿に変貌した翔が帰ってきた時、麗子は恐れることなく彼に近づいた。
「翔くん、私はあなたを愛しています。どんな姿でも」
麗子は、牙をむく翔にキスをした。
その瞬間、眩い光が二人を包んだ。
光が消えると、そこには人間の姿の翔がいた。彼の目には涙が光っていた。
「麗子...君が僕を救ってくれたんだ」
二人は抱き合い、喜びを分かち合った。
しかし、その幸せも長くは続かなかった。
翔の呪いは解けたものの、彼の過去の罪が彼を追いかけてきたのだ。
警察が翔の家を取り囲み、彼を連行しようとした。
麗子は必死に翔をかばったが、翔は静かに彼女の手を振り払った。
「麗子、ありがとう。君のおかげで、僕は人間に戻れた。でも、僕がしてきたことの責任は取らなければならない」
翔は微笑みながら、警察に連れていかれた。
麗子は涙を流しながら、翔を見送った。
それから数年後、刑務所から出てきた翔を、麗子は笑顔で迎えた。
二人の新しい人生が始まろうとしていた。
血の呪いは解けたが、二人の愛は永遠に続くのだった。
かつて「血塗られたアルファオス」と呼ばれた翔は、今や麗子との平穏な日々を過ごしている。
しかし時折、満月の夜に翔の目が赤く光るのを見て、麗子は思い出すのだった。
愛には、時として恐ろしい一面があることを。
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