現実と虚構の境界が溶け合う世界。そこに、アルファオスの棺は存在した。いや、存在しないかもしれない。

主人公の「私」は、SNSに流れる断片的な情報の海を漂っていた。ある日、奇妙なハッシュタグが目に留まる。

#アルファオスの棺

興味本位でクリックすると、そこには無数の投稿が。しかし、その内容は支離滅裂で意味不明なものばかり。

「アルファオスの棺を開けたら、自分が消えた」
「棺の中には、別の自分がいた」
「アルファオスになれば、世界を支配できる」

混沌とした情報の渦。しかし「私」は、そこに奇妙な魅力を感じてしまう。

調べれば調べるほど、アルファオスの棺は都市伝説のようでいて、現実に存在するかのような錯覚に陥る。

ある日、匿名の差出人からDMが届く。

「アルファオスの棺の在処を知りたければ、この座標に来い」

理性は「罠だ」と警告する。しかし、好奇心が「私」を突き動かす。

指定された場所は、廃墟と化したショッピングモール。かつての繁栄を物語る巨大な建物は、今や朽ち果てていた。

「私」が中に入ると、そこには無数の鏡が。どれもヒビが入り、歪んでいる。

鏡の迷宮を進むうちに、「私」は自分の姿が変わっていくのに気づく。鏡に映る「私」は、どんどん強くなっていく。自信に満ち、カリスマ性を帯びていく。

そして、迷宮の中心に、一つの棺が。

「これが、アルファオスの棺か」

恐る恐る棺に近づく「私」。しかし、蓋を開ける勇気が出ない。

その時、背後から声が。

「開けろよ。お前の運命だ」

振り返ると、そこには「私」自身が立っていた。しかし、どこか違う。強く、自信に満ちた「私」。

「お前は弱すぎる。俺がアルファオスになる」

もう一人の「私」が棺を開ける。中から、まばゆい光が溢れ出す。

目が眩んで、気を失う「私」。

目覚めると、「私」は見知らぬ部屋にいた。スマホを確認すると、そこには膨大な通知が。

「社長、緊急会議です」
「あなたの新作、ベストセラーになりました」
「次の大統領選、出馬表明はいつですか?」

混乱する「私」。記憶にない成功と栄光。しかし、どこか空虚さを感じる。

鏡を見ると、そこには強く、自信に満ちた「私」の姿。しかし、目は虚ろだった。

「これが、アルファオスになるということか」

その時、スマホに新しい通知。見知らぬアカウントからのDM。

「本当の君は、棺の中だよ」

恐る恐るメッセージを開く。そこには、一枚の写真が添付されていた。

薄暗い部屋。中央に一つの棺。そして、棺の中で眠る「私」の姿。

現実が、急速に歪み始める。

「私」は誰なのか。本当の「私」はどこにいるのか。

アルファオスとは何なのか。棺の意味するものは。

答えのない問いが、「私」の意識を侵食していく。

そして、「私」は気づく。この物語自体が、巨大な「アルファオスの棺」なのかもしれないと。

読者である「あなた」も、既にこの棺の中にいるのかもしれない。

物語を読み進めるごとに、「あなた」の現実も少しずつ歪んでいく。

「アルファオスの棺」は、そこかしこに存在する。

SNSの向こう側に。
鏡の中に。
物語の行間に。

そして、「あなた」の心の中に。

棺を開ければ、「あなた」は強くなれるかもしれない。しかし、同時に何かを失うかもしれない。

選択は「あなた」次第だ。

さあ、「アルファオスの棺」を開けますか?

それとも、このまま閉じたままにしますか?

決断の時は、既に来ている。