武器よさらば (新潮文庫)
アーネスト ヘミングウェイ
新潮社
2006-05-30



『武器よさらば』は、第一次世界大戦下のイタリアを舞台に、アメリカ人青年フレドリック・ヘンリーとイギリス人看護師キャサリン・バークリーの熱愛を描いた作品である。ヘミングウェイ独特の簡潔で畳み掛けるような文章で、生死の境をさまよう過酷な日々の中で芽生えた二人の愛を鮮明に浮かび上がらせている。

作品は、ヘミングウェイ自身の戦争体験がベースとなっており、戦争の悲惨さや人生の無常さを伝えている。しかし、タイトルから受けるイメージとは異なり、戦争そのものは背景の一部として存在し、物語の軸となるのはラブストーリーである。兵士たちが戦場でワインを飲み、パスタを食べ、仲間とジョークを交わしながら過ごす姿は、我々が想像する悲惨な戦場とは少し違う印象を与える。それでも、兵士たちは次々と負傷し、命を落としていく。

主人公フレドリックは、戦場で負傷しながらもどこか乾いたような戦争観を持っており、それがより戦争の無意味さを浮き彫りにしている。そんな戦争下で生まれたキャサリンとの愛は、明日の命も知れない身だからこそ熱烈なものになっていく。

物語のクライマックスでは、フレドリックとキャサリンが戦争から逃れ、自由を手に入れたかに思えた。しかし、キャサリンは難産の末に死産し、自身も出血多量で命を落とす。この結末は、ヘミングウェイ自身の過去のトラウマを反映しているようにも感じられる。

『武器よさらば』は、戦争文学というよりも、悲劇的な恋愛小説としての印象が強い。直接的な内面描写を排したハードボイルド的な筆致が、一人の個人の目を通して戦争の悪と運命の不条理を告発している。また、絶望的な状況下で人々が何に縋るのかを探っている。

作品には、ヘミングウェイが終生抱えていた信仰への揺らぎも表れている。無神論を強調する主人公が神に祈る場面は、作者自身の内面を映し出しているようだ。

『武器よさらば』は、戦争と愛という正反対のテーマを巧みに織り交ぜ、愛の輝きと戦争の悲惨さを浮き彫りにした作品である。ヘミングウェイの簡潔な文体と緻密な描写が、読者を物語の世界に引き込み、登場人物たちの感情を生々しく伝えている。

(おわり)



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