「二つの心臓の大きな川」は、アーネスト・ヘミングウェイが1925年に発表した中編小説であり、「ニック・アダムズ」シリーズの一部として知られています。この作品は、第一次世界大戦後のアメリカを舞台に、主人公ニック・アダムズの心理的な癒しと再生の過程を描いています。

物語は、ニックが故郷の町に戻ってきたところから始まります。彼は、戦争によって荒廃した町の様子を目の当たりにし、深い喪失感を抱きます。そこで、ニックは森の中へと足を踏み入れ、釣りを通じて心の平静を取り戻そうとします。

ヘミングウェイは、自然描写に多くの紙幅を割いています。緑豊かな森、清らかな川、魚や昆虫など、自然の営みを丁寧に描写することで、ニックの心情を巧みに表現しています。これらの描写には、「ストリーム・オブ・コンシャスネス」(登場人物の意識の流れを直接的に表現する手法)が用いられており、読者はニックの内面世界に深く入り込むことができます。

釣りの場面では、ニックの細やかな観察力と行動が詳細に描かれます。彼は、釣り道具の準備や餌の選択、釣り方などに徹底的にこだわります。これは、ニックが自然と一体となり、自己を見つめ直すための儀式のようでもあります。

また、作品では食事の場面にも多くの注意が払われています。ニックが自ら料理を作り、味わう様子は、生きることの喜びと、人間の原初的な欲求を表しています。

物語の後半では、ニックが釣りを通じて得た洞察が描かれます。彼は、自然の力強さと、人間の存在の小ささを実感します。同時に、生きることの尊さや、自分自身と向き合うことの大切さにも気づくのです。

「二つの心臓の大きな川」は、戦争によって傷ついた人間の心を、自然との交流を通じて癒やすという普遍的なテーマを扱った作品です。ヘミングウェイ独特の簡潔な文体と、自然描写の美しさが融合し、読者に深い感銘を与えます。

また、この作品は「ロスト・ジェネレーション」(第一次世界大戦後の世代)の文学を代表する一つとしても知られています。戦争の悲惨さや、価値観の崩壊を経験した若者たちの心情を、ニックの姿を通して鋭く描き出しているのです。

「二つの心臓の大きな川」は、自然と人間の関係性、心の癒しと再生、戦争の影響など、様々なテーマを内包した奥深い作品です。ヘミングウェイ文学の真髄を味わえる一編として、世界中の読者に愛され続けています。



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牛野小雪
2020-07-11