強すぎて試合が組まれることさえなかったボクサーのシローは異世界に転生して エルフの女騎士リーリャ 鉄拳ドワーフのタヌカナは冒険の旅を続けている 三人は霊峰ヒューベリオスという山に辿り着く ここは巨人族が住む場所らしい
「はるか昔 私が生まれる前に エルフたちと共に巨人族は魔王軍と戦ったそうよ でも魔王軍の力に負け 巨人族は一人残らず死んでしまったの」 リーリャが語る
「誰かに見られている気がするわ」 と不安そうにリーリャが言う
「周りには誰もいないぞ」 シローが周囲を見回す
夜になり 三人はたき火を囲む
「さすがにオレも誰かに見られているような気がしてきたな」 シローが警戒する
「透明になれる術者かもしれないわね」 リーリャが考える
タヌカナはシュシュと口から息を吐きながらシャドーボクシングをしている 音を叩く練習だ
「なぜ攻撃してこないんだ?」 シローが不思議に思う
闇を警戒しながら 三人は夜を過ごす
朝日が昇ると 正体が明らかになる 巨大な顔が三人をのぞき込んでいるのだ それは身長が150m以上はありそうな岩の巨人だ
「実は昨日から姿は見えていたんだけど あまりに大きすぎて巨人だとは気付かなかったんだ」 シローが苦笑する
タヌカナの様子がおかしい 固まったように動かない
シローは巨人に問いかける 「俺たちに何か用か?」
巨人はゆっくりと口を開き 「オーズ」と名乗る 「巨人族最後の生き残り 旅人は珍しいから見ていた」 喋り方が遅い
「魔王は俺が倒した」 とシローが告げる
「それはすごいな」 オーズがゆっくりと驚く
旅の目的を聞かれ シローは答える 「魔王軍の残党を掃除しながら この世界を見て回っているんだ」
「それなら俺がヒューベリオスを案内しよう」 オーズは三人を肩に乗せる
巨人の動きは遅いが 一歩が大きいので 地上を歩くよりずっと速い 予想より早く 山の頂上に到着する
シローは地平線の先まで続く大地を見て言う 「地球は丸くないのか?」
「地球とは何だ?」 他の三人が問い返す 地球という概念を知らないのだ
シローは異世界にいることを再認識する 「地球とはこの世界そのものだ 地球は球体で 宇宙という場所に浮いている」 と万有引力の説明をする
しかし三人は 「丸かったら下にいると落っこちてしまうだろう」 と笑う
数日後 タヌカナの様子がますますおかしくなる 思い詰めた表情で オーズを見つめている
ある夜 タヌカナがシローに打ち明ける 「私はここに残るわ オーズを好きになったの」
シローは驚きを隠せない 「本当なのか?」
「ええ 決心したの」 タヌカナの瞳は真剣だ
リーリャは背中でその会話を聞いている 複雑な心境だ ライバルだったけど 仲間でもあった
翌朝 別れの時が来た タヌカナは荷物をまとめ オーズの横に立つ
「さようなら シロー リーリャ 一緒に冒険ができて楽しかったわ」 タヌカナが涙ぐむ
「タヌカナ 幸せになれよ」 シローが握手を求める
「ええ あなたたちも」 タヌカナが笑顔で応じる
リーリャも言葉少なに別れを告げる 「元気でね タヌカナ」
こうして タヌカナはシローとリーリャに別れを告げ 巨人オーズと共に新たな人生を歩み始める
山を下りながら シローとリーリャは無言だ タヌカナとの思い出が脳裏をよぎる
「寂しくなるわね」 リーリャがポツリと呟く
「ああ でもタヌカナは自分の道を見つけたんだ 応援するしかないさ」 シローが大空を見上げる
二人の冒険は新たなページを迎える
数日後の夜 シローとリーリャは星空の下 肩を寄せ合って座っている
「ねえシロー やっと二人きりになれたわね」 リーリャが頬を赤らめる
シローの鼓動が早くなる 「リ リーリャ 俺 お前のことが・・・」
そのとき 闇の中から声がする 「待て!」
(つづく!)
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