火星にはフォボスとダイモスの2つの衛星がある。両衛星ともギリシャ神話の戦神アレスの息子の名前にちなんで名付けられた。

フォボスは火星の2つの衛星の中で大きい方で直径は約22.2km。火星の表面から約9,377kmの高度を周回している。フォボスの公転周期は約7時間39分で火星の自転周期よりも短い。このためフォボスは火星の空を西から東へ横切るように見える。

フォボスの表面はクレーターに覆われている。最大のクレーターは直径約9kmのスティックニー・クレーター。このクレーターの衝突の際にフォボスの表面に放射状の筋が形成されたと考えられている。

フォボスの密度は低く、約1.87g/cm³。岩石と氷が混ざった天体だと考えられている。フォボスの重力は非常に弱く、表面での重力加速度は約0.0057m/s²。これは地球の重力の約1/1,800。

フォボスは火星に徐々に近づいている。数千万年後には火星の重力に引き裂かれて火星の周りを周回するリングを形成するか、火星の表面に衝突すると予測されている。

ダイモスは火星の2つの衛星の中で小さい方で直径は約12.4km。火星の表面から約23,460kmの高度を周回している。ダイモスの公転周期は約30時間18分で火星の自転周期よりも長い。このためダイモスは火星の空をゆっくりと東から西へ横切るように見える。

ダイモスの表面はクレーターに覆われている。最大のクレーターは直径約2.3kmのボルテール・クレーター。ダイモスの表面には明るい堆積物が見られる。これは衝突の際に放出された物質が再び降り積もったものと考えられている。

ダイモスの密度は低く、約1.47g/cm³。フォボスと同様に岩石と氷が混ざった天体だと考えられている。ダイモスの重力は非常に弱く、表面での重力加速度は約0.003m/s²。これは地球の重力の約1/3,000。

フォボスとダイモスは火星の重力に捕獲された小惑星である可能性が高い。両衛星の軌道は火星の赤道面に近く、他の惑星の衛星とは異なる特徴を持つ。また、両衛星の密度が低いことから炭素質コンドライトに似た組成を持つと考えられている。

フォボスとダイモスは火星探査における重要な目標の1つ。両衛星は火星への有人飛行の中継地点や、資源の供給源になる可能性がある。また、両衛星の探査は火星の形成過程や、小惑星の性質を理解する上でも重要だ。

ソ連は1988年にフォボス1号と2号を打ち上げ、フォボスの探査を試みた。しかし、両機とも技術的な問題により、目的を達成できなかった。2024年には日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が火星衛星探査計画(MMX)の一環としてフォボスからのサンプルリターンを目指している。

フォボスとダイモスは火星の周りを周回する小さな天体だが科学的に重要な意味を持つ。両衛星の探査は火星の形成過程や、小惑星の性質の理解につながる。また、両衛星は火星探査における重要な拠点になる可能性を秘めている。今後の探査によってフォボスとダイモスの謎が明らかになることが期待される。