ターンワールドは主人公のタクヤが現実世界から異世界に迷い込み、そこで様々な人々と出会いながら自身の生き方を模索していく物語です。

物語はタクヤが徳島を目指して家出をするところから始まります。しかし、目が覚めるとタクヤは見知らぬ土地にいました。そこは徳島がすだち県、香川がうどん県と呼ばれる不思議な世界だったのです。戸惑いながらもタクヤはこの世界の雨野神社を巡礼する「雨野巡り」の旅に出ます。

旅の途中、タクヤは様々な人と出会います。河川敷で出会った老人や、旅の仲間となったサナゴウチさん。彼らとの交流を通して、タクヤは少しずつ心を開いていきます。特にサナゴウチさんとはテントの色を塗り替えたり料理を作ったりと様々な経験を共にします。しかし、ある日突然サナゴウチさんが姿を消してしまいます。

タクヤは一人旅を続けますが孤独と不安に苛まれます。自分が本当はこの世界の住人ではないことに気づき、絶望感に打ちのめされそうになります。しかし、雨野巡りを達成すれば願いが叶うという言い伝えを思い出し、再び旅を続ける決意をします。

この物語は非現実的な設定ですが登場人物の心情描写は丁寧になされており、読者に感情移入させます。特に異世界に迷い込み自分の居場所を見失ったタクヤの不安や孤独が手に取るように伝わってきます。

また、雨野巡りの旅を通して出会う人々との交流がタクヤの心の成長に繋がっていく過程が興味深いです。単なる非日常的な冒険譚にとどまらず、人との繋がりの大切さ、生きる意味を問う青春小説としての側面も持っています。

一方で物語後半のサナゴウチさんの失踪や、タクヤの心情の急激な変化には少し唐突さを感じます。もう少し伏線や心理描写があればよりスムーズに読み進められたかもしれません。

しかし、全体を通して非現実的な世界観とそこに迷い込んだ一人の青年の成長物語はよく組み合わされており、読後感は良好です。著者の優れた文章力も相まって最後まで引き込まれる作品となっています。

異世界ファンタジーと青春小説、そしてトラベルフィクションが絶妙に融合した、新しい形の物語と言えるでしょう。非日常の中で己の生き方を模索する若者の姿は、多くの読者の心に響くはずです。

雨野巡りの結末がどうなるのか、タクヤがどう成長していくのか。続編への期待も高まる、ターンワールド上巻でした。



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