この小説は、現代社会の様々な問題や人間の本質を鋭く風刺しながら、独特の世界観を描いた意欲作だと思います。

主人公の荒野の狼まさやんは、車を陸送する仕事をしながら、YouTubeに食事や走行の動画を上げて生計を立てています。彼は法人税一〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇%を求める過激な主張をし、それが思わぬ形で広まっていきます。一方で、ゲイで童貞のひきこもりニートの弟のようなカオルとの交流も描かれ、彼が妊娠・出産するという衝撃的な展開もあります。

この物語は、一見バラバラに見える様々なエピソードが絡み合い、不条理で混沌とした現代社会の縮図を形作っています。法人税や経済、ひきこもりやゲイ、YouTuberなど、今の時代ならではの話題が盛り込まれていますが、それらは単なる思いつきではなく、この狂騒の時代を生きる人間の悲哀や希望、怒りや諦念を浮き彫りにするための装置として巧みに用いられています。

文体は、会話やモノローグを中心とした読みやすいものですが、ところどころで文学的な表現や難解な文章が挿入されるのが特徴的です。これは、この物語が単なる読み物ではなく、現代社会に対するメッセージ性を持った作品であることを示唆しているのかもしれません。

また、主人公のまさやんが法人税一〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇%を求める理由や、カオルとの関係性など、読者に考えさせる要素も多く含まれています。一読しただけでは理解しがたい部分もありますが、むしろそれが読者の想像力を掻き立て、作品の魅力を高めているとも言えるでしょう。

この小説の中で印象的だった言葉をいくつか挙げてみます。

「そういう世界もある。でも俺の世界じゃない」
現代社会の様々な価値観を認めつつも、自分の信念を貫く姿勢が表れています。

「自己否定できない知性は狂気を加速させます」
知性があっても、自分の考えを疑うことができなければ、かえって狂気に陥ってしまうという皮肉な言葉です。

「思考にエンドはないが打ち切りはある」
物事を考え続けることはできるが、現実には必ず区切りがあるという、思考と現実の矛盾を突いた言葉です。

「俺はただ目の前にある道を進み続ける」
混沌とした現代社会の中で、自分の信念に従って生きていく姿勢を表した言葉だと思います。

これらの言葉は、この小説のテーマである現代社会の不条理さや、その中で生きる人間の姿を象徴していると感じました。一見ニヒリスティックにも見えますが、自分の生き方を模索する主人公の前向きな姿勢も感じられる、考えさせられる言葉です。

全体を通して、この小説は現代社会の混沌とした姿を冷ややかに見つめながら、その中で生きる人間の孤独や葛藤、希望や絶望を描き出すことに成功していると思います。一方で、やや過剰に盛り込みすぎた感もあり、主題が少しぼやけてしまった印象も受けます。しかし、独特の世界観と生々しいリアリティを持った作品であることは間違いなく、現代文学の新たな可能性を感じさせる野心作だと言えるでしょう。

(おわり)

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