トムは時間を止める能力を手に入れたいと願っていた。彼の日常は、常に時間に追われるストレスと戦うことで消耗していた。仕事、家庭、趣味…彼の時間は常に誰かや何かによって占有されていた。
この願望の背景には、トムが大学時代に経験したある出来事があった。彼はかつて、最愛の人を病気で失った。その時、彼女と過ごす時間がいかに貴重であったかを痛感したのだ。もし時間を止めることができれば、彼女との最後の瞬間を永遠に続けることができたかもしれない。それ以来、トムは時間を自在に操れる力を求め続けていた。
ある日、トムは古い本屋で不思議な時計を見つける。店主によると、この時計は特定の条件下で時間を止める力を持つという。トムはその時計を手に入れることに成功し、早速その力を試すことにした。
しかし、時計の力を使い始めてすぐに、トムは予期せぬ副作用に直面する。時間を止めることができるものの、その間、彼だけが老いていくのだ。時間を止めれば止めるほど、トムの体は急速に老化していった。
この新たな事実に直面し、トムは自分の願いがもたらした結果に苦悩する。彼は時間を止める力を持つことの意味を再考し始める。そして、彼の前に現れたのは、時計の真実を知る謎の人物だった。
「私は時を統べる者」
「うるせー!」
トムは時を統べる者を殴る。時を統べるものなら彼のパンチを避けられるはずだができなかった。こいつは偽
者だ。
「さぁ俺の前に現れた理由を聞かせてもらおうか」
「知らない。私は上からの指示で‥‥‥」
「上? 上様なんて知らねえな。そいつもぶっ飛ばしてやるぜ」
こうしてトムは自称時を統べる者との冒険を始める。重力を操る物、物体を操る者、宇宙の法則を乱す者、すべてを倒していく。いまではあらゆる能力を持つ者を後ろに従えている。
「おい、お前が言う上って誰なんだ?」
「知らない。私は声しか聴いたことがない」と時を統べる者は言う。嘘つきとはいえ時間を統べる者に命令を下せる存在がこの世にいるとはトムには信じられない。
そんな彼に永遠が立ちふさがる。いつか望んだ彼女との永遠の時間。しかしトムはそれを殴り、破壊する。
「俺に永遠は必要ない。俺が求めるものは俺をだまそうとしたやつをぶん殴ることだ」
トムの冒険は予想外の方向へと進んでいった。彼が求めていたのは時間を止める力ではなく、失った愛する人への未練と、それを受け入れる勇気だったのかもしれない。時を統べる者との出会い、そして彼を殴ったことで、トムは自分自身と向き合うことを余儀なくされた。
「お前は何を求めているんだ?」と、ある日、時を統べる者が尋ねる。トムは深く考え込む。彼は本当に時間を止めたかったのか、それともただ過去に囚われていただけなのか。
その時、トムの心に新たな目標が生まれる。彼は自分の過去を乗り越え、未来を受け入れる決意を固める。しかし、そのためには、時を統べる者と共に、時間を操る力を持つ謎の存在「上」を探し出し、彼らの計画を阻止する必要があった。
トムと時を統べる者は、共に「上」の正体を探る旅に出る。彼らは様々な困難に直面しながらも、互いに信頼を深めていく。そしてついに、「上」の正体が、トム自身の内なる恐怖と後悔であることを知る。
トムは自分自身との戦いに挑む。彼は自分の内なる恐怖と後悔に立ち向かい、それを乗り越えることで、本当に求めていたものが何であったかを理解する。それは時間を止める力ではなく、過去の自分を許し、未来に向かって歩み続ける勇気だった。
トムの旅は、彼が自分自身を受け入れ、新たな人生を歩み始めることで終わりを告げる。彼はもう時間を止めることに囚われることはなく、自分の人生を自分の手で切り開いていく。
「俺が上だよ」
トムの前に一人の男が立ちふさがる。それは過去のトム自身だった。正確には過去のトムが描いた未来のトムだ。
「お前が俺を? でもどうして?」
「お前は俺を殺そうとしている。もしお前がいまのまま時間を進めればお前は俺になるのに、お前は俺とは違うお前になろうとしている」
「意味が分からん。俺は俺だ。お前じゃない」
「いいや、出会ってすぐに分かったはずだ。俺はかつてお前がそうなるであろうと思っていたお前自身なんだよ」
「そうか。ならもう消えてくれ」
トムの一撃でトムは破壊される。トムの笑い声が世界にこだまする。
「バカだな。俺以外のお前をお前は想像できるのか。俺を壊すということは未来を壊すということだぞ」
「未来なんて必要ない。過去も。永遠も。俺は俺でさえ必要としない」
トムの決意に負けたのか笑い声が消える。
トムは過去の自分、そして未来の自分との対峙を経て、深い自己認識に到達する。彼が求めていたのは、時間を操る力や過去への未練、未来への期待ではなく、現在の自分自身との和解だった。トムは自分が持つ内なる葛藤と直面し、それを乗り越えることで、真の自由を手に入れる。
この瞬間、トムの周りの世界は変わり始める。時を統べる者も、謎の存在「上」も、ゾンビ化した町の人々も、すべてが彼の心の中の創造物であったことを彼は理解する。外の世界は彼の内面の反映に過ぎなかったのだ。
「結局、全ては自分の心が作り出した幻だったんだな」とトムはつぶやく。彼は自分の心の中にある恐れや後悔、期待や願望が、現実を作り上げる力を持っていることを悟る。
トムは海辺で一人、静かに座る。彼はもう時間を止めようとは思わない。彼にとって大切なのは、過去でも未来でもなく、この一瞬、この瞬間に生きることだ。彼は深く息を吸い込み、目の前の海を見つめながら、心からの平和を感じる。
彼の旅は、自分自身と和解し、真の自由と平和を見つける旅だった。
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