夜空を見上げるのが好きな天文学者の佐伯は、毎晩、自宅の屋上にある小さな天文台で星々を観察していた。彼の目は、遠く宇宙の奥深くにある星々に釘付けになり、その輝きに心を奪われていた。夜風が彼の髪を優しく撫でながら、彼は望遠鏡を通して、無数の星々の秘密を探っていた。

「また新しい星を見つけたよ、佐伯先生!」と、彼の助手である若い女性研究員、美咲が興奮して報告する。佐伯は微笑みながら彼女の方を向き、「美咲、それは素晴らしい発見だ。君のおかげでまた一つ、宇宙の謎が明らかになったね」と答えた。彼らの関係は、共通の情熱を共有することから始まった。佐伯は若い頃、彗星の発見で名を馳せたが、その後は教育に専念し、美咲を含む多くの学生を指導してきた。美咲は佐伯の講義に魅了され、彼の下で研究を続けることを決意したのだった。二人は夜空に秘められた無限の可能性を信じ、共にその探求を続けていた。

「また名前を考えなくてはな」と佐伯先生は言う。目に見える星々に名前が付いていると考えると不思議な気持ちになる。彼自身知らない名前の星がたくさんある。天体望遠鏡でしか見えない星にも名前がついている。そしてまた名前のない星に名前がつくことになる。

「新しい星の名前はポンポコホニャタローにしようと思うんです」

「へぇ。いいんじゃない。聞いたことがない」

意味ありげな名前は星の数ほどあるわけじゃない。昔の星は憶えやすかったがいまどきの星は意味から解放された音の気持ちよさだけの星が多い。聞いてすぐの時は印象に残るが日が経つにつれて忘却されてしまう。意味のある星の名前がまだ世界に残されているのか。佐伯は不安になる。

佐伯先生は望遠鏡から顔を上げ、美咲に向かって微笑んだ。「ポンポコホニャタロー、なかなかユニークな名前だね。星に名前を付けるのは、その星に物語を与えるようなものだ。名前には力があるんだよ」

美咲は首を傾げながら、「でも、ポンポコホニャタローって、どういう意味があるんですか?」と尋ねた。佐伯先生はしばらく考え込んだ後、答えた。

「実はね、特に深い意味はないんだ。ただ、この名前を聞いたときに心が少しでも和むような、そんな気持ちを込めたんだ。星には科学的な名前がたくさんあるけれど、時には心を軽くするような名前も必要だと思うんだ」

美咲はその答えに納得し、笑顔を見せた。「なるほど、星にも心を軽くする名前が必要なんですね。ポンポコホニャタロー、覚えやすくていいですね」

二人は再び星空に目を向けた。佐伯先生は心の中で、名前のない星たちにもいつか温かい名前が付けられることを願っていた。星々は遠く静かに輝き続けており、それぞれが独自の物語を紡いでいるように見えた。

まだ名前も姿も知らない星のことを考えるのが佐伯は好きだ。まだ未知の世界が広がっていることが嬉しい。

「あれ、あの星、明るい、いや、明るすぎる」

美咲が声を上げる。彼女の視線の先には一等星よりも輝く星がある。流れ星かとも思ったが、それは一直線ではなく曲線を描いて飛んでいる。UFOだ。

UFOは夜空をあてもなくさまよっていたが突如として光を放つ。すると風が二人を襲う。いつの間にかUFOが空の上にある。それは直径10mほどの円盤で、どういう仕組みかは分からないが強烈な風がUFOに向かって吹いている。おそらくこの風で浮いているに違いない。

UFOはゆっくりと地面に降りてくる。そして着陸すると風がやみ、様子をうかがうような沈黙がしばらくあって、UFOのハッチが開く。

そこから現れたのは二本足で立つ猫だった。

「我々は宇宙人だ。君達のいうオッペケペーポルカからやってきた」

「オッペケペーポルカだって? 180光年はむこうにある星で人は住めないはず」

「だが事実私は住んでいる。そして君の言っていることは正しい。私たちの星で君達が生きるのは不可能だろう。なぜなら私たちとは進化形態が違うからだ」

「しかしそれを言えば君達も私たちの星では生きていけないのでは?」

「そう。だから私たちはギャラクシアンースーツを着ているのだ」

猫星人かと思っていたが、どうやら猫の着ぐるみを着た宇宙人らしい。

佐伯と美咲はその光景に目を見張った。彼らがこれまでに見たこともない、まさに未知の世界が目の前に広がっていた。佐伯は興奮を隠せず、「これは信じられない。私たちの研究にとって、これは画期的な出来事だ」とつぶやいた。

美咲もまた、驚きと好奇心で目を輝かせていた。「宇宙人との遭遇なんて、夢にも思わなかったです。オッペケペーポルカ星から来たというのは、どんな星なんでしょうか?」

宇宙人は「オッペケペーポルカは美しい星だ。しかし、私たちがここに来たのには理由がある。地球の文化、特に音楽に興味があってね。特に"オッペケペー"という音楽が好きで、その名前を星につけたんだ」と説明した。

佐伯と美咲は互いを見つめ合い、笑い出した。宇宙人も彼らの笑顔に感染したように、猫の着ぐるみの中から優しい笑い声を漏らした。

「それでは、私たちの星の音楽を少し聴かせてもらえませんか?」と佐伯が尋ねると、宇宙人は頷き、何かを操作すると、UFOからは地球の音楽とは全く異なる、不思議で美しい旋律が流れ始めた。

その夜、佐伯と美咲は宇宙人と共に、星空の下で異星の音楽を楽しみながら、地球とは違う文化の交流を体験した。彼らにとって、これは忘れられない一夜となった。