真実を探し求める探偵、佐藤は、失踪した著名な科学者の謎を解明しようとしていた。

「科学者の最後の言葉、"光の中に答えがある"って、一体何を意味しているんだ?」

佐藤は助手の田中に問いかける。二人は科学者の研究室にいた。壁一面には複雑な数式が書かれている。

「もしかして、これらの数式に何かヒントが隠されているのかもしれませんね」

田中は数式を指さしながら言う。佐藤は頷き、二人で数式を解読し始める。

時間が経過するにつれ、佐藤と田中は科学者が光の性質に関する画期的な発見をしていたことを突き止める。

「これは...光を使った通信システムの設計図だ!」

佐藤は興奮して叫ぶ。田中も目を輝かせる。

「だから"光の中に答えがある"と言ったんですね。でも、なぜ科学者は失踪したんでしょう?」

佐藤は眉をひそめる。二人は科学者の日記を見つけ、そこには驚くべき内容が記されていた。

「私の発見が間違った手に渡ると危険だ。だから、私は消えなければならない」

佐藤と田中は互いを見つめ合う。科学者の失踪は、彼の発見を守るための自己犠牲だったのだ。

「彼は真実を守るためにすべてを犠牲にしたんだ」

佐藤はつぶやく。田中は頷き、二人は科学者の意志を尊重することを決意する。科学者の発見は世に出るべきではないという結論に至り、研究資料を安全な場所に隠す。

佐藤と田中は研究室を後にする。外はすでに暗くなっていたが、街の灯りが彼らの道を照らしていた。


「彼は光そのものになってしまった。人そのものを光にしてしまえば膨大な量の情報が光速で伝達できる。それは分かる。しかし光になった情報をどうやって意味のある情報として受け取るか。どうやって光を人間にするか。それが謎だ。あの数式には行き先しか書かれていない」と佐藤は言う。

「しかし理論上はすべての情報を得られる。というより情報と一体化してしまう。彼は存在するんでしょうか?」

「それは存在するとも言えるし、していないとも言える。彼の情報はいま私たちを照らす光そのものでもある。しかし私たちはこの光から彼の痕跡をチリひとつも感じられない」

「初めて発明された自動車にはブレーキがついていなかった」

「だから彼は情報の向こう側へ行ったと?」

「いまある情報を基に考えるとそういう結論になります」

一番恐れていた考えだが、一番納得のいく答えでもある。彼は科学的好奇心のために戻るあてのない片道切符を握りしめて光になったのだ。

情報そのものになるという考えは佐藤の心をひきつける。それはすなわち世界のすべてを知るということだから。


田中は深くため息をついた。「でも、その代償はあまりにも大きい。彼は自らを犠牲にして、未知の領域に踏み込んだんだ」

佐藤は頷く。「彼の研究は、人類にとって大きな一歩になるかもしれない。だが、その一歩を踏み出すには、あまりにも多くのリスクが伴う」

「私たちにできることは?」田中が尋ねる。

「彼の研究を正しく理解し、彼が残したメッセージを世に伝えることだ。しかし、その危険性を忘れてはならない」

二人は科学者の研究室を後にし、夜空を見上げる。星々がきらめき、彼らの上で静かに光を放っていた。

「彼は今、どこかで私たちを見守っているのかもしれないね」と田中が言う。

佐藤は静かにうなずき、「彼の遺志を継ぐのは、私たちの責任だ」と答えた。

二人は夜の街を歩きながら、科学者が遺した謎とその解明に向けての新たな一歩を踏み出すことを誓った。彼らの前には未知の道が広がっていたが、その道を進む勇気を彼らは持っていた。



「田中くん、私は光になることにするよ」

研究の先が見えなくなった佐藤は田中に告げる。

「これ以上ここで理論をこねくり回しても仕方がない。とりあえずアクセルは踏まなければならない。そうしなければむこうで何が起きているのかも分からない。ブレーキの概念は分かる。しかし具体的にどうしろと言うのだね」

「しかし佐藤さん。それは危険すぎます。光になってしまえば二度と戻って来られないかもしれませんよ」

「理論上は死ぬことはない。そのへんは心配していないんだ。無限に時間があれば戻って来られるかもしれない」

「私が先に死んでしまうかもしれませんね」

「なに、そのときは君も光になればいい」

佐藤は理論に従って光になる。情報と一体化する。それは世界の全てを知ることでもある。佐藤の中にすべてが、文字通りすべてが融合する。

「そうか。そういうことだったのか」

佐藤が納得したのも束の間、佐藤自身がすべての情報とつながっていく。佐藤はすべての情報とつながり、すべての情報は佐藤とつながる。ここではなにもかもが平等なのでなんの動きもない。佐藤は揺れ動く情報の中で永遠に安らぐ。それは光のゆりかごであった。


田中は佐藤が消えた研究室でひとり残され、深い沈黙に包まれる。彼の心は複雑な感情で満たされていた。佐藤の勇敢な決断に敬意を表しつつも、彼の失われた存在に対する深い悲しみがあった。

「佐藤さん、あなたは本当に光になったんですね」

田中は窓の外を見つめ、星空を眺める。彼は佐藤が遺した研究ノートを手に取り、ページをめくる。そこには佐藤の筆跡で、最後のメッセージが記されていた。

「田中くんへ。私の旅はここで終わりだ。しかし、科学の探求は終わりがない。私の後を追う者がいる限り、私たちの研究は続く。勇気を持って、新たな一歩を踏み出してくれ」

田中は涙を拭い、決意を新たにする。佐藤の研究を引き継ぎ、彼の遺志を継ぐことが自分の使命だと感じた。

「佐藤さん、私もあなたのように勇敢になります。そして、いつかあなたが見つけた光の世界の謎を解き明かします」

田中は研究室の電気を消し、静かに部屋を出る。彼の背中には、佐藤が光になった夜の星空が優しく見守っていた。

(おわり)