「退屈してるの?」と友人のハルが訊く。
「ああ、毎日が同じだ。変わり映えしない。何か新しいことを始めたいんだ」と私は答える。
ハルはニヤリとして言う。「じゃあ、新しい趣味でも始めたらどうだ?ギターとか、写真とかさ。」
「趣味か‥‥‥それもいいけど、もっと深い変化が欲しいんだよ。自分自身を変えるような」と私はため息をつく。
ハルは思いついたように言う。「じゃあ、旅行はどうだ?いつもと違う環境に身を置くと、見方も変わるかもしれないぞ。」
私は考える。確かに、旅行は日常からの脱却になる。でも、それだけで満足できるかどうか。
「旅行もいいけど、もっと根本的な変化が必要だと思うんだ。自分自身の考え方を変えるような、そんな体験が欲しい」と私は言う。
ハルはしばらく黙って考えていたが、ふと目を輝かせて言う。「そうだ!ボランティア活動はどうだ?新しい視点を得られるかもしれないぞ。他人のために何かをすることで、自分自身も変われるかもしれない。」
私はハルの提案に興味を持つ。他人のために何かをすることで、自分を見つめ直すきっかけになるかもしれない。それは、日常からの脱却だけでなく、自己変革への一歩かもしれない。
「ボランティアか‥‥‥それはいいアイデアかもしれないね」と私は言う。自分自身の変化を求める旅は、これから始まるのかもしれない。
私は何のボランティアをしようかと考える。それは人が求めている物でなければやる価値もない。そうだ。都市伝説が本当か調べるボランティアをしてみよう。
「地下下水道へ行く」と私は言う。「下水道に巨大なワニが住んでいるという都市伝説が本当かどうか調べる。もし本当にいたならそれは大発見だし、いなかったとしても大発見だ」
「いいね。それ。でももしワニが本当にいたら?」とハル。
「そのときはスコップで口をぶっ叩くさ」
その時は本当にワニなんていないと思っていた。その予想は当たっていて地下下水道に巨大ワニが生息なんてしていなかった。そもそも下水道には人一人がやっと通れるぐらいのスペースしかないのだから。
伝説の現実は卑小なものだ。だが火のないところに煙は立たないのだ。私が下水道で出会ったのは大量の小さなワニだった。どのワニも獲物に飢えていて、見た瞬間に人を食い殺すタイプのワニだと分かった。
「くそ、こいつらどれだけ湧いてくるんだ」
私はスコップで小さなワニを叩き潰す。ワニは手のひらぐらいでスコップの一撃で簡単に殺せたが、スコップの感触でこいつに噛まれたら、小さくとはいえ歯は石みたいに固くて、もし噛まれたら確実に肉をかじり取られるのが分かる。
「たすけてくれ」
ハルの叫び声がする。小さなワニが彼女のすねに大量に群がっている。私はスコップでパン、パン、パンと叩き潰していく。そうしている間に私の足にもワニが群がってくる。
パン!パン!パン!
ひき肉工場になった気分だ。しかもどの肉も食べられないときている。これじゃあボランティアだ。
(おわり)「いいかげんにしてください」
市の水道課に写真を見せに行ったが、一枚目を見た瞬間に市の職員はそう言って手と首を横に振る。
「ワニがいるんですよ。それも大量に」
「ワニがいるからなんだってんです? 下水はちゃんと流れているし、誰かが食われたという報告もない。ワニは暗い下水道でみんな仲良く暮らしているんです。それでいいじゃないですか。それともなんですか? 火炎放射器でも持って行ってみんなBBQにしろとでも?」
「ワニがいることは認めるんですね?」
「そうじゃないです。ワニなんていませんよ。当然じゃないですか」
「証拠ならあります」
「よくできてますね。最近流行りのAIですか?」
どうやら市の職員はこの写真を造り物ということにしたいらしい。私たちにはそれが官僚的怠慢なのか、公にはできない重要な秘密を隠しているからかなのか判断できない。両方という可能性もある。どちらにせよ、ここにいても何も話が進まないということだけは理解する。
私たちは市役所を出る。
「この事実を知らせなければ」
私たちは次に新聞社へ行く、その次はTV局。どちらもよくできた映像だとしか言われなかった。考えてみれば私たちだって何も知らずにあんな写真を見せられたらイタズラだと思っただろう。それに最近はAIで素人でも現実にはあり得ない画像を生成することもできる。
「そうだ。ワニの死体を持ってくればいい」と私は言う。
「でもその死体も造り物だと言われたら?」
「その時はその時だ。とりえずいまやれることをやろう」
私たちはふたたび下水道へ向かう。しかし下水道へ通じる道はどこも厳重に封鎖され、警備員まで立っている。
「まさかこんなことになるとはな」と私は呟く。ハルも同意するようにうなずく。
「でも、なんでこんなに厳重な警備なんだろう?」とハルが尋ねる。
「分からない。でも、これはただのワニの問題じゃないかもしれない」と私は答える。
私たちは少し離れた場所から、警備の様子を観察する。すると、ふと、不審な動きをする一団が目に入る。彼らは封鎖された下水道へと入っていく。
「あれは何だ?」とハルが小声で言う。
「分からない。でも、追ってみる価値はありそうだ」と私は決断する。
私たちは慎重に、その一団の後をつける。下水道の中は予想通り暗く、湿気で息苦しい。しかし、私たちの目的ははっきりしている。真実を突き止めることだ。
突然、前方から物音が聞こえる。私たちは身を隠し、様子をうかがう。そこには、ワニを取り扱う一団がいた。彼らはワニを何かの容器に入れ、奇妙な機械に接続している。
「なんだ、これは?」とハルが小声で言う。
「分からない。でも、これが都市伝説の真相かもしれない」と私は答える。
私たちはその場で起こっていることをすべて記録する。もはやこれは単なるボランティア活動を超えた何かだ。これは私たちが解き明かさなければならない謎だ。
「帰ろう、ハル。私たちの使命はまだ終わっていない」と私は言う。
ハルは静かにうなずき、私たちは再び暗闇の中を進む。真実を求めて。
都市伝説の真偽を確かめるという半ばふざけた気持ちで始めたボランティアは奇妙な展開に突入する。
私は昨日の動画をYOUTUBEにアップする。しかし下手なSFみたいな動画を熱心に見る人はそれほどいなかった。
Xにもポストする。動画を投稿できるように課金までしてしまった。しかし、こちらはバズった。それもイタズラではなく真剣な受け止められ方をする。Xでは市がなにか重要なことを隠していると炎上する。TVニュースでもそれが取り上げられると市長はメディアの前で説明をしなければならなくなる。
「安心してください。私たちが住む地面の下にワニなんていません。フェイクニュースに惑わされないでください。ワニを奇妙な道具に入れている動画があるのは把握しています。しかしあれは嘘です。嘘つきは嘘の中に本当を混ぜるというのは本当ですね。下水道を閉鎖していたのは事実です。それは大規模な清掃作業をするためで、市民のみなさんの安全を守るためだったのです。その証拠にいまは下水道を封鎖していません。もちろん特別な事情がないかぎり下水道に侵入するのは推奨されませんが、入ることは可能です。もしよろしければここにいるどなかたが取材に来られてもよろしい。すべてをお見せするとお約束できます」
市長の言葉通りにいくつかのTV局が下水道の取材を行う。しかしワニはおろかゴミ一つ見つからなかった。こうなると世間の風は逆に吹いて、逆に私たちへの風当たりが強くなる。
「これが結果か」と私はつぶやく。ハルは肩を落としている。真実を追求した結果、私たちはフェイクニュースを流した側に立たされてしまった。
「でも、あの動画は作り物じゃない。私たちが見たのは本物だった」と私は言う。
ハルは静かにうなずく。「私たちだけが真実を知っている。でも、それを証明する方法がない」
私たちはカフェで次の手を考える。「もう一度下水道に潜り、証拠をつかまないといけない」と私は提案する。
「でも、今度はもっと注意深く、そして何かしらの証拠を持ち帰らないと」とハルが付け加える。
私たちは計画を立てる。今度はもっと準備を整え、万全を期して挑むことにする。しかし、その準備をしている最中に、意外な展開が待っていた。
ある日、私たちのもとに一通のメールが届く。差出人は匿名で、内容は「真実を知りたければ、この場所に来い」とだけ書かれていた。添付された地図は、市の外れにある古い工場跡地を示している。
「これは罠かもしれない」とハルが言う。
「でも、行かなければ真実は明らかにならない。私たちが求めていた答えがここにあるかもしれない」と私は返す。
私たちは慎重にその場所へ向かう。工場跡地は荒廃しており、どこか不気味な雰囲気が漂っている。しかし、私たちは恐れずに進む。
そして、その場所で私たちは衝撃的な真実に直面する。そこには、市が隠していた巨大な秘密があったのだ。それは私たちの想像をはるかに超えるもので、これまでのすべての疑問が一気に解決するような内容だった。
私たちはその真実を世に出す決意を固める。どんな困難が待ち受けていても、私たちは立ち向かう覚悟ができていた。これはもはや単なる都市伝説の追求ではない。これは、隠された真実を暴き出す戦いなのだ。
「よく来たね」
そう言った人を私は人として認識できなかった。よくできた人形だと思ったのだ。しかしそれは事実人であり、意志を持って喋っている。
「驚くのも無理はない。私たちはいないものとして扱われている。時々ネット上に姿を現すが質の悪いイタズラとしか思われていない」
「でも、そんな、あなたは人間?」
「人間の定義による。人間扱いされていないから人間ではないとも言えるし、生物的にも人間と言えるかどうかはあやしい。しかし私は自分を人間だと思っている。人とは違うがね」
彼はそう言うと机を降りて歩き始める。彼の背は私の膝より少し高いぐらいしかないが、歩き方はしっかりしていて成熟した大人という感じだ。彼は一人だけではなく、私たちが彼についていくとどこからともなく同じような小人が姿を現して私たちを囲む。
「心配しなくてもいい。外の人間は珍しいから好奇心で見ているだけだ。危害は加えない」
「あれ、見て」
工場の水槽には私たちが下水で見た小さなワニがいる。ワニだけではない。手のひらに乗りそうな豚や鶏、羊までいる。
「これは一体?」
「これが市が、というより国が隠している秘密だ」
男は振り返ると言った。
「生物の遺伝子を操作し、別の生物へと進化させる。私たちはその過程で生まれた失敗作なのだよ」
「あのワニも?」
「そう。生物小型化研究の一環として作られた。もしかしたら別のところでは巨大化研究もおこなわれているかもしれない」
「そんなこと聞いたことがない」
「極秘の研究だからね。しかし私たちが証拠だ」
私は真実を求める。そう決心して、私たちはこの隠された社会での生活を知るために、さらに深く掘り下げることにする。
「どうして私たちは表の世界に出ることができないんですか?」と私は尋ねる。
男は少し悲しそうな顔をする。「私たちの存在が公になれば、大きな混乱が起こる。私たちは実験の副産物、社会に受け入れられることはない。でもね、私たちにも生きる権利があるんだ」
「でも、この秘密を隠し続けることが正しいとは思えません。何かできることはないんですか?」と私は迫る。
彼は考え込む。「私たちも表の世界で生きたいと願っている。でも、それが現実になるには、大きな壁がある。私たちの存在を理解し、受け入れてくれる人がもっと必要なんだ」
「では、私たちがその壁を壊す手伝いをしましょう。みんなに真実を知ってもらい、理解を求める。それが最初の一歩になるはずです」と私は提案する。
私たちは手を取り合い、隠された社会の人々と表の世界の架け橋となる決意を固める。真実を世に知らしめるための戦いが、今、始まる。
小説なら牛野小雪【kindle unlimitedで読めます】
牛野小雪以外の本を読むなら
kindleストア トップページ
kindle unlimitedトップページ
コメント