DALL·E 2024-02-18 11.10.45 - In an
私はカフェに座り、窓の外を眺めながら、この世界の無常を思う。コーヒーの苦味は人生の苦さに似ている。隣に座る男が新聞をパラパラとめくる音が、なぜか現実の重さを増す。

「ねえ、君は幸せ?」隣の男が突然私に問いかける。彼の質問には、皮肉と真実が混じっているようだ。

「幸せかどうかなんて、誰にも分からないよ」と私は答える。コーヒーのカップを回しながら、人生の意味を模索するのは無駄なことなのかもしれない。

「でも、君は探しているんだろう?」彼は続ける。彼の目は、人間の愚かさを見透かすかのようだ。

「ああ、探している。でも、見つかるかどうかは別の話さ」と私は言い、窓の外の行き交う人々を見る。彼らもまた、何かを探しているのだろうか。

「人生って、不条理だよね」と彼は言う。彼の言葉には、ある種の諦めが含まれているように思える。

「そうかもしれないね。でも、その不条理を楽しむこともできるんじゃない?」と私は返す。人生の不条理を受け入れ、それでもなお前に進む勇気が、私たちを人間たらしめるのかもしれない。

彼は苦笑いを浮かべる。「君は楽天家だね」

「いや、ただの現実主義者さ」と私はコーヒーを一口飲みながら答える。この世界に確かなものなど何もない。だからこそ、私たちは自分の道を切り拓くしかないのだから。

ガチャ。ガチャこそが真実だ。私たちはSSRを引くためにガチャを回すのではない。外れるためにガチャを引くのだ。もし中途半端に狙いとは違うSSRを引いてしまったら私たちは深く絶望するだろう。

「10連ガチャってChatGPTの有料版と同じだけかかる。それなのにポンッと回してしまう。これっておかしいよな」と私は言う。

「いいや、むしろChatGPTが高すぎるのです。生活に必要で役に立つ物が高いのは許せない。もはやAIは必需品。空気と同じでタダにするべきです。ガチャは3000円ではなく30000円にすればいい。そうすればより外した時の衝撃は激しくなり、人は感傷をより深く味わうことになるでしょう」と彼は言った。

「10連ガチャを10回回せばいいのでは? ガチャの回数に制限はない。有料版ChatGPTは20ドル。月に約3000円払えばそれ以上払うことはない。しかしガチャは事実上無限に値段を上げられる。5000兆円も可能だ」

「いや、それも不可能です。10連ガチャを回すのに最速で1回3秒かかります。一度も滞らずにガチャを回せたとしても一時間に3600万円しか使えない。一日で86400000円。しかもこれは理論値で、実際には半分も回せたらいい方です。人間は無限に傷付くことはできません。物理的、精神的に天井があるのです。この宇宙にある物体が光速を超えられないようなものですね」

私は彼の言葉に目を開かされる。そうだ。ガチャを100回回した時の喪失感。それに圧倒されて一時間に10連ガチャを1200回回せることなど考えたこともなかった。しかし人間は理論上はそこまで喪失できるのだ。

「あなたの言葉に目が覚めました。私がこれ以上ないと思っていた世界の先にはもっと大きな世界があったのですね」と私は言う。

「はい。私はもう500回回しました」と彼は言う。

「本当ですか? それでもう獄炎のフルートは出ましたか?」

「いいえ、一回は出たのですが、完凸するにはあと4個出さなければなりません。というわけで2000回回します」

彼はそう言うと10連ガチャをとんでもない速さで回していく。とてつもない速さでお金が消えていく。そして彼はたった10分で10連ガチャを200回回した。ちょっと信じられない。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

突然彼は発狂する。

「いらねー!いらねー!養分だろオレ!はい、2000回回して獄炎のフルート3個手に入りました。ふざけんじゃねー!これなら全部外した方がよかったわ!」

「エリオット、落ち着け。それがガチャの世界だ。期待と絶望の狭間で踊るのさ」と私は彼をなだめる。しかし内心では、彼の絶望が、この虚無のゲームにおける我々の姿を如実に映し出していると感じていた。

「でも、なんでこんなことするんだろうね。現実世界でこんな無駄遣い、普通しないよ」とエリオットは息を切らせながら言う。

「現実の無駄遣いは目に見えて痛いからだよ。でもここ、このデジタルの世界では、無駄遣いが虚像の光と影に包まれて、何か大きな意味を持っているように見えちゃうんだ」と私は答える。このゲームの中では、我々は自分が何者であるかを、引いたカードのレア度で測ってしまう。

「つまり、ここでは俺たちは、引いたカードに自分の価値を見出しているわけか」とエリオットが言う。その言葉にはある種の開放感と同時に、深い絶望が込められていた。

「そう、でもそれは大きな勘違いだ。本当に大切なのは、ゲームの中で何を引いたかじゃない。どう生きるかだよ」と私は言う。私たちはこの無意味なガチャを回すことで、現実逃避をしているだけなのかもしれない。

エリオットは沈黙する。彼の目には、このデジタルな世界と現実世界の間で揺れ動く自分自身の姿が映し出されているようだった。

「さて、次はどうする?」と私は彼に問いかける。私たちの前には無限の選択肢が広がっている。しかし、その中で本当に意味のある選択をするのは、簡単なことではない。

エリオットは深く息を吸い込み、「もう一度だけ、ガチャを回す」と言う。彼の声には、ある種の決意が込められていた。それは、この無意味なゲームに挑み続けることで、何かを見出そうとする彼の姿勢を表していたのかもしれない。

私たちは、ガチャを回すことで何かを得ようとするのではなく、その過程で自分自身について深く考える機会を得ているのかもしれない。もしかしたら、それがこのゲームの中で最も価値のあることなのかもしれない。
エリオットは10連ガチャのボタンを押す。もはやスキップする力もないようだ。

ガチャがぐるぐる回る演出が流れる。画面が虹色だ・・・!

「あ、当たったーーーー!」

エリオットは獄炎のフルートを引き当てる。さっきとは別の理由で奇声を上げる。

「よっしゃあ!あと一個で完凸。俺に勝てる奴は誰もいねぇぜ!」

「もう一回引くのか?」

「当たる。次も当たる。確率的にはもう5個引いてもいい頃だ。連チャンでくる。SSRの気配を感じる」

エリオットはもう一度10連ガチャのボタンを押す。

するとまた虹色演出・・・・・!

「あああああああああああああん!? ふざけんじゃねええええええええええ! しねえ!」

エリオットは奇声を上げる。

「氷結水晶なんてもう産廃だろうが。こんなもんもらっても嬉しくないわ。俺の心が氷結だわ」

「落ちつけエリオット。ソシャゲの武器はいつか産廃になる運命。みんなそれを受け入れてガチャを回している」

「なわけねーだろ、バーカ! 100万つぎ込んだ武器が産廃になったら引退するわボケェ!」
私はエリオットの激昂を静かに見守る。彼の熱狂と絶望が、このデジタルな世界の根本的な虚しさを如実に映し出している。私たちはなぜ、こうも一途に虚像を追い求めるのだろうか。

「エリオット、本当にそれが欲しいのか? それとも、ガチャのスリルに酔いしれているだけなのか?」私は静かに問いかける。

彼は一瞬、黙り込む。「知るかよ、俺はただ…ただ…」言葉を失うエリオット。彼の目には、一瞬だけ迷いが浮かぶ。

「もしかして、私たちはただの獲得ではなく、追求そのものに価値を見出しているのかもしれないね。それが、ガチャを回す本当の理由なのかもしれない」と私は続ける。

エリオットはうなずき、少し落ち着いた様子で「かもな。でも、それでも…」と言葉を濁す。彼の心の中には、まだ答えが見つかっていない。

私たちはガチャの画面から目を背け、現実世界の空を見上げる。星々が静かに輝いている。ここには、確かなものがある。ガチャの結果に一喜一憂することなく、ただ静かに存在することの美しさ。

「エリオット、ガチャはただのゲームだ。大切なのは、ゲームの中で何を見つけるかじゃない。ゲームの外で、私たちが何を感じ、何を考えるかだよ」と私は彼に伝える。

エリオットは少し笑みを浮かべ、やがて「そうだな、ゲームはゲームだ。でも、俺たちはそれを通じて、もっと大きな何かを見つけることができるんだろうな」と言う。

私たちは再びガチャの画面に目を向ける。しかし今度は、それがただの画面であることを知っている。私たちの真の探求は、その画面の向こうにある。

エリオットは突然電話をかける。

「もしもし‥‥‥はい。クレジットカードの限度額を上げて欲しいのですが‥‥‥あ、はい。ソシャゲのガチャを引くので‥‥‥え、あ、はい。問題ないです。はい‥‥‥はい‥‥‥お願いします」

「エリオット。もしかして……」

「俺はやる。俺はやるぞ」

エリオットは自分に言い聞かせるように声を出す。カフェの人たちは何事かと彼に目を向けている。彼の姿はこのカフェで異質な熱を帯びている。

「やめろエリオット!」

「もう俺は止められない!」

エリオットは超高速でガチャを回す。画面が虹色から白色に代わり、スマホから放たれる光が光線となり、カフェをそして世界を包み、爆発する。世界は終わった。

とはならなかった。これはエリオットの心理のメタファーであって現実はガチャの回転が虚しく回り続けて、エリオットは大した収穫もなくガチャを終えただけだ。

世界は終わらず、大金を喪失したエリオットだけが残された。クレジットカードの支払いは現実である。電子的な取引は現実となって未来で待っている。

(おわり)

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