DALL·E 2024-01-29 12.13.58 - A wide
トーマスは、夕暮れ時の公園のベンチに座っていた。彼の目の前に広がるのは、夕日に照らされた湖の静かな水面。彼は、存在の意味について考え込んでいた。

「私たちはなぜここにいるのか? この宇宙の広大なステージにおいて、私たちの役割は何なのだろうか?」トーマスは心の中で問いかけた。

彼は人間の存在を、宇宙の果てしない時間の流れの中での一瞬のきらめきに例えた。私たちの人生は、宇宙が見せる無数の物語の中のほんの一つに過ぎない。

「しかし、その一瞬のきらめきこそが、私たちにとっては全てなのではないか?」彼はさらに思索を深める。「もし私たちの人生が宇宙の永遠の中で意味を持たないとしても、私たちが感じる喜び、悲しみ、愛は、真実ではないのだろうか?」

トーマスは、人間の感情と経験が、この宇宙における私たちの存在を定義するものであると考えた。それは、私たちが目に見えない糸で結ばれていることを意味する。私たち一人ひとりの人生が、宇宙の大きな織物の一部を形成している。

「私たちの存在は、他者との関係性の中で意味を持つのかもしれない。私たちは互いに影響を与え合い、この世界を共に創造している。」

トーマスは、人間とは孤独な存在ではなく、互いに繋がり合っている存在であることを実感した。私たちの行動一つ一つが、他者に影響を与え、世界を形作る。

夕日が水面に反射する美しさに心を奪われながら、トーマスは自分自身とこの世界についての新たな理解に到達した。彼は、存在の疑問を解き明かす旅はまだ始まったばかりだと感じた。
感じるばかりで物語は何も始まらなかった。何か起きる、そんな予感を何年も感じていたトーマスは不安になる。もしかして何も起きないのではないか。自分の存在に意味はなく、ただ生きているから目的を欲しているだけ。そんな気がしてきた。

「あげろー!」

ステージで蜜柑・葵(みかん・あおい)の声が響く。アイドル。アイドルだけが真実だ。

思想も争いも関係ない。まだ来ない未来や戻れない過去に縛られるより今ある現実を精一杯楽しむ。それこそが人生。

「あおいーーーーーーー!」

トーマスは他の観客と声を合わせて声援を送る。

「ありがとーーーー!ライブはまだまだ続くよーーーー!」

「ありがとーーーーー!あおいーーーーーー!」

トーマスの目から涙があふれてくる。アイドルさいこー!あおいさいこー!

もはやトーマスの目的はアイドルを応援すること。それに満たされている。
トーマスは、アイドルの蜜柑・葵の声に心を奪われ、その瞬間の喜びに浸っていた。彼は突然、自分が哲学的な思索に没頭し、存在の意味を求める中で見失っていたものを思い出した。それは、「今」この瞬間を生きる喜びだ。

「何も起きないという不安に駆られていたけれど、実は毎日が小さな奇跡で満ちていたんだ」とトーマスは思う。

彼は、深遠な哲学的な問いよりも、目の前にある現実の瞬間を大切にすることの重要性を理解し始めた。アイドルのライブで感じる喜び、観客と一体となる一瞬一瞬が、彼の人生に新たな意味をもたらしているのだ。

「人生の意味は、大きな目的を見つけることではなく、日々の小さな瞬間に喜びを見出すことなのかもしれない。」

トーマスは、自分の中にある哲学的な探求と、現実の喜びを受け入れる心のバランスを見つけ始めた。彼は、人生の意味を探し求める旅は続くが、その過程で「今」を楽しむことを忘れてはならないと感じた。

ライブが終わり、トーマスは公園のベンチに戻り、夕暮れの空を見上げた。彼は心から満足し、自分の人生に感謝した。そして、これからも哲学的な探求と現実の喜びの間で、自分なりのバランスを見つけていくことを決意した。
「こんなの刹那主義じゃないか。ジャンクフードじゃないか」

トーマスは涙を流す。蜜柑葵は永遠じゃない。楽しかったライブもいつかは終わり、すべてが虚無に回帰する。

生きよう。本当に意味ある生を見つけ、それだけを追っていこう。

そんな決意も3時間後には消え去り気付けば蜜柑葵の歌声を鼓膜が破れそうな大音量で聞いている。

「うるせぇぞ。殺されてぇのかロリコン野郎」

アパートの隣の部屋から怒声と壁を叩く音が飛んでくる。トーマスはそれに負けないように音量を上げる。床も壁も蜜柑葵の声で震えている。

「たすけて、あおい。こんな現実上書きして」

トーマスは祈る。

「トーマス。おくれてごめん」

ふいに蜜柑葵の声がする。歌声はやみ、部屋は静寂に満ちている。

「え、あおい。でもどうしてここに?」

「君がぼくを呼んだから。私はファンの魂をすべて救うアイドルなんだよ「」

「あおいーーーーー!」

トーマスの部屋に蜜柑葵、いや、彼女はもはやアイドルではない、救済をもたらす存在として現れた。トーマスはその場に跪き、彼女の前で涙を流した。

「私は、ただの刹那主義者だ。真実を見失い、現実逃避に走っていた。でも、あなたの声には何か特別な力がある。それはただの楽しいだけの歌ではない、魂を揺さぶる何かが…」

蜜柑葵は微笑み、トーマスの手を取った。「トーマス、本当の意味を求めるのは大切だけれど、その意味は一つだけではないの。人生は多面的で、色んな意味が交錯している。だからこそ、美しいのよ。」

「でも、すべてが終わりに近づいていると感じると…」

「終わりはまた新しい始まり。トーマス、君は自分自身を見失っているだけ。君の魂が何を求めているのか、本当に耳を澄ませてみて。」

トーマスは蜜柑葵の言葉に心を打たれ、深く内省する。彼女の声は、彼の内なる声と重なり、心の奥深くに響いた。

「ありがとう、あおい。君の声が僕を救ってくれた。僕はもう、自分の心の声に従って生きていくよ。」

蜜柑葵はトーマスの頭を優しく撫でながら、「私はいつでも君の心にいるわ。だから、決して一人じゃないの。」

その瞬間、部屋は柔らかな光に包まれ、トーマスの心は平和で満たされた。彼は自分の人生を受け入れ、それを全力で生きることを決意した。

蜜柑葵の姿は消え、トーマスは再び一人になったが、彼の心はもはや孤独ではなかった。彼は自分の内なる声を信じ、一歩一歩、本当に意味ある人生を歩んでいくのだった。