暗い夜の中、街は静まりかえっていた。ひときわ寂れた角にひとりの男が佇んでいた。彼の名前はジョン・ハリス。彼は探偵で、この街の事件を解決するために日夜働いていた。

ある晩、ジョンは古びた事務所で不穏な電話を受けた。相手は低い声で囁き、彼に特定の場所に行くように命じた。ジョンは直感に従ってその場所に向かうと、そこには古びた倉庫が広がっていた。

倉庫の扉を開けると、中には謎めいた雰囲気が漂っていた。そして、そこで彼は突如として行方不明になってしまった。ジョンの友人であり助手のサラ・ウィルソンは、彼が行方不明になったことを知り、心配のあまり倉庫に向かうことになった。

サラが倉庫に到着すると、そこにはジョンの手がかりが点在していた。彼女はジョンの消息を追うため、謎めいた事件の核心に迫るべく動き出すのだった。
ジョンのスマホ。電源を入れるとパスワード画面が出る。試しにpassと入力。ダメ。password。ダメ。john。これもダメ。これで最後とJohnHarisと入力。パスワードを突破する。

通話履歴には名前のない人物からの連絡が目立つ。番号は同じで一週間前からだ。メールの受信箱も開く。特に変わったものはない。SNSのDMはここ最近でやりとりは0。謎の人物に電話をかける。コール音が続き、切れる。もう一度かけるがつながらなくなっている。相手はジョンのスマホから電話がかかってくるとまずいと思っている。もちろんそれは可能性だ。しかし一つの情報ではある。

通話履歴をもう一度見る。ジョンから謎の人物に電話はかけていない。メールの送信箱も見る。こちらも特に気になるようなものはない。サラはスマホの電源を切ろうとして、メールの未送信箱を見る。下書きのメール。件名も送り先も空欄だが本文には「妹がまだ」とだけ書かれている。
サラはジョンのスマホに残された謎めいたメールを見つけ、何かが起こっていることを感じた。彼の妹に何かあったのか?彼女はジョンの過去を探るべく、妹の情報を見つけ出すことを決意した。

ジョンのオフィスに戻り、妹の名前や居場所を突き止めるために調査を開始した。やがて、サラはジョンがかつて過ごした街の図書館で妹に関する情報を見つけた。彼の過去には知られざる出来事があったらしい。

図書館の資料を調べる中で、サラはジョンの過去の事件と妹の関係が明らかになっていく。そして、その過去には謎の人物との因縁が絡んでいることが浮かび上がった。

サラは妹にまつわる情報を手に入れ、謎の人物との関連性を追求することになるだろう。
ジョンは父を殺していた。14歳の時に狩猟用のライフルで父の頭を撃ち抜いている。頭部の上半分は完全に吹き飛び身元確認できたのはクリスマスを挟んだせいか三週間もかかっている。銃の暴発ではなくジョンは殺意を持って引き金を引き、警察には「妹を守るためにやった」と証言している。他の新聞も調べたが、それ以降の記事はなかった。報道で配慮したのかもしれない。

ジョンがかつて住んでいた場所は大体分かった。辺りで聞き込みをするとすぐに正確な住所も分かった。ジョンが父を殺した家は建て替えられていたが近所の人は同じだった。サラはジョンの過去を聞き出す。

ジョンと妹のアレックスは本当の兄妹ではない。ジョンが10歳の時にジョンの父とアレックスの母が再婚して一緒に住むようになった。アレックスの母はジョンが12歳の時に農薬を飲んで自殺してからは三人で暮らしていたようだ。父を殺した後のジョンは少年刑務所に入り3年後に出所して、地元の建設会社で2年ほど働いてからブルックリンに引っ越した。妹のアレックスは母親の親戚が引き取ってオクラホマへ行っている。
サラはジョンの過去に驚きと混乱を感じながらも、真相を解明するために動き出した。彼の父を殺した過去と、その事件がもたらした影響が、ジョンが事件に巻き込まれている可能性を考えさせた。

ブルックリンの住所に向かうと、ジョンがかつて住んでいたアパートメントはすでに新しい住人に引き継がれていた。サラは近隣の住人に話を聞き始め、ジョンのブルックリン時代の友人や知人を追跡していく。

やがて、ジョンの友人の一人がサラに連絡を取り、彼が最後に見たときのジョンの状態について語り始めた。ジョンはブルックリンで新しい生活を始め、過去の出来事から逃れようとしていたようだったが、何かに取り憑かれたような表情を見せていたという。

サラはアレックスの居場所を突き止め、オクラホマへ向かうことを決意した。ジョンの行動の背後には彼とアレックスの関係が鍵を握っているようだ。
予想していたがオクラホマにサラはいなかった。しかし家族はいる。アレックスの母のいとこだ。アレックスの引き取り先になった彼らはアレックスという言葉を聞いた途端に顔をしかめた。話したくもないし思い出したくもないという感じだ。始めは要領のえないことばかり話していたが、あるところからは覚悟を決めて洗いざらい話してくれた。

彼らの言葉を借りるならアレックスは頭も股もゆるいビッチということらしい。アレックスの新しい母がそれを口にすると父と息子は気まずそうに顔を逸らした。「こいつらとも寝てる。棒があればなんでもくわえこむんだよ」と母はひねくれた笑顔を見せた。

アレックスは今どこで何をしているのかと聞くと3年前にマリオとかいうしょうもない男と一緒に町から消えてそれっきりだと母は言った。連絡も一切ないらしい。それ以上の情報が得られないのでサラはアレックスとマリオのことを近所で聞き込みする。アレックスについては何も新しい情報はなかったが、マリオの方は腕っぷしと頭の悪さがとびっきりだという情報は手に入る。誰もかれもがアレックスとマリオがいなくなって、ほっとしているようだった。

二人がどこへ行ったかは分からないがマリオは前々から何度もニューヨークへ行くんだと自慢していたらしい。
サラはアレックスの過去と姿を知ることができたが、彼女の行方は依然として不明であり、マリオとの関連性も浮かび上がってきた。ニューヨークへの情報が新たな手がかりとなる可能性がある。サラは再びブルックリンに戻り、ジョンの友人たちと連絡を取り始めた。

ジョンの友人の中に、かつてマリオと親しい関係にあった者がいた。この友人、トニーという男性は、マリオがニューヨークに何かを探しに行ったという情報を提供してくれた。しかし、具体的な目的や行き先は分からなかった。

サラはトニーから得た情報を頼りに、ニューヨークでマリオとアレックスの足跡を辿り始めた。彼女は街角のバーから地元の住人、路上の芸人から情報を仕入れながら、二人の行方を探し続けた。

そしてある日、サラは不穏なウワサを聞きつける。ニューヨークの裏通りで、アレックスとマリオが関与する何か大きな出来事が起きているらしい。サラは急いでその場所に向かい、物語のクライマックスへと突入する。
ギャングさえ近寄らないビル。何年も放置されてあらゆる荒廃が降り積もった場所。サラは足音を忍ばせて中に入る。人の気配。誰かは分からないが喋り方は頭がゆるそうだ。声は男と女の二人。アレックスとマリオだろう。

サラはバックから20ミリの拳銃を出す。探偵業には危険がつきものなので護身用として持っていたが今まで使ったことはない。

サラは銃口を前に突き出して物陰から出る。見上げるような巨大な男と小人のように小さな女がいる。二人はすぐにサラに気付き、最初は驚いたがすぐに顔が溶けて笑みを浮かべる。サラは胃が固くなるのを感じる。二人は頭のネジが飛んでいる。人を殺すとも思わずに人を殺せるだろう。

「ジョンはどこ?」

サラは言う。声が震えていなければいい。

「兄さんなら一緒にいる」とアレックスは左手をかかげる。やけに大きな手だ。隣にいるマリオよりは小さいが小柄なアレックスにしては大きい。

「ほらここに」アレックスが左手を閉じたり開いたりする。サラはそれが人の皮で作られた手袋だと気付く。誰の。ジョンだ。

パン。サラは思わず引き金を引いていた。銃弾はどこへ飛んでいったのか分からない。アレックスとマリオは立っている。しかし二人がきょろきょろと辺りを見回していると、突如としてマリオの胸に血のしみが広がる。

「あぁ・・・・あぁ・・・・あぁ!」

マリオが狼狽する。その顔はまだ何が起きたのか理解できてはいないが大変なことが起きようとしているのを感じている顔だ。

「うそつき。私を守るって言ったのに!」

アレックスは左手で銃を抜くとマリオの頭を撃ち抜く。しかしマリオはそれで死ぬことはなく、アレックスに裏切られたのに気付いたようだ。今までのふやけた顔が一転して固い顔になり、アレックスを両手で抱え上げると壁に向かって走る。

「なにやってんだノータリン。あの女を殺せ」

アレックスが銃でマリオを撃つ。頭を狙っていたが走る振動で狙いが逸れて足に当たる。マリオがよろめき、壁ではなく窓へ。激しい音がして二人は下へ落ちる。ここは5階だ。サラはおそるおそる下を見ると二人は遠い地面で動かなくなっている。

「死んだのか」

サラが振り返ると左手に包帯を巻いたジョンが立っている。

「ジョン。生きていたの」

「無事とは言えないがな」

「どうしてこんなことに」

「俺は父親から妹を守った。そのせいで妹は俺の人生が壊れたと思い込んだ。だからあいつは壊れてしまった。本当はあんなことをするやつじゃなかった」

「どうする気だったんだろう」

「俺の皮を身に着けて、一生俺に守ってもらうつもりだったらしい。そう考えるとマリオという男もかわいそうなやつだな」

「まずは病院へ行きましょう」

「そうだな」

このあとジョンはアレックスとマリオを一緒の墓に埋めてやった。
左手は皮膚の移植手術が成功して元通りとまではいかないが治りはした。