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 『word.I』はそれほど長い小説ではないが、何日かに分けて小刻みに読んでいて、最初の日に脳内で流れたのがコレ。

"君の運命の人は僕じゃない"

 Oficial髭男dismのPretenderだ。

Pretender
ポニーキャニオン
2019-10-09


 主人公はクラスで流行っているえっちなイタズラから、とある女子を救って(正確には別の女子が救った)、それがきっかけ好きになるわけだけど、その子には好きな子がいるというのを感付いてしまうところでさっき引用した『pretender 』がかかるわけですよ。

 さて、この小説、「実はスゴイ自分」なんていない。という主人公の独白で始まるが、この男モテモテである。意中の子には自分以外に好きな人がいそうだからと落ち込んでいるが、その子以外にはずいぶんコナをかけられているし、時には付き合ったりする。意中の子にしても小説が成立するぐらいドラマがある。おまけに第一志望の高校に受かる秀才。将来は医者を目指している友達は落ちている。この主人公がスゴくないなんてことがあるだろうか。いや、ない。

 それでもこの小説の主人公は悲劇というか苦しい状況に襲われる。運が悪いわけでもない。よくよく考えてみると、どれも避けられるもので、身から出た錆という感じがある。まるで自分から苦しみを求めているようだ。
 その視点でこの小説を読んでいると、もし仮に意中の子が「····わたしもあんたが好きやけ////」という展開になっても、この主人公は台無しにしそうな雰囲気がある。それにこの主人公、好きになるのは誰でも良くて、好きになったら絶対にダメな相手だからこそ好きになった可能性がある。

 つまりこいつは····

ダメな自分を楽しんでいるんだよ!

 ドストエフスキーの『罪と罰』に出てくるマルメラードフと同じ人間。人間失格。最後は酒の飲みすぎで死ぬだろう。もしかしたらドラッグか、ギャンブルかもしれないが、心の底では破滅を望んでいる。一点の曇りもない100%完璧なキラキラの幸せだけが欲しい、それ以外はいらない。そうでないなら0でもいい。そんな奴だ。

なにが「スゴイ自分はいない」だ。ふざけやがって!

本当は自分がスゴイと思っていることの裏返しじゃねえか!

こいつはナルシストの臭いがぷんぷんするぜっ!

 今ここに堕落する快感に浸る耽美小説が誕生した。しかもこの小説、三か、四部作になるらしく、まだまだ堕落の余地を残している。実はスゴイ小説なのでぜひ読んで欲しい。藍田ウメルは今最高に文学している作家の一人だ。

(おわり)

※このブログ記事は牛野小雪の個人的な見解であり、作者の意図とは全く関係ありません。

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