10歳の頃にシベリアンハスキーの野良犬が近所を徘徊する事件があってから野良犬の姿をとんと見なくなった。そのハスキーは本当に巨大な犬で、私が砂を掘っていたらいつの間にか後ろにいてかなり恐かった思い出がある。ホラー映画ばりの叫び声が出てきて、犬もびっくりしていた。その隙に隣の家の塀を飛越えてなんとか事無きを得た。

その犬は本当に大きくて、中学生が塀の上に取り残されていても大人は家の中から出てこなかった。ちなみにその騒動の元になったシベリアンハスキーは近所の家に飼われている。もうけっこうな年のはずだがいまだに飼い主を引っ張っている姿を見る。実は二代目だろうか?

 野良犬はいなくなったのだが、それに入れ替わって野良猫が現れるようになった。たぶんそれまでは犬に食われていたんだろう。

 最初の野良はアメリカンショートヘアーでキャロルと名付けた。夕方四時になるとどこからともなく現れて、一緒に遊んでいた記憶がある。たいていは屋根から松の木へ飛び移り、するすると下まで降りてくる。そのキャロルは五時になると突然何かの用事を思い出したようにどこかへと去っていった。

 よっぽど懐いていたので家で飼いたいなと思っていたらキャロルは突然姿を見せなくなった。それで方々探し回っているとある家の敷地で、キャロルがたくさんの猫と一緒に座っているのを見つけた。それでやつの名前を呼んでいると、不意に窓が開いて「猫、いじめんといてな」見知らぬばあさんに怒られる。猫達はばあさんの元に駆け寄っていき、キャロルもその中の一匹に混じっていた。この裏切り者めと思って、それ以来ばあさんの家には行かなかったし、キャロルの姿も見なくなった。

 次に来たのは黒猫で毎晩松の木の下に寝そべって、尻尾を体に巻きつけていた。私を見るとさっと逃げたので何だかよく分からない。基本的に野良はよく逃げる。ちなみにこの黒、斜め隣で飼われていたコーギー犬のエサを横取りしていたせいか飼い猫みたいに毛並みがツヤツヤしていた。だけど、その黒猫が姿を消すと何故かコーギーも後を追うように死んだのは不思議だ。ケンカするほど仲が良かったのかもしれない。

 そのあと松の木の下はサバトラ、黒、シャム、サバトラ、黒、と入れ替わって、今年の夏は茶トラが出没するようになった。この辺で茶トラは珍しいのでちょっと気になっていた。

 この茶トラ。オス猫なのだが太ましい体つきをしていて、最初から只者ではない風貌をしていた。近所にいる先住の黒とキジが難癖をつけようとしても、足を止めずに片手であしらうほどだった。

三匹同時に囲まれても何のそので、オーン、オーーンの大合唱の中、退屈そうに大きなあくびをしていた。これは敵わんと悟ったのか最初に小さい方のキジトラが逃げて、次に黒が離れて、最後まで粘っていたキジトラは突然何かの用事を思い出したように立ち上がると、何度も後ろを振り返りながら忍び足で退散していった。

 しかしこの茶トラ、オス猫界では強いのかもしれないが世間の波を泳ぐのは下手だったようだ。例えば小さいキジトラは、しょっちゅう誰かれに近付いては撫でてもらっている。たぶんエサも貰っているのだろう。(と、思っていたら首輪付きになっていた 2015/9/2追記)黒だって、たまには私の足元に毛を擦りつけてくる。大きい方のキジトラにしても、冬を越して生きているぐらいだから何かしら人の手を借りているに違いない。ただし、この茶トラだけは人間を見るやいなや、さっと逃げてしまう。かなり警戒心が強い。そのくせ私が夜散歩に出る時は玄関の松の木の下で体と尻尾を巻いている。懐こうとしているのかと思って近付いたらやっぱり逃げた。

 都会ではないとはいえ、しょせんここは牛より車が多い場所だ。道端に猫が食う物もそれほど落ちていない。茶トラは日を追う毎に痩せていき、しまいには皮が余ってみすぼらしくなった。それでもやっぱり人間を見ると逃げた。

 それでこの前の台風が去った後に黒が後ろ足を曳きながら歩いているのを見て、あの茶トラはどうなったのだろうかと心配していた。黒が足を曳いているぐらいだから死んだのかもしれないと思っていたが、つい先日また太ましい体つきをしているのを見た。松の木の下で尻尾と体を巻いていた。そして私を見るとすぐさま逃げていく。最近は振り返りもしない。どうやって台風と飢えをしのいだのかは謎である。

 

(2015年9月1日 牛野小雪 記)

 

(おわり)

 

追記:一昔前にあれだけ流行ったゴールデンレトリバーやラブラドールはどうなったんでしょうか。前は石を投げれば当たるぐらいいたのに。最近は小型犬ばかり見る。中型犬でも珍しい。最近はツイッターで柴犬を見るぐらいだ。

 

追記2:野良の黒はちょうど真論君家の猫を書いた後に出没するようになったので大変驚かされた。しかも金目の黒猫。肉球まで黒い。ただし真論君家の猫とは違って体はあまり大きくない。子猫の様にも見えないので、これから先も大きくはならないだろう。