四次元という言葉はたいてい三次元に時間を足した概念のことを言う。でも私は四つ目の次元を意識だと考えてみた。時間を加えれば五次元ってところかな。
私の著者ページには甲殻類が嫌いだと書いてある。大人になってからは剥き身を食べられるようになったが、飽くまで“食べられる”ようになっただけであって、“食べたい”わけではない。明日から世界的に禁漁になっても「あっ、そう」と心に波風が起きない気がする。でも、世間的には甲殻類を食べたい人が多いようでけっこうなお値段がしている。昔は一山500円ぐらいで買えると思っていたのに、桁が違うと知って世の中間違っていると思った。
ちなみに世界で一番高い食べ物はチーズケーキで、ワンホール一万円(子供にとって高い物はたいてい一万円だ。100万円にもなると人が何人か死んで、1億円だと戦争が起こる値段)するものだと思い込んでいた。後にその半分より安いと知り、とても衝撃を受けた。たぶん誕生日に出てくるようなケーキでは一番安い。やっぱり世の中間違っていると思った。
三次元的には誰が見たってカニはカニだが、ここに意識という四次元要素を加えると、私はかつて甲殻類が食べ物ではない宇宙に存在していて、今は食べられないこともない宇宙に移動したようだ。他の人は甲殻類が食べたい宇宙に存在しているらしい。
とはいえ移動といっても私の体がどこかへワープしたわけではない。ましてや世界の方がどこかへ行ったわけでもない。三次元の世界は変わらずそこにある。変わったのは私の意識だ。
いや、でも主観的に私の意識は変わっていない。私は私のままなので変わったのは、やはり世界の方か(四次元的に)。私はある日突然迷い込んできた。かつて暮らしていた宇宙では甲殻類は食べ物ではなかったが、ここでは食べられる物になっている。
超有名人、業界で超活躍している人、超頭の良い人、そういう人たちに対しては“住む世界が違う”という。彼等も同じ大気を吸っているのに何故違う世界なのか。それは文字通り違う意識の世界に住んでいるからなんじゃないかな。実際、同じ日本語を喋っているのに何を言っているかさっぱり理解できない人がいる。“宇宙人”とは違う惑星からきた人という意味で使うが、それぐらい違う。本当に宇宙人だ。
意識的距離が月ぐらいならちょっと変わった人、火星ぐらいなら頭がおかしい人で済むが、冥王星ぐらい離れたら病院送りではないだろうか。
王木亡一朗の『ティアドロップ』は主人公の綾人が精神病棟へ放り込まれるところから話が始まる。精神異常者と看護婦、医師、みんな三次元的には同じ建物に存在しているが、四次元的には別の場所に存在している。
精神異常とは何か。四次元的宇宙におけるひとりひとりの精神は惑星であり、その惑星の異常である。太陽に突っ込もうとしていたり、デカイ星が近付きすぎて潮汐力により崩壊しようとしているのなら軌道を外に逸らし、太陽系から離れていこうとしているのならどうにかして引き寄せなければならない。
三次元的には人間(猫でもいい)がそこら辺を歩いているが、四次元的な宇宙での住人はたったひとりしかいない。こいつらにも意識があるっぽいぞ? と感じることはできるが、それを確かめることは今のところ不可能だ。この世界に存在しているのは常に自分の意識だけ。他人の意識に触れることができたのは『キミコロ』の新城や『サトラレ』の周囲のいた人達ぐらい。つまり想像の世界でしかありえないってこと。
太宰治の人間失格を読んでああだこうだと言ったとしても、三次元的にはただの文字列に過ぎない。でも人はそこに何かしら意味を見出す(中身が空っぽという意味でも)。これが本当の『人間失格』だと侃侃諤諤の議論を戦わせたところで、そこに意味なんてあるんだろうか。何故ならそこに見出した意味は四次元的思考で考えればどれも本当のことであり、たとえ作者が何かしらの意味を込めて書いたとしても、読んだ人が別の意味を見出すことはあってもおかしくはない。言葉を使っている時点で、自分の気持ちをそのままに相手に伝えることは不可能なんだし、そもそも伝わったかどうかを確実に知る術もない。言葉でなんでも説明できるという人は、言葉で説明できない気持ちを知らない人である(まぁ、本気でそう思っている人はいないだろうけど。“言葉で分かるように説明しろ”は、たいてい相手を追い詰める時に使う言葉だ)。大体思い通りに言葉が伝わるなんてのが大きな間違いで、笑わせようと思って言ったことが、大激怒させてしまうことだってある。
三次元的宇宙に存在するカニに本来食える食えないの区別はない。そこに意識の四次元目が加わると食える食えないの区別がつく。もっともカニからすれば“お前達、私を食いものにしてそんなに楽しいか。この人でなしどもめ”と怒っているに違いないだろう。
カニを食べるのはみんなで止めにしよう。新潟県はベニズワイガニ。
三次元的宇宙は私もこれを読んでいる人も共有しているだろう。きっと同じ文字列を読んでいるはずだ。でもこの文字列を読んでどう感じるかはみな別々なのではないかな。三次元的宇宙は重なり合っているが、四次元的には全然別世界なのである。
[2015年7月27日 牛野小雪 記]
言及したもの。
ティアドロップ(ライトスタッフ!)/王木亡一朗 現在発売中 250円(2015/7/26 の価格)
キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄/藤崎ほつま
現在発売中 無料(2015/7/26 の価格)
私達USTはティアドロップを応援しています。
みなさんのご協力に感謝します。
コメント