プリプリものがたり
さくしゃ:T・S・カウフィールド
むかし、むかし へいあんじだい。
あわの こくふ というまちに プリスカという おんなのこ がいました。
かのじょは としごろの うつくしいむすめでしたが おかあさんにきらわれていたので
まいにち トイレや だいどころの そうじを させられていました。
おかあさんはいいます。
「ほら、かおがうつるまで きれいに みがくんだよ」
プリスカは しぶしぶながらも おかあさんの いうとおり トイレや だいどころを
かおがうつるまで ぴかぴかに みがきました。
そんな あるひ かのじょの いえの まえを ぐうぜん きこうしが とおりました。
さだいじんのむすこで スケコマシン という かっこいいだんせいです。
かれは うつくしい プリスカを みたしゅんかんに ひとめぼれ しました。
また プリスカも かれを みて ひとめぼれ しました。
それいらい ふたりは ひとめを しのんで ひみつのデートを しました。
ひにひに なかよくなっていく ふたりですが それを きに いらないひとがいます。おかあさんです。
おかあさんは ふたりの なかを じゃましようと あるけいかくを たてました。
プリスカのすむまちには ケムクジャルという らんぼうものが いました。
かれは かみのけがもじゃもじゃ すねげはぼーぼー えりのすきまから むなげがとびでています。
おかあさんは かれのところへいくと いいました。
「ケムクジャルさん、あんた およめさんが ほしくないかい?」
ケムクジャルは こたえました。
「うん、ほしいことはほしいが、おれのようなけむくじゃらに よめにくる おなごなど おるまい」
おかあさんは いいます。
「それじゃあ、わたしのむすめの ぷりすかは どうだい? あのこは おまえさんのことが すきだそうだよ」
ケムクジャルは いいます。
「ばかを いうんじゃない。ぷりすかの ことは しっているが かのじょが おれを すきなはずがない」
しかし、そんなことであきらめる おかあさんでは ありません。
「いいや、それが ほんとうのことなのさ。あのこは はずかしがりやで きもちを おもてに ださないこ だけど ははおやの わたしには ちゃんと わかっています」
にわかに しんじられないはなしですが、プリスカのははおやが いうことなので ケムクジャルは そのはなしを しんじました。
ケムクジャルは いいます。
「けっきょく おれに どうしろと いうのだ」
ははおやは いいました。
「あのこを よめにして このいえに むりやり つれかえってしまいなさい」
ケムクジャルは さらに いいます。
「なぜ そんなことを しなければ ならない」
ははおやは こたえます。
「あのこは すなおじゃないから きもちを かくしているけれど わたしには すべて おみとおしなのです。あのこだけが おまえをすきなら ほうっておいてもよかったけれど りょうおもいなら くっつけてあげなきゃ かわいそうだよ。あんたは ぷりすかの ことは すきかい?」
ケムクジャルは かおを まっかに しながら うなずきました。
それを みて ははおやは ケムクジャルに いいました。
「あのこは ほんんとうに すなおじゃないから あんたの ことを きらいだって いうけど けっして しんじちゃいけませんよ。あのこの ばあい きらいだってことは すきってこと おなじなんですから。もしあのこが きらいだって いえば このいえに もちかえりなさい。それとは ぎゃくに すきだと いえば あきらめて かえりなさい」
みっかご ケムクジャルが プリスカを ごういんに さらうひが きました。
おかあさんは おとうさんを うまく いいくるめて プリスカを ひとりのこして となりまちへ でかけました。
いえには プリスカ ひとりだけです。
そのひは スケコマシンが プリスカの ために べっこうのかんざしを もってきてくれる やくそくを していたので なんて ぜっこうのひ なんでしょう と プリスカは ないしん よろこびました。
よるに なって あたりが くらくなりました。
すると いえに ひとりの おとこが やってきました。ケムクジャルです。
かれは いえの とびらを あけようと しましたが、プリスカは ちゃんと とじまりを していたので かぎがかかっています。
ケムクジャルは いいました。
「おーい、あけてくれー」
こえを きいた プリスカは げんかんまで いくと いいました。
「どなたでしょうか」
ケムクジャルは こたえます。
「おお、そのこえは プリスカか。おまえの だんなに なる ケムクジャルだよ。おまえを むかえにきたから ここを あけてくれ」
そのこえを きいた プリスカは ケムクジャルの みにくい すがたを おもいだして からだじゅうが ふるえました。
かのじょは こたえます。
「わたしは あなたの およめさんには なりません。だって あなたのことは きらいですもの」
プリスカに きらいと いわれた ケムクジャルは おちこみましたが すぐに おかあさんの いったことばを おもいだしました。
プリスカは すなおではないので きらいということは すきだということとおなじで、ケムクジャルは ゆうきが わいてきました。
ケムクジャルは いいます。
「おれは おまえのほんとうの きもちを しっているぞ。おまえは おれのことが ほんとうは すきなのだ。しかし、すなおになるのが はずかしいので きらいといっているのだ」
プリスカは とびらごしに こたえます。
「なにを いっているのですか。ばからしい。わたしが きらいと いっているのだから ほんとうに きらいなのです」
プリスカが なんども きらいと いうので ケムクジャルは どんどん きが おおきくなってきました。
ケムクジャルは もう まようことなく プリスカを いえに もってかえろうときめました。
ごういんに とびらを あけようとします。
それに きづいた プリスカは あわてて とびらに つっかえぼうを はめたり いりぐちに タンスを たおしたりして ケムクジャルが いえのなかに はいれないように しました。
ケムクジャルは らんぼうもので ちからが つよいのですが さすがに つっかえぼうを はめた とびらは あけられませんでした。
かれは とびらごしに こえを かけます。
「おお、プリスカ。うつくしい プリスカ。おまえを およめさんに できて おれは しあわせものだ。おれは まえから おまえの ことが すきだったのだ。だから ここを あけてくれ」
プリスカは いいます。
「あなた ひとちがいでは ありませんか。わたしは ぜったいに あなたの およめさんには なりません。もし いえのなかに はいってきたら ほうちょうで あなたのからだを さします」
ケムクジャルは かんがえました。けっして あなたの およめさんに ならないという ことは ぜったいに あなたの およめさんになるということだ。
あまりに うれしくなって ケムクジャルは おおいに わらいました。
それとは はんたいに プリスカは おそろしさで からだが ふるえました。
とびらごしに ふたりが いいあらそっているうちに ちょうど スケコマシンが かのじょの いえに やってきました。
プリスカは かべのすきまから かれが きたのを みたので ああ たすかったと あんしんしました。
かのじょは おおごえを だしました。
「あなた わたしがすきなあなた。わたしは あなたのかおを まぢかで みたいのですが いまは このいえを でられません。どうにかしてください」
そのこえを きいた スケコマシンは いったい なにごとかと かのじょのいえのようすを とおくからうかがうと、そこには らんぼうものの ケムクジャルが いるではありませんか。
どうやら かれは ごういんに かのじょの いえに はいろうと しているようです。
じぶんのちからでは どうやっても ケムクジャルには かなわないし はなしあいを するにも かれの しょうめんに たつところを そうぞうしただけで とてもおそろしくて できそうにありません。
それどころか まだかれに なにかされたわけでもないのに スケコマシンは なみだを ぽろぽろ ながしました。
おまけに もってきた べっこうのかんざしまで じめんに おとして しまいます。
それを みた プリスカは なんて ふがいのない だんせいなんでしょうと ぷりぷり おこりました。
プリスカと ケムクジャルは あける あけないの もんどうを なんども くりかえしました。
スケコマシンのすがたは いつのまにか きえていました。べっこうのかんざしだけが ぽつんと じめんに おちていました。
ケムクジャルは ずっと いえのそとに いたので だんだん つかれてきました。
それに いまは なつですが あきのちかいきせつでも あったので よるのかぜは つめたく ケムクジャルの からだも しんから ひえていました。
からだは ふるえるし おなかも ひえて いたくなりました。
ケムクジャルは とびらごしに いいます。
「プリスカ すまないが ここを あけてくれないか。ちょっと トイレを かしてほしい」
プリスカは いいます。
「どうして あなたに トイレを かさなければ ならないの?」
かれは こたえました。
「もう げんかいだ。はやくしないと もれてしまうんだ」
かのじょは いいました。
「それなら あきらめて あなたのいえの トイレで どうぞ。うちのトイレは かせません」
ケムクジャルは とてもくるしそうに こえを ふりしぼります。
「いや とても いえまでは もちそうにない。どうか ここをあけて トイレをかしてくれ。それに かさないということは かしてくれるということ じゃないか」
プリスカは ぴしゃりと こたえます。
「いいえ わたしが かさないといえば かさないという いみです。それいがいの いみは ありません。それに わたしが あなたを きらいといえば きらいなのです」
ケムクジャルは いいます。
「わかった。わかった。おまえが きらいでも なんでも いい。とにかく いまは ここをあけて トイレを かしてくれ。そうしたら きょうは かえるから」
しかし、とびらのむこうは しずかなまま です。
それからケムクジャルは なにも いわなくなりました。
とびらのむこうが しずかになったので ケムクジャルが どうなったのか プリスカには わかりません。それで とびらに みみをつけてみました。
じめんに あしをこすりながら だれかが もがいている おとが します。
まだ とびらのむこうに ケムクジャルが いるのをしって プリスカは いやになりました。
いっそのこと とびらをあけて ほうちょうで さしてやろうかとも かんがえましたが らんぼうものが あいてなので やはり そのかんがえは むねに しまいました。
もがくおとは だんだん ちいさくなっていきました。
もしかすると そとのさむさで かれが しんでしまったのかと プリスカが おもったそのしゅんかんに とびらの むこうから ケムクジャルの こえが きこえてきました。
「あっ、あっ、あっ」
という こえに あわせて
「ぷりっ、ぷりっ、ぷりっ!」
と おとが します。
さいごに ケムクジャルが
「あああああああ~」
と ながく こえを だすと
「ぷりぷりぷりぷり~」
と ながく おとが つづきました。
また とびらのむこうが しずかに なりました。
それから もうしばらくすると あしを ひきずるような おとがして いえを はなれていきます。
プリスカが そっと とびらを ひらくと ズボンを ちゃいろに よごした ケムクジャルが さびしそうに あるきさる ちいさな うしろすがたが みえました。
こうして プリスカは おかあさんの やぼうを うちくだき ケムクジャルの てから うまく のがれたのでした。
めでたし、めでたし
(おしまい)
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