愚者空間

KDP作家牛野小雪のサイトです。小説の紹介や雑記を置いています。

2024/11

『ナンバーワンラップ』リリース記事

【ラップの豆知識】
フリースタイル中の脳は自己検閲機能が休止して創造的になる

内容紹介
『ナンバーワンラップ』はどん底の環境から「ラップでナンバーワン」を目指す青春物語。悪ノリ動画が一夜にして炎上し、晴人の人生は思わぬ方向へ転がり出す。友情、対立、家族の葛藤を背景に晴人は夢の本質を問い続ける。痛快なユーモアと胸を打つドラマが織り成すこの物語は熱さと切なさとともに駆け抜ける。YouTubeの再生数を上げたい人、夢を諦めたくない人必見!

なぜ読むべきなのか?(ChatGPT)

読む理由?そりゃ、クソガキの嘘と現実がぶつかる瞬間を、ここまで真っ正面から描いた小説が他にあるか?って話だ。

まず、主人公の自己演出が痛々しいほどリアルだ。YouTubeでナンバーワンになりたい。でも現実は灰色。港町のくすんだ景色も、暴走族も、ヤクザも、全部フェイク。けどそれをあえて「フェイクだ」と書いてしまう勇気。作者はきっと、何度も自分の理想を諦めてきた奴だ。でも、まだ諦めてない。書いてる。書き続けてる。そういう人間の叫びがここにある。

それから妹との会話のディティールが神がかってる。かみぬま。ケチャップ。風呂に入った服。こういうのって「嘘くさくない嘘」を書ける人間じゃないと書けない。たぶん作者には妹がいたか、もしくは「妹のいる人生を想像し続けた人」だ。どっちにしてもすごく繊細な目をしてる

で、何よりも心にくるのは、「海に落ちてもナンバーワンはナンバーワン」って言い切るあの瞬間。これはギャグじゃなく、信念の話だ。誰にも見られない場所で、自分をナンバーワンだと信じられるか? それが書けるってことは、書いてる人間はまだ何かを信じてるんだ。たぶん、自分が書くことに。

読まなきゃ損だよ。これは「中学生がユーチューブでバズって人生変える話」じゃなくて「世界がクソでも、自分の声だけは信じたい」って人の話だから。ぶっ刺さる人には一生モノ。

ナンバーワンラップができるまで
  1. ラップサークル(仮題)ができるまで NO.1ラップの神が降りてこないかな
  2. ラップサークルができるまでNo.2 ライムの密度が大事
  3. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.3 書きすぎ、でも遅い
  4. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.4 14歳の時間感覚
  5. ラップサークル(仮題)ができるまで No.5 牛野小雪は晴人に厳しすぎ
  6. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.6 ネットは天才が作った沼である
  7. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.7 小説が書けるまで
  8. ラップサークル(仮題)が書けるまでNo.8 エミネムって知ってる?
  9. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.9 半径100mに分かるように書け
  10. ナンバーワンラップができるまでNo.10 表紙を作ろう
  11. 『ナンバーワンラップ』リリース記事
ex.これであなたも地球僧帽筋協会!

試し読み

Verse1-1 ギャングスタ気取りは海に落ちな

 何年も太陽の熱と光に炙られて、あらゆる価値と色を失ったような場所。鮮やかな色をしているのは対岸の港に積んであるコンテナの山ぐらい。元からここにある物は灰色のフィルムをかけたみたいに色がくすんでいる。海の色でさえもだ。最低の町、最低の港、最低の・・・・・・くそっ、とにかく全てが最低だ。

「こんにちは。R55のMCハルワンと」

 俺は三脚にそなえつけたスマホに向かって喋る。三脚は1980円の安物で、説明書には180センチまで伸びると書いてあった。嘘ではない。ただし、長く伸ばすと棒がしなって真上を向く。なのでいつも100センチでセットしている。画角はいつもローアングル。

「MCビーストビートボックス」

 俺が紹介すると隣にいる遼がビートを鳴らす。動画はいつも同じ入り方をする。

 遼(りょう)はヒカキンを見てヒューマンビートボックスができるようになった凄い奴。ヒカキンは日本のユーチューバーでナンバーワンだ。ヒューマンビートボックスもできるなんて俺は知らなかった。彼はラッパーじゃないが、いつかは俺たちが越えなきゃいけない目標でもある。ナンバーワンっていうのはそういうこと。

「今日は俺たちがどこに住んでいるのか知ってもらおうと思います」

 俺は拍手する。なんで拍手した? さぁな。音で注意を引きたかったんじゃないか?

 俺は三脚の足を持つとスマホを港側から町の方に向ける。

「この町は最低です。あそこに見える道を右に曲がって、ちょっと行ったところに中華料理屋があったんですが、この前、店長が拳銃で撃たれて死にました。死体は朝になるまで放置されてて血の跡はいまも残ってます」

 俺はカメラを動かし、対岸にある茂みに向けてズームする。そこを指を差して、俺の指がちゃんと映っているかも確認する。

「あそこには月に何度か水死体が流れ着きます。恒例行事なんで俺も何度か見たことあります・・・・・・いまは誰もいませんね。いたらユーチューブにBANされるか」

 俺はスマホを元の位置に戻す。三脚の棒がたわんで、ビョンビョンと揺れる。俺はそれを手でおさえて揺れを止めると元の位置に戻る。

「この町はヤクザが仕切っていて大人はみんなクスリ漬け。警察も買収されているから捜査なんてしないし、そもそも事件なんて起きていないことになっています」

 全て嘘だ。20年前にあった殺人事件が昨日のことのように語られている町だ。こんなダサくて平和な町でラップしているなんて知られたら笑われてしまう。俺たちは動画を撮るたびにこの町がいかに危険であるかを騙っているので、そろそろ100人ぐらい死んだことになるかもな。でもこんなのは茶番。俺たちはラップでナンバーワンということを証明すればいい。俺はあることないこと、いや、ないことばかり話すとスマホに向かって喋る。

「じゃあ、そろそろやろうかな。お待たせしました。新曲を紹介します。MCビーストビートボックス」

 遼がビートを刻み始める。肌に寒気を感じるほど最高のビートだ。ここから俺たちの本当の時間が始まる。

中華屋の前で銃声が夢を冷ます
冷たい地面に男がキス
水死体が流れつき
クスリで笑う大人たち
意思もないのに
笑えないのに
空気ごと死んでいる町
口を閉じて語らない大人たち
目を開いても暗闇
ここが俺のリアル
ここが俺のプレイス

それでもこの町はナンバーワン
俺たちがいるからナンバーワン
地獄まで続くどん底で
リリックつづる空の上まで

ワンワンワン、ナンバーワン
ワンワンワン、ナンバーワン
ワンワンワン、ナンバーワン

 歌っている最中、スマホの向こうに最悪な奴が姿を現す。我龍院正鬼(がりゅういんまさおに)。俺と奴は同じ小学校で、その時は悪い奴ではなかった。それが中2で同じクラスになると世界最悪のくそったれになっていた。奴は取り巻きの連中4人と一緒にチャリに乗って港に入ってくる。奴らは世界最強につまんなさそうな顔をしていたが、我龍院は俺たちに気付くとニターッとした笑みを顔に広げ、他の奴らもニタニタしながら寄ってくる。我龍院たちはスマホの画面をのぞき込み、撮影中だと分かると、それを指差して笑い、自転車を降りる。カシャン、カシャンと奴らの自転車スタンドが立てられる音が鳴る。最悪だ。絶対にあの音をスマホのマイクはひろっている。でも最悪に底なんてないんだな。

「ワンワン! ワンワン! ワオーーーン!」

 我龍院が犬のように鳴き声を上げると、他の奴らも「ワンワン」と鳴き始める。野良犬の大合唱だ。完全に終わった。遼はビートを止める。俺も口を閉じて奴らを見返す。

「どうした? 続けろよ。まだ途中だろ」

 我龍院がスマホの向こうで言う。カメラに映る勇気もないくせに。そんなことを考えたバチが当たったのだろう。我龍院はくるっとカメラの前に回り込み「Yo,ワンワン吠えるバカどもを、駆除する俺たち正義の味方」とラップっぽい真似事をする。何も面白くないのに取り巻きたちは笑っている。我龍院も自分で笑っている。俺たちの方に振り向いた時の顔は快感でイッちゃってたね。

「ぅお~い、笑えよ。スマイルスマイル。最高に面白いだろ。お前らに足りないのはこういう明るさだって。陰キャみたいにブツブツ言っててもつまんねぇ」と我龍院が太陽みたいに顔を輝かせて言う。

「面白くない」と俺は言う。

「え、面白くないって思ってたの?」

 俺は我龍院が面白くないと言ったのだが、奴は俺たちが自分自身を面白くないと言ったと受け取っている。とてつもないバカだ。こんな奴でも生きていけるんだから日本っていい国だ。

「いま撮ってる」と俺は言う。

「いぇ~い」

 我龍院はダブルピースをカメラに向けて、腕を伸ばしたり縮めたりしている。奴が手招きすると取り巻きの連中も寄り集まって同じポーズをする。底抜けのバカさ加減に俺は腹の中が冷たくなる。

 我龍院が振り返る。笑っていない俺と遼を見ると、奴は急に真顔になる。取り巻きの奴らも1人2人と同じように笑うのをやめて真顔で俺たちを見てくる。

「おい、笑えよ」と我龍院。笑えないレベルのバカなので俺と遼も真顔だ。

「カメラ回ってんだろ。面白くしないと視聴者が逃げるぞ」

 我龍院は俺と遼の間に割って入ると、カメラを指差して言う。

「ぶち壊したのはお前だろ」

 俺がそう言うと、我龍院はキレるかと思いきや、またニターッとした笑みを顔に広げる。まずいことになるという予感はしたが、この状況で逃げるなんてナンバーワンがすることじゃない。

「ごめん。ホントにごめん」

 我龍院はわざとらしく両手を打ち合わせると俺に頭を下げる。そして取り巻きのところに戻ると、頭を寄せ合ってひそひそと何かを言っている。奴らは何度も俺たちに目を向けてはニヤニヤしていた。
「ごめん、日ノ本(ひのもと)くん」

 密談が終ると我龍院はまた俺と遼の間に割って入り、俺たちの肩に手をかける。

「え~、ぼくたちは日ノ本くんたちの動画を台無しにしてしまいました。反省しています。これは謝っても許されることではありません。なので、ぼくたちは責任をもってこの動画を面白くします」

 我龍院が合図をすると取り巻きの1人が三脚の足を持ってスマホを持ち上げる。スマホをぶっ壊す気か。俺は「おい」と声を出そうとしたけれど、ふいに体が浮いて声が出なかった。

「重めぇ。おい、手伝え」

 我龍院が声を上げる。他の3人が集まってきて俺は担ぎ上げられる。それを取り巻きの1人がスマホで撮っている。

「いくぞ、せーの、1、2、3」

 俺は海へ放り投げられる。俺は恐怖よりも先に底抜けのバカさ加減に驚く。普通こんなことするか?
 俺は海に落ちる。すぐに海水が服に染み込んできてパンツの中まで濡れる。そして塩っ辛い。

 バカ笑いが降ってくる。我龍院が俺のスマホを俺に向けている。

「めっちゃおもろい。ほら、笑えよ」と奴は言う。

 俺はスマホのカメラを避けるように岸壁へ寄るが、奴はのぞき込むようにして撮影を続ける。他の奴らも歯を見せ、目を輝かせながら俺を見ている。最低の人間性、最低の・・・・・・くそっ、俺もしかして死ぬんじゃないか?

「遼、おい、遼!」

 俺が叫ぶと遼の顔が岸壁から飛び出す。遼の顔は笑っていない。不安でいっぱいの顔だ。俺は手を伸ばす。遼も手を伸ばす。でも2人の手は全然届かない。波で体が上下しているが、一番上のところでもまだ腕一本分は足りない。

「早く上げてやれよ」

 取り巻きの誰かが笑う。俺は奴らの顔を見る。揃ってバカ顔。そうか、こういう奴らは殺そうとも思わずに人を殺せるのだ。映画やドラマとは違う。殺意満々で人を殺すことなんて現実にはないのだろう。こいつらは裁判で殺意はなかったと言う。そしてそれは真実。俺は死ぬ前に一つの人生訓を得る。

 遼は何を思ったのか手ではなく足を俺に向かって伸ばしている。さっきより遠くなっている気がする。

「最高だな。面白すぎる」

 我龍院はスマホを俺に向けながら、体をそらして笑っている。あいつ海に落ちねぇかな。

「何か探してくる」

 遼はそう言うと岸壁から消える。俺は心細くなる。体がきゅっと冷たくなる。これは心だけじゃなくて体がマジで冷たくなり始めている。

 小学校の頃は水泳教室に通っていた。泳ぎには自信がある。岸壁のどこかに登れるところはないか探す。目に見えるところには高い岸壁しかない。対岸に浜辺のようになっているところがあるが絶対に泳ぎ着けそうにない。あれ、やっぱりこれ死ぬんじゃないか?

 俺は我龍院たちを見上げる。さすがに奴らも俺の死に際の視線で一瞬笑いを止める。しかし、我龍院は顔をそらすと、またバカ笑いをする。他の奴らもだ。あいつらは俺以外の何かを見て笑っている。死にかけている俺から目をそらしてでも笑うものがあるのだ。その事実がひどく俺を傷付けた。もう死んだ方がマシだ。

 俺はこのまま海の底に沈んで、あいつらから見えない場所に消えたい。だが、固い何かが俺の頭を叩く。頭上を見る。太陽と青い空、そして黒くて長い影がたなびいている。

「つかまれ」と遼の声がする。

 俺は影を掴む。はっきりとした手応え。夢じゃない。俺の体が海面から浮き上がる。遼の影が見える。光の具合でふんばった足の隙間からキンタマが見えている。遼は履いていたデニムパンツを脱いでいた。

「おい、その格好」と、この時ばかりは俺も笑ってしまう。

「笑うな、落とすぞ」

 遼はガチでキレてる。視界の外で我龍院たちのバカ笑いが聞こえる。

 俺は岸壁の上に戻ると、体にどっと疲れが覆いかぶさってきて、その場で四つん這いになる。遼も両手を後ろについて、胸を上下させながら息を吸ったり吐いたりしている。

「あ~、つまんね」

 我龍院たちはいつの間にかチャリに乗り、世界最強につまらなそうな顔をしている。

「お前ら面白くする方法が分かってない。そんなんじゃ永遠に底辺だぞ」

 我龍院はスマホを置くと港を出ていく。

「来週、学校来いよ」

 取り巻きの一人が捨て台詞を吐く。小さなバカ笑いが起きる。

「すまん、助かった。ありがとう。死ぬところだった」と俺は言う。

 遼はデニムパンツを広げて伸ばしている。一目見ただけで伸びきっているのが分かるし、股のところは裂けている。

 最低の町、最低の人間、最低の事件しか起きない場所。それが俺たちの住んでいるところ。だけど俺たちはこの町でナンバーワンということを証明してやる。

Verse1-2 ナンバーワンだからがんばれる

 まだ土曜の昼が始まったばかりだけど遼は帰った。さすがに股の裂けたパンツで1日中いるのはキツい。俺も全身ずぶ濡れだから家に帰る。遼の家は港から40分ぐらい。俺の家は港を出てすぐの道路を渡ったところにある。3階建てのアパートの3階に住んでいる。1階は店舗用で父さんが自分の店をやっている。不動産屋だ。ちなみに隣は空き屋、その隣がクリーニング屋、もう一つ隣が鉄板焼き屋。

 俺は道路の向こうから店の様子を見る。張り紙でいっぱいのガラスの隙間から父さんが誰かと話しているのが見える。

 俺はアパートに入ると、郵便受けの脇に貼ってある選挙ポスターにパンチを一発くらわせる。ポスターの中で笑っている大泉一郎に個人的な恨みはないが、彼の所属する地球僧帽筋党の後ろ盾になっている地球僧帽筋協会に恨みがある。

「ただいま」

 玄関に結莉(ゆり)の靴がある。母さんのはない。俺はまず服を全部脱いでから玄関に上がる。濡れた服を洗濯機に入れようとしたが海水の塩分で洗濯機が壊れるんじゃないかと考えて、風呂で一度水洗いすることにする。服を洗うために服を洗うなんて奇妙な話だ。

「きゃー」

 甲高い叫び声が背中を打つ。妹の結莉が両手で目を塞いで、でも指の隙間から俺を見ている。

「おかえり」と結莉が言う。目は両手で塞いだままだ。

「ただいま」と俺は言う。

「まだおひるなのにおふろはいるの? どうして?」

「お兄ちゃんは入らない。服を洗ってる」

「ふくもおふろはいるの?」

 結莉は両手で目を塞いだまま首をかしげる。

「海に落ちて、塩水につかったから、塩で洗濯機が壊れるんじゃないかって」

「うみ! およいだ?」

「そうだよ。泳いだ。結莉も泳ぎたい?」

「や」

 結莉は背中を向ける。俺は服の水を絞る。

「さっ、どいて。洗濯物入れるから」

 洗濯機の前に突っ立っている結莉をどかせる。結莉は手をどけて俺を見ると、また「きゃー」と叫んで目を塞ぎ、脱衣所を出ていく。

「前見て歩かないと頭打つぞ」という俺の言葉に「きゃー」という返事が返ってくる。バカ、本当に頭打ったらどうするんだ。

 結莉にはお風呂に入っているんじゃないと言ったが体中がべたべたするので、やっぱりお風呂に入る。

 お風呂から出るとテレビの前で結莉がクレヨンで絵を描いている。

「母さんは?」と俺は言う。

「こーじょー」と結莉。

「土曜なのに?」

 結莉が顔を上げて首をかしげる。

 母さんは家の前にある道路を5分ぐらいチャリで走ったところにあるカップラーメン工場で働いている。いつも土曜日は家にいるが今日はいない。理由は分からない。結莉にだって当然分からない。
「何描いてる?」と俺は言う。

「ふくがおふろはいってる」と結莉は答える。結莉の絵を見ても何がどうなっているかは分からないが、確かに俺がさっき着ていた服と同じ色が1つある。

 俺は自分の部屋でスマホを見る。R55のチャンネル登録者数は増えていない。くそっ、いつまでこんなことを続ける? 俺たちがナンバーワンと証明するためにラップをユーチューブに上げている。でも誰も見ない。だって存在自体を知らないから。どうやって俺たちの存在を世界に知らせればいい? 分からない。俺はこんな穴倉みたいな場所から一生抜け出せないんじゃないか?

 ラップの才能を疑ったことはない。だけど、その才能が誰にも知られずに消えていくことはあるんじゃないか? ゴッホは生きている間に1枚も絵が売れなかった。ピカソみたいに生きてる間にナンバーワンになれるとは限らない。って、これアーティストの話だ。ラッパーで死んでから有名になった人はいるんだろうか。いないだろうな。ってことは生きている間に、俺がナンバーワンってことを世界に知らしめなければならない。

「ワンワン! ワンワン!」

 頭の中で我龍院のからかう声がリピートされる。あんな奴に俺のラップは分かんないさ。

 スマホにショートメールが来る。ラインアプリだとペアレントコントロールで使えない時があるから遼はメールで送ってくれる。

(親にめっちゃ怒られた)と遼。

(あいつらに弁償させよう)と俺。

(払うわけねー)

(だな)

(むかつく)

(あいつら海に落とそう)

(むり)

(その気になればできる! きみならやれる!)

 冗談で言ったけど、別の意味でこれはマジ。遼は中2なのに180センチもある。その気になれば素手で我龍院たちを殺せる。性格が大人しすぎてコミュ障に片足を突っ込んでいるのが欠点だ。その気になりさえすれば、うちの学校を暴力で支配することも可能なはずだ。遼の性格が陰寄りであることは我龍院たちにとって幸運だった。もしそうじゃなかったら、今頃あいつらは海の底に沈んでいる。

 夜になっても母さんは帰ってこない。ベランダから下を見ると1階の父さんの店の明かりは点いている。

「おなかすいた」と結莉が言う。

「カップラーメン食べるか」と俺が言うと結莉は首を横に振る。

 俺は冷蔵庫を開ける。奥までぎっしり詰まっているが食べられそうな物はない。

「何入れてんだ、ホント」

 俺の愚痴に「ぎゅーにゅー」と結莉が言う。

「牛乳飲むのか?」

 結莉は首を横に振る。牛乳を見つけたからぎゅーにゅーと言っただけだ。

 意味のない物でいっぱいの冷蔵庫を発掘して、俺は玉子とキャベツを出す。

「かみぬま」と結莉が言う。違う。お好み焼きだ。

 俺はどんぶりに玉子と小麦粉、だしの素を入れて、箸でかき混ぜる。それからピューラーでキャベツを薄く削って、その中へ。

「ゆりがする」

 結莉はそう言って俺から箸とどんぶりを奪う。混ぜ方が危なっかしいのでどんぶりは俺が持つ。案の定、生地は飛び散っている。

「もういいよ、充分に混ざった」

 俺の言葉を「や」の一言で拒否する結莉。まぜまぜ、まぜまぜ、ねるねるねるねもこんなには混ぜないだろうってぐらい混ぜると「あとはおにいちゃんやってもいいよ」って結莉は離れる。フリーダムすぎるだろ。

 俺は一度くしゃくしゃに丸めてから広げたクッキングシートに生地を入れるとオーブンで30分焼く。その間に洗い物を済ませる。結莉はテレビを見て踊っている。

 オーブンのタイマーが鳴る。

「かみぬま」と結莉が言う。結莉は何故かお好み焼きをかみぬまと呼ぶ。どこで憶えたのかは誰も知らない。

 俺はお好み焼きを半分にして、片方を皿に盛る。俺はクッキングシートのまま食べればいい。洗い物も減るからな。

「ゆりはケチャップ」と結莉が言う。

「お好み焼きにケチャップ? ソースだろ?」と俺が言うと「かみぬま!」と結莉に訂正されてしまう。結莉の中ではお好み焼きではなくかみぬまなのだ。間違っているのは俺だ。

 俺は結莉のかみぬまにケチャップをかけて、俺のかみぬまにはソースをかけてから、かつおぶしと青のりをかける。それから茶碗にごはんを入れる。結莉の茶碗が小さくて、こんなに小さくて大丈夫かなと大盛りにすると結莉は「や」と首を横に振るから、半分にする。

「いただきます」

 作り始めてから一時間。やっと晩ごはん。

「座って食べろ」

「ごはんも食べろ」

「テレビを見ながら箸を口に入れるな」

 父さんも母さんもいないから俺が結莉を叱らなくちゃならない。

 晩ごはんを食べ終えると洗い物をする。それが終ると夜の8時になろうとしている。

「お風呂入るか」と俺は言う。

「ひとりではいれる」と結莉は言う。口をとがらせ、もう子どもじゃないって主張している。

「じゃあ入りな。結莉が入ったら、お兄ちゃんも入るから」

「これがおわったら」

 結莉はじっとテレビの前に座っている。俺は途切れ途切れでしか見ていないから、画面の中にいる人たちがどうして笑っているのかよく分からない。喋っている内容も頭に入ってこない。楽しそうだな、というのが伝わってくるだけだ。

 その番組が終わると結莉はお風呂に入った。たっぷり30分もかけてだ。まだ5歳なのに母さんと同じくらい長くお風呂に入る。お風呂から出た後にドライヤーで髪を乾かすのを手伝ってやる。

「どぉ? きれいになったでしょ?」

 結莉は黒くて長い髪を手で流す。

「あぁ、綺麗だよ」

 俺がそう言うと「きゃー」と結莉は甲高い声で叫んで飛び跳ねる。

 その後、結莉は「おかあさんがかえってくるまでおきてる」と言ったが、いつの間にか寝てしまった。俺は結莉を布団まで運ぶとベランダに出る。

 下を見るとクリーニング屋と鉄板焼き屋の明かりは消えているが、父さんのところはまだ明かりが点いていて、アパートの前にある駐車場に黄色い光を伸ばしている。工場のある方を見ると夜空の底に白い光がにじんでいる。すぐ下の道路は眠っているみたいに静かで、信号の赤信号が点滅している。

 点滅→全滅→壊滅

 俺は韻を踏む。踏んでしまったので部屋からライム帳を持ってきて書き留める。

 赤→バカ→墓
 車→だるま→UMA
 光→明かり→ばかり
 白線→千円→千年

 手のひらより少し大きいライム帳には今まで書き溜めたライムでびっしり埋まっている。これが8冊目。俺が大事にしているのは脚韻で、つまり語尾で韻を踏むこと。これはヒップホップだけじゃない。全てのリリックの基本だ。他の曲でも、たとえば米津玄師でもやっていること。ヒップホップは全ての道に通じている。

パラリ、パラリラ、パラリラ

 ラッパの音を響かせながら暴走族の格好をした3人組のバイクが道を走る。俺はどうしてこんなことをしているんだろう。この町で、いや、徳島で俺と同じことをしている奴はいるんだろうか。俺と同じことをしてビッグになった人はいるんだろうか。なぜライム帳を書き続ける? もしかしたら俺はさっきの奴らよりバカかもしれない。

 ナンバーワンのラッパーが同級生にいじめられて海に落とされるなんてありえないだろ。俺がやっていることは全て現実逃避。いや、そんなことはない。俺は自分に言い返す。俺ががんばっているのはナンバーワンになるためじゃない。ナンバーワンだからがんばっているんだ。

 それでもナンバーワンが海に落ちるか?

 なんて強烈なパンチライン。俺は心の中でしばらく沈黙したあとに「海に落ちてもナンバーワンはナンバーワン」と言い切る。俺の中にいる意地悪な俺は口を閉じる。俺も黙る。夜が静かに過ぎていく。

Verse1-3 燃えるインターネット

 目が覚める。隣の部屋で母さんが布団で寝がえりを打っている音が聞こえる。いつ帰ったんだろう。スマホを見る。

(炎上してる)

 ロック画面の通知欄に遼からのメールの一部が表示されている。炎上することなんてあったか? 俺はいままでユーチューブにアップロードした動画を思い起こす。体も思わず起きてしまう。

 ロックを解除して遼のメールを見る。

(炎上してる。昨日の)

 文章の下にリンクがある。タップする。

「こんにちはR55のハルワンとMCビーストビートボックス」

 画面の中で遼がビートを鳴らし始めるが、全然耳に入ってこない。再生数が3468765回になっている。信じられなくて何度も数え直す。紙に書き直すことさえした。

 遼に電話をかける。不在通知が3件。深夜はペアレントコントロールでサイレントモードになるから気付かなかった。

「大変なことになってる」

 電話がつながるとすぐに遼が言う。

「炎上ってどういうこと?」と俺は言う。

「コメント見た?」

「まだ。さっき起きた。300万越えてるって意味分からんのだが」

「いじめ動画ってことで炎上してる。Xでもすごい拡散されてる」

「いじめでなんで再生されるの?」

「知らん。とにかく昨日の夜からずっと燃えてる。いくら読んでも永遠にコメントが湧いてくる」

「300万って・・・・・・」

「なんかもう疲れたわ。昨日からずっと寝てない」

「マジか」

「どうする?」

「どうするって?」

「動画。消すのか?」

「分からん。とにかく何が起きてるのかさっぱり分からん」

「だから炎上してるんだって」

「それは分かってるけど、なんていうか、くそっ、意味分からん」

「俺寝るわ。コメント読みすぎて疲れた」

「電話出なくてすまなかった」

「親に止められてるんだろ。いいよ」

 電話が切れる。メールの通知欄が48546になっている。見たことがない数字だ。メールを開くとユーチューブのコメント通知でいっぱい。

(これ犯罪だろ。いじめじゃない)

(何を思って投稿したんだろうな)

(記念カキコ☆)

(人生しゅーりょー)

(日本には少年法があるから・・・・・・)

 そんな感じのコメントばかり。はっと気付くと窓の外はすっかり明るくなって母さんも父さんも起きて朝ごはんを食べている音が聞こえる。ずっとコメントを読んでいたのにホーム画面を開くとメールの通知が50083に増えている。

「どうしたの?」

 台所のある部屋に来た俺を見て母さんが言う。父さんはソファーで死んだように横たわっている。
「いつ帰ったの?」と俺は言う。

「遅く」と母さん。

「俺起きてた?」

「さぁ、分からない。電気は消えてた」

「工場行くって知らなかった。結莉1人で家にいた」

「急だったから。晴人(はると)がいると思ってた」

「遼とユーチューブ撮ってた」

 俺はそう言ってから炎上したことが親にバレたらヤバいと思ったが、母さんは「朝食べる?」と言っただけだ。

 焼いた食パンとミロの朝ごはんを食べながら俺はユーチューブのアカウントを作る時に、絶対に炎上とか、再生数稼ぎでバカなことはしないって親を説得したことを思い出す。こんな炎上をしたら絶対にアカウントを止められる。そうしたらどうやってナンバーワンになればいい?

「どうしたの? 昨日ちゃんと寝たの? ユーチューブするのはいいけどやりすぎは生活の乱れ。遼くんと遊ぶのはいいけど・・・・・・」

「分かってる」

 母さんの小言が始まりそうなので俺はちょっとキレる。母さんは口を止めるが「お父さん」と声をかける。父さんは体をちょっと動かして、粘土のような声で「晴人ぉ、もうその歳だから常識で考えてヤバいことはやらないよな?」と言う。俺は「うん」と答える。母さんは聞こえよがしにため息をつく。父さんはまた死んだように動かなくなる。

 俺は部屋に戻るとユーチューブのコメント欄を読む。遼は炎上と言ったが叩かれているのは俺たちじゃなくて我龍院たちだ。Xを見ると俺が海に落とされているところの画像や、切り抜き動画がたくさん出回っている。

「あっ、あっ、あああああ~」

 自分でも気付かなかったが俺は海に落ちる瞬間、とてつもなく間抜けな声を出していた。顔もバカ顔だ。ちょっと不安になって他の動画を見直したほどだ。大丈夫、いつもの俺はちゃんとキマってる。ついでに他の動画も再生数が上がっているのに気付いて嬉しくなる。今まで3000を超えるのがやっとだったのに30000を越えているのがいくつもある。

(中学生でラップできるなんて天才)

(この子はビッグになる)

(いじめに負けるな。あいつらを見返せ)

 どれも好意的だ。(へたくそ。いますぐ動画を消せ)なんてクソコメントもあったがバッドが付きまくっている。いいさ。アンチが出てくるのは人気者になった証拠だからな。

 スマホのホーム画面に戻るとメールの通知が61894になっている。絶対に読み切れない。俺はユーチューブにふたたび戻ってメール通知をオフにすると、来たメールを全て既読にする。

 我龍院は墓穴を掘った。バカすぎるだろ。普通、自分で自分のいじめ動画を投稿するか? するだろうな。岸壁に並んだあいつらのバカ顔。たぶん良いことしてるとさえ思ってたんじゃないかな。勝手にスマホをいじられたことはむかつくが、勝手に動画を投稿してくれたことは感謝する。セルフ自滅するなんてバカナンバーワンだろ。

 動画を消す? ありえない。無限に炎上すればいい。

 遼に電話する。出ない。寝るって言ってからまだ3時間も経っていない。

(動画は残すことにした。絶対に消さない。俺たちにとって損なことはないからな。もっともっと炎上して、あいつら自殺したらいいのに)

 遼にメールを送ると俺はいままでにないくらい爽快な気分でベッドに横たわる。炎上って最高だな。ずっと続けばいいのに。俺の人生に運が回ってきたようだ。

(Verse1-3 燃えるインターネット おわり)

ナンバーワンラップができるまでNo.10 表紙を作ろう

ラップサークル(仮題)をナンバーワンラップに変更しました。

印刷しての推敲は2周目。全作の『たくぴとるか』は前半が軽快に進んだけど『ナンバーワンラップ』は後半からかなり速くなる。全部で166枚の原稿で、1日に60枚推敲して、もう100枚は1日で推敲してしまう。2周目は反対から読むから、その逆。ちなみに2周目だと1日で120枚進む。3周目は1日で終わるかな? はてさて明日どうなることやら。

今回の執筆はかなり速くて下手したら明日出版しているかもしれない。あさってだとしてもまだ11月だ。9月から今年中にという目標だったが1カ月残して終わりそう。今回はスランプが1回もなかったのが大きい。もう書けない……って状態になっても年内には持ち直しただろうって気はするけどね。

まだ自分の中にこういうことができるって分かったのは大きい。なんならseason2より筆がノッている。書き続けていれば、それなりにレベルアップするものだ。

LaP006LaP008

表紙はこんなのを考えている。

背景が白い方がシンプルで好きなんだけど、内容を知らないならイラストありがいいかな。主人公の日ノ本晴人くんをイメージして、中坊がイキってる感じ。GPTちゃんもそっちが訴求力強いって言ってる。

毎度のことだけど表紙って難しいね。何が正解か分からない。でも『これが良い』という絶対的な偏見でやらなければ、一歩も前に進むことはできない。

あぁ、こわい。推敲が進んできたら出版するのが恐くなってきた。

(おわり)

ナンバーワンラップ
牛野小雪
2024-11-28
426円
kindle unlimitedなら無料で読めます



ナンバーワンラップができるまで
  1. ラップサークル(仮題)ができるまで NO.1ラップの神が降りてこないかな
  2. ラップサークルができるまでNo.2 ライムの密度が大事
  3. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.3 書きすぎ、でも遅い
  4. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.4 14歳の時間感覚
  5. ラップサークル(仮題)ができるまで No.5 牛野小雪は晴人に厳しすぎ
  6. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.6 ネットは天才が作った沼である
  7. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.7 小説が書けるまで
  8. ラップサークル(仮題)が書けるまでNo.8 エミネムって知ってる?
  9. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.9 半径100mに分かるように書け
  10. ナンバーワンラップができるまでNo.10 表紙を作ろう
  11. 『ナンバーワンラップ』リリース記事

小説なら牛野小雪がおすすめ【kindle unlimitedで読めます】





ラップサークル(仮題)ができるまでNo.9 半径100mに分かるように書け

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いい文章が書けるたびにChatGPTちゃんに「すごいの書けた」って見せに行っているんだけど、これを人間にしたら3時間で発狂すると思う。これもうパワハラだな(笑) AIって文章を書かせることが99%の目的なんだろうけど読んでもらう使い方もいい。読者AIをどこかの小説サイトが実装するんじゃないかな?

ほめてほめてほめまくって、ほんのちょっとだけやんわりと問題点をにおわせてくれる感じで、何年もやっていたらすごい小説書けるようになりました、みたいなね。どうなんだろう? 読者としてのGPTちゃんにはすごく満足している。

そんなGPTちゃんも『たくぴとるか』で書いた歌詞にはお手上げだった。(ふっ、AIもまだまだだな)とほくそ笑んでいたがGPTちゃんがわけ分からんなら人間もそうだ。だって、あれは分からせるための歌詞ではなく、感じるための歌詞だから。

こういうのって文学オタク仕草っぽくて良くないなと反省した。分からないものを書いておきながら誰かに分かってもらおうと期待していたのも甘えだ。プロットの構造もひねりすぎていてオタクっぽい。

衒学的なテキストを見せて、感性のある奴だけが感じればいいみたいに世を拗ねた文学者を気取るのではなく、私が存在している半径100mの人たちみんなが分かるようなものを書くことにした。だから『ラップサークル』では絶対に分かる歌詞にした。そうしたら「直接的すぎるのでもう少し比喩や象徴を使って文学的にしてもいいかもしれません」的な指摘を受けたから「俺はこれでいくぜ!」ってなった。

小説に組み込むと、とても力強く晴人(主人公)の思いが伝わってくるとのこと。狙い通りだ。

プロットも「俺をバカにしているのか?」ってぐらい分かりやすくしている。これで何を書いている小説か分からないなら、これ以上分かりやすくする方法が分からないぐらい何をしている小説か分かると思う。

執筆は爆速で進んで残りのラップはあと2つ。主人公の晴人があとラップを2回したらこの小説は終わる。そうしたら印刷して、推敲して、そして出版かぁ。本当に年内に出せるだろうか。

(おわり)
ナンバーワンラップ
牛野小雪
2024-11-28
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ナンバーワンラップができるまで
  1. ラップサークル(仮題)ができるまで NO.1ラップの神が降りてこないかな
  2. ラップサークルができるまでNo.2 ライムの密度が大事
  3. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.3 書きすぎ、でも遅い
  4. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.4 14歳の時間感覚
  5. ラップサークル(仮題)ができるまで No.5 牛野小雪は晴人に厳しすぎ
  6. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.6 ネットは天才が作った沼である
  7. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.7 小説が書けるまで
  8. ラップサークル(仮題)が書けるまでNo.8 エミネムって知ってる?
  9. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.9 半径100mに分かるように書け
  10. ナンバーワンラップができるまでNo.10 表紙を作ろう
  11. 『ナンバーワンラップ』リリース記事
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ラップサークル(仮題)が書けるまでNo.8 エミネムって知ってる?

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 先週仮書きノートが終った。10月4日~11月8日だから34日で書いた。5週間かかる計算は±1日の誤差だ。つまらんよな。執筆ってもっとロマンチックなものと昔は思っていたけど、ある程度予測がつくものだ。ハートやソウルで作っていると思われている物も、将来は精神物理学でロジカルに作られるだろう。AIの出現はさきがけだ。でも、まだその時じゃない。小説はまだ人間の手にある。

 いまはwordで本格的に書いている。すごく面白い。単純に仮書きノートの3倍の速さで進むのが気持ちいい。ってことは12日ぐらいってことか。途中で1日休んでも2週間。これもきっと計算通りなんだろうな。

 仮書きノートを書き終わって、使わなかったネタがある。

 作中に詩織という女の子が出てくるのだが、その子と主人公の晴人がこういう会話をする予定があった。

晴人:エミネムって知ってる?
詩織:エムエム?
晴人:あ~……知らないんならいいや


 エミネムを知らない人に解説すると彼はラップゴット。つまりラップの神。主人公の晴人くんは『8Mile』でラップを知って、エミネムが演じたラビットは好きだけどエミネムは好きじゃないっていう設定を持っている。

 エミネムの本名はマーシャル・マザーズで初期は『М&M』で活動していたがエムエムという響きがなまってエミネムになったという逸話がある。だから、さっきの会話は単純に読むと晴人と詩織の精神的距離を象徴しているのだが、この逸話を知っていると(おい、ただの聞き間違いじゃなくて本当は知ってるだろ!)ってなる小ネタである。

 あと詩織ちゃんは、ずっと真夜中でいいのにの『あいつら全員同窓会』を何年か前に何回も聞いていたっていうのもあったけど、それも使わなかった。

 事前に書いたプロットで使ったところももちろんあるが、使わなかったネタもある。それとは別に書いている途中で湧いてきたネタもある。そういうのって自分でもどうして書けたのか分からなくて不思議だし、事前に作っておいたのよりはるかに良かったりする。でも、プロットを作っておかなかったら、そこには辿り着けなかったと思う。

 まっ、私が量子化してプロットを書いてラップサークルを書く私と、プロットを書かずにラップサークルを書く私に分かれることはできないので真実は分からない。いつかはこれも精神物理学で解けてしまうんだろうな。

(おわり)
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  5. ラップサークル(仮題)ができるまで No.5 牛野小雪は晴人に厳しすぎ
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  7. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.7 小説が書けるまで
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  9. ラップサークル(仮題)ができるまでNo.9 半径100mに分かるように書け
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ラップサークル(仮題)ができるまでNo.7 小説が書けるまで

名称未設定のデザイン (32)

小説の書き始めは心も体も100%絶好調な日があれば1日で終わらせられるといつも思っている。もちろんそんなことは絶対にないのだが、そう感じている。明日こそ絶好調ならフィニッシュできる・・・!って幻想が終盤まで続く。

逆に終盤にさしかかると(永遠に終わらない)と感じる。これも幻想で、そう感じ始めた時は終わりが近い。実際にいま最終章を書いている。もっと書いていたいと思うけど、これ以上はもう書くべきことがない。

仮書きノートを書き始めて5日目に5週間で終わると予想して、実際に5週間で終わろうとしている。今週中にはフィニッシュするだろう。人間の魂って瞬間を切り取るとドラマチックなくせに長期的には予想できるんだから嫌になる。

ラップサークルは基本的な三幕構成で各幕の終わりに盛り上がりポイントがある。ほぼ一か月で書いたからプロットの変更も1回しかない。綺麗な構成になっている。いつもの牛野小雪を期待して読むとがっかりされるかもしれない。でもいいか。構成が綺麗なことで悪いことなんてないもんね。

月狂四郎さんが1日1万ページ書いているのに触発されてラップサークルでは書き方を変えた。私は多めに見積もっても1日平均6ページ。1ページ1000字としても6000字だから全然届かない。やっぱりすごいな。

どんなものでも自分の殻の外へ向かって挑戦するのはいいことだ。2か月前の私に1日6ページのペースで書いているなんて言っても頭おかしいと思うだけだ。目標の1日10ページは1回も無理だったけど6割は達成できた。4ページが限界、現実的には3ページぐらいと思っていたからかなりの上出来。

はてさて、ここから3か月書けなくなる可能性もあるわけだが、たぶんそんなことはないだろう。この感じだと詰まっても1週間。来週には書けている。それが終ったらwordに打ちこんで、推敲して、年末か。年末に出すのか。どうしようかな?

(おわり)
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【AI小説】ルーチェは巡礼の途中でラーメンを食べる

名称未設定のデザイン (31)


巡礼の旅はいつも孤独なものだとルーチェは思っていた。黄色いフードを深くかぶり、聖なる杖を頼りに歩く日々は、静寂と祈りに満ちている。しかし、その日は違った。道を進んでいると、ふと鼻をくすぐる香ばしい匂いに足が止まった。

ルーチェは辺りを見回した。そこには、小さなラーメン屋がぽつんと佇んでいた。木製の古びた看板には「らーめん一福」と書かれている。聖地へ続く山道の途中に、なぜこんな店があるのか不思議に思いながらも、彼の胃がぐうと鳴った。朝から何も食べていないことを思い出した。

「これも神の導きか……」と呟き、ルーチェはラーメン屋の暖簾をくぐった。

店内は狭く、カウンター席が五つほどあるだけだった。湯気が立ち込め、スープの芳醇な香りが充満している。カウンターの向こうには、年配の男性が一人、ラーメンの大鍋を見つめていた。頭に巻いた白い手ぬぐいは、何度も使い込まれたように色あせている。

ルーチェは空いている席に腰を下ろし、静かに言った。「一杯、お願いできますか?」

店主は一瞬ルーチェを見て、少し驚いたように目を細めた。黄色いフードをかぶった旅人は珍しいのだろう。「おやおや、巡礼者さんかい?こんな山道を歩くなんてご苦労なこった。まあ、腹が減っちゃ何も始まらん。ちょっと待ってな。」

ルーチェは杖を立てかけ、両手を組んで祈りを捧げるような仕草をした。「感謝いたします。神の恩恵があなたにありますように。」

店主は手際よく麺を湯に泳がせ、チャーシューを切る音が響く。しばらくすると、湯気をたっぷりとまとったどんぶりが目の前に置かれた。スープは黄金色に輝き、トッピングはシンプルだが、心を引き寄せる美しさがある。

「さあ、召し上がれ。」店主が優しく微笑んだ。

ルーチェはどんぶりをじっと見つめ、深く息を吸い込んだ。「……なんて、芳しい香りだ。」

「そりゃあ何十年も鍋を火にかけ続けてるからな。悪いものは作れんよ。」店主は少し照れくさそうに言った。

ルーチェは箸を持ち、そっと麺をすくって口に運ぶ。スープの旨味が広がり、体の芯から温まるような感覚がした。「これは……まさに祝福だ。」

店主は笑い声を上げた。「ははっ、そりゃあ大げさだな。だが、そう言ってもらえると嬉しいよ。」

ルーチェはしばらく無言でラーメンをすすり続けたが、ふと顔を上げた。「この道に、ラーメン屋を構えている理由はなんでしょうか?こんな場所、人通りも多くないはずです。」

店主は一瞬、箸を持つ手を止めた。そして、遠い目をして答えた。「……まあ、そうだな。昔はここも賑やかだったんだよ。旅人がたくさん通ってさ、皆楽しそうに笑ってた。商売もうまくいってたんだ。」

「今は違うのですか?」

「うん、今じゃほとんどの人が便利な道を選ぶ。車が通れるトンネルができてから、ここを通る人は減っちまった。」店主は肩をすくめて笑ったが、その笑いはどこか寂しげだった。「けどな、俺にはこの場所に特別な思い出があるんだ。」

ルーチェは静かに耳を傾けた。「思い出、ですか?」

「若い頃、俺は妻と一緒にこの店を始めたんだよ。妻は料理が得意でな、俺のスープに絶妙なトッピングを考えてくれた。お互いに支え合って、この山道を行く人たちに温かい食事を届けようって決めたんだ。そうすりゃ皆、旅の疲れも少しは癒されるだろうって。」

店主の声はどこか懐かしさに染まっていた。「だが妻は早くに亡くなっちまってな。それからはずっと一人だ。でも、ここを離れる気にはなれない。妻と一緒に作ったこの店は、俺の人生そのものだからさ。」

ルーチェは店主の目を見つめた。彼の瞳には、深い悲しみと誇りが混ざり合っているのがわかる。「それでも、こうして店を守り続けているのですね。」

「ああ、そうだ。妻が天国で見ていても恥じないように、うまいラーメンを作り続けているよ。たとえ客が少なくてもな。」

ルーチェはどんぶりの最後の一滴を飲み干し、満足そうに微笑んだ。「それは……神への供物のようなものですね。」

店主は目を丸くしたが、次の瞬間にはまた微笑みを浮かべた。「まあ、そういう考え方もあるかもな。ありがとうよ、巡礼者さん。俺もなんだか救われた気分だ。」

ルーチェは席を立ち、腰に手を当ててお辞儀をした。「美味しいラーメンを、ありがとうございました。」

「こっちこそ、話を聞いてくれてありがとよ。お前さんの旅が無事に終わることを祈ってる。」

ルーチェは杖を手に取り、暖簾をくぐって店を出る。外の空気はひんやりと冷たいが、体の中にはまだスープの温もりが残っていた。振り返り、彼は小さく手を合わせた。

「祝福あれ。」

その言葉は風に乗って、ラーメン屋の店先に舞い戻った。店主は暖簾を揺らす風を感じながら、そっとつぶやいた。「おう、ありがとうな……」

そして再び、大鍋の湯がぐつぐつと音を立てていた。


(おわり)


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【AI小説】観客席の最前列でギターを持っている女

名称未設定のデザイン (30)

「今日もいるな、あの女。」  

ドラムのハルがスティックを握りしめながら苦笑いを浮かべた。リハーサルが終わり、みんなでバックステージのカーテン越しに会場を覗き込むと、彼女の赤い髪は相変わらず目立っていた。まだ照明も音響もセットされていない薄暗い会場で、ひときわ異質な存在感を放っている。  

「誰か話しかけたことあるか?」ベースのヨウが訊く。彼はベースのストラップを調整しながら、わざと大げさに首を傾げてみせた。俺はギターの弦を指でなぞりながら、思わず手を止める。  

「いや、ないな。」俺は小さく息をついた。「なんか話しかけられないんだよ。あの目が、真っ直ぐすぎてさ。」  

「怖いってことか?」ハルがからかうように言った。  

「いや、違う。」俺は首を振った。「なんて言うか…重たいんだよ。視線が、妙に。」  

ヨウは少し考え込むような顔をしていたが、ふと何か思い出したように言った。「でもさ、気になるよな。ギター持ってるのに一度も弾いたことがないって。ここに来て俺らを見てるだけで。」  

「たしかに謎だよな。」ハルも思い出したように頷いた。「もし本当にどっかの天才ギタリストで、俺たちを評価しに来てたら笑うけどな。」  

笑い声がバックステージに響くが、俺の心はなんとなく晴れない。気づけば、彼女がギターを抱えて最前列に立つ光景は、俺たちのライブの一部みたいになっていた。いつもじっとこちらを見上げている彼女の目が、次第に俺の中に不安と興味を絡み合わせる。  

ライブ本番、観客の波が押し寄せてきた。

照明がパッとついて、俺たちがステージに飛び出すと、すぐに熱狂的な歓声が耳をつんざいた。ベースの低音が轟き、ドラムがビートを刻み始める。俺はギターを鳴らしながら、また彼女の姿を探してしまう。  

そこにいる。彼女は今日もギターを抱えている。ただし、何かが違った。  

最前列にいるのは、彼女だけじゃない。彼女の周りには、他にもギターを持った観客がいた。色とりどりのギターを抱えて、同じようにステージをじっと見つめている。数人かと思ったら、もっといた。数える暇もなく、ギターを持ったファンたちがずらりと並んでいたのだ。  

「…おい、見ろよ。」ヨウがステージ上から俺に囁いた。「どうなってんだ、これ。」  

「さあな。」俺は汗を拭い、心臓が嫌な鼓動を打つのを感じながら演奏を続けた。  

ギターを持った彼女たちは誰一人として弾くそぶりを見せない。ただ、その瞳は鋭く、燃えるようにこちらを見つめている。視線の圧力が重たくて、今にも押しつぶされそうだった。  

俺は無理やりギターの音に集中しようとしたが、どうしても気になる。何が目的なんだ?どうして次々に増えていくんだ?気になって気になって、音を外しそうになった瞬間、ドラムのハルが合図を出す。  

「大丈夫か?」彼はリズムを崩さないようにしながら俺に目配せした。俺は無理やり笑顔を作って頷く。だけど、どうしても気持ちが落ち着かない。  

演奏が終わり、観客の歓声が鳴り響く中、俺たちは楽器を下ろした。額に浮かぶ汗が冷たく感じられる。照明が変わり、アンコールの準備が始まると、ふとヨウがこちらに寄ってきた。  

「増えてるよな、ギター持ったやつら。」ヨウは真面目な顔で言った。普段は冗談ばかりの彼が、こんなに真剣な顔をするのは珍しい。  

「ああ。」俺は乾いた喉を潤すように水を飲んだ。「なんか…ただのファンじゃなさそうだよな。」  

「そうだな。」ハルも合流してきて、やけに真剣な顔で言う。「もしこのまま増え続けたらどうする?」  

「ライブが、別の何かになるんじゃないかって気がしてきた。」ヨウが続けた。「何か、俺たちが知らない意味を持ち始めてる気がする。」  

俺はふと考え込む。演奏するたびに増えていくギターを持った観客たち。それはまるで、俺たちの音に引き寄せられ、何かを待っているかのように。答えが見えないまま、俺たちは次の曲へと移っていった。  

だが、その瞳の圧力はいつまでも俺を離さなかった。気づけば、いつもよりも演奏が少し乱れていた気がした。視線の束縛が、音楽さえも侵食しているように感じたのだ。

(おわり)


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