(おわり)
この小説はchatGPTとのリレー小説によって作られました。
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――これは、誰にも見つけられなかった「感情の廃墟」に咲いた、バナナの花だ。
派手じゃない。
たぶん、売れない。
でも、書き手の体温がそのまま、むき出しでページに貼りついてる。
ああ、こういうのを「小説」って呼ぶんじゃないかって、
読みながら、何度も思った。
きれいにパッケージされた物語じゃない。
骨と皮のまま、道に投げ出されてる。
そこに砂が積もって、ざらざらしてる。
けど、踏まずにはいられないんだ。
世の中の小説は、うますぎる。
完成されすぎていて、つまらない。
この作品は、そうじゃない。
未完成で、不恰好で、
だからこそ、目が離せなかった。
読む理由?
そんなものは、読んでからしかわからない。
でも読む価値はある。
「こんなものが、まだ残っていたのか」と、
ページをめくるたびに、何度もつぶやくことになるから。
内容紹介
陸送ドライバーの俺はソシャゲの中ではトップランカー『荒野の狼まさやん』であり、走行動画や食事動画を上げるユーチューバーでもある。
身長は低いがイケメンだ。時々痛い目に遭うがマッチングアプリで女は入れ食い。セックスにも困らない。
弟分のカオルが妊娠してにっちもさっちもいかなくなると、俺はこの世界を壊すために法人税100000000000000%を求める動画をインターネットにあげる。
誰もいない砂漠に吹いたそよ風のようなものになるはずだった動画は人気ユーチューバーの目にとまりコラボを申し込まれる。
人気ユーチューバーのベンツが暴走トレーラーにより海の底へ沈められたところから風向きが変わり、世界は法人税一〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇%の狂気に染まる。
最後に俺が幼稚園でカオルの娘である風華の「ばんざ~い」を見送り、道路に戻ってアクセルを踏むところで物語は終わる。目的地はないが、それでも進むしかない。
乾いた世界を車で走り抜けるような小説だ。まずはサンプルダウンロードして読んでくれ。
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資本主義は野生の本能を剥き出しにしている。一人でも多くの馬鹿を必要としている。もしこの世から馬鹿がいなくなれば資本主義は砂漠に打ち上げられたクジラのように干からびてしまうだろう。
車を輸送するトレーラーがあるのに何故かドライバーに運転させたがる馬鹿がいる。俺がこの仕事について考える時間は充分すぎるほどあったから、おそらく日本で一番理解している。俺の仕事は野良猫と同じで、この世に存在しなくなっても誰も困らない。車はみんなトレーラーで運べばいい。そうすれば走行距離のメーターも回らない。トレーラーなら一人のドライバーで何台も運べるが、車を運転するなら一人一台しか運べない。非効率だ。だから最高だ。俺は仕事にありつける。非効率に儲けありだ。
距離に関わらず一回三万円で車をドライブする。距離が近ければ一日に九万円稼げる日もある。もっともそんな日はめったになく、北海道から沖縄まで三日かけて運んだこともある。稼ぎはその時々で上下するが、長い目で見れば七日で十三万円ぐらいだろう。この仕事が最高なのは、いつまでも仕事に慣れないこと。いつも耳の先までピンと神経が張っている。中古車は前の持ち主の癖が染みつくのか同じ車でも挙動が違う。ようやくその車の癖を掴めた時には目的地に着いている。そしてまた次の車だ。たいていは大衆車だがフェラーリやポーシェに乗れる時もある。
今日は七〇年代の雰囲気がするダッヂのチャレンジャーだ。アメ車に乗る時は警戒するが、この車は一五〇まで出してもブレなかった。かなり物が良い。
博多から横浜までのドライブ。ラジオから若い男女二人組の歌が流れた。
死について語ろう
子どもにウケはバッチリ
世間の誰もが冷え性を治し
1kg減はストレスフリー
存在を決める残酷な数字
おパンツゆるくなった
おパンツゆるくなった
時間差で来るリバウンド
君との会話でお腹を満たす
おパンツゆるくなった
おパンツゆるくなった
夕食のみの糖質オフ
どこまで進むべきなのか
残したおやつを一気に食べる
目を背けたい体作り
老化の原因AGE
過去何世紀というもの
何かいいことあったの?
アリストテレスが証明
糖質オフはアンチエイジ
美肌や若さが保てます
おパンツゆるくなった
おパンツゆるくなった
真実である、肉、きのこ、大豆製品
嘘だとしても害はない
以下、無限に続く六つのルール
おパンツゆるくなった
おパンツゆるくなった
おパンツゆるくなった
(一連の循環論法、魚は低糖質で高たんぱく)
おパンツゆるくなった
(論理の曲芸 緑黄色野菜)
おパンツゆるくなった
(欲望の缶詰 加工食品)
おパンツゆるくなった
(結局のところ、お菓子、ジュース、リンゴ、ミカン、本能的欲求、糖質の多い食材)
カーブの先にあるガードレールに一台の車が突っ込んでいた。ドライバーらしき男がそばでスマホを耳に当てて立っている。タバコを吸わせてやりたいが、俺はそのすぐそばを一五〇で走り抜けた。バックミラーには道路に手を伸ばして、うろたえている男の姿が映っている。スマホを落としたようだ。
「君は絶対に道路では死なない」
何年も前に教習所の教官に言われた言葉だ。下りの山道を五速のまま走り抜けた時に彼はそう言った。その予言通り俺はまだ死んでいないし、これから先も死ぬ気はしない。もし道路に神がいるのなら俺は間違いなく愛されている。
博多から横浜まで一五時間走った。
『ジェンツー』という中古車屋に着いた。荷物をまとめて車を降りると、太った男が店から出てきた。なわばりを守るペンギンみたいだ。
「ごくろうさまです」と男は言った。
「写真撮らせてもらいますよ。規則なので」
俺は店とダッヂチャレンジャーが一緒に映るようにスマホで写真を撮った。顔を上げると男は新しいおもちゃをもらった子どものように笑っていた。
「この車は愛と献身にあふれている。どうでした?」と男は言った。
「コレクター品ってやつですね。一年前に作られたみたいだ」
「レトロカーの多くは罪深い。時に離婚を引き起こしたり、嫉妬で傷付けられたり、車は自分で走って逃げられないですからね。一台一台辿る運命が違う。奇跡みたいな車だ」
「前の持ち主はナルシストに違いない」
「ですね。傷一つついていない。こんなに攻撃的で、神経質でありながら半世紀も生き延びている。涙が出そうだ」
男はため息をつき、首を振った。
俺がキーを渡すと、男は潤んだ目をしながら「いくらで売ると思います?」と聞いた。今にも泣きそうな目をしながら金のことを考えられるのが人間だ。
「五〇〇は固いな。六…七…八〇〇ぐらいかな」
「まさか、とんでもない。一〇〇〇越えてますよ、一一〇〇万。これから船に載せてカリフォルニアまで運ぶんです」
利益は感動に勝つ。男の目はもう乾き始めていた。
「このへんで泊まれるところはないか? なるべく安いところが良い」と俺は言った。
「民宿っていうのは?」
「相部屋じゃなければいい」
男に教えてもらった場所へ行くと、空き地に囲まれた一軒家があった。周りの風景と比べると家の外壁は白々しいほど光っている。玄関には『ゲストハウス バニシングポイント』と立て札があり、インターホンを押すと、顔が赤黒く日焼けした若い男が出てきた。
とりあえず一泊して、さらにもう一泊するかは明日決めたいと伝えると二階の部屋に案内された。階段を登る時に、台所から若い女がこちらを見ていた。宿泊料金は五千円だが一人でやっているわけではないらしい。
部屋で一人になると、俺は民宿へ来る前に買ったカップラーメンをバッグから出した。ほどなく電気ポットを持った男が部屋に入ってきて「旅行ですか?」と言った。
「人間と世界の関係が重くなりすぎて面倒になったんです」と俺は言った。男はためらった笑顔を見せながらポットを置いて「冷たいお茶が冷蔵庫にあります」と言い残して、部屋を出ていった。
俺は机にカメラを設置して映りを確かめると、カップラーメンに湯を注いで、ポケットからコルトパイソンを引き抜いた。六連発のレヴォルヴァー式拳銃。本物ではない。引き金を引くと銃口から小指の先ほどの小さな火が出るだけだ。俺はその火でタバコに火をつけた。銘柄はマルボロと決めている。
マルボロを三分吸って、その後カップラーメンを食べた。食べ終えると、またマルボロに火をつけて、録画した食事風景をユーチューブにアップロードした。編集はしない。タイトルも『横浜 バニシングポイント カップヌードルシーフード』とシンプルにしている。
さらに博多から横浜までの走行動画もアップロードした。こちらも地名、国道番号だけのシンプルなタイトルだ。一五時間もあるので十二分割している。気の利いたことは喋らないが時々独り言が入っている。誰がこんな動画を見るのか分からないが、全くいないわけでもない。おそらく地名で検索しているのだろう。東京や大阪を走った動画は一万回以上見られている時がある。誰も知らないような土地、たとえば四国の徳島だとほとんど見られることはない。それでも〇ではなく一〇〇〇人ぐらいは見ているし、再生数も増え続けている。
『富山 サンロレンソ ローソンのツナサンド』という動画は何故か八万再生もされていて「エロい」というコメントが数件あった。意味不明だが一年間ずっと俺の食事動画に付きまとってきた奴もいる。コメント欄には現れなくなったが、今も俺を見ているかもしれない。世の中には俺の思惑を超えた色んな人間がいる。
タバコを吸い終えるとマッチングアプリを開いて女を漁(あさ)った。俺のプロフィールには年収二〇〇〇万。貯金一億と書いてあるが、もちろん嘘だ。プロフィール欄には他にもベンツやBMWのボンネットに座っている俺の画像がある。女にとってはフェラーリやポーシェよりベンツやレクサスの方が格上らしい。女の需要を満たしてやるのが男の優しさだ。たとえ見え見えの嘘でも甘ければ嫌な気分にはならない。ゼロカロリーのコーラと同じだ。かえって健康にいいかもしれない。
男なら俺の嘘を見抜ける。女でも見抜ける奴はいるだろうが心と本能が否定する。人間は自分の信じたいものを信じるものだ。女は俺の嘘を疑っても無視することはできない。加工された女の画像に惹きつけられる男と同じだ。女なら誰でも釣れるわけではないが、全員をだます必要はない。俺の体は一つだけだ。
夜七時になると食卓に呼ばれた。客は俺一人で、宿の男と女も一緒に食べるようだ。二人が夫婦なのか、同じ民宿で働いているだけの関係なのかは分からなかった。
宿の名前と違って、ナスとししとうの煮びたし、サバの味噌煮、そうめんのみそ汁、からし菜の漬物、それにごはんという和風な食事が出てきた。コップ一杯のビールもついていて一杯目は宿泊料金に入っている。二杯目からは五〇〇円かかるようだ。
俺がビールを一息に飲み干すと「どちらから来られたんですか?」と女が言った。
「博多から」
「そんなところから。お仕事で?」
「ですね」
「ご結婚はされているんですか?」
男と女は分かり合えないが、一つだけ分かっているのは、女は男を見ると結婚しているか、あるいは恋人がいるかどうか聞きたがる。ばあさんから小学生までみんなそうだ。もしかしたら赤ちゃんの時から聞きたがっているのかもしれない。男には理解できない女の七不思議の一つだ。
「ええ」と俺は答えた。
「へぇ、奥さんはどんな人?」
「羊みたいな人ですよ」
女は首を傾げかけたが、ニッと小さな笑顔を俺に見せた。何の隠喩か分からないのも当然で、俺は結婚していないから奥さんもいない。毛皮の中には羊の本体がいるが、俺の羊は空っぽだし、なんなら毛皮さえない。それでも俺は続けた。
「ドアを作る会社に勤めているんですけど、ここ一年で五kgもやせました」
女は目を大きくして「ダイエット‥‥‥それともご病気?」と言った。
「甘いものの一気食いをやめたんです。動物園でウサギがニンジンを食べているのを見て」
女は笑った。男は口元をぎこちなくゆるめていた。
「やせたい気持ちは長続きしませんよね」
「でも脂肪は長持ちする」
「そう、それ」
女が目をこれ以上ないくらい大きくして、人差し指を上下に振った。
女は言葉を吐きだすエンジンだ。一度回転すれば、どんどん喋る。俺はその回転を助けるために空っぽの言葉をかけるだけで良かった。民宿の女は途切れることなくしゃべり続けて、気付けばもう二時間も経っていた。食卓は既に片付いている。男は食器を台所に下げてから戻ってこない。
「あ、そろそろ行かないと」
俺が立ち上がると、女は笑顔のままだったが、口元に並んだ歯は俺を威嚇しているみたいだった。
「お出かけですか?」
「ええ、ちょっと飲みに」
「誰かと?」
「いえ、一人で」
女は一瞬民宿の五〇〇円ビールのことを考えたのだろうが「いってらっしゃい」と同じ顔のまま言った。
マッチングアプリで知り合った女と待ち合わせ場所で会った。
ステーキ屋で肉を食べた後にビールを飲んだ。店は女が行ってみたいと言っていた店で、見た目は小綺麗だったが、肉はベジタリアン用なのか、大豆のような食感、生玉ねぎの臭い、そしてセロリの味がするステーキだった。それでも女が満足そうだったのは不思議だ。店にいる他の女達もそうで、男達は作り物の笑顔が崩れないようにがんばっていた。ただしビールだけは本当に美味しかった。
その後、俺達はホテルへ行った。
「男の人ってみんな八歳の男の子。あなたみたいにちゃんと大人に成長した人なんて一人もいない」
セックスの後に女が言った。ズボンに入れたコルトパイソンが俺の頭に浮かんだ。
「女はみんな手のかかる子猫だ」と俺は言わなかった。女は愚痴を言いたいだけだ。女がどうかなんて聞きたくないし、なんなら男とはどういうものなのかも聞きたくない。自分の中に作り上げた虚構の男像を誰にも否定されることなく受け入れて欲しいのだ。悲しいことにそれを受け入れてくれるのは虚構の俺しかいない。
「男の人って本当に若い子が好き」
「そうかもしれない」
女は口をゆがめて俺の胸を拳で軽く叩いた。女の体は老いに対して必死に抵抗している体だった。同じ年の女より若く見えることを鼻にかけているが、実は股の下に白髪が一本生えていた。鏡を使わなければ自分では見えない場所だ。体と同じように服もくたびれていた。女はドアを作る会社で働いていて年収が七〇〇万あるとも言っていた。それもやはり同じ年の女より稼いでいると鼻にかけていたが半分は嘘だ。俺も嘘をついているからよく分かる。ただしどこが嘘なのかは俺にも分からない。そしてそれはどうでもいいことだ。
「見て」
女が腕を曲げて緩やかな力こぶを俺に見せた。その裏側で二の腕の脂肪が力なく揺れていた。
「触ってみて」
「固いな」
気の抜けるような細い腕で、細い筋肉とひんやりした脂肪の感触を手の中に感じた。
「凄いでしょ」
「ああ」
女は努力していた。それが見えてしまう、あるいは見せずにはいられないのが不幸だ。努力は誰もが称賛してくれるが、同時にその人間の価値を努力したぶん差し引く。努力は理解されるほど見下されていく。有名人の苦労話がウケる理由がそれだ。
努力を剥ぎ取った部分がその人間の本質だ。努力は見せてはいけないし、女も必死な男は気持ち悪いと言っていた。しかし自分の言動を振り返る余裕はない。
「そろそろ出る?」
「ああ」
俺がそう答えると「先にシャワー浴びてきて」と女は言って、バッグから手鏡を出すと化粧を直し始めた。
俺は浴室に入ると、女の臭いを洗い流すように熱いシャワーを浴びた。あの女の存在が俺の頭と体から排水溝へ流れていく。ドアを開けた時、女がいなくなっていればいいのにと俺は願った。そして浴室を出ると本当に女がいなくなっていた。
ベッドそばの壁に「うそつき」と口紅で書かれていた。床に散らかっているシーツの上に俺の財布が落ちていて、小銭はあったが、札は全て抜き取られていた。初めから女を信用していなかったので二万円しか入れていなかったが、俺は自分の間抜けさに腹が立った。女が化粧を直しているところは見ていたのだ。早く女と別れてしまいたいという気持ちが俺の心から余裕を奪っていた。
タクシー代がないので俺は二時間も歩いて民宿に帰った。その時にはもう十二時を越えていて、民宿の明かりも消えていたが、インターホンを鳴らすと民宿の女がドアを開けてくれた。まぶたを重そうにしている。さっきまで眠っていたようだ。
「シャワー浴びてもいいですか?」と俺は言った。
「静かにしてもらえるなら」と女は言った。
俺はシャワーを浴びて、再びあの女を排水溝へ洗い流すとパンツ一枚で部屋に戻った。余計な荷物は持ちたくないので冬でもパンツ一枚で寝る。寒ければ布団を被ればいい。
俺は布団で横になるとバッグからノートを出した。それは手のひらほどの大きさで、左のページには収入を、右のページには支出を書き込む。毎日書いているので日記のようなものだ。ページをめくるとコーラ一三〇円と書いてあり、三か月前に自動販売機の前に立っていた時の熱気、太陽のまぶしさ、セミの鳴き声、アスファルトから蒸発する雨のにおい、コーラがゼロカロリーだったこと。色んな記憶がよみがえった。
俺は今日使った金を書き足し、最後に『女に盗まれる 二万円』と書き加えるとノートをバッグに戻して眠ることにした。
内容紹介
本当の自由を求めて私は銀座の中心で稲を育てることにした
虹をまとう鏡の塔、カニの手を持つ男、虹に祈る女
稲を育てる間に出会う人達
青い猫を描いた女に出会い、私の運命は思わぬ方向へ転がり落ちる
冒頭試し読み
私は銀座の中心で稲を育てることにした。本当の自由が欲しくなったからだ。
自由とは何か? お腹が空く→ごはんを食べる。これは自由ではない。体の欲求に反応しただけで、自分の意志による行動ではないからだ。お腹が空く→ごはんを食べない。これは自由か? もし食べないことに理由がないのなら、お金がない、病気で食べられない、食べ物がないなどの理由がないのなら、それは自由だ。
選択の余地がないのなら自由ではない。必要を満たすことは自由ではない。欲求を満たすことも自由ではない。否定ばかり多くなってしまったが、私は否定形でしか自由を表すことができないようだ。もし『自由ではない』の反対が自由だとするならば、自由とはこう言い換えられそうだ。選択の余地があるなら自由、必要ではないのなら自由、欲求を満たさないのなら自由である、と。
この世の全ては裁定取引によって動く。価値あるものを一〇〇円で買い、一〇〇円で買った物を一〇〇万円で売る。喩えなので数字は大げさだが大体はこういうことだ。やり取りするのは物やお金ではなく、心や行動でもいい。価値に差があるところに取引が発生する。もし神が現れて、この世の全てをあらゆる意味で平等にすれば、全ての取引が止まるので世界は停止する。
さっきの喩えで出した一〇〇万円の物が一〇〇円に、あるいは一〇〇円が一〇〇万円になることはめったにない。めったにないということは、まれにあるということでもある。私の家は価値ある物を安く買って、高く売ることによって儲けてきた。まれにあることを逃さないために何百年もかけて組織を作っている。一人の人間には一生起こりえないことも組織にとってはよくあることになる。一人の人間にとって生と死は一度しか起こらないが、人類全体で見ればさして驚くことでもないのと同じだ。
銀座の中心でまれにないことが起きた。日本で一番土地の値段が高い場所だ。さすがに一〇〇円ではないが本来の価値からすればタダ同然の値段で手に入れることができた。一〇〇万円のものを一〇〇円で買ったわけだ。先祖代々に続いてきた組織はさっそく銀座の中心を利用した儲けの算段を始めた。彼らは自由意志でそうしているのではなく組織の意志によって、そう動く。しかし私は「待った」の声をかけた。そして止まった。この組織で私の声はもっとも価値を持つと決められているからだ。
「銀座の中心で稲を育てようと思います」
組織の主だった者たちが集まる会議で私は言った。否定よりも、まず私の言った言葉の意味が分からないという沈黙がその場を包んだ。
「それは銀座の中心を田んぼにするという意味ですか?」
口を開いたのは会議で二番目に価値が高い男だ。
「その通りの意味です。銀座の中心に田んぼを作り、稲を育てます」
「分かりませんね。田んぼにする、稲を育てる、それで何になります? 稲を育てるのはけっこう。しかし銀座より良い場所はあります」
「たとえば?」
男は米の名産地、次の東京の地名を言った。
「銀座の土地は高すぎます。キロ一〇万円でも元は取れません。それにあそこでは大した米も取れそうにない。良い米を作るにしても、効率的に作るにしても、銀座は米を作る場所ではありません」
「銀座で米は儲からない。だから育てないと?」
「育てるところではなく売るところですね」
「儲けたくないと言ったら?」
会議がざわついた。
「私は儲けなんていらない。自由が欲しい」
「米を作るなら別の場所がいくらでもあります」
「銀座でやらなければ自由ではない」
「その理由は?」
「理由はありません。しかし、それこそがまさに自由。儲からない、作る必要もない。だからこそ銀座で稲を育てることが自由なのです」
「なるほど。おっしゃることは理解しました。しかし我々の活動は全て儲けを得るためにあります。あなたのご先祖が代々築き上げて、いまや途方もない富を得るようになっています。あなたも、私もそれで三度の飯を食べていかれるのですが、それをないがしろにされるおつもりですか?」
「我々は銀座を自由にできないほど追いつめられているのですか?」
「いいえ、しかし我々の意志とは反します。銀座で稲を育てて、そこから宣伝なり、啓蒙活動なりをして、他のところで儲ける。それなら我々の意志とも合います。しかしそんなことは考えておられないのでしょうね」
「もしそうなら、それは自由ではない」
「もしかして我々に謎かけをされていますか? いつも正しい判断をされてきたあなたが突然こんなことを言い出すのはそうとしか考えられない」
「正しい‥‥‥その正しいというのは私から出てきたものではありません。小さい頃から親やあなた達から植え付けられた意志や活動の結果にすぎないのです」
「その言い方だと銀座で稲を育てるのは間違いだとあなたも思っておられるようだ」
「間違っています。正しくない。必ず損をします。一万年かけても費用の回収さえできない」
男はにやりと口を歪ませた。彼の笑顔を見ると正しい判断をできたのだといつも安心できた。今もそうだ。私の判断は正しい。
「しかし、それでも私は銀座で稲を育てます」
「あなたはどうしてもそれをやるのですね?」
「はい」
「よろしい」
カチッと音がしたわけではないが、彼の中で銀座の土地が損勘定に入ったのが私には分かった。これから銀座の中心を田んぼにするためにどれくらいの費用がかもかるのかも概算していて、それはきっと正しいだろう。大きい損は出た。しかし他で補填できないものでもないないと算段はついたようだ。
「銀座の中心で稲を育てる。けっこうですな。その調子で地球を田んぼで覆)うとよろしい」
男は笑った。私がそんなことはしないと確信している笑いだ。
会議ではまたたくまに銀座の中心を田んぼにする計画が練られ、予算が組まれた。こうして私は銀座の中心で稲を育てることになった。