愚者空間

KDP作家牛野小雪のサイトです。小説の紹介や雑記を置いています。

2021/08

薪ストーブに火をつける

 男が右手に持っていた斧を持ち替えてドアを開くと冷たさが顔を撫でた。性悪女がからかって息を吹きかけたようだ。

 家の周りは森に囲まれていて、どの木も降り続く雪で白くなっている。

「やけに寒いな」

 男は独り言を言った。ドアのそばに斧を立てかけ、家に入る前に帽子や服に積もった雪を払った。
 男は家に入ると椅子や机の下に目をやった。

「そんなところにいたのか。ステーキになっちまうぞ」

 男はストーブの天板の上に横たわる黒猫を見た。ストーブの窓を覗くと火は点いていない。木は焦げていたが、まだほとんど残っていた。家を出る前に点けたままにしておいたが途中で消えてしまったらしい。

「ドリス」

 男は猫の名前を読んで背中を撫でたが、猫は窓の外を見たまま動こうともしない。死んだかもしれないと男は思った。ほっとしたぬくもりのようなものが胸に一瞬広がるが、猫の顔を覗くと目は黄金のように黄色く輝いていた。長年凝り固まった憎しみが、氷のように固まったような目つきが男を射抜いている。

「寒いな。ずっとそこにいたのか」

 頭をなでると猫は迷惑そうに顔を背けてストーブから降りた。

「こっちへ来い。お互いに暖め合おう。俺も石みたいに冷えてしまった」

 猫は窓枠に飛び移ると、何も言わずにずっと外を見続けていた。手の中にさっき撫でた猫のぬくもりがまだ残っている。

「やれやれ、このままだと二人とも凍え死んでしまうな」

 男はストーブの窓を開けた。木はやはり炭になっていたが、まだ男の太ももぐらい残っている。火を点ければ数時間はもつだろう。

 男はためいきをついて椅子にもたれこんだ。男が帰ってきた時は家中にある物がコトコトと音を立てて振動していたが、今は寒さに動きを吸い取られて、猫の歩く音が聞こえそうなほど静かだった。

「さて、どうする? 一度は体を暖めないとまた外には出られないぞ」

 男が声をかけると、猫は耳を一度動かしただけで、やはり窓の外に顔も体も向けたままだった。

 男は息を強く吐いた。自分の手で自分の腕をこすり、椅子から立ち上がると「たきつけの枝を拾ってくる」と言って、家を出た。

 外は一面雪一色で、木の下にさえ雪が積もっていた。男以外に生きている者はいないのか、辺りは何の音もしない。

 男は静寂の世界に向かって歩き出した。

 毎日拾っているので、たきつけにちょうどいい枝は家の近くには落ちていない。男は森の中へ入っていった。

 ただ歩くだけでは枝を見つけられないので、男は雪の薄そうなところを見つけると、そこを掘った。かすかな盛り上がりがあると、たいていそこには何かが埋まっている。ただしどこにでもあるわけでもない。

 男は勘を頼りに枝を拾い集めていた。ふと気付けば雪が降り始め、辺りは暗くなっていた。

「そろそろ帰らなければならない。今夜の分の枝はある。明日の朝はまたその時、拾えばいい」

 狼の鳴き声が遠くで聞こえた。

「斧を持ってくるのを忘れた。たきつけの枝じゃ猫も殺せないぞ」

 雪は強さを増した。視界が真っ白になるが、その背景は真っ暗になっている。

「いつの間にか暗くなったらしい。欲張ったのがいけない。夜の分だけ集めれば良かったんだ」

 男が家のある方へ帰ろうとしていると、また狼の鳴き声が聞こえた。さっきより近い。

「さっきは音の響きが森から降ってきたが、今のはまっすぐ響いてきた。どうやらあいつは俺が見える場所にいるらしい」男は辺りを見回した。「だが俺からは奴が見えない。きっと灰色の体で雪の上に伏せているんだろう」

 男が足を向けていた方向へ顔を戻すと、心臓にきゅっと冷たい血が流れ込んできた。目の前は真っ白で、さっきまで森の隙間に見えていた家が見えなくなっていた。

「おちつけ。狼ってのは臆病者が好きなんだ。自分と同じだからな。根性のあるやつには近付けないんだ。お前なんか恐くない、道にも迷っていないぞって態度でいれば、たとえ向こうが10匹いたって襲えるもんか」

 男はただ目の前に向かって歩いた。雪の盛り上がっているところがあったので、掘ってみると細い枝を見つけた。

「そうさ。俺が立ち止まったのは枝を拾うためだ。お前も見ていただろう?」

 男の声に応えるようにまた狼の鳴き声がした。さっきより近くなっていた。もしかしたらもうすぐそばにいるかもしれないが、男は顔を前に向けた。

「俺は恐がっていないぞ。迷ってもいない。しかしどうしたものかな。やみくもに歩き続けていれば、向こうの方で俺が道に迷っていると気付くかもしれん。いつの間にか同じ道を歩いているなんてこともありえるかもしれないからな。いや、俺は狼を恐れているのか? そうだ。恐れている。だから恐れないようにしている。奴の鳴き声から離れていこう。そうすれば、すぐには奴の姿を見ないで済むだろう」

 進む方向が決まると男の足取りは確かになった。

「ほらな。鳴き声が聞こえなくなった。あいつらはよだれを垂らすほど臆病が大好きなんだ。きっと今頃はしょげかえっているだろう。それにしてもここにドリスがいなくてよかった。もし狼に襲われたら2人とも死ぬことになる。しかし俺が死んだらあいつはどうなるんだろうか。100年経ってもストーブの天板で横になっているんじゃないか。いや、冬が終われば外に出て行くさ。だがどうやって? あいつが家の外に出て行ったことはあるが、いつも俺と一緒だった。本当に一人っきりになった時に、あいつ一人で家を出て行けるだろうか」

 狼の鳴き声が聞こえた。

「いかんいかん。気持ちが弱くなると、あいつには分かるんだ。もっと強い気持ちを持たなければならない」

 男はたきつけの枝で狼達と戦うところを頭に思い浮かべた。すると体が芯から熱くなった。

「俺はただで食われはしないぞ。命の限り戦ってお前達に傷を与えてやる。ただで食える飯はないんだ。そうだ。いつでも来い。俺はお前達と戦ってやる。斧が無くても枝で、枝が折れれば拳で戦ってやる。拳を食ったって無駄さ。俺は噛み付いてやる」

 男が歯を食いしばり拳を握ると、わきの下にうっすら汗をかくほど顔も体も暖まってきた。

「さあ、来い‥‥‥来い‥‥‥来い…‥‥」

 男が呪いをかけるように同じ言葉をつぶやき続けると、不意に森が開けて、家が目の前に現れた。

「なんてことはない。俺は家に着いてしまった」

 男は玄関の階段を登り、ドアに手をかけた。森へ振り返ると一匹の狼が男を見ていた。頭の中に思い浮かべていた狼とは違い、灰色の毛皮はぱさぱさに乾いていて、体もずいぶんやせている。狼は上目遣いで、顔を揺らしながら男を見ていた。

「怯えていたのはお前の方だったんだな」

 男はそう言うと、ドアを開けて家の中に入った。中は真っ暗で何も見えない。

「ああ、大変だ。枝はある。マッチはどこだ」

 男が暗闇の中で歩くと、何かが足に当たって、崩れる音がした。

「くそっ、このままだと家が壊れてしまうぞ」

 男は足で床を探りながらゆっくりと歩いた。そして記憶を頼りに、道具箱を見つけ出すと、たきつけの枝を床に置いて、マッチ箱を取り出した。

「よしよし、マッチを見つけた。ストーブは‥‥‥ほら、すぐそこだ。ふたは開いている。おい、ドリス。中に入っていないだろうな」

 男はストーブの中に手を突っ込み、誰もいないことを確認すると、たきつけの枝を中に入れてマッチに火を点けた。

「ふぅ、なんとか火がついた。おお、そんなところにいたのか」

 猫は男の腕の近くで、一緒にストーブの中を覗いていた。

「お前は暗いところでも目が見えるものな。手伝ってくれればよかったのに」

 男が猫の頭をなでていると、たきつけにうまく火がついて火が大きくなった。家の中がうっすら明るくなる。男は机からランプを持ってくると、もえさしの枝で火を点けた。すると家の中はもっと明るくなり、物の形がはっきりと見えるようになった。

「ああ、あんなに散らかって。しかし斧を踏まないでよかった。もし暗闇でケガをしていたらどうしようもなかった」

 男はさっき崩した物を元に戻すと、鍋を取り出し、ストーブの天板の上に置いた。たきつけの火はもう炎と言ってもいいほど大きくなり、薪も角が赤くなっていた。

「よしよし、一度で成功したぞ。こういう時はかえってうまくいくんだ」

 男は鍋の中に玄関で凍らせておいた鹿肉、ブロッコリー、皮を剥いたじゃがいも、バター一握りを入れてふたをした。薪に火がついたようで厚みのある暖かさが男のすねを撫でた。

「ふぅ、ようやく一息つける」

 男はストーブの前に椅子を置いて、座った。猫が男の膝の上に飛び乗る。

「さっきは呼んでも来なかったのに、今は呼ばなくても来る。お前って奴はそういう奴さ」

 猫はじっとストーブの窓の中にある炎を見つめていた。

「お前は何も考えていないんだろうな。なぜって、俺もそうだからな。揺れる炎と熱をただ感じているんだ」

 男と猫は1時間以上、静かにストーブの熱であぶられていた。二人とも何も話さなかったし、考えもしなかった。

「鍋が文句を言い始めた。さ、できあがりだ」

 男は厚手の手袋をして鍋のふたを開けると、木のスプーンでバターでとろとろになった肉とブロッコリーをほぐして、猫の皿にをよそった。猫は何も言わずに皿に頭を突っ込んだ。男は塩をひとつまみ鍋に振って、鍋から直接食べた。

 二人のくちゃくちゃと咀嚼する音が薄暗い家の中に響いていた。

「ああ、うまい。生き返るようだ。お前も美味いだろう」

 猫はニャーと高い声で鳴いた。

 男は夜ご飯をなめるように食べきると、すぐにベッドにもぐりこんだ。猫も一緒に入ってきて、男の股の下で丸くなった。

「今日もまた一日乗り越えられた。こんな生活がいつまで続くんだろう」

 男はランプの火を消した。それでも家の中はストーブの熱と赤い光に満ちていた。

「俺とお前はいつまで憎しみ合うんだろうな」

 猫は男の股の下で燃えるように熱い体を丸めている。

 暗闇に響く狼の鳴き声を男は聞いた。

(おわり)

小説家はこちら↓
【小説家の挑戦を待つ】薪ストーブに火をつけろ

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【小説家の挑戦を待つ】薪ストーブに火をつけろ

この前、テンプレに沿ってみんなが同じ話を書いたら、かえってそれぞれの個性が出て面白くなるんじゃないかとブログに書いた。こういうのは言い出しっぺがやらないと、いっこうに前へ進まないので自分で書いた。2万字とか言ったけど、書けたのは4000字。もっとじっくりプロットを練ればよかったかな。

薪ストーブに火をつける
https://ushinosyousetsu.blog.jp/archives/86536252.html

構成はオーソドックスな三幕構成の行きて帰りし物語

1.男が家に帰ってくる。そっけない猫がいる(名前はドリスにしよう)。外は雪と森に包まれている。すごく寒くて薪ストーブが消えている。

2.男が森へ行く。そこで暗闇と恐怖を感じるが、猫のことを思い出し、恐怖と立ち向かう。

3.男が帰ってくる。薪ストーブをつけて、鍋で料理をして、猫と一緒に音を立てて食べる。その後一緒にベッドに入る。

 実質のところこれは男女の話で、さんざん使い倒されて手垢のついたプロットラインだ。猫は女性、燃え残っている薪は再び燃える可能性のある愛情の隠喩だ。関係は冷え切っていて、男が斧で猫を殺す可能性だってあるし、猫が死んでいるかもしれないと思うと、ほっとしたりするが、ぬくもりがないと死んでしまいそうになっている。でも猫はそっけない。だから男は薪ストーブをつける必要がある。

 実際はもっと細かいところはあるが、あんまり書きすぎると想像の余地が無くなりそうなので、この辺にしておこう。たとえば狼なんかは出さなくてもいい。アイスホッケーの仮面を被った殺人鬼が現れて、それを逆に斧で殺すのでもいいのだ。私と同じように書かなくていいし、むしろそれを望んでいる。私が書いた物では家の中にいるのは男と猫だけだが、101匹の犬や、眠っている美女、あるいはこれまた殺人鬼だってアリだ。なんなら上のプロットを無視したっていいんじゃないか?

 どんな小説でも書いてやるという気概のある人はぜひ『薪ストーブに火をつける』を書いてみませんか。肩をいからせて書く必要はありません。ほんのお遊びで、私もそのつもりで書きました。肩の力を抜いて火をつけてみよう。もし炎上したら万々歳だ。

(おわり)

※もし書いたらコメント欄にリンク貼ってくれると、ここに↓列挙していきます。

大体20分ぐらいで書いた-ペンと拳で闘う男の世迷言
http://artofdestruction.blog.fc2.com/blog-entry-1688.html
月狂四郎さんが書きました。ミステリー風のハードボイルドな印象。




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みんなで同じ話を書く

 最近は精神のエナジードリンクを摂取している。精神をハイにして支離滅裂な文章を吐き出す。これが執筆だ。精神のエナジードリンクとはもちろん自己啓発書のことである。

 はっきり言って10冊ぐらい読むと、書いている内容はどれも同じだと分かってくる。テンプレに沿っていかに面白い自己啓発をするか競い合っているようだ。いや、ホントに。なんなら書いている人が自己啓発書に書いてあることはみんな一緒で、だからこそ真実だなんて自嘲気味に言うことさえある。
 でも書いている内容は同じなのに、人によって面白さが違うのは不思議だ。自己啓発書にだって文体はある。小説家も同じプロットで同じ話を書くという企画をしたら面白いんじゃないか。もしかしたら将来はみんなそういう小説になっていたりして。

 成功というのはいまだに分からないものだね。1+1=2だけど、現実は同じことにならない。

 一つのことをやり続けて成功した人もいるが、一つのことをやり続けて失敗する人もいる。
 臨機応変に戦略を変えて成功した人もいるが、あれもこれも手を出して何一つものにならなかった人もいる。
 他人と協調して成功した人もいるが、他人にひきづられて失敗する人もいる。
 自分を貫いて成功した人もいるが、一人で破滅に向かって走っていく人もいる。
 こうやって羅列していくと『成功したから成功した』以外の共通点ってないんじゃないの?
 何かがかけ違っていれば両者が入れ替わっていたかもしれない。

 夏目漱石はスプーンでジャムをすくって食べていたし、芥川龍之介は最中が好きだったらしいが、甘いものを食べても文豪にはなれないのは当然だ。もしそうなら子供はみんな小説家になっている。上の二人が文豪になれたのは文豪になれたから以外に理由はないのかもしれない。と、書いてみたけれど、やっぱり夏目漱石は頭一つ抜けているような気がする。そう思うのは文豪という言葉が持つ後光効果でそう思ってしまうのか知らん。もし田中太郎みたいな誰も知らないような人を文豪だと100年ぐらい言い続けていたら、後世の人が彼の書いた文章に意味や価値を付けて、文豪になっていくのだろうか。それとも社会はそれを無視する? 少なくとも今の文学賞は機能していないね。一時持ち上げられても、みんなすぐに忘れられていくし、そもそも注目さえされていない。6年前に芥川賞を取ったのは誰か言える人なんているだろうか? でも一つの社会実験としてまずは牛野小雪で試してみるのはどうだろう。

 テンプレに沿っていかに面白い自己啓発をするか競い合っているようだ。と書いたけど、それって面白いと思うんだよな。たとえば薪ストーブに火をつけるというプロットで2万字くらいの小説をみんなで書く。そうしたら(こいつらみんな同じこと書いてるな)と思いつつも、それぞれの違いが出て面白いと思う。


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無意識なんて存在しない、たぶん2

 牛野小雪season3になってから、これという小説が書けていない。1は火星、2はターンワールドと最初からこれという物が書けたが、生存回路は自信をもってseason3の顔にはできない。たぶん自分の中にこういう物を書くぞという明確なイメージが捉えられていないからだろう。港に迷い込んだイルカみたいな小説を書くとは決めているが、それが小説という形に繋がらない。

 もっと心の奥から言葉を引っ張ってこなくてはいけないのだろうけれど具体的な方法は見つからない。もう何年も前から意識を介在しない執筆方法を考えているが、使い物になるようなものは出てこない。え、じゃあ使い物にならないものはあるのか? ということだが、それはある。ただし、本当に意味の分からないものしか書けない。今のところ何の利用価値もない文章だ。



味気のない死

「やせたい!」という気持ちは滅びやすいもののなかに君臨している。

 カロリーや食材を制限した俳優の栄光はあらゆる栄光の内でもっとも味気ないし、儚いものだ。我慢を重ねても一万年後には塵芥と帰し、その名前も忘れられる。糖質オフのダイエットは、これまで人に教訓を与えてきた。糖質さえ抑えれば、よくよく深く思いめぐらせれば、お肉も揚げ物もOKで、僕らの不安や動揺は、おなかいっぱいに深い高貴へ辿り着くだろう。

 何よりも時間がない時、僕らは最も確実なもの、つまり、作りおきできる栄光のついでに、もっとも人を欺かないもの。味や素材、調理法、数えられない栄光、お酒も、低糖質で楽しめるつまみや、何者もいつの日かは死なねばならぬ事実、しらたきのおかずから最良の結論を引きずり出しているのがマンネリだ。

 無理せず、楽しく、そのどちらかしかない。作家ならたとえ世に認められなくてもすっきりボディを目指そう。

 主食をしらたきに。これに反対していることを、僕達ははっきりと知っている。かさ増しして、これほどまでに張り詰めた心は永遠にかさ増し活用を逃れてしまうものだし、一方ダイエットは永遠を熱望している。私達は一日に決められた幸福と勇気、報酬を守って実践するだろう。

「糖質はどうしようもない。僕に釣り合ったご飯や、パン、麺類などの手で触れることができる、しらたきを使った心理からは離れることができない。まずは主食をしらたきに、きみはぼくを基礎にして、何かを置き換えるのが一番効果的だ」

 パスタの糖質は永続するものではない。しらたきでさえ永続はしない。これを続けていけば、いずれにせよ死が待っている。ぼくらはそれを知っている。食べやすく、細かく刻んで終止符を打つことも知っている。一方、死はかさ増し効果で食べ応え抜群。また、僕らを飽きさせる。

 しらたきは味が淡白なので、わめき叫びながら駆け回った。マヨネーズという悪魔を呼び出し「殺してくれ」と頼んだ。これは死に打ち克つカロリー制限のない一つのやり方だった。ダイエットが畏敬されているのだと思い込んでいる雰囲気や、墓地という場所をグッと増して醜悪なものにしたのは、楽しく続けられる勇気であった。よりおいしくなる下ごしらえのポイントは、死は独特のにおいがあるので、あく抜きして、下茹でして、揚げるのが思考の基本だ。



 この調子で続く文章を何万字も読むのはしんどいだろうし、書く方もしんどい。推敲もしんどかった(笑)。飛ばさずに最後まで読んだ人が1人でもいるかどうかあやしいものだ。何らかの意味を見いだせた人は一人もいないだろう。フロイト先生なら分析できるかな。万が一なんらかの感銘を受けた人がいっぱいいたとしても牛野小雪が使いこなせる物ではないから真面目な執筆には使えないし、たぶんこの文体を発展させることは不可能だ。

 本当はこの倍の量あった。ブログに書いた前半はまだ意識が残っているせいなのか意味ありげだが、後半へ行くにつれて意味が拡散して意味ありげでさえ無くなる。カオス(混沌)は深まるばかりなので、消してしまった。

○「やせたい!」という気持ちは滅びやすいもののなかに君臨している。
○私達は一日に決められた幸福と勇気、報酬を守って実践するだろう。

 この二つはなんか使えそうな気がするけれど、じゃあどこで使うかとなると分からない。無意識は意識的に使用できないから無意識なのだろう。もし利用できたらラッキーぐらいに思っていた方が良いのかもしれない。

 今のところ思い付くのは大量にこんな文章を作成して、その中から使えるものを拾っていくのが考えられる。無意識の大きさがよくある氷山型なら10に1の割合で使えるものが出てくるだろう。あるいはどれくらいの頻度で使えるものが出てくるかで無意識の深さが推定できるかもしれない。すっごい浅かったらショックだけど、めちゃくちゃ深くても嫌だなぁ。

『ペンギンと太陽』は縦方向に何度も書き直したけど、今回は横方向に時間と手間をかけてみようかな。そうしたら今までとは違う何かが書けるかもしれない。

 そもそも無意識なんて本当にあるのかな。無意識を発見したフロイトだって、解説でよく見る氷山式の無意識は説いていない。三島由紀夫の『金閣寺』で「見抜く必要はない。みんなお前の面上にあらわれておる」と和尚が言っていたように、抑圧されている感情は必ずどこかに形を変えて表出する。私もそっちの方がありえそうな気がする。人は見た目で分かると言うと言い過ぎだけど、本質はその人の意識していない(あるいはできない)表に出ているはずだ。無意識だとか心の深層なんて探ろうとしても、そんなものは始めから存在しないので、たとえインドまで自分の探しの旅に出かけても永遠に見つけられないだろう。

 無意識はないかもしれないが、意識が存在しているのは自明であって、これが執筆の邪魔になっているのはここ数年感じていることだ。もっと我のない文章を書きたい。しかし、書こうとする意識が無ければ何も書けないのではないかという禅問答を前にしてまだ一歩も進めていない。生存回路を書いたのは2019年だ。小説の中で賢者は消えてくれたが、私の中の賢者は消えてくれない。石の上にも3年と言うし、来年の今頃には何かひらめいているだろうか。それとも死ぬまで見つけられない?

(おわり)

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