愚者空間

KDP作家牛野小雪のサイトです。小説の紹介や雑記を置いています。

2017/11

聖者の行進下をリリース

聖者の行進下をリリースしました。
今年はこれで打ち止めです。


体育館で穴掘りの仕事を始めたタクヤ
ユリの手を引きながら焼け跡を歩くナツミ
二人はそれぞれ巨人と神の言葉を聞く






『聖者の行進』のリリース記事


【内容紹介】
町へ出るトンネルの出口で美男美女の二人が殺された
無軌道に犯行を重ねるまさやんと追いかけるタナカ
しかしそんな事とは別に破滅の車輪は回り始めていた

聖者の行進ができるまで

他の小説となにが違うか
冒頭に出てくるタナカ・サトシは一般的な成功や栄光を追求する人物ではなく、日々の生活に疲弊しながらも現実を受け入れざるを得ない普通の人間です。彼は短距離配送業を営みながら、会社の搾取や自身の停滞に苛立ちつつも、何も変えられない現状に囚われています。この設定は、多くのフィクションが描く「自己実現」や「英雄的行動」とは対照的であり、現代社会における普通の労働者の厳しさや、無力感を強く浮き彫りにしています。

また、物語には暗いユーモアが散りばめられており、それがこの作品を特異なものにしています。例えば、タナカが自分の血尿に気づかず死んでいく過程や、彼の単調な日常の中で繰り返される小さな不幸の数々は、リアルでありながらもどこか滑稽であり、読者にブラックユーモアを感じさせます。このような細やかな人間描写が、他の作品とは異なる魅力を生んでいるのです。

さらに、作品は単なる個人の物語にとどまらず、社会や政治の腐敗、暴力や権力の問題にも深く切り込んでいます。タナカの死後に続くストーリーでは、地方政治家やヤクザとの関係が描かれ、表と裏の世界が交錯していきます。社会的な不正義が放置され、個人の無力さが強調されるこの展開は、現代社会に対する深い批判を感じさせ、物語に社会派ドラマの要素を加えています。

その上で、物語は全体として「なぜこんなことが起こるのか」「何が本当に問題なのか」といった問いを読者に投げかけます。登場人物たちは常に何かが「おかしい」と感じながらも、その正体を掴めずに翻弄される。この曖昧さが物語全体に不穏な雰囲気を与え、読者に対しても考える余地を残す作品となっています。

つまり、『聖者の行進』は、普通の人々の日常に潜む狂気や、社会の構造に対する不信感を通して、現代社会の矛盾や不条理を巧妙に浮かび上がらせている点で、他の物語とは一線を画していると言えるでしょう。

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試し読み

タクヤ 第一章 くもとこうずい


 サイトウ・タクヤは外側の人間だった。彼の記憶は幼稚園から始まる。それはいつも砂場の外であり、ブランコの外であり、園庭の外であったりした。

 タクヤは毎日ティラノサウルスを描いていた。それも博物館や図鑑にある骨の姿だった。必ず最初に骨のティラノサウルスが画用紙の中心に描かれ、その周りに子どもや大人、ビルや家、車に飛行機、お花や動物の絵が描かれた。

 黒のクレヨンで輪郭を描かれたキャラメル色のティラノサウルスを見て、幼稚園の先生は「サイトウくんは恐竜が好きなんだね」と言った。

 タクヤは先生が言葉を欲しがっているのを感じた。それも他の子のように元気一杯の笑顔で答えなければならない。しかし、タクヤは声を上げて泣いた。

 タクヤが突然泣き出したので先生は慌てて彼を抱き上げると「どうしたの?」とあやすような声を出した。面倒な子だと先生に思われているのをタクヤは感じた。その日から隠れてティラノサウルスを描くようになった。

 タクヤは小学生になるとティラノサウルスを描かなくなった。というより描けなくなっていた。頭の中にはキャラメル色のティラノサウルスが鮮明にあるのに、それを紙に描こうとすると透明の砂嵐が世界全体を覆って、全ての思考を透明に吹き消してしまった。

 小学生になってからもタクヤは外側にいた。休み時間は運動場の外でドッヂボールやサッカーをしている子達を見ていた。彼は学校で一言も喋らなかった。授業中に発表をうながされたり、他の子に喋りかけられたりすると、ぎゅっと口を閉じたまま涙を流したので誰も彼に話しかけなくなった。

 担任の教師は五月の家庭訪問の時にタクヤが何かの病気なのではないかと両親に打診したが、両親は過去に病院で診てもらったが異常はなかったと答えた。

 両親も彼に何か異常があるのではないかと一度は疑っていた。しかし病院で同年代の子と比べて知能指数が高いことが分かるとタクヤの異常さは彼らの自慢になった。確かに小さい頃からタクヤは聞き分けのいい子で育児雑誌に書いてあるトラブルはほとんどなかった。しかもその頃からタクヤは両親と言葉を交わすようになり、ほんの短い期間で両親がどこで覚えたのかと驚くほど言葉を使えるようになったので、子どもの育ち方にも色々あるということで二人は納得していた。

 両親は彼が学校でどう暮らしているのかは知らなかった。担任の教師から彼の学校生活を知らされると、両親はもう一度タクヤを病院に連れていった。新しい環境のストレスによる一時的な緘黙症(かんもくしょう)だという診断が下された。治療法は環境に慣れること。薬は出なかった。両親はその診断に納得がいかなかったが、自然に治るという言葉を信じるしかなかった。

 それ以来今日は学校でどうだったかと両親に訊かれるようになったので、タクヤは誰々と何々をしたと嘘をつくようになった。両親はそれを信じた。担任の教師から何か言われても、教師が全ての子どもを見られるはずがないと思い込んだ。彼が誰も家に連れてこないし、誰かの家に遊びに行かないことには気付かなかった。

 タクヤは学校で一言も喋らなかったが読み書きはできた。むしろ他の子よりずいぶんとよくできた。教師の目から見ても授業は退屈そうだった。体育も五十m走はクラスで早い方だった。

 図工の授業で絵を書かなければならない時があった。ティラノサウルスが描けないタクヤは白紙のまま画用紙を出した。さすがに教師はそれを怒った。タクヤも怒った。涙を流しながら黒と青の鉛筆でぐるぐると二つの渦巻きを描くと『くもとこうずい』と題して提出した。

 それからタクヤは『くもとこうずい』ばかりを描いて過ごした。ノートは大小の青と黒の激しい渦巻きで埋められた。

 タクヤが小学二年生の頃、ある芸人がライオンの恰好をして「ンガチョ!」と叫ぶ一発芸で人気が出た。休み時間になると学校の教室ではたくさんの「ンガチョ!」が飛び交った。
 ある時ヨシダ・ユウキという子が「おい、お前。いつも丸書いてるよな」とタクヤにちょっかいを出してきた。久しぶりに話しかけられたのでタクヤは泣きそうになった。「おい、何か言えよ」とヨシダ・ユウキはさらに急かした。

 タクヤは目に涙を溜めた。泣かせたら教師に怒られるのでヨシダ・ユウキは背を向けて逃げようとした。しかし、その瞬間タクヤは「ンガチョ!」と叫んだ。ヨシダ・ユウキが驚いた顔でタクヤに振り返ると、タクヤはさらに「ガー」と吠えた。ヨシダ・ユウキは弾けるように笑った。

 タクヤは彼の心の中にすっぽり吸い込まれたような気がした。それが嬉しくてタクヤは泣いた。ヨシダ・ユウキは逃げた。だが、それからタクヤとヨシダ・ユウキは友達になった。それどころか彼以外の子ども達とも「ガー」と吠えることで友達になれた。クラス中がガーガー吠えるようになった。その中心には必ずタクヤがいた。もう彼は外側ではなかった。「ガー」と吠えるだけでなく、普通に喋れるようにもなった。『くもとこうずい』は描かなくなった。

 それ以来タクヤはテレビを見て芸能人を真似るようになった。彼はさらに人気者になった。将来は芸能人になろうかと考えるほどで、休みの日にはたくさんの友達が彼の家に押し寄せた。

 タクヤは常に中心にいた。中高合わせて六年間クラス委員長も務めた。タクヤは誰でも笑わせることができたし、深い知識で相手を感心させることもできた。勉強もできたので良い大学に進学した。そこでも彼は中心にいた。

 二十歳になった時、タクヤはある不思議に包まれた。どうして面白いことも気の利いた言葉もないのに他の人達はうまくやっていけるのだろうか。タクヤは周りに合わせて笑っていたが、彼らはいつもつまらないことで盛り上がっていた。

 もしかすると自分は頑張りすぎていたのかもしれない。タクヤは試しにつまらないことを言ってみた。つまらなすぎて記憶に残らないほどだ。

「つまんねえ」

 ぽつりと一言だけ冷たい言葉が返ってきた。その後すぐに「うわっ、それってひどいなぁ」とタクヤがごまかすと笑いが返ってきたが、タクヤの中に消えない寂しさが居座った。

 それ以来タクヤは面白いことや気の利いた言葉を出せなくなった。

 タクヤはまた外側の人間になった。誰とも喋らずに無言のまま大学を卒業した。卒業できたのは教授のお情けだ。誰とも関われなかったので就職活動もしなかった。それから何年も部屋の内側で生きてきた。外に出る時もあったが、誰かと話すことはない。話したとしても店の従業員とマニュアル的なやりとりをするぐらいだ。

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妹粥(いもがゆ)/T・S・カウフィールド

妹粥のコピー

妹粥(いもがゆ)
ーT・S・カウフィールド


もしも君が、ほんとにこの話を聞きたいなら、火薬が何トンだとか、六連発リボルバーが火を吹いただとか、銃をぶら下げた無法者達だとか、頼りにならない保安官だとか、そんな《S・T・コールフィールド》式ドンパチを聞きたがるかもしれないけれど、そんなことは喋りたくない。


第一僕はS・T・コールフィールドではないし、第二に僕が話したいことは妹のバービーのことしかない。


さて、どこから話せばいいか・・・・・・僕が中二の頃の話をしよう。


その頃、僕は14歳で妹のバービーは10歳だった。彼女が始めて料理をしたのもこの歳だった。この年頃の女の子ならホットプレートでホットケーキだとか、パンケーキとかを焼いたり、オーブンでクッキーを焼くと思うだろう?


 でもバービーは違ったんだ。彼女が始めて作ったのはお粥(かゆ)だった。


「兄さん、体の調子はどう?」なんてことを言って僕の部屋に入ってきた彼女が両手に鍋を持っていた時は、ちょっとびっくりしたな。何が始まるんだろうって不安にもなった。


不安になったといっても、バービーが僕に何かすると思ったからじゃなくて、いつもと違う事が起きているから動揺していたからだろうね。僕はバービーのことは信頼していたし、バービーも決してひどいことはしない。小さな女の子らしくいたずらをすることもあったけれど、本当にひどいことは絶対にしない子だた。


 彼女は僕のベッドに腰掛けると、サイドテーブルに鍋を置いて蓋を開けた。そこにはお粥が入っていた。最初にネギのつんとする匂いがしたな。次に玉子のむわっとくる匂いもした。彼女はそれをお椀によそうと一度息を吹きかけて僕に渡した。


「どう?」


僕がお粥を一口食べると、彼女は早速感想を聞きたがった。まだ一度も噛んでいないのにだ。でも僕は「うまい」と言った。本当のことだ。でも、そのお粥がまずかったのも本当のことだ。ネギはまだ固かったし、玉子は火が通り過ぎていたし、砂糖が入っていて妙に甘かった。


もしこれがどこかの店で食べた物なら僕は飲み込まずに吐き出して、席を立っていただろうね。状況次第じゃ殴り合いのひとつでもしたかもしれない。でも、そういうことは問題じゃないんだ。バービーが僕のために色々気を利かせてくれたんだろうなというのが伝わってくるのが嬉しかったんだ。

 ネギは風邪に効くって言うし、玉子は栄養たっぷりで病人には良いって言うだろう? 玉子酒なんてのがあるぐらいだ。それに砂糖を入れたのだって僕が食べやすいようにっていうバービーの気遣いなんだ。あのお粥は本当にまずかったけれど、僕は一口食べるたびに幸せを噛み締めていた。


「本当に美味いよ、バービー」


 僕が褒めても彼女は「そう、良かった」なんて短く言って、そっけない態度を取るんだ。照れ隠しなんだな。本当は嬉しいんだろうけど、大げさにはしゃいだりしない子なんだ、バービーは。

 彼女は部屋を出て行った。歩き方が固くて、ドアも音を鳴らして閉めた。知らない人が見れば怒っているようにも見えただろうね。でもそうじゃないんだ。踏み鳴らした足音や、ドアを静かに閉められなかったところに喜びが漏れている。僕には分かるんだ。


 それからもバービーは僕に毎朝お粥を作って、ベッドに持ってきてくれた。最初に食べたひどいお粥も日を追うごとに上手くなって、一年後にはちょっとした店でも出せる味になっていた。その頃には毎朝バービーのお粥を想像してウキウキした。


バービーはその後何年も僕にお粥を作ってくれた。義務だとか、習慣だとか、そんなものじゃなくて100%本当に優しさで作ってくれている。それが嬉しかった。


 バービーは成長して女の子から女性になると家を出て行った。月狂四郎(つきくるいしろう)とかいうつまらない男と結婚したからさ。元ボクサーで、外資系のドアを作る会社でセールスマンをしていた時に、ネットに書いた小説が大当たりして作家に転向したという変わった経歴を持っているが、実際に会ってみるとつまんない男だった。これは保障する。僕は何度か会ったことがあるんだから間違いない。


だからといって悪い奴ではないんだ。もし人間を良い奴と悪い奴で分けたとしたら、100%良い奴に分類されるだろうね。そんな男なんだ。そうでなければバービーも奴と結婚なんかしなかったはずだ。でもつまんない男さ。


 そんなわけで妹が家を出て行ったから毎朝食べていた妹のお粥はなくなった。今はメイドの藤崎ほつまさんがホットサンドをベッドに持ってきてくれる。ホットサンドでなければナポリタンだ。


「ねえ、藤崎さん。いつも朝食を持ってきてくれるのはありがたいけど、僕は病人なんだからその辺のこと考えて欲しいな。こう、食べやすくて精の付くやつ」


 一度そう言った事がある。そうすると彼女は「気が付きませんでした。申し訳ありません」と言って、次の日はスッポン鍋とイモリの黒焼きが出てきた。なんだかんだあって、結局はホットサンドとナポリタンに戻った。


 藤崎さんがホットサンドを作るためにパンの耳を切っている音を聞きながら、僕は奴が(月狂四郎)が最近出したという本を読んでいた。『暴っちゃん』とかいうつまんない本だ。夏目漱石の『坊ちゃん』を魔改造して、制限のない性と暴力にあふれさせている。欲に塗れた登場人物の低い人間性を圧倒的な暴力で蹂躙する内容だった。大藪春彦みたいだ。きっと不純な読者が読むに違いない。本当に、本当に・・・・・・・


「なにが月狂四郎だ! ふざけやがって!」


 僕はムカついていた。あんな奴と妹が結婚したなんて許せない。僕はベッドから出るとコートを羽織って部屋を出た。


「どこへ行かれるのですか?」


 玄関を出る前に藤崎さんが声をかけてきた。


「藤崎さん、僕は朝食を探してくる」


 そう言って僕は家を出た。


 自分の足で家を出たのは何年ぶりか分からなかった。何を見ても世界が固く感じられる。空気でさえガラスを吸っているみたいに固かった。五分もしない内にへろへろに疲れてしまったので僕はタクシーを呼んだ。

 

 奴とバービーの家はタクシーで10分ほどのところにあった。大きくもなく小さくもなく、これといって特徴のない家だ。幸福な家庭はどれも似たものだってトルストイは言っていたけど、本当にその通りだ。これに子どもと犬のはしゃぐ声があれば完璧だった。作家のくせにつまんない家に住んでいるのさ。それで作家なんてやってるからカフカの小説より不条理だ。


 僕は幸せな無個性の家のチャイムを鳴らした。するとバービーが玄関を開けた。僕が来るとは思っていなかったんで、ひどく驚いていたな。


「まぁ、兄さん! どうしたの!」


「なんでもない。ちょっと近くを通りかかったから顔を見に来ただけなんだ」


「私に会いに来たの?」


「そういうんじゃないんだ。ただちょっと外の空気を吸いたくて歩いていたら、偶然この家を見つけて、本当は通り過ぎるつもりだったけど誰かいるかなと思って」


「誰か来たのか?」


ここで、あの野郎が出てきた。黒いタンクトップを着て、ムキッとした腕の筋肉を露わにしているんだけど、それが少しも嫌味ではないんだ。僕はそれがとても嫌だった。


「兄さんが来てるの」とバービーは言った。


「義兄さんが?」


 そこで奴は玄関に立っている僕を見た。すぐにニカッとまぶしい笑顔になった。


「これは珍しい。どうぞ中に入ってください」と奴は言った。


僕は一度断ったんだけど、ああいう人種は必ず人をもてなさないと気が済まないらしい。僕は結局二人の家に入った。奴はお世辞とか、建前とかじゃなく本当に笑顔だったし、妹は突然僕が来たものだから不安な顔をしていたけれど、それでも嬉しそうな顔をしていた。


 僕はそこでつまらない時間を過ごした。奴はともかく、バービーまでつまんない人間になっていたのはショックだったな。すっかり奴に毒されているんだ。僕と一緒にいた頃には考えられないほどつまんない人間になっていた。何でも真っ二つにしてしまう鋭い感性がすっかりなまくらになっていたんだ。

 僕が話しかけても彼女にはうまく響かなくて、それとは逆に向こうが話しかけても僕に響く物がなくて、時おり気まずい思いをした。でも二人は幸せそうだったな。つまんないけど幸せに満ちていた。


「もう帰る、いきなり訪ねたりして悪かったね」


 僕が立ち上がると二人も席を立った。「もう少しいてくださってもいいのに」なんて奴はつまんないことを言った。「今日は他にも行くところがあるから」と僕が言うとバービーは不審な顔をしたな。事実僕には何の用もなかった。


 二人は玄関まで見送りに出た。止めなければ家までついてきそうだったな。


「それじゃあ邪魔したね。バービー、体に気を付けるんだよ」


「兄さんこそ、大丈夫? タクシー呼ぼうか?」


バービーは不安そうな顔をしていた。


「いいんだ。体をなまけさせちゃ良くなるものも良くならない。歩いて帰るよ」


 僕がそう言うとバービーは奴の顔を見た。僕の目から涙が出てきた。幸せをぶち壊しかねない爆弾だったが、止めようがなかった。


「兄さん、大丈夫? やっぱり体に悪かったのよ。今日はこんなに寒いし」


 バービーが心配そうな声を出すと、さらに涙が出てきた。おまけに体の力が抜けて、その場に倒れそうになった。チクショウ。だがもっと最悪なのは、奴がたくましい腕で僕を支えてきたことさ。


「大丈夫ですか、義兄さん。やっぱりタクシーを呼びます」


奴はそんなことを言った。良い奴なんだよ。それは僕が保障する。

 それで僕は奴の手を両手で握った。今までの人生で一番力が出たんじゃないかな。


「妹をよろしくお願いします。バービーはいい子なんです。幸せにしてやってください」


 僕は何度もそう言った。何度も頼んだ。何故だか涙が止まらなかった。


そこから先は記憶がない。気付けば僕はベッドにへろへろになって寝ていた。あれは夢だったのかもしれない。だけど、コートは床に落ちていたし、後になって奴とバービーが家に来た時は微妙に態度が変わっていた。だから現実のことだったんだろう。


 結局この話は僕が恥をかいただけで終わる。たぶん僕はこれから永遠にバービーのお粥を食べることはできない。でもそれで良かった。本気でそう思える。バービーは奴と無個性な幸せを築いて、さらにつまんない人間になっていく。

 でも僕はこれからも奴とバービーが幸せでいられることを祈り続けるだろう。



(妹粥 おわり T・S・カウフィールド 2017/11/11)



奴の新作が出たみたいだから紹介しておく。無料キャンペーン中らしい

暴っちゃん
月狂四郎
ルナティック文藝社
2017-11-07
――親譲りの無鉄砲で、小供の時から損ばかりしてきた。お馴染みの一文で始まる物語。だが、そこにかの名作が持つ重厚さや文学特有の堅さはない。誰もが知る夏目漱石の「坊ちゃん」とアウトローを組み合わせた異色の格闘ミステリ小説。 電子書籍界に投じられたゲテモノは、文学の紡いできた歴史に歪な波紋を巻き起こす



牛野さんの新作が出たのでこっちを読んだほうが良いです。本当に。

町へ出るトンネルの出口で美男美女の二人が殺された
無軌道に犯行を重ねるまさやんと追いかけるタナカ
しかしそんな事とは別に破滅の車輪は回り始めていた





聖者の行進上をリリース

聖者の行進リリース開始しました。
11月いっぱいまで99円セールです。
好評なら今年いっぱいまで伸ばします。



町へ出るトンネルの出口で美男美女の二人が殺された
無軌道に犯行を重ねるまさやんと追いかけるタナカ
しかしそんな事とは別に破滅の車輪は回り始めていた




早速ダウンロードしていただいた方からiPhoneで読めないという報告がありました。
以下解決法です。

kindle for iOSの最新版のダウンロード(2017/11/10現在の最新版はver.6.0です)
https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=201244840

それでもダメなら一日置いてみるとDLできるかもしれません
Kindle書籍の「互換性がありません」問題について(iOS)。

ちなみに報告してくれた方は再ダウンロードで解決したそうです。


不具合か気になることがあれば私(このページのコメント欄、もしくは牛野小雪のtwitter)かAmazonのヘルプに報告していただけるとありがたいです。

外部サイト
聖者の行進ができるまで/牛野小雪の小説ができるまで

聖者の行進を書いてみよう

『聖者の行進』を書いてみよう。week1 2017/2/15

 真論君家の猫は書き始めるまでに半年かかっている。聖者の行進は黒髪の殻を書いている間から書くかもしれないと考えていたから一年以上かかっている。物語上の繋がりはないが、系譜としては、黒髪の殻→エバーホワイト→聖者の行進、と続いていて、今作が到達点の予定である。感覚的にはこれが最高点なんだけどエバーホワイトがちょっと書けすぎてしまった気がするので、聖者の行進がとんでもない駄作になったらどうしようかと怯えている。
 途中までは書ける。自信はかなりある。それこそ時間さえかければ絶対に書けるというやつだ。問題は途中からどうしてもこれは書けないという領域に踏み込むことだ。もしかすると準備不足かもしれない。しかし書き始めてみると手応えはある。いや、ここは自信のあるところだからだとも思い直す。まだ懸念の場所には至っていないし、そこへ辿り着くにはまだ時間はある。
 今回は複数人で物語を回そうと考えている。幽霊になった私と獅子の檻ではアキと私、レオタ君とヤマダの二人で回したことはあったが、もっと距離の離れた感じで書いてみたい。最初に考えた三人のな線がなかなか交わってくれなかったのでだいぶ苦労したが、最終的には交じらわせなくても良いような気がした。人ではなく世界観を中心に置いて三人を世界の外周で回せばうまく回せるような気がしたのだ。
 と、大げさな口を叩いてもやっぱり書ける気はしない。だから進捗状況なんて堅いタイトルではなく、書いてみよう、にした。書かなくなったら自然に更新されなくなる記録である。

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