作家といえど作中の人間を勝手に殺すことはできない。○○は死んだ。おわり。みたいにはできないもので、彼らは作家に対して抵抗を試みる。

 作家から書く意欲を失くしてみたり、物語自体をつまらないと思わせたり、突然部屋の掃除をさせたり、財布に溜まったレシートの整理、預金通帳の記帳、車両保険の払込み、まだ見ていない映画のことを思い出させ、人生に対する大いなる不安を抱かせ、この先一生書くことすら無理なように思わせる。彼らも必死なのでなりふり構ってはいられないのだ。

 意識の裏側ではこんなやりとりがあったのかもしれない。

 

『なぁ嬢ちゃん、死んでくれや。キミが死んでくれたらすべてが丸く収まるんや』

『嫌です。死にたくありません』 

『ああ〜、そんなこと言わんといて〜だ。ホンマになっ?これが最後やから。いっぺんだけでええから』

『他の人に頼んでください。どうして私なんですか?』

『そんなこと言われても困ったなぁ〜。どないしようもないなぁ〜』

 

  一週間ぐらい一文字も書けずにいたのだが、昨日朝起きると、あっこれは書けるなという感覚があった。こういう時は案外落ち着いているもので、ゆっくり朝ごはんを食べて、ちょっと歩いてから本を読んで、太陽も完全に登った頃に机に座る。すると、今まで書けなかったのが嘘みたいにかけて嬢ちゃんはあっさりと死んだ。きっと彼女がクビを縦に振るまでオジサンが粘り強く待っていたんだろう。一度うなずけば『よっしゃ、まかせとき』という風に一肌脱いだのかな。別に夢に見たわけでもないし、想像したわけでもないけれど、こういう風に考えれば妙に納得がいく。

 

(おわり)