愚者空間

KDP作家牛野小雪のサイトです。小説の紹介や雑記を置いています。

2014年に読んだキンドル本

推薦文『未来劇剣浪漫譚 Human Possibility』

 退廃的な未来で巻き起こるSF剣豪小説2作目

 今回は作者が商品紹介に書いてある通りにエンタメの要素を強く打ち出していて前作と比べてかなり読みやすいです。また続編なので登場人物や世界観が共通していて、早い段階から物語に入り込めます。

 前作で元々一般人だった凛が姉の仇討ちとはいえ人を殺したのに、ちょっと明るい雰囲気で終わったのが少し気になった。
 しかし、今作では人殺しの代償として一般人の友子から拒絶されていたという展開が待っている。
 凛がどうやってその傷を乗り越えるのかが一つのよみどころ。

 もう一つは無二さんが天心流の心構えを会得できるかどうか。
 師匠お墨付きで天心流の技を極めた無二さん。前作では余裕のある強さで負ける姿を想像できない男だったが、今回はそんな無二さんでも勝てそうにない相手が出てくる。(ついでに言うと嫌な奴だ)
 その相手に勝つには全てを捨てて天心流の心で立ち向かうことなのだが、それができないといういかにも剣豪小説的な展開がよみどころ。

 読み終わってから、いや後半辺りでずるいっ!と思った。この時から続編を匂わす展開だと分かったからだ。最後まで読むとやはりそうだった。無二さんが父親の仇討ちをするためにウォールの内側"ラスパラ"へ入ったところで終わるという続編を期待させるラストだった。ああ、ずるいっ!



 

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2014年10月の牛野小雪

パイロット版を試し書き

現在新作を鋭意構想中なのですが、なかなか物になりません。
どうしても作中のある場所で書ききれないと予想される場所が出てきました。
これは現地取材する必要があるなと思いつつも手間と時間を考えると躊躇しています。それとお金。
いっそ別の物にしようかなとも考えています。それか世界観自体を書き直すか。
まあ、一応パイロット版みたいな物を書いてみたのですが、最後まで書き通すにはやっぱり足りないなと思いました。

読みきり短編小説『成人月歩』
読みきり短編小説『I'm walking』

まあ、暇つぶしにどうぞ。

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『真論君家の猫』リリース開始しました

『真論君家の猫』が販売開始されました。
Amazon の商品紹介ページと被るところはあるのですが、ここで紹介しておきます。



『あなたの猫を探してみませんか?』 


ミータンは金目の黒猫。ヒゲや肉球まで黒い。普通の猫より手足や尻尾が長く、 
首には赤い首輪を巻いている。以前はクロスケと言う名前だった。 
ある日突然捨てられたところを真論君に拾われて彼の猫となる。 
真論君家の猫になったミータンはやがて青天井の世界を歩き始める。 
(約24万字) 

○こんな人にオススメ 
1 過去に猫を飼っていた人 
2 現在猫を飼っている人 
3 将来猫を飼おうとしている人 
4 猫が嫌いな人 
5 自分は猫だと思う人 
6 そして何より猫好きな人 


【作中より抜粋】 
○月△×日から家の猫が見つかりま 
せん。特徴は金目の黒猫。肉球やヒ 
ゲまで黒い。普通の猫より足や尻尾 
が長く、赤い首輪をしています。見 
かけた方、あるいは保護された方は 
ここに連絡してください。栗林より 
連絡先○○○―△△△△―×××× 

目次/ 
二匹目 ミータン 
1.ぼくはミータン 
2.子猫から成猫へ 
3.屋根から野良へ 
4.野良から屋根へ 
5.恋心が恐怖心へ 
6.最期のミータン 
三匹目 ムートン 
1.真論君家の猫 
(終わり)


各章のあらすじ

○二匹目 ミータン
ミータンは金目の黒猫。ヒゲや肉球まで黒い。普通の猫より手足や尻尾が長く、
首には赤い首輪を巻いている。以前はクロスケと言う名前だった。
ある日突然捨てられたところを真論君に拾われて彼の猫となる。
(1 ぼくはミータン)

真論君家(芋と野菜を育てる家)の猫となったミータンが不定の世界を歩き始める。
隣の猫のサバトンさんに裏山で開かれる竹林集会に導かれて様々な猫と出会う。
知識派の猫達と交流して知識を深めるミータンだが、最古老チャトランさんの死を
きっかけに自分の死について考え始める。そんなミータンに死の影が迫る。
(2 子猫から成猫へ)

死の淵を脱したミータンは知識派から離れて野良の真似事を始める。
狩猟派のジロスケに教えを乞い、畑のスズメを狩れるようになる。
やがて、ジロスケとも肩を並べられると称されるようになるが、
竹林集会に猫を食う凶暴な黒犬が現れる。その犬はミータンとジロスケでも敵わなかった。
ミータンは黒犬を退治するためにアラーニャンを訪ねる旅に出る。
(3 屋根から野良へ)

旅の途中で黒猫と白猫の争いに巻き込まれたミータン。
白猫達は5年前に風鈴公園から猫達を追い出した暴虐な猫達だった。
ヨリサブロウとツネクロウは河川敷に猫達を集結させて戦機をうかがっていた。
そんな中、白猫を束ねていたキヨカズが謎の死を遂げる。
これを機にヨリサブロウは河川敷の猫達に風鈴公園を攻める号令を下す。
保元町で黒猫と白猫の運命が決まろうとしていた。
(4 野良から屋根へ)

ミータンは平成町に帰りふたたび真論君家の猫になる。
黒犬の脅威が無くなった竹林集会で旅を完遂させたミータンはその名を上げる。
思いを寄せるシラコさんとも仲良くなった。
チャコさんに誘われてシラコさんとバーガー屋へ行くと、
帰り際にミータンはシラコさんと三日後に二匹だけで逢うことを約束した。
(5 恋心が恐怖心へ) 

物語はいきなり数年後に飛ぶ。
ミータンも老猫となり、竹林集会の猫も年下ばかりになった。
ある日、変わらない風景を探しに散歩中へ出かけたミータンは
名前も主さんも自在に変える雌猫に出会う。
猫の集会から足が遠退いたミータンは人間の集会を観察することにした。
(6 最期のミータン) 

○三匹目 ムートン
ムートンは全身灰色の雄猫。生まれたときから名前はムートンだ。
ピアノの音に包まれた優雅な生活をしていたが、ある日突然真論君家の猫にされてしまう。
一杯食わされてアジの唐揚げを食えないようにされ、缶入りのエサも食わせてくれない。
ないない尽くしの困った家だがこれも何かの縁なので、この家で暮らすことにしたムートンであった。
(1 真論君家の猫)


 

牛野小雪の小説 既刊一覧

『火星へ行こう君の夢がそこにある』
 
『火星へ行こう君の夢がそこにある』の苦情または感想

『ドアノッカー』
 
『ドアノッカー』の苦情または感想

『蒲生田岬』

『蒲生田岬』の感想または苦情

『グッドライフ高崎望』

『グッドライフ高崎望』についての感想または苦情

『竹薮の柩』
 
『竹薮の柩』についての感想または苦言

『ぼくとリカルド』
 
『ぼくとリカルド』についての感想または苦言


『真論君家の猫』
 
『真論君家の猫』についての感想、苦言、もしくは助言

続報『真論君家の猫』はまだまだ推敲します5

『真論君家の猫』を三回まわしました。
三回目ともなると徐々に憎しみを覚えてきます。
直したところは多数、段落ごと消したところもあります。

さて、いつもは三回回せばリリースするのですが、今回はまだ納得がいきません。
出しても良いとは思うのですが、ここはあえてもう一回だけ回してみようかと。
自分の腕が拙く気になるところもあるのですが、やれるところまでやりましょう。 
四回目ですから、かなり時間がかかりそうです。

多分、次は『真論君家の猫』より凄いのは出せない気がします。
前作が自分史上最高の力み作なら、カツオとコンブの合わせダシみたいなものです。
私なんかはもうダシの抜けたカツオ節状態です。二番ダシも出ません。
 

最近知ったパソコンの便利すぎる快適機能

 ここ最近コピペばっかりしていて嫌になっていたのですが、何とかこのめんどくさい作業を楽にできないかとGoogle先生に御伺いをたてると、超便利な機能を教わりました。
 テキストは手前味噌でございます。

↓まずはこの点をクリック
一郎は宇宙船の窓から地球を見ていた。地球は宇宙の黒を背景にして、ただ一つ孤独に浮かんでいる。ぼんやりとした青白い光の膜に地球は包まれていて、その光の先に一郎がさっきまでいた地球があった。宇宙船を発射した種子島宇宙センターは小さくてよく見えないが、日本列島はちゃんと見ることができた。

宇宙船は地球を三周しながら航行速度まで加速をした。航行速度になってからは、加速のGが無くなり自由に船内を移動することができた。その時に、操縦席を離れ宇宙船の窓から地球を見たのだ。

宇宙船は地球をさらに半周して、地球を離れ、月を横切り、さらにその先の火星まで行くことになっていた。人類初の有人火星着陸をするのだ。火星に着くのは三十日後だった。●←Shiftキーを押しながらクリック

どうですか?
これを知ったとき、とんでもない歓喜が体の中を巡りましたよ。
これで 人差し指の負担軽減。スクロールで行き過ぎることも無し。
快適なコピペ生活を遅れます。 

執筆も休憩が大事

ライフハッカー/科学的に実証された、効率的に知識やスキルを身につけるコツ  

 やっぱり休みながらじゃないと書けないなって、何となく気付いていました。
厳密に測ったわけではありませんが、調べたことがあります。
一番よく書ける最初の一時間の執筆量と1日の疲労度は

15分書いて15分休む 一時間で800字 疲れはほとんど残らない
20分書いて15分休む  一時間で1000字 疲れはほとんど残らない
30分書いて15分休む 一時間で1200字 疲れがちょっと残る
45分書いて15分休む 一時間で1600字 疲れが大分残る 

やっぱり書く時間を多くとるとたくさん書ける。 その代わり疲労は残る。
まあこれは体調でも変動しますが、自分には半時間毎に書くのがちょうど良いようです。 

読者から貰った感想を内容紹介に書くのもダメ

この前本屋に行ったときに、新刊の帯に他作家の寸評が載っていたのでこれをKDPの内容紹介に入れれば多少の販促になるのではと考えて、ヘルプにメールを送ってみたが、どうやらダメだそうです。
あと、つんどく速報や読書メーター、あと自分のブログのURLを書くのもダメっぽいです。
詳しい理由はコピペしておきます。関係あるところにはアンダーラインを引いておきました。

3-1 内容紹介のガイドラインを教えてください。 
内容紹介では、ストーリーや登場人物について手短に述べるようにします。サスペンスやミステリーの衝撃的な結末にかかわるような内容について詳しく述べる必要はありません。単行本のカバー見返しや裏表紙に掲載されている文章が参考になるでしょう。その本に関する情報のみを記述してください。詳細ページのタイトル、説明、箇条書き、または画像に、以下の情報を含めることは禁止されています。
  • ポルノ、猥褻、または有害なコンテンツ。
  • 電話番号、実際の郵送先住所、Eメールアドレス、またはウェブサイトのURL
  • 在庫状況、発送可能時期、価格、注文オプション(発注用の別のウェブサイトへのリンクなど)または郵送方法(送料無料など)についての情報。
  • 本、音楽、ビデオ、またはDVD(BMVD)を利用する楽しみを損なうようなコメント(サスペンスやミステリーの決定的な筋、または衝撃的な結末を明かすような内容は避けてください)。
  • レビュー、引用、または証言広告
  • 好意的なカスタマーレビューを促すコメント
  • 広告、イメージまたはビデオの透かし、または販促資料
  • 期間が限定されている内容(キャンペーンツアー、セミナー、講演の日程など)。

    ここから引用(2014/8/27)
    KDP ヘルプ>よくある質問>出版 

『真論君家の猫』のリリース時期について

 『真論君家の猫』を二回推敲しました。短期間で二回も読むとほぼ無感動で読んでいます。
 一回通しで読んだ感想では、今作はかなりさらっと読めるのではないでしょうか。
 さて、その『真論君家の猫』ですが、出版するにはもう少し時間がかかりそうです。
 推敲というよりも別の作業に取りかかるつもりなので、三回目は後回しになりそうです。
 別の作業とは別に隠すようなことではなくて、別のブログを作ってそこに過去作のサンプルを置いておこうかなと考えているわけです。一つぐらいは全文置いて結果を観測するのもいいかもしれません。まあそれもKDP セレクトの期限が切れてからですが。
 
 八幡さん提唱の無料版というのもありますが、同じような商品が2つあるのはどうかなと思うわけですよ。それはサンプルダウンロードで済ませれば良いんじゃないかななんて。
 えっ、それじゃあブログにサンプル載せるのは?ってことですがAmazon とは別方向からのチャンネルがある方が良いんじゃないかなって思ったわけです。
 まあ、とりあえずやってみますわ。  

 ああ、そうだ。『真論君家の猫』のリリース時期ですが9月5日を予定しています。それがまにあわなければ9月12日になりそうです。 

『真論君家の猫』各章のあらすじ

発売前にここで各章のあらすじを紹介しておきます。
これを読めば実際読まなくてもいいかも。
読むときの道しるべになれば幸いです。

○二匹目 ミータン
ミータンは金目の黒猫。ヒゲや肉球まで黒い。普通の猫より手足や尻尾が長く、
首には赤い首輪を巻いている。以前はクロスケと言う名前だった。
ある日突然捨てられたところを真論君に拾われて彼の猫となる。
(1 ぼくはミータン)

真論君家(芋と野菜を育てる家)の猫となったミータンが不定の世界を歩き始める。
隣の猫のサバトンさんに裏山で開かれる竹林集会に導かれて様々な猫と出会う。
知識派の猫達と交流して知識を深めるミータンだが、最古老チャトランさんの死を
きっかけに自分の死について考え始める。そんなミータンに死の影が迫る。
(2 子猫から成猫へ)

死の淵を脱したミータンは知識派から離れて野良の真似事を始める。
狩猟派のジロスケに教えを乞い、畑のスズメを狩れるようになる。
やがて、ジロスケとも肩を並べられると称されるようになるが、
竹林集会に猫を食う凶暴な黒犬が現れる。その犬はミータンとジロスケでも敵わなかった。
ミータンは黒犬を退治するためにアラーニャンを訪ねる旅に出る。
(3 屋根から野良へ)

旅の途中で黒猫と白猫の争いに巻き込まれたミータン。
白猫達は5年前に風鈴公園から猫達を追い出した暴虐な猫達だった。
ヨリサブロウとツネクロウは河川敷に猫達を集結させて戦機をうかがっていた。
そんな中、白猫を束ねていたキヨカズが謎の死を遂げる。
これを機にヨリサブロウは河川敷の猫達に風鈴公園を攻める号令を下す。
保元町で黒猫と白猫の運命が決まろうとしていた。
(4 野良から屋根へ)

ミータンは平成町に帰りふたたび真論君家の猫になる。
黒犬の脅威が無くなった竹林集会で旅を完遂させたミータンはその名を上げる。
思いを寄せるシラコさんとも仲良くなった。
チャコさんに誘われてシラコさんとバーガー屋へ行くと、
帰り際にミータンはシラコさんと三日後に二匹だけで逢うことを約束した。
(5 恋心が恐怖心へ)

物語はいきなり数年後に飛ぶ。
ミータンも老猫となり、竹林集会の猫も年下ばかりになった。
ある日、変わらない風景を探しに散歩中へ出かけたミータンは
名前も主さんも自在に変える雌猫に出会う。
猫の集会から足が遠退いたミータンは人間の集会を観察することにした。
(6 最期のミータン)

○三匹目 ムートン
ムートンは全身灰色の雄猫。生まれたときから名前はムートンだ。
ピアノの音に包まれた優雅な生活をしていたが、ある日突然真論君家の猫にされてしまう。
一杯食わされてアジの唐揚げを食えないようにされ、缶入りのエサも食わせてくれない。
ないない尽くしの困った家だがこれも何かの縁なので、この家で暮らすことにしたムートンであった。
(1 真論君家の猫)

『真論君家の猫』の初稿が完成

やっとやっとで初稿を書き上げた。
今回はかなり難しい話を書いた。それでいて読むのは簡単。分かる人だけ分かれば良いというかなりわがままな話。

今作を書くにあたって考えたのは、人に媚びたものというのは面白くないんじゃないかということだ。
前に『竹藪の柩』と『ぼくとリカルド』の短編2つをほぼ同時に出して、どっちが売れるかを試してみた。
事前の予想では『ぼくとリカルド』が売れまくると予想。それというのもこっちは読者に媚び媚びの気持ちで書いたからだ。『竹藪の柩』なんてお情けで1冊ぐらい売れるかなという勝手な気持ちで書いた。
しかし、フタを開けてみれば後者の方が20倍以上売れた。
たぶん冊数でいえば今までで一番売れたと思う。

両者の結果が鮮明になった頃には冒頭を少し書き始めていたのだが、よしそれじゃあ今回は思いっきり振り抜いて、思いっきりわがままに書いてやろうと決めた。自棄みたいな物だ。
そのせいか、当初考えていた物とは全然違う物に仕上がった。

今回は『真論君家の猫』という話なのだが、明らかに『吾輩は猫である』を意識して書きはじめた。
ネタは今作のために去年の10月からちびちびと貯めてきたものを満を持して出す感じだった。 
本格的に取りかかったのは5月からだが、本腰を入れていない期間をはめるとほぼ1年構想の話だ。 
原案では真論君家の猫が見た真論君というのが話の流れだったのだが、主客転倒して猫が中心の話になった。それだけにボツになった話や設定も多い。今でもガッカリしているが、どうやっても話に組み込めない。
 
話の筋を変える前から今の自分では絶対に最後まで書けないだろうと不安だったが、未来の自分なら書けるだろうと信頼してずっと書いていたら、意外と書き通せた。
今日は3割ほど推敲を進めたのだが、今のところ100%に近い。ラストで未熟さが出るかもしれないが、たぶん高崎望より良い。これより凄いのは、たぶんしばらく書けない・・・・ってのは高崎望の時にも書いたっけ。
まあ超自分勝手に書いたのだから、そうじゃなきゃ困る。

来月には出せると思います。
それまでは乞うご期待。

牛野小雪より

あと一押しが踏み出せない

もうじき初稿が完成する。最後の最後、どん詰まりのところまできた。
ここまでためてきたのを消化していくだけだから、書くことはほぼ決まっている。あとは気力の問題。今書いている章の最後1行はすでに頭の中にある。
正直な話、その1行が頭に閃いたときは声を出して泣いた。
小説はそこで終わりではないのだが、ほぼ終わったような物だ。 
たぶん労力的には軽い場所なんだけど、それを書くには断固たる精神力が必要だと感じている。
いよいよあと4千字でそこへ行くとなったとき、はたと手が止まった。
絶対に書けることは微塵も疑っていないのだが、どうしても気力というか覇気というか、こう書いてやろうって気にならない。
一時間机に座って書きあぐねたので、今日はひとまずパソコンの電源を切った。
もし明日気力が戻ったら、とっても楽だが気の重い文章を書かなくてはならない。

『イージーライダー』を観た

kindler ならhuluアプリが超オススメ。
月額千円ほどでナショナルジオグラフィックやウォーキングデッドが見える。それと旧作の映画も。
見ない時は最長12週間でアカウントホールドできる。この間は動画を見ることはできないが、課金されることもない。

ついこの前『イージーライダー』を見た。言葉だけでは結末を知っていたのだが「えっ、このタイミングで?」と驚くような終わり方だった。まさに衝撃のラスト。あれには賛否両論あるようだ。
エンドロールの間に色々考えてみると、なかなか面白い考えが湧いたので、ここに雑感を書いておく。


物語はとっても暗喩的で自我の旅を暗示している。
この映画の主人公ワイアットとビリーは自我をメタファーしている。
ワイアットが精神的な自我で理想的、でビリーは肉体的な自我で衝動的。
物語の冒頭で二人は麻薬取引で大金を得る。それを元手にバイクに乗り謝肉祭(文化的な背景がよく分からないが、有名な祭りっぽい)を目指す。ここでBGM にかかるのが『born to be wild』ワイルドに行こう と訳せるが、物語的には私は生まれたてと訳す方が良い気がする。

ワイアットとビリーが始めに立ち寄るのは農業を営む家族の家。
古臭いながらもお互いに信頼し合っている家族像が映される。
地面に根を生やして、自然の恵みを受けて暮らしているのは、
幼児期の自我で親の愛情たっぷりの環境を暗喩している。
しかし、いつかは子供が成長するように二人もその家を後にする。

次に立ち寄ったのはヒッピー達のコミューン。
ここにいるのは若者だけで、親らしき人もどことなく友達っぽい雰囲気だ。
彼等も地面に根を生やして暮らそうしているが、種を蒔いている場所は乾いた砂地。目は出そうにないし、仮に出たとしても実りを期待できそうにない環境だ。
これは子供達だけの社会を暗喩している。
俗に言う秘密基地を作って遊んでいるような頃(最近の子供にもそういう場所ってまだあるのか?)。
ギャング期とも言うそうだ。
自分達では世界を作っていると思っているが、現実には成立しない仮の世界。
秘密基地がいつかは放置されるように二人はコミューンを後にする。

次に立ち寄ったの町ではパレードの参加して、警察に捕まり留置場にぶちこまれる。
アメリカでは12年制のはずで、中学生はなかったはずだが、ここからは日本でいう中学生時代を暗喩している。
自我が発達してきて、学校の環境が窮屈に感じられてくる頃。
周りの人間からは白い目で見られたり、外見をからかわれたりするようになる。

ちなみにここからは弁護士を後ろに載せて旅をするようになる。
彼の話やその身の結末は思春期特有の物を現している。
UFOの話を真面目に語るのは中二病。
アメフトを諦めた話はヒーロー願望の挫折。
最後に弁護士自身が殺されるのは勉学での挫折といったところか。

彼等が最後に立ち寄ったのは娼館(知らない子はお父さんかお母さんに聞いてみよう)。
ここで二人の娼婦と謝肉祭を楽しそうに練り歩く。
朝まで歩き回ったあと、彼等は墓地でLSD という薬物を吸引する。
ここでは一転感傷的な雰囲気がずっと続く。
これらは思春期真っ只中の恋と冒険を象徴している。

さて、物語の最後に話を進める前にここで少し話を変える。
ワイアットとビリーが走り抜けてきた道だ。物語の始め、彼等はカラカラに乾いた白い砂漠を走っていた。旅が進むにつれて緑が増えてきて、最後には川まで出てくる。これはアメリカ社会(私としてはアメリカだけでは無いと思う。成長するにつれて自我が触れる外界であろう)の豊かさを象徴している。

その道を走り続ける二人に一台の車が近付いてくる。
オンボロで埃を被った、しかし超実用的なトラックだ。
そのトラックに乗っているのは髪を切り揃えた若者と中年の男。
ワイアットとビリーは中年の男に遊び半分で撃ち殺される。

トラックとショットガンは学校を卒業したあとに触れる社会の象徴。
彼等は学校よりも強力で自由気ままに振る舞いを決して許さない。
社会の力はあまりに強力で遊び半分の軽い気持ちで、個人の自我(映画内の言葉を借りれば自由)を刈り取っていく。

自由を謳うアメリカも実際のところははみ出しや逸脱を許さない全体主義じゃないかという皮肉が込められている。
映画ではアメリカアメリカというが、これは現代の日本でも当てはまるんじゃないだろうか。
学校でも社会でも個性個性というが、本当のところ個性的な人間が現れると、その芽は早いうちに潰されるだろう。潰れなきゃ死ぬかドン底まで落ちなきゃならない。
イージーライダーは息の詰まりそうな世の中じゃ、きっと最後には自我を撃ち殺されるぜ。それもいきなりズドン!ってことを暗喩した映画だった。

所詮人間というものは自分のフィルターを通してしか物事を見ることができない。だからこんな事を考えたんだろうな。多分作者の意図とは別物で私の勘違いか偶然だと思う。

2014年7月の牛野小雪

音楽業界の衰退

ぶっちゃけDLだとほとんど利益がないんだ/スガシカオ

 出版業界よりも先に電子化の波に襲われた音楽業界はかなり厳しいようだ。スガシカオさんですらこのレベル。
 ほとんどのアーティストはCDやDLではほとんど利益が出ないのでライブで稼いでいるらしい。昔はライブ主体で儲けていたという(後退したってことだよね)が、これから出てくる人で黒字化できるほど人を集められる人って出てくるんだろうか?
 ライブで儲けるには客単価を上げるか客数を増やすかしないといけないが、知名度のない人は客単価を上げることもできないし集客力もない。それとは逆に知名度のある日とは客単価も上げられるし集客力もある。功罪あるだろうがやっぱり知名度は力だなあと思わされる。
 この前ちらっと見た音楽番組を見た感じでは過去に人気のあった人か現代のアイドルしか出ていなかった。このままの流れだと将来的にはいわゆるアーティストという人種がかなり少なくなり、アイドルだけが残るのではという気がする。見た目は即効的で強力な宣伝効果があるからね。

 どうやったら知名度が上げられるんだろうか(もちろんプラスの方向で)?それが分かれば苦労しないのにな。

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【こどものどうわ】プリプリものがたり ※対象年齢 小学生低学年未満

ぷりぷりものがたりのコピー

プリプリものがたり

さくしゃ:カウフィールド

 

むかし、むかし へいあんじだい。

あわの こくふ というまちに プリスカという おんなのこ がいました。

かのじょは としごろの うつくしいむすめでしたが おかあさんにきらわれていたので

まいにち トイレや だいどころの そうじを させられていました。

おかあさんはいいます。

「ほら、かおがうつるまで きれいに みがくんだよ」 

プリスカは しぶしぶながらも おかあさんの いうとおり トイレや だいどころを

かおがうつるまで ぴかぴかに みがきました。

 

さて そんな あるひ かのじょの いえの まえを ぐうぜん きこうしが とおりました。

かれは うだいじんのむすこで スケコマシン という かっこいいおとこです。

いえのなかの うつくしい プリスカを みつけて かれは ひとめぼれ しました。

また プリスカも かれを みて ひとめぼれ しました。

それいらい ふたりは ひとめを しのんで ひみつのデートを しました。

ひにひに なかよくなっていく ふたりですが それを きに いらないひとがいます。おかあさんです。

おかあさんは ふたりの なかを じゃましようと あるけいかくを たてました。

 

プリスカのすむまちには ケムクジャルという らんぼうものが いました。

かれは かみのけがもじゃもじゃ すねげはボーボー えりのすきまから むなげがとびでています。

おかあさんは かれのところへいくと いいました。

「ケムクジャルさん、あんた およめさんが ほしくないかい?」

ケムクジャルは こたえました。

「うん、ほしいことはほしいが、おれのようなけむくじゃらに よめにくる おなごなど おるまい」

おかあさんは いいます。

「それじゃあ、わたしのむすめの ぷりすかは どうだい?あのこは おまえさんのことが すきだそうだよ」

ケムクジャルは いいます。

「ばかを いうんじゃない。ぷりすかの ことは しっているが かのじょが おれを すきになるはずがないだろう」

しかし、そんなことであきらめる おかあさんでは ありません。

「いいや、それが ほんとうのことなのさ。あのこは はずかしがりやで きもちを おもてに ださないこ だけど ははおやの わたしには ちゃんと わかっているんですよ」

 

にわかに しんじられないはなしですが、プリスカのははおやが いうことなので ケムクジャルは けっきょく そのはなしを しんじました。

ケムクジャルは いいます。

「けっきょく おれに どうしろと いうのだ」

ははおやは いいました。

「あのこを よめにして このいえに むりやり つれかえってしまいなさい」

ケムクジャルは さらに いいます。

「なぜ そんなことを しなければ ならない」

ははおやは こたえます。

「あのこは すなおじゃないから きもちを かくしているけれど わたしには すべて おみとおしなのです。あのこだけが おまえをすきなら ほうっておいてもよかったけれど りょうおもいなら くっつけてあげなきゃ かわいそうだよ。あんたは ぷりすかの ことは すきなのかい?」

ケムクジャルは かおを まっかに しながら うなずきました。

それを みて ははおやは ケムクジャルに いいました。 

「あのこは ほんんとうに すなおじゃないから あんたの ことを きらいだって いうけど けっして しんじちゃいけませんよ。あのこの ばあい きらいだってことは すきってことなんですから。もしあのこが きらいだって いえば このいえに もちかえりなさい。それとは はんたいに すきだと いえば あきらめて かえりなさい」

  

みっかご ケムクジャルが プリスカを ごういんに さらうひが きました。

おかあさんは おとうさんを うまく いいくるめて おとうさんといっしょに プリスカを のこして となりまちへ でかけました。

いえには プリスカ ひとりだけです。
そのひは スケコマシンが プリスカの ために べっこうのかんざしを もってきてくれる やくそくを していたので なんて ぜっこうのひ なんでしょう と プリスカは ないしん よろこびました。
 


よるに なって あたりは くらくなりました。 

すると いえに ひとりの おとこが やってきました。ケムクジャルです。

かれは いえの とびらを あけようと しましたが、プリスカが ちゃんと とじまりを していたので かぎがかかっています。

ケムクジャルは いいました。

「おーい、あけてくれー」

こえを きいた プリスカは げんかんまで いくと いいました。

「どなたでしょうか」

ケムクジャルは こたえます。

「おお、そのこえは プリスカか。おまえの だんなに なる ケムクジャルだよ。おまえを むかえにきたから ここを あけてくれ」

そのこえを きいた プリスカは ケムクジャルの みにくい すがたを おもいだして からだが ふるえました。

かのじょは こたえます。

「わたしは あなたの およめさんには なりません。だって あなたのことは きらいですもの」

プリスカに きらいと いわれた ケムクジャルは おちこみましたが すぐに おかあさんの いったことばを おもいだしました。

プリスカは すなおではないので きらいということは すきだということで、ケムクジャルは ゆうきが わいてきました。

ケムクジャルは いいます。

「おれは おまえのほんとうの きもちを しっているぞ。おまえは おれのことが ほんとうは すきなのだ。しかし、すなおに それを いうのが はずかしいので きらいといっているのだ」

プリスカは とびらごしに こたえます。

「なにを いっているのですか。ばからしい。わたしが はっきり きらいと いっているのだから ほんとうに きらいなのです」

プリスカが なんども きらいと いうので ケムクジャルは どんどん きが おおきくなってきました。

 

ケムクジャルは もう まようことなく プリスカを いえに もってかえろうとしました。

ごういんに とびらを あけようとします。

それに きづいた プリスカは あわてて とびらに つっかえぼうを はめたり いりぐちに タンスを たおして かんたんに いえのなかに はいれないように しました。 

 

ケムクジャルは らんぼうもので ちからが つよいのですが さすがに つっかえぼうを はめた とびらは あけられません。

かれは とびらごしに いいました。

「おお、プリスカ。うつくしい プリスカ。おまえを およめさんに できて おれは しあわせものだ。おれは まえから おまえの ことが すきだったのだ。だから ここを あけてくれ」

プリスカは いいます。

「あなた ひとちがいでは ありませんか。わたしは ぜったいに あなたの およめさんには なりません。もし いえのなかに はいってきたら ほうちょうで あなたのからだを さしますよ」 

ケムクジャルは かんがえました。けっして あなたの およめさんに ならないという ことは ぜったいに あなたの およめさんになるということだ。

あまりに うれしくなって ケムクジャルは おおいに わらいました。

それとは はんたいに プリスカは おそろしさで からだが ふるえました。

 

 

とびらごしに ふたりが いいあらそっているうちに ちょうど スケコマシンが かのじょの いえに やってきました。

プリスカは かべのすきまから かれが きたのを みたので、ああたすかったと おもいました。

かのじょは おおごえを だして いいます。

「あなた わたしがすきなあなた。わたしは あなたのかおを まぢかで みたいのですが いまは このいえを でられませんの。どうにかしてください」

そのこえを きいた スケコマシンは いったい なにごとかと かのじょの いえを みると、そこには らんぼうものの ケムクジャルが いるではありませんか。

どうやら かれは ごういんに かのじょの いえに はいろうと しているようです。

じぶんのちからでは どうあがいても ケムクジャルには かなわないし はなしあいを するにも かれの しょうめんに たつところを そうぞうしただけで とてもおそろしくて できそうにありません。

それどころか まだかれに なにかされたわけでもないのに スケコマシンは なみだを ぽろぽろ ながしました。
おまけに もってきた べっこうのかんざしまで じめんに おとして しまいます。

それを みた プリスカは なんて ふがいのない おとこなんだろうと ぷりぷり おこりました。

 

プリスカと ケムクジャルは あける あけないの もんどうを なんども くりかえしました。

スケコマシンのすがたは いつのまにか ありません。あるのは べっこうのかんざしだけ。

ずっと いえのそとに いたので ケムクジャルも だんだん つかれてきました。

それに いまは なつですが あきのちかいきせつでも あったので よるのかぜは つめたく ケムクジャルの からだは しんから ひえてきました。

からだは ふるえるし おなかも ひえて いたくなってきました。

ケムクジャルは とびらごしに いいます。

「プリスカ すまないが ここを あけてくれないか。ちょっと トイレを かしてほしい」

プリスカは いいます。

「どうして あなたに トイレを かさなければ ならないの?」

かれは こたえました。

「もう げんかいだ。はやくしないと もれてしまうんだ」

かのじょは いいました。

「それなら あきらめて あなたの いえの トイレで どうぞ。わたしの うちの トイレは かせません」

ケムクジャルは くるしそうに いいます。

「いや とても いえまでは もちそうにない。どうか ここを あけて トイレをかしてくれ。それに かさないということは かしてくれるということ じゃないか」

プリスカは ぴしゃりと こたえます。

「いいえ わたしが かさないと いえば かさないという いみです。それいがいの いみは ありません。それに わたしが あなたを きらいと いえば きらい なのです」

ケムクジャルは いいます。

「わかった。わかった。おまえが きらいでも なんでも いい。とにかく いまは ここをあけて トイレを かしてくれ。そうしたら きょうは かえるから」

しかし、とびらのむこうは しずかなまま です。

 

ケムクジャルは なにも いわなくなりました。

プリスカは とびらのむこうが しずかになったので ケムクジャルが どうなったのか わかりません。それで とびらに みみをつけて おとを きいてみました。

すると じめんに あしをすりながら だれかが もがいている おとが します。

まだ とびらのむこうに ケムクジャルが いるのをしって プリスカは いやになりました。

いっそのこと とびらをあけて ほうちょうで さしてやろうかとも かんがえましたが らんぼうものが あいてなので やっぱり そのかんがえは むねに しまいました。

だんだん もがくおとは ちいさくなっていきます。

もしかすると そとのさむさで かれが しんでしまったのかと プリスカが おもったそのしゅんかんに とびらの むこうから ケムクジャルの こえが きこえてきます。

「あっ、あっ、あっ」

という こえに あわせて

「ぷりっ、ぷりっ、ぷりっ!」

と おとが します。

さいごに ケムクジャルが

「あああああああ~」

と ながく こえを だすと

「ぷりぷりぷりぷり~」

と ながく おとが つづきました。

 

また とびらのむこうは しずかに なりました。 

それから もうしばらくすると あしを ひきずるような おとがして いえを はなれていきます。
プリスカが そっと とびらを ひらくと ズボンを ちゃいろに よごした ケムクジャルが さびしそうに あるきさる ちいさな うしろすがたが みえました。

 こうして プリスカは おかあさんの やぼうを うちくだき ケムクジャルの てから うまく のがれたのでした。

めでたし、めでたし

(おしまい) 

牛野小雪の小説はこちらへ→Kindleストア:牛野小雪


 

『KY /月狂四郎』痛快さに振り切ったノーガード戦法


 突っ込みどころ満載という触れ込みでしたがその言葉に偽りなし。
 マジキチ建材に務める狂山が社を牛耳るマジキチ四天王を順々に倒していく話。ビジネスで決着をつけるんじゃあありません。殴り合いで決着をつけるんです。それで勝ったら社での地位が上がるアホみたいな設定(大丈夫か、この会社)。
 初っ端の久米戦からハチャメチャで、相手はフォークリフトに乗って殺そうとしてくるキチガイ。戦いは倉庫に積んである合板の山を崩壊させながら進んでいく。
 おいおい、戦いが終わったらどうするんだよ。ひょっとして夢オチかと突っ込みながら読み進めると、負けた方が全ての責任を負うという謎の弱肉強食ルール。勝った方はおとがめ無しである。
 この調子で次々現れるマジキチ四天王を、周りを巻き込みながらぶっ壊していく怒涛の痛快ストーリー。読んでいて気持ちが良かった。




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高崎望の創作ノート チラシの裏篇 その2

元の記事
高崎望の創作ノート
http://blog.livedoor.jp/cowfieldtinysnow123/archives/8078174.html

1.2章(二年生 愛梨マイラヴ)全体を書き直した案
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2.2章の起。この時になってやっと舞が出てくる。一応舞のような存在は想定されていたが、物語に絡んでくる人物ではなかった。愛梨の性格は舞と愛梨を足したものだったが、一人の人間に納められないと感じたので2人に分割。その結果望、透、愛梨、舞の四角関係が出来上がる。2章では望と愛梨、透と舞が付き合うようになる。どうしてそうなったのかは作中では明かされていない。問題は望の心情なのだから、それが分からなくても楽しめるようには書いたが、気になった人は中央に書かれている『冗談の中に真実を』という言葉が謎を解く鍵。
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3.承。透と河川敷で決闘をした後に望が愛梨に振られる。
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4.2章後半をもう一度書き直し
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転の部分がない。


5.2章の結。愛梨に振られてからの大団円へ。
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6.3章
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7.3章続き
3章ACT3

書き進める毎に初期案からは遠ざかった。そのたびに構成を書き直したので、結果的には別物となった。だからといって創作ノートを作ったのが無駄とは思わない。初期案があったからこそ、それを踏み台にして発想のジャンプを得られたのだと思っている。


8.何故途中からチラシの裏がきれいになってきたのか。それはこれがあるからだ!
BlogPaint
リアル雑感帳システム!これに書き込めばチラシの裏を紛失することなく後に読み返すこともできる。
軽い日記帳を兼ねているので中身は見せられないが、このシステムを採用してからはずいぶん考えがまとまる気がしている。

高崎望はかなりかっちりした作りだが反応はいまいち薄い。
時間の問題があるとはいえ一番出来が悪いと思っているドアノッカーが今までで一番反応が良くてツイッターやAmazonにもレビューがついた。いまもって納得がいかない。
きっと何か魔物が住んでいるんだろう。次はもっと別な物を書いてみたいと思っている。







高崎望の創作ノート チラシの裏篇 その1

以下の物は実際にパソコンに向き合う時に脇に置いておく覚え書きみたいなもの。
チラシの裏や、コピー用紙の裏を使用した。

1.1章 起の構成を書く
2014-06-12-181550

左端にへなへなの斜め線で区切り別1と書いてある。この部分は序章の3年生 中学卒業? の部分。
右上に5000と書いてあるのは15000。1が細くて写っていないだけ。あの部分は独立した章ではなく、2000字ぐらいで流すはずが2万字を越えてしまったので独立の章とした。この時から初期の構成が崩れ始める。

2.上記の別1。右に15000?と書いてあるが、この時はどれだけ続くか自分でも想像がつかなかった。結局2万字を越える。この章を書き終わった頃から執筆をしながら全体の話を書き直し始める。
2014-06-12-182104

3.元々の1章起に戻ってくる。中間テストで赤点を取るところまで。小林くんの名字は小松だったが、何故か小林に変名。小松姓は愛梨になる。ちなみに愛梨は元々松本という姓だった。
2014-06-12-182117

4.1章の承。外道高校の不良に財布を取られて、警察も頼りにできないと知る場面。また赤髪との因縁が始まる部分でもある。また、ここでのシーンが2章の愛梨、3章の小林くんとの仲直りへの伏線がある忙しい場所。最後は井上さんがゲーセンのビルの階段踊り場で外道高校の不良を3人倒して終わり。
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5.1章の転。井上さんのレクチャーから始まり、望がリーゼントとなり、ゲーセンのビルの階段踊り場で外道高校の不良3人を倒して終わり。
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6.1章の結。赤髪と過去の精算から始まる。ここで上級生に丸坊主にされると脅されるシーンがあるが、これは後に3章で丸坊主にさせるのだが、その時に唐突な印象を与えないためである。同じ仕掛けは蒲生田岬の正人が2度後ろへこける描写と同じである。高崎望では同じ仕掛けがまだあるが奇特な人がいれば再読の時にでも探してみてほしい。すぐに見つかるのは最初の方にある。丸坊主の描写は1章内では望を追い込む仕掛けとして使われている。
2014-06-12-181805
中央下の○は外道高校の印。書きながら望が倒すごとにレを入れた。
右側にいっぱい書いてあるのはどうやって外道達の嘘を見抜くか必死で考えたあかし。
結局、論理的に嘘を見抜く方法を見つけられなかったので、上級生の漏らしたほんの些細な一言から偶然馬脚が現れるという方式にした。


チラシの裏 その2へ続く
高崎望の創作ノート チラシの裏篇 その2


高崎望の創作ノート

最近蒲生田岬の創作ノートの記事が伸びている。どうやら創作の道を迷う子羊がいるらしい。
しかしながら、自分自身が絶賛書き悩んでいる最中なので、こっちも他人の創作ノートを見たい気持ちだ。
まあ、かいより始めよとう言葉もあるし、創作ノートに一定の需要があるようなので高崎望の方も載せておくことにした。



1.全体の素案。二年生の題は当初 just give your kiss!  だったのが愛梨マイラヴに変更されている。ギザギザで囲まれているので当時はよっぽど固い決意があったと思われる。
2014-06-12-180705

この時点で
○小林君と透を望のシャドウとして書くこと
○外道高校にやられてリーゼントになること
○愛梨が彼女になる
○大学受験をすること
○毎年両親の結婚記念日と渓流釣り書くこと
は決定していた。
素案だけに相違点も多い。
この時点では井上さんの名前が黒川さんになっていて、2年生の時に学ランを継承することになっていた。裏地には曲がりくねった古木の梅に虎が伏せて唸っている絵が刺繍されている。3年生の不良をやめた時にこの学ランは封印されるが、大学受験の時に裏地を胸ポケットに入れて、勇気を得るという発想があった。ドラマチックな展開だが、3年間成長させた望にその描写を入れるとかえって軟弱に印象になりそうなので、実際には何も持たせずに文武大学へと行かせた。学ランの設定も没とした。


2.各章で書くことの確認。この時は3幕構成だった。左下は人物相関図。この時まだ舞は出てこない。
この頃はまだ望が不良の道へ振り切り、外道高校とゲーセンの覇権を取り合うという話だった。
その因縁で大学受験の時にもう一騒動ある予定だったが、それは没案とした。ゲーセンにはビリヤード室というゲーセン内でもさらに隔絶された場所があって、そこで2章の愛梨の場面を書こうとしたが、これも書く直前に煩雑すぎるということに気付いて没とした。
2014-06-12-180724

3.一章(一年生 喧嘩上等!)の構成を仮書き。このシーンにはどういう意味をもたせるかの確認。学ランのランはランダの略で洋服という意味らしい。
2014-06-12-180408

4.全体の構成を仮書き
2014-06-12-180425

5.上記のノートを元に1、2章の構成をまとめる
2014-06-12-180441
6.3章の構成をまとめる。右は各施設の大まかな地図。それと雑感。
愛梨が陸上部でくるぶしまでのソックスにシュッとしたシューズを履いているという文章を書きたかったようだ。予定より話が伸びたので部活の話は削った。
2014-06-12-180522


ノートはここまで。ブログデザインの関係上で画像右端が切れています。写りは悪いですが気になる人はクリックして別画面で開けば全てを見られます。

次はチラシの裏篇へ続きます。
高崎望の創作ノート チラシの裏篇 その1


牛野小雪の小説はこちらから→Kindleストア:牛野小雪


kdp 名鑑にショートショートを投稿しました

kdp名鑑さんにショートショートを投稿しました。
題名は『一吸い百円億万長者』
ずいぶん俗っぽいです。内容もそうです。
植木鉢に『一吸い百円』と書いたら木に虫が来なくなった。
もうしばらくするとまた虫がたかりはじめた。
たかられた分だけ金運が廻ってきたというお話です。

KDP名鑑/一吸い百円億万長者
 http://kdp.jpn.org/?p=2697   

月狂さんの作品もあります。
KDP名鑑/こわすぎるじゆうけんきゅう
http://kdp.jpn.org/?p=2718
 

2014年5月の牛野小雪

俺「先生、執筆中にやる気が無くなったらどうすればいいですか」漱石「さっさと寝ろ」

 ある人が、夏目漱石に「執筆のとき、やる気が無くなってふて寝してしまうことがあります。どうやってこの妨げをなくしたらいいですか」ときいたところ、漱石は「やる気があるときに書きなさい。私なんかはしょっちゅう昼寝してる」とお答えになったのは大変尊いことであった。
 また「小説は、確かにできると思えば確かにできることであり、不確かだと思えば不確かである」と言われた。これも尊いことである。
 また「疑いながらでも執筆すれば完成する」とも言われた。これもまた尊いことである。


 上に書いたことは全て作り話で、徒然草39段『或人、法然上人に』を冗談に改変したものです。しかし、全くの嘘とも思われないので、ここに書いておくことにしました。

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メロスまっぱだかー

メロスはまっぱだかー

走れメロス
太宰 治
2012-09-27



しょせんは二番煎じ。いや、三番煎じかもしれない。甘い目で読んで欲しい。


メロスは激怒した。

太宰治が書いた走れメロスの有名な冒頭の一文。さて、彼は何故怒っていたのでしょう?
次はこう続きます。

必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。




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2014年4月の牛野小雪

グッドライフ高崎望~自分史上最速の感想を貰う~

 朝起きると深夜に直接メールが来ていることに気付いた。それも数件。出した人は同一人物のようである。最新の物から読んでいった。要約すると『どうしてくれるんですか』という苦情だった。時間を見ると夜の4時を越えていた。
 次のメールは『あなたよくもこんな小っ恥ずかしいのを書きましたね。牛野さんがこんな物を書くなんて思わなかった』とある。
 さらに今度は『マジでヤバい。凄い引き込まれて全然眠れません』という苦情がまた。
 そして、最後に読んだ最初のメールは『まあ、触りだけ読んだけど、なかなか良いですよ』との誉め言葉だった。

 まさか、こんなに早く感想が来るとは思っていなかった。なにせ夏目漱石の虞美人草ぐらい長い。書いた本人でも3日かかったのだから、読者なら3週間ぐらいだろうと予想していた。
 徹夜して読みたくなるぐらい心の琴線に触れた物を書けたと思うとちょっと嬉しい気分がする。最低一人でもそういう人がいてくれたのなら、作者としてこの三ヶ月が無駄ではなかったのだと安心した。
 それと感想を貰うことはちらほらあるけれど、こんなに速いのは初めてだった。これもありがたいことである。 
 気を良くしたので、もうちょい無料期間を伸ばそう思います。5日まで。

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きんどうの片鱗を味わう

きんどうの片鱗を味わう

 昨日書いた物をきんどう氏が雅量をみせてTwitterで拡散してくれた。てっきり怒られると思っていたので、こんなこともあるんだなと関心した。
 さて表題通り、きんどう氏のワンツイートがどれくらいの拡散力があるか。これはある意味驚きと同時に納得のいく結果であった。普段は一桁の訪問者数がTwitterで拡散された瞬間に余裕で2桁を越えた。なるほどこれが電書界の有名人かとビビったがそれだけでは終わらない。人の流れはまだまだ止まらずに夜には3桁を越えた。初めて感じる人の流れにちょっと空恐ろしくなる。
 
 凄いなあと関心しながら床について、朝になってもまだ人が来ていたのには驚いた。昨日、今日と流れてきた人の数で気付いたことがある。それは無料キャンペーンをした時のダウンロード数の流れとほぼ一緒だということだ。まあ、考えてみればそりゃそうか。無料キャンペーンしたら初速は大体あそこ経由だもんな。
 でもワンツイートでここまでやるということは100回つぶやけば万単位の人が動くってことで、これって凄いよな。
 
 

『ワールド・ウォー・わなび/月狂四郎』~KDP作家は自立しよう~

『ワールド・ウォー・わなび/月狂四郎』

 まずは苦情を言いたい。
 月狂さんに書評を貰ったので、ウフフと良い気分で彼のblogを再度訪問した時に、ふと気になって『月狂四郎』をAmazonで検索すると、新着でこの本が一番上にあった。
 ふむふむ、これが前々から言っていたヤバイ本だろうかと、作品のページへ飛び、内容紹介を読見始めた瞬間に、これはヤバイと直感した。別名で出せば良かったのにとも思った。
 妖しい魅力に引かれて、ふと気付くとダウンロードしていた。
 本当は今日も執筆して、夜にでも読もうかと考えていたのに、それを打ち遣ってこれを読んでしまった。読んでしまうと今日はもう書けなくなってしまった。どうしてくれるんですかと(笑)


 内容は某サイトのKOW杯を発端にして起こったとある事件の内側に迫っていくルポタージュ風文学。騒動の関係者を記者がインタビューしていく。
 KDP界隈で活動している人は「ああ、あれね」と分かるはず。
 これはあの人。これは誰だろう?そんなことを妄想しながら楽しみました。
 例の方は月狂さん本人ですよね?実を言うと私もあの騒動で月狂さんを知った口です。具体的には権当さんのツイートからです。もしそれが無ければ、ずっと知らないままだったのでは?という気もします。
 それにしても前作『泡姫ありえない』に引き続いて、また騙されました。このまま下衆い好奇心を満たして終わるのかと思いきや、後半からはKOW杯騒動の裏側が暴かれます(もちろんフィクションですよ)。なるほどそういうオチになるのかと、すっきりしました。

 下衆い好奇心で手を出したけれど、考えさせられることもありました。
 わなび(私も含め)からスターダムへのしあがるには、結局最後は自分の力でやり遂げねばならない。『ジーンマッパー』の藤井さんなんかは過去のインタビュー記事を読むとちょっと真似できないくらい努力している。梅原さんも表に出ないだけで、きっと何かやっていたに違いない。それに続く人もやはりそうだろう。作家ではないがきんどうさん自身も初期はかなり苦労していた。
 権当さんのモデルこときんどうさんがKDP界で大きな影響力を持つのは作家自身の他人に頼ろうとする依頼心が為せる業で、作家一人一人が『俺は一人でもやるぞ』という気概を持てば、こんな騒動も起こらなくなるだろう。きんどう氏自身も前から『うちは利用してやる』くらいの気持ちで使ってくれと言っている。
 それに権藤さんが大きくなったとはいえ、世間から見れば彼もわなびも豆粒大の泡のような脆くて小さい存在でしかない。一朝事があれば、あのきんどうさんでさえ危機に陥ったのだから。→でんしょのうらがわ/きんどるどうでしょうさん 過去ツイートを全削除する

 そんな小さな世界で潰しあってもつまらんだろうというメッセージもある気がした。 それよりかはお互いに利用しあって外の世界の人間を引っ張ってこよう、KDPのパイをデカくしようぜと。
 この本はきんどう杯(正確には第2回 風立ちぬ杯だそうです)の後に起こった例の騒動を元にしたブラックパロディだが、その実体は月狂さんからKDP作家に向けた『お前らしっかりしろよ』という叱咤激励ではないのだろうか?




追記 もしこれをきんどうさんがトップページで大々的に扱ったら最高にロックだと思う。

さらに追記 きんどうさんは大々的に扱わないそうだけれど、ここのページをツイッターで呟いていた。色んな噂があるけれど、心の底にはロックな心を持っているみたいで、ほんの少しだけハモってくれた。
 普段ではあり得ない訪問者数に少々ビビっている。きんどう恐るべし。

著者自身の紹介ページ
アブナすぎる新作「ワールド・ウォー・わなび」リリース

別の人の感想
ワールド・ウォー・わなびの丸木戸サキさんの感想


ワールド・ウォー・わなび
月狂四郎
電書のうらすじ
2014-04-11

 
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2014年2月と3月の牛野小雪

胃の痛みが吹っ飛んだ

っていたら、20000字越えてもその場面が終わらず、その人も出続けたので、ずっと先生で通した登場人物がいる(その場面を書き終わった後に今さら名前を付けるのも変だと思ったので、そのままにした)。
 序章が終わって、やっと1章に入ると、今度は小林君というのが出てくる。そこで、ふと気付いた。小林のイニシャルはK。つまり、今回の話には先生とKが出てくる。『こころ』と一緒だと思った。(二人の関係性は全く違うが)
 wikipediaで『こころ』を検索すると、元々は短編集にするつもりだったが、『先生の遺書』が伸びて今の形になったらしい。これも一緒だ。
 今書いている物は元々去年の暮れに著者入門&宣伝用に99円で短編3つを収めた物を書こうと考えていたのだが、そのうちの一つが予想以上に内容が伸びたので、一作にすることに決めたのだった。
 胃が痛いのも夏目漱石と同じだと思うと逆に嬉しくなってきて、体中の細胞一つ一つが燃えているようになり力が湧いてきた。そうすると胃の痛みがすっと消え去り、執筆欲がもりもりと湧いてきた。
 読むのをやめると画面をスクロールして、再び続きを書き始めた。それであっという間に1章の残りを書いてしまった。何だかんだで予想通り先週の内に1章を終わらせることができて良かったという話。
 『こころ』ぐらい凄い物に仕上がると良いのになあ。
続きを読む

『グッドライフ高崎望』のリリース記事

高崎望は14歳の秋に学校へ行けなくなった。
幸いにも担任の先生の尽力により高校に進学するが、
彼が入った上等高校は不良が集まる危険な学校だった。

他の小説と何が違うか?

『グッドライフ高崎望』は、普通の学園生活とはかけ離れたリアルな思春期の葛藤を描く、独自の切り口を持った青春小説だ。本作は、主人公・高崎望の視点を通じて、彼が高校生活へ足を踏み入れるまでの苦悩と成長を丁寧に描き出している。その物語の核にあるのは、「いじめ」や「不登校」といった社会問題であり、主人公がそれらにどのように向き合い、やがて一歩を踏み出すかを焦点にしている。

本作の独自性
『グッドライフ高崎望』が他の青春小説と異なる点は、まず第一に「心理描写の徹底」にある。登場人物たちの言動や内面を、細やかな描写を通じて読者に伝え、彼らが抱える痛みや希望をリアルに感じさせることに成功している。例えば、主人公・望が不登校に陥った理由が曖昧であり、彼自身もそれをうまく説明できない点は、非常に現実的な少年の姿を映し出している。多くの作品では、不登校の理由は具体的な事件やいじめと結びつけられがちだが、本作では理由を明確にせず、あくまで曖昧さの中に漂わせている。この「理由の不明瞭さ」は、一見弱さのように思われるかもしれないが、現実世界において「なんとなく学校に行けない」という状況がいかに多くの生徒に共通しているかを考えれば、むしろ普遍性のあるテーマだと言える。

他の作品との違い
本作を他の学園ものや青春小説と比較したときに特筆すべきは、望の家庭環境や親子関係の描写だろう。望の母親は過干渉ではなく、望の意思を尊重しようとする一方で、どこか子どもを突き放している様子が垣間見える。父親は典型的な「昭和の男親」のように、息子を叱咤激励するが、それがかえって望にプレッシャーを与え、彼の心を閉ざしてしまう。この「家庭内での摩擦」を軸に、主人公がどのように家族の期待と向き合い、またそれを裏切ることへの葛藤を抱えるかが、物語の中で巧みに描かれている。例えば、父親との対話では感情の抑えきれなさが痛いほど伝わり、その瞬間の空気感がまるでその場に立ち会っているかのように感じられる。

多くの青春小説では、仲間との友情や恋愛が物語の中心に据えられるが、『グッドライフ高崎望』はむしろ「孤独」をテーマにしている点が新鮮だ。主人公が自ら他者との関わりを避け、ひたすら自分の内面に潜り込んでいく様は、内向的な少年たちの心情を深く掘り下げている。また、作中の「不良との遭遇」や「新しいクラスでの自己紹介」といった場面においても、彼がどれだけ周囲に対して自己防衛的になっているかが丁寧に描かれており、読者は彼の視点に寄り添いながら、心の動きを追体験できる。

序盤の展開と構成の巧みさ
序盤は、望が不登校から抜け出し、やがて高校へ進学していくという「一歩前進」の物語である。しかし、彼が新しい環境に完全に適応できるかどうかは、作中で明言されることはなく、むしろ不安な気持ちのまま新しい日々をスタートさせる。その結末の曖昧さは、リアルな人生の一断面を切り取ったかのようだ。読者は彼の未来に期待を持ちつつも、同時にその不安定さに共感を覚え、自然とエールを送りたくなる。

また、構成面でも巧みさが際立っている。各章ごとに区切られたストーリーは、一つのエピソードが終わるごとに「次の一歩」を強く意識させる作りになっており、読者が「望は次にどんな困難に直面し、どう乗り越えていくのか」を知りたくなるような期待感を常に持たせている。この「続きを期待させる構成」は、物語の起伏を絶妙にコントロールしている証だ。

総評
『グッドライフ高崎望』は、単なる学園青春小説ではない。思春期の不安定な心情を丹念に描き出し、現実の少年少女たちが抱える悩みをリアルに再現した作品だ。主人公が前進しているようで、実は常に足を取られているようなもどかしさや、わずかな一歩に大きな意味を見出す様子は、私たちが日常生活で直面する困難そのものだろう。だからこそ、本作は「等身大の青春」を描いた傑作として、深い余韻を残すのだ。

他の青春小説では見られない「居場所を求める少年」の葛藤を真正面から捉え、読者に問いかける本作。読み終えたときに、望が少しでも未来を信じられるようになったと感じられたなら、それは間違いなくこの物語が読者の心に届いた証拠だ。


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試し読み

1 上等高校受験

「望君は、やればできる子だからがんばって!」


 車の中から母親が声をかけた。息子の合格を心から信じている目をしていた。どうしてそこまで信用できるのか望には分からなかった。

 二人は上等高校の正門前にいた。今日は入学試験日で、門内には親子連れの学生が何人もいたが、望は一人だけだった。

 母親は一緒に行くと、何度も言っていたが、中三にもなって母親と一緒に歩くなんて恥かしいと望は思っていた。『来たら殺す』と望は言い続けて、三日前に渋々という感じで母親はついてくるのをやめた。他の子もそうしているだろうと思っていたが、みんな親子連れで子ども一人の方が珍しいぐらいだった。

 望と同じ学校の制服を着た子が何人かいた。顔は知っていたが名前は知らなかった。数人で固まって話をしている。

 校舎の門が開いた。

「試験を受ける方はこちらへ! 保護者の方はあちらへ!」

 スーツを着た男が白い息を吐きながら大声を出した。たぶんこの学校の教師だろう。

 望が校舎へ向かっていると担任の先生が自分の生徒達の肩を叩いて言葉をかけていた。望は先生に捕まらないように、そっと通り過ぎようとしたが肩を捕まれてしまった。顔を横に向けると先生と目が合った。

「高崎、がんばれよ」

 先生はそれだけを言って望の肩を二度叩いた。望はただうなずいた。

 教室に入ると、決められた席に座った。近くに同じ制服の子が二人いて、小さな声で話していた。顔は見たことがあるが、やはり名前は分からなかった。望のことを話しているような気がした。

 受験生が全員席に着いて静かになると、その二人は喋るのをやめた。

 教室に試験官が三人入ってきて、テスト用紙が配られた。学校のテストのような一枚の紙ではなく、プリントを何枚か重ねて綴じた物だ。一番上には数学と書いてあり、その下に受験番号と名前を書く欄があった。

 時計が試験開始時刻を指すとチャイムが鳴った。

「それでは試験を開始してください」と試験官が言った。

 周りから紙をめくる音が聞こえた。望も氏名と受験番号を書くと一番上の紙をめくった。

 望はテスト前に山のような参考書を一週間で通り抜けていた。手のひらぐらいの厚さはあっただろう。今思い返すとちょっと信じられない。

 父親は仕事から早く帰ってくると、付きっきりで望の勉強を見ていた。一日のノルマが決められていて、それが終わるまでずっと望の隣に座っていた。さぼる気はなかったが、さすがに何時間も勉強していると頭がふらふらしてくる。それでも父親は休むことを許さなかった。

 机に座って何時間も勉強した。不思議とトイレに行きたいとは思わなかったし、お腹も減らなかった。父親からは燃えるような熱気を感じたし望自身も燃えるように熱かった。二人とも顔を真っ赤にして汗をかいていた。

 殺してやる。

 父親に対して何度かそう思った。それとは逆に殺されるかもしれないと感じたこともある。あと一歩何かを踏み間違えれば、本当に殺し合っていたかもしれない。しかし望はその一歩を踏まずに参考書の山を通り抜けた。

 その成果があったのか試験問題は簡単に解けた。試験時間を三十分残して全問解いてしまった。あんなに勉強していたのが馬鹿みたいだ。

 あまりに早く解けたので退屈だった。他の子も何人かが退屈そうにしている。数十分その退屈に耐えていると、数学のテストが終わった。

 十分の休憩が終わると次のテストだった。そのテストも、その次も、同じように簡単な問題だった。ひょっとすると百点満点かもしれない。

 筆記試験が終わると今度は面接だった。最初に十人が教室を出て行った。しばらくするとまた十人が呼ばれて教室を出ていく。望もその中に入っていた。

 廊下にパイプ椅子が並べてあって、呼ばれるまでそこに座っているようにと試験官は言った。パイプ椅子に座るとまだ生暖かった。

 ドアの開く音がして「失礼しました」という声が聞こえた。そして、遠ざかっていく足音。その全てがやけに廊下に響いていた。

「次の方どうぞ」

 試験官が言った。一番端にいた子が立ち上がるとすぐそばの廊下を曲がっていった。しばらくするとドアをノックする音の後に「失礼します」という声が聞こえ、ドアを開ける音がした。

 そうやって先に並んでいた子達が面接へ向かった。

 次は望の番だ。

「失礼しました」という声が聞こえると「次の方どうぞ」と試験官が言った。

 望は立ち上がり、すぐそばの廊下を曲がった。試験官が一人立っていて望を導いた。

 望は教室の前に立つとドアを三回ノックした。その後「失礼します」と声をかけると中から「どうぞ」と声が返ってきたので教室に入った。

 長い机の向こうに三人の試験官がパイプ椅子に座っていた。望は三人の前に置かれたパイプ椅子のそばまで進むと学校名と氏名を名乗った。真ん中の若そうな男が「どうぞ」と促したので望は椅子に座った。

 面接は事前に教えられた通りだった。緊張はしたが詰まらずに答えることができた。

 志望動機、今日はどうやってここまで来たか、自分の長所、得意な科目を答えた。意外なことに好きなゲームは何かという質問があった。

 試験官は他にもいくつか質問したが、まだ一つ訊いていないことがある。担任の先生が絶対にこれは訊かれると言っていたが、その気配はない。このまま面接が終わるのではないかと望は期待したが、試験官が大きく息を吸って吐いた。

 教室にぴりっとした緊張が走ると、望のへその穴がみぞおちまで上がった。面接官が咳払いをする。

「一つ訊いておきたいことがあります。良いですか?」

 試験官はことさら優しい口調になった。口元には笑みさえ浮かんでいる。

「はい」と望は答えた。教室の空気がやけに冷たかった。

「あなたは二年生の二学期から学校に行っていませんね。どうしてですか?」

「周りの人と馴染めませんでした。それで学校に居づらくなって、ずっと行けないままになりました」

 事前に考えていた答えだ。でも本当のことではない。

「もしこの学校に合格したら通えますか?」と試験官は言った。

「通えると思います。環境が変われば大丈夫だと思います」と望は答えた。

「試験はこれで終わりです。お疲れ様。ここを出たらもう帰って良いですよ」

「ありがとうございました」

 望は席を立って教室を出た。それから「失礼しました」と言ってドアを閉めた。

 校舎を出ると担任の先生が待っていた。望と同じ制服を着た三人の子が先生を囲んで、騒いでいる。先生は望に気付くと彼らから離れて、そばに駆け寄ってきた。

「どうだった?」と先生は言った。

「まあまあ」と望は答えた。

「受かっていると良いな」

 先生が望の肩を叩いた。望はうなずいて先生の脇を通り抜けた。そのすぐ後に「誰?」と誰かが先生に訊いていた。先生がどう答えたのかは聞こえなかった。

 正門で母親が立っていた。

「車は?」

 望は母親に声をかけた。

「早かったのね」と母親は言った。

「だから車は?」

「ここで待っていたら駐車禁止ですよって怒られたから、ずっと向こうの駐車場に停めてきた」

「それってどこ?」

「あっ、先生じゃない。だいぶお世話になったから挨拶してこないと」

「しなくて良いよ」

「常識がない親だって思われるじゃない。それで困るのはお母さんなんだからね」

 母親はそう言うと担任の方へ行ってしまった。挨拶すると言っていたのに世間話までしている。すぐに終わりそうな気配がなかった。

 雪がちらちらと降る中で、望は待ち続けていた。歩いて帰ることも何度か考えた。

「あら、いたの? もう帰ったのかと思った」

 待ち続けた望に母親は平気でそんな言葉をかけた。

「こんな所から歩いて帰るわけないだろ」と望は言った。

「それなら先生に顔を見せたら良かったのに」

「もう見せたよ」

「あの子達は望君の知っている子?」

 母親が担任の先生に顔を向けた。彼の周りにはまだ生徒が群がっていた。

「知らない」

「もし受かったら一緒になるんだし、今から友達になっておいたら?」

「いいよ」

「お母さんが頼んであげようか?」

「そんなことは絶対しなくて良い」

 望は声をひそめながらも強く答えた。

 それから望は母親と一緒に駐車場まで行った。車に乗ると母親が今日はどうだったか訊いてきた。話すほどのことはないので適当に答えていたら静かになった。

 半時間ほど車に乗っていると家に着いた。

 家の正面には『タカサキ美容室』と書かれた看板がかかっている。母親が経営している店だ。シャッターには『本日休業』と札がかかっていた。周りと比べると大きな家だが、一階部分は店になっているので、住む場所はそれほど広くない。

 裏口から家に入った。というよりも望の家は裏口が正面玄関みたいな物だ。正面から入れないこともないが、店の中を通らなければならない。裏口にちゃんとした玄関を作ろうと父親は言い続けている。

 望は服を着替えると母親と二人で早い夕飯を食べた。

 父親は望の勉強を見るために早く帰ってきていたので、その埋め合わせをするためか、帰りが遅い日が続いている。

 夜の九時になった。風呂を出ても父親はまだ帰ってこなかった。

「お父さん遅いわねぇ」と母親が言った。

 望は眠くなった。試験はほんの数時間だったが、手も足も水が詰まったように重い。まだ早い時間だったが、望は父親を待たずに布団に入るとすぐに眠った。

 
2 望の過去

 望は鏡の前に座っていた。母親が後ろに立って望の髪をカットしている。月に一度の恒例行事だ。望はおしゃれな髪型にされるのが嫌だった。周りと比べると変に目立つのだ。

「そろそろ来ても良いんじゃない?」と母親が言った。試験を受けてから一週間経ったが試験結果はまだ来なかった。

「ダメだったかもね」と望は言った。

「まあまあだったんでしょう?」

「まあね」

「なら大丈夫よ、あんなに勉強していたんだもの」

 仕上げの段階に入ると、店の奥から大橋さんが顔を出した。

「おはようございます、高崎さん。おはよう、望君」

 大橋さんは母が雇っている美容師さんだ。もうこの店で三年働いている。

「そろそろ来ましたか」と大橋さんは言った。

「それがまだ」と母は答えた。

「望君はきっと受かっていると思います」

「そうかしら。あれだけ必死に勉強したんだから受からないと損よね。でも落ちていたらどうしよう。ここで働く?」

 母親が望をからかった。

「お姉さんだっているわよ」と大橋さんまでからかってくる。

「そんなことは絶対にない! 絶対に受かってる!」と望は言い切った。体が熱い。鏡を見ると顔が真っ赤になっていた。

「ほんの冗談じゃない。そんなにむきにならなくてもいいでしょ」と母親が笑った。

「かわいいわねぇ」と大橋さんまで笑っている。

 望は体にかかっている布を剥がして立ち上がった。鏡を見る。やっぱりおしゃれな髪型だった。

 望は体を熱くしながら自分の部屋に戻った。「髪は自分で洗うのよ」と母親の声が背中を追いかけてきた。

 部屋に戻った望は窓から遠くの山を見ていると、遠くの道で制服姿の学生が自転車を漕いでいた。今日は学校のある日だが望は行かない。今日だけではなくもう一年以上学校に行っていない。

 望は窓のカーテンを閉めた。胸がざわついていた。

 開店時間になるとすぐに店のドアが開いた。母親の店は繁盛しているわけではないが、いつも客は入っていた。

 昼にツナサンドを作っていると、大橋さんが入ってきたので一緒に食べた。彼女は望が学校に行っていないことについて何も言わない。

 ツナサンドを食べ終わると紅茶を二杯淹れた。

 紅茶を飲んでいる途中で壁を叩く音がした。母親が大橋さんを呼ぶ音だ。大橋さんは紅茶を半分残したまま「ごちそうさま。ありがとね」と言って店に戻った。

 望は紅茶を飲み終えると、食器を洗った。

 テレビでドラマの再放送を見ていると今度は母親が入ってきた。望は冷蔵庫からラップで包んだツナサンドを出して湯を沸かした。大橋さんも母親も普段はうるさいぐらいに喋るのに仕事中だとほとんど喋らない。紅茶を飲むと母親は店に戻った。

 昼に続いて二杯目の紅茶を飲み干すと望はまた食器を洗った。

 夕方五時になるとシャッターの閉まる音がした。

 店から母親の呼ぶ声がする。望が顔を出すと、母親は細長い封筒を手渡してきた。表には上等高校と書いてある。望はそれをしばらく手に持ったままでいた。

「開けないの?」と大橋さんが言った。

「うん」と望は曖昧に返事をした。

「私が開けてあげる」

 母親は望から封筒をもぎ取ると、はさみで封筒を切った。中から白い紙を出して望に渡す。

 望はその紙を開いた。両脇から母親と大橋さんが覗き込んだ。

「合格って、ことですよね?」と大橋さんが言った。

「ここに合格って書いてある」と母親が指差した。

「やったじゃない、望君!」

「やった!」

 母親と大橋さんがはしゃいでいたが、望は嬉しさよりも不安を感じていた。

 上等高校に受かったということは、四月からここへ通わなければならないということだ。中学校に通うこともできていないのにできるのだろうか?

 面接では環境が変われば通えることができると口に出してしまったが、本当にそうなのかは自分でも分からなかった。


 事の始まりは中学二年の二学期、十月の初めだった。望は風邪を長く引いて一週間学校を休んだ。仮病でもなんでもなく本当の風邪で、布団で横になっていると天井がぐるぐる回っていた。熱は土曜日に平熱に戻った。

 週が明けて月曜日になると望は朝ごはんを食べて制服に着替えた。そして部屋を出ようとすると学校に行けなくなっていた。

 母親は声を上げて何度も学校へ行くように促した。始業時間が近付くと気が狂ったような甲高い声になった。それでも望は学校に行けなかった。学校に行かなければと思っているのに体が動かないのだ。

 その状態のまま開店時間になったので「遅刻してもいいから学校へ行きなさい」と言って、母親は店に出た。

 望は制服を着たままベッドに座っていた。

 十時に学校から電話がかかってきて、望がまだ学校へ行っていないことを母親は知った。母親は大橋さんに店を任せて部屋に入ってきた。

 母親が最初にしたことは望の頭をひっぱたくことだ。目が釣り上がって燃えるような目をしていた。一時間以上強い言葉と手が望の頭に降ってきた。それでも望は学校に行けなかった。結局その日は「欠席します」と母親が学校に電話をした。今日は学校へ行かなくても良いのだと分かると胸が軽くなった。

 その日の夜、母親が父親に望が学校へ行かなかったことを話した。

「まだ本調子じゃないんだ。明日は大丈夫だろう?」と父親が軽い調子で言った。望はうなずいた。その時は明日こそ学校に行くのだと思っていたが、次の日になるとまた体が動かなかった。

 朝起きてごはんを食べる。歯を磨く。そこまでは何でもないのに、制服に手をかけた途端に手の動きが鈍くなった。それでもゆるゆると制服に着替えるのだが、さあ学校へ行くぞとなるともうダメだった。手も足も動かなくなる。学校へ行かなければという気持ちが胸で止まり、手足に伝わらないのだ。

 母親は昨日と同じように怒鳴りつけた。それでも望は動けなかった。頭を叩かれたが、その時だけは頭を防御するために手が動いた。

 店の開店時間になると母親は手を止めて「今日は学校に行くのよ」とドアを開けたまま店に出た。

 しかし、望は学校に行かなかったので、昨日と同じように学校から電話がかかってくると、母親は「今日も学校を休みます」と言った。望は開いたドアのからその声を聞いていた。

 それが三日続くと、さすがに父親もおかしいと気付いたようで、望をリビングに呼ぶと「母親には話せないこともある。ここは男同士で話すから」と母親を部屋から閉め出した。

 父親はまず望を座らせた。それから父親はすぐ目の前に座ると「どうして学校に行かないんだ?」と真剣な顔で言った。望は自分でも理由が分からないのでずっと黙っていた。

「いじめられているのか?」と父親は言った。望は首を振った。

「友達と何かトラブルでもあったのか?」と父親は言った。やっぱり首を横に振った。

「成績のこととか?」と父親が言った。それも違うので首を振った。

「それじゃあ何の悩みがあるんだ」

 父親はうんざりという感じで言葉を吐いた。学校に行かなければならないのに学校へ行けない。それが悩みだったが、今訊かれているのはその理由で、その理由は自分でも分からなかった。望はずっと黙っていた。

「何も言わなきゃ、何も分からん。いつもみたいに喋ったらどうだ」

 父親がきつい口調になった。しかし、何も頭に思い浮かばないのだから喋りようがない。その場を言い逃れる嘘ですら思いつかなかった。

「親をからかうのもいいかげんにしろ!」

 望がずっと黙っているので父親が怒鳴った。

「普段は生意気な口を叩くのに、こんな時だけ神妙にしている。おかしいじゃないか! 誰かに舌を引っこ抜かれたのか? そもそもお前は、いや、お前に限らず最近の若い奴は世の中を舐めている! 俺が若い頃はもっと真剣に毎日を生きたものだ! もっとしっかりしろ!」

 望は父親の言葉をただうつむいて聞いていた。望は指一本動かさなかったが、胸の中は今すぐこの場所から飛び出したいほど揺れていた。

「おい、人の話を聞いているのか! 人が話している時はこっちを向け!」と父親が怒鳴った。さぞ怒っているだろうと、望が恐る恐る顔を上げると、父親は今にも泣きそうな顔をしていた。
その顔を見ると何故か涙が出てきた。まさに流れたという言葉がぴったりで、声も出さず体も震わせず、ただ熱い涙が目からあふれて顔の表面を流れていった。

「なんで泣くんだ。そんなにつらいことがあるのか。父さんに言ってみろ」

 泣いている望を見て父親が言った。さっきまでの強い口調は消えていた。望は手で顔をこすったが涙はまだ出てきた。

「泣きたいのはこっちだ……」

 父親はつぶやくとそれっきり黙ってしまった。

 二人とも長い間黙っていたが、先にしびれを切らしたのは父親だった。彼は息を吸って体を動かすと、柔らかい声で喋り始めた。

「実を言うとな。父さんだって学校には行きたくはなかった。それでも我慢して行った。俺だけじゃない。他の子だってそうだ。お前がそう思ったって不思議じゃない。お前はただちょっと疲れただけだ。若い時は無限に元気があると思ってしまうものだから、つい自分の限界を越えてがんばってしまうんだ。なに、休んだのはほんの一週間ぐらいだ。ちょっとした秋休みと思えば良い。だから明日も休め」

 父親が意外なことを言ったので望は顔を上げた。

「心配するな。母さんと学校には父さんが言っておく。だから明日は心と体をしっかり休ませろ。それで明後日学校へ行けばいい。明後日は金曜だ。次の日が休みと思えば気持ちも楽だろう?」

 金曜日に学校へ行けるとは思えなかったが望はうなずくしかなかった。ここで首を横に振れば何が起きるか分からない。

「そうか。それじゃあ明後日からがんばるんだぞ」

 それで話は終わった。

 父親とリビングを出ると母親が待っていて、望に何か話しかけようとしたが父親がそれを止めた。望には「今日はもう寝なさい」とだけ言って、母親と二人でリビングに入った。何を話すのか気になったが、布団に入って目をつぶっていると、あっという間に朝になった。

「今日はちゃんと学校を休むんだぞ」

 朝食の席で父親が言った。母親がわざとらしいため息をついた。朝ごはんを食べ終えると、父親が「今日も息子は休みます」と学校に電話した。それを聞くと朝の早いうちから体が軽くなった。

 その日は特に何をしたわけではないが、夕方になると体の芯から元気が湧いてきた。その気になれば空を飛べそうな気さえした。これなら学校へ行けると確信して、母親には「明日は必ず学校へ行く」とさえ断言した。

 しかし、次の日になるとその気分はどこかに吹き飛んでいた。

「今日はちゃんと学校へ行くんだぞ」

 望が食卓に顔を出すと父親が言った。朝ごはんを食べると父親は仕事へ行った。

 望は歯を磨いて制服に着替えた。そうするとまた体が動かなくなった。制服を着たままベッドに座っている望を母親は発見して、学校へ行くようにと怒鳴った。開店時間の九時が来ると店に出た。十時に学校から電話がかかってきて、今日は休みますと母親が言った。何も変わらなかった。

 夜、父親が帰ってくると一連の出来事は母親の口からすぐに伝わったようで、荒々しい足音が部屋に近付いてきた。部屋に入ってきた父親はまだネクタイを締めたままで目が燃えるように光っていた。
「どうして学校へ行かなかった! お前は嘘つきだ!」

 父親は開口一番にそう怒鳴った。次に母親が入ってきて二人並んで説教した。父親の口が止まれば母親が、母親の口が止まれば父親が。かなり長い時間説教された。最後に罰として今日の夕飯は抜きということが告げられたが、望はむしろほっとしていた。夕飯抜きなら両親と同じ食卓につかないで済む。夕飯を食べないことぐらい何でもなかった。

 土曜日は両親と顔を合わせないようにずっと部屋にこもった。ごはんを食べる時は飲み込むように食べて、すぐ部屋に戻った。

「明日は学校へ行くんだぞ」

 日曜日の夜に父親は言った。あまり強く言われなかったので望は曖昧にうなずいた。部屋に戻ると一応の準備をしてベッドに入った。頭が燃えているようでなかなか眠れなかった。

 次の日、父親は朝ごはんを食べるとスーツに着替えたが、なかなか仕事に行かなかった。

「今日は学校へ行くんだぞ」と父親は言った。望は小さくうなずいた。朝ごはんを食べて歯を磨くと、部屋で制服に着替えた。そうするとやはり体が動かない。金縛りやしびれとかではなく学校へ行こうとする意志を体が受け付けなかった。

「なんだ、もう制服じゃないか。今日は行く気なんだな」

 父親が望の部屋に入ってきた。父親がまだ仕事に行っていないことに望は驚いた。

「それじゃあ、お父さんと一緒に学校へ行こう」と父親が言った。

 父親に学校へ行くように言われてもやはりダメだった。学校へ行かなければという気持ちはあるのだが体が動かなかった。

『なんでじっと座っているんだ。学校へ行くぞ』

『もう二週間も学校へ行っていないんだ。そんなことで良いと思っているのか』

『お前がそんなに怠け者だとは思わなかった』

『学校にだって楽しいことはあるぞ。友達だっている』

『月曜日は何かをやり始めるのには良い日だ』

 父親は色んなことを言ったがダメだった。望は高い崖のふちに立たされて、ここから飛んでみろと言われているような気分だった。

「なあ、どうしてダメなんだ。お前が何も言わないから父さんにはさっぱり分からん」

 言葉が尽きたのか、ほとほと疲れた様子で父親が言った。

「分からない」とだけ望は答えた。

「分からないってどういうことだ」

「僕だって分からない」

「自分のことなのに理由が分からないなんてことがあるか!」

 父親の言うことは正しい。望も同じ意見だった。でも分からないものは分からない。激しい感情が胸から上がってきて涙が出てきた。

 望が泣き止むのを待って、父親はゆっくりと口を開いた。

「なあ、望。正直に話してみろ。さっきはお前のことを怠け者だと言ったが、あれは言葉の弾みだ。本当はお前がそんな子じゃないということを父さんは知っている。あやまる。すまなかった。今までずっと真面目で良い子に育ってきたお前が、こうまでして学校に行けないということは何か大変なことが起きているんじゃないか? そりゃあ、父さんは何でもできるというわけじゃないが、話してみれば何か解決策が出せるかもしれないじゃないか。父さんがダメなら母さんもいる。母さんでもダメなら先生だっている。先生がダメなら……とにかく大人はたくさんいるんだ。お前の胸の内を吐き出してみろ」

 父親にそう言われても出るのは涙だけで、言葉は一つも出なかった。

「父さんはもう仕事に行く。今日は遅刻だ」

 父親はそう言うと仕事に行った。その日は心も体も軽くなることはなく、望はベッドで横になり一日中天井を見ていた。

 その日の夜、壁越しに両親が何か話しているのが聞こえた。

 次の日は何故か学校に行けと言われなかった。

 さらに次の日、両親は不登校児の子どもを持つ親のセミナーという会に行った。それ以来学校へ行けとは言われなくなった。言ったとしても間接的にやんわり伝えてくるだけだ。今でもそのセミナーには通っているようだ。

 学校からは毎日電話しなくても良いから学校に来る時に電話してくださいという電話があった。

 それから両親は学校に電話をかけていない。通っていた塾はやめた。

 中学三年の九月、担任の先生から絶対に受かると言われていた地元の高校はかなり厳しいと告げられた。その代わりに上等高校という学校を勧められた。

 この時の望は十五歳になれば、どこからか大きな風が吹いてきて、この世から消えるのだろうとぼんやり考えていた。将来のことなど全く興味はなかった。しかし担任が強く勧めるし、両親もこの時ばかりは熱心に説得してきたので、その熱さに負けて受けると言ってしまったところがある。どうせ落ちるだろうとも思っていた。
 
  ※

そんな事情があったので四月からこの高校へ行けるようになるとは望には思えなかった。
 
3 卒業式

夕方、裏庭に車が入ってくる音がした。しばらくすると裏口を叩く音がした。

「こんばんは」

 威勢の良い声がした。担任の先生だ。母親が裏口に出て何か話をしている。

 しばらくすると母親が呼んだので望は裏口へ降りていった。

「よう、高崎。元気か」

 望の顔を見ると担任の先生が手を上げた。彼は週に一度家にやって来る。特に何をするでもなく、ただ顔を見に来るという感じだ。

「上等高校受かったんだってな。学校にも連絡があった。おめでとう」

「うん」

「中学は学校に来ることはできなかったが、高校で環境が変わればきっと大丈夫だ」

「中学だってまだありますよ」

「なら、最後にちょっとだけ来てみるか?」

「いや、行かない」

 望が笑うと「こらっ」と母親がたしなめた。

「いや、良いんです、お母さん。以前はこんな話をすると黙ってしまいましたから。こうやって返事をしてくれるのは彼の気持ちが前向きになってきた証拠です」

「そうでしょうか」

「ええ、お母さんは毎日顔を合わせるから気付かないのかもしれませんが、私は週に一度ですから彼の変化がよく分かります。今は学校に通っている普通の子と何の違いもありませんよ。あと一つ何かきっかけがあれば間違いなく学校に来られるはずなんですが」

「先生が担任になられてから、まだ一度も行っていないので申し訳ないです。こうして何度も足を運んでくださるのに」

「なに、ここへ来るのはほんの寄り道です。ここから家は遠くないし生徒の面倒をみるのが教師の務めですから。それに私も彼の顔を見ておきたいし」と先生は言った。

 それからまた大人同士の世間話になった。

 誰それがどこへ行った。来週はどこそこの高校で試験があるとか、そんな話が多い。その中には望が行くはずだった高校の名前も出てきた。その時だけは三人とも変な雰囲気になった。

「じゃあな、高崎。先生もみんなも待っているからな」

 世間話が終わると、最後に先生が声をかけてきた。

「いや、行かないと思う」と望は返した。

「そうか。その気になれば、いつ来ても良いんだぞ。お前の学校だからな」

 いつものやりとりを終えると先生は裏口から出ていった。母親が見送りに出る。望は自分の部屋に戻ると窓から先生を見送った。先生は望に気付くと手を上げたので、望も手を上げ返した。

 別の日、望は朝ごはんを食べると歯を磨いて制服に着替えた。それから部屋でじっとしていた。先生が言うようにあと少しだと自分でも思う。あと一つ何かきっかけがあれば学校へ行ける。しかし体は動かない。学校へ行こうとする意志を体が拒絶していた。

 その状態のまま始業時間の九時が来た。やはり今日もダメだった。調子の良い日はこうやって学校へ行こうとするのだが、それが成功したことは一度もない。九時を過ぎると望は制服を脱いだ。

 十一時におにぎりと玉子焼きを作って、早めのお昼ごはんを食べた。母親と大橋さんの分も作って冷蔵庫に入れておく。一人分作るなら三人分でも手間はそう変わらない。

『冷蔵庫の中にうまいおにぎりと玉子焼きあり!』

 机にメモを置くと、望は自転車に乗って外に出た。外は快晴で風は冷たかったが、自転車を漕いでいると暑いぐらいだった。

 絶対に誰とも出会わない時間。それは学校のある時間だった。先生も同級生もみんな学校にいて、外にいるのは知らない大人達ばかりだ。その時間に望は外に出る。行き先はコンビニか本屋か図書館のどれかで、必ず隣の市まで出て行く。行き先が決まっていない時はただ遠くまで走り続ける。

 今日は図書館へ行って二時前まで本を読んでいた。

 望は帰りに学校を遠くから横切った。外へ出た時はこうやって遠くから学校を見る時がある。

 どこかのクラスが運動場でサッカーをしていた。運動場の端では三人の不良が授業をサボっている。

 不良達ですら学校に通っている。その分だけ不良の方がマシな人間だと望は思った。望は不良ですらない。不良以下のクズと呼ぶのがふさわしい本当の意味での最低人間だ。そうやって自分を卑下していると何故か奇妙な快感があった。

 家に帰ると足が伸びきったゴムのようになっていた。それに今日は晴れていたので全身汗びっしょりになった。

 冷蔵庫を開けるとおにぎりと玉子焼きがなかった。母親と大橋さんは望の作った昼飯を食べたようだ。

 冷蔵庫からジュースのペットボトルを取ると自分の部屋に行った。

 汗で濡れた服を脱いでジュースを飲んでいると、ずっと遠い道で学校帰りの学生の姿が見えた。望はくるりと回って窓に背を向けた。

 夕方に担任の先生が来た。母親は店の片付けをしていたので望は先生と二人で裏口に座って、他愛もない話をした。

「もうすぐ卒業だな。お前だけじゃなく、クラスのみんなも進路が決まってほっとしたよ」

「受験に失敗した子はいる?」

「まあ、何人かはいたさ。椅子の数は決まっているから誰かが落ちるのは毎年のことだ。だけどその子達も別の進路を見つけたよ」

「僕が落ちていたらどうなっていたかな?」

「受かったんだからそんなこと言うなよ。胃に穴が開く」

「元々胃に穴は開いています。それも二つ」

 先生は始めぽかんとしていたが、しばらくして意味が分かったのか笑いだした。

「お前って面白い奴だな。一緒に学校生活を送れなかったのが残念だよ」

 先生は本当に残念そうに声を漏らした。

「すいません」

 望も声を落とした。それで二人の会話が途切れた。

 しばらく長い沈黙が続くと、先生はひとつ深呼吸した。

「なあ、高崎。今日は卒業式の予行演習をしたよ。俺は壇上に上がってお前の名前を読んだ。返事はない。いないんだから当然だよな。でもちょっと寂しかったよ。俺はな、できたらクラスの全員が揃って卒業できたらと思ってる。俺がお前の名前を読む。お前がそれに答える。お前だけじゃない。クラスの全員が揃って……いや、強制するわけじゃないんだ。ただそうだったら良いな、とお前に伝えておきたかった」

 また先生が寂しそうに声を漏らした。望には返す言葉がなかった。

「じゃあな、高崎。すまなかった」

 先生は用事を思い出したように腰を上げた。今日は母親がいないので望が先生を裏庭まで見送った。

 それからも先生は家に来たが、卒業式の話も学校に来いとも言わなくなった。望とただ世間話をしていくだけだ。

 そうやって日を重ねて卒業式の日になった。最後に卒業式が残っているがドラマみたいに最後の日だけ登校する気にはなれない。両親も無理して行かなくて良いと言った。

 さすがにこんな日はどこへ行く気にもなれず、ずっと家にいた。

 あっという間に時間が過ぎて昼になった。卒業式はもう終わっただろう。卒業式に出席しなくても中学校は義務教育なので、望も自動的に卒業となる。中学生活は終わったのだ。

 店が休みなので、母親と一緒に昼ごはんを食べた。母親は寂しそうだった。

 昼下がりになると家の外はいつものように静かになった。あんなに重苦しかった中学校も、いざ卒業してしまうと何だか宙ぶらりんになった気がする。

 夕方になった。裏庭に車が入ってくる音がする。いつも聞いている音なので先生だと分かった。

「こんばんは」

 裏口から威勢の良い声がする。やっぱり先生だった。

 望が下へ降りると、母親と礼服を着た先生がいた。

「よう、高崎」

 望と目が合うと先生が言った。手には黒い筒を持っている。卒業証書だろう。

「これを渡そうと思ってな」

「わざわざすみません」と母親が言った。

「なに、教師の役目ですから。それじゃあ……」

 先生は筒から紙を出すと、それを両手で持ち「卒業証書」と改まった声を出した。

「ちょっと待ってください。ここじゃなんですから表の方へ」と母親がそれを止めた。

 先生は一度息を吸うと「それもそうですね。お店の方でしますか?」と言った。

「ええ」

 母親は店の方へ行った。先生も裏口から表の方へ行った。

 望も店の方へ行った。昨日掃除をしたままの店内はひんやりとしていた。髪の毛一本も落ちていない床が蛍光灯の明かりを反射して筋状に白く光っていた。

 母親がシャッターを開けると、礼服を着た先生が待っていた。裏口で見るよりしゃきっとしていた。

「それじゃあ、ここでしますか」

 先生は店の真ん中に立った。

「俺が名前を呼ぶから、そうしたら返事をして俺の前まで来てくれ」と先生は言った。ここで卒業式をするようだ。

 先生が息を大きく息を吐いた。

「高崎望」と先生は言った。

「はい」と望は返事をした。

 店の中央の開けた場所で先生と向き合って立った。母親はその脇に立っていた。先生は一つ咳払いをすると背筋を伸ばした。

「高崎望殿。あなたは本校の全過程を修了したことを証し、ここに卒業証書を授与します」

 先生が証書を読み上げていった。最後に今日の日付と、久しぶりに聞いた学校名と、初めて聞いた校長の名前を読み上げて証書を望に向けた。

 望はそれを両手で受け取った。

「卒業おめでとう」

 先生はそう言うと、いつもの先生に戻った。

 母親は涙ぐんでいた。先生もそうだ。望も胸の奥に熱い物を感じていた。しかしそれでも三人は店のソファーに座って、いつものように他愛もない話をした。そしていつもと同じぐらい話をすると先生は腰を上げた。

「それじゃあ帰ります。お母さん、一年間本当にお世話になりました」

「いえ、こちらこそ。何度も足を運んでくださったのに結局こんなことになってしまって申し訳ありませんでした。こちらこそ大変お世話になりました」

 母親が頭を深く下げる。先生は慌てて、それを止めた。

「望君のような子は初めてですよ。学校に来ない子がいないわけじゃないんですが、学校に行くふりをして別の場所に行ったり、家に来ても顔を見せてくれなかったりしますから。その点、望君はいつも顔を見せてくれるし、素行が悪くなるということもなかった。私にとっても新しい経験でした。私が担任になってからも学校に来させることはできませんでしたが新しい環境になればきっと大丈夫です」

「そうでしょうか?」

「大丈夫です。あと一つきっかけがあればといつも思っていたんです。私にはそれが見つけられませんでした。でも環境が変わればきっとまた学校へ行けるはずですよ」

「そうなってくれるといいんですけど」

「大丈夫だよな、高崎」

 先生が望の肩に手を乗せた。太くて硬い大きな手だった。

「うん」と望は答えた。

「じゃあな、高崎。俺は学校にいるから、またいつか学校に来いよ」

 望は母親と二人で先生を見送った。先生の車が見えなくなると何か大きな物が胸から抜け落ちたような気がした。



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小説なら牛野小雪

『こちら海老名市役所/婆雨まう』

『こちら海老名市役所/婆雨まう』

 婆雨さんの小説は事前の説明無く文の主役がコロコロ代わるのでちと分かりづらいが、主人公は富蔵(ですよね?違っていたら直します)だと思う。ただ文章はかなり軽快で読みやすいのは今風で羨ましい。
 前半というか、作中のほとんどは海老名市役所の『なんでも課』で起こるドタバタ劇が主になっている。
 面白くなってくるのは終盤で人生に対して真っ直ぐな富蔵が、ほんの些細な偶然から人生が転落する話で、怪しい副業あり、臭い職場あり、浣腸&アナルセックスあり(ひょっとして全作これがありますか?)、ブラックな職業体験が続くあたり。
 警察に裏切られ、社会からも外れ、落ちるところまで落ちた主人公がもう一度自分の人生を取り戻すというヒューマン小説。
  


2014年1月の牛野小雪

次作のあらすじとプロットが完成した
2014/14

 やっとあらすじとプロットが完成した。蒲生田岬の反省点を踏まえて今回はいつもと違う練り方をしたので書ききれるかどうかちょっと自信がない。まあ毎回自信なんてないのだが今回は輪をかけて自信がない。原稿用紙十枚ぐらいなら途中で書けなくてもまあいいかと諦めもつくが、もし200枚ぐらいで詰まったらどうしようかと思う。でもまあ
用意してしまったものはしょうがない。他に書けそうな段階の物もないしここは書くしかないとあきらめよう。予定している字数だと今までの執筆スピードで130日かかる計算になるが、できればそれを30日にしたいとも思っている。というのも私なんかは小者なので他の人がどんな風にしているかが気になって仕方がない。それでツイッターやブログをよく見ているのだが、どうも私はKDP作家の中でかなり筆が遅い部類のようだ。1日2000字書ければ上出来なのに1時間に2000字書く人もいる。人に可能かどうかは別にして13万字書いたという猛者もいた(ただしこれは本人もビックリしていたようなので、普段はもっと遅いものと思う)。そういう例外は除いてざっと見ると概算では廻りと比べて5分の1ぐらい遅い。早く書ければ良いってもんじゃないけれど、執筆速度は野球でいうストレートの球速みたいなもので早く書ければ変化もつけやすい。1日2000字書けたとしても、もし蒲生田岬の一章を書き直すのに一週間かかる。だが一日4000字だと3日で書き直せる。これはかなりの強みだと思う。4000字書ける作家は2000字の作家と比べて一章を書き直すプレッシャーが半分なのである。というわけで今回の課題は執筆速度を今より上げる事と話自体の構成力を上げる事に決めた。まあ今の倍、60日ぐらいで書けたら僥倖だと思うが書きたいように書いていたら成長しない気がするので厳しいノルマを課してみた。もっともこれは自分だけのノルマで30日以内に書けなくても誰にも迷惑をかけないのがKDP の良いところ。もし他人が絡むなら一年ぐらい待ってくれというだろうなあ。まあ誰も一年も待ってくれないだろうけど・・・・私だって嫌だ。そう考えるとKDPって凄いシステムだなあ。6日から書き始めるとすれば2月5日に初稿が仕上がる予定か。ああ、人間やめないと絶対無理な気がしてきた。次作の予定は30~365日の予定になりそうです。


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2013年に読んだkindle本のレビュー

『魔女と機械と遺世界と/舟渡攻』を読んで考えてみた

『魔女と機械と遺世界と/舟渡攻』を読んで

 主人公は殺戮機械。旧世界を滅ぼした張本人である。機械というが、後に遺伝子がどうたらこうたらと出てくるので完全な機械ではなく人間と機械が合わさったような物のようです。なので物語中で感情が描かれているのも当然です。というか主人公の感情の移り変わりがこの小説の肝です。
 主人公の心中では自分が滅ぼした旧世界と、文明が滅んだ現在の世界の二つに分けられていて、自分は旧世界の人間(話がややこしくなるので人間とする)と思っている。今の世界は自分のいうべき世界ではないと思っている。それで、今の世界を遺世界と呼んでいる。
  
序盤の魔女が寝たあとに主人公はその異世界を旅してユズという女の子と出会う。異世界の様子を調べるために主人公と彼女と行動を共にしていきます。遺世界なりにも問題が起こるのですが、主人公は旧世界の人間なので、なるべく遺世界に影響を与えないように手助けはせず見守るだけに徹しようとします。しかし、成り行きで竜の生け贄にされたユズを助けてから、まあ色々あって村と村の戦争が起きる。その中でユズは命を落としそうになる。
 主人公は旧世界に関わらないようにしようと決めていたのだが、ユズの死を前に何もしないでただ見ているだけで良いのかと迷う。まあ結果はハッピーエンドです。
 
 この小説のテーマは主人公の心の中で分けられた旧世界と遺世界、現在と過去の融合。それを繋げたのは愛っていう話でした。
 ラーメン同盟の話にちょっと似ていると思った。執筆時期はかなり近い作品だと予想する。 


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2013年12月の牛野小雪

倒置法で考える欧米人の気の強さ
2013/12/3

 自分の文章を診断してもらった、文章を小説形態素解析というサイトでだ。
 倒置法、連用中止法が極端に少ない。形容詞もだ。その代わり動きを表す文章が多いらしい。
 そこで私は初めて知った、連用中止法という言葉を。そして言葉は知っていたが、意味までは知らなかった。倒置法のことだ。
 それは言葉を強調することらしい、文章の順序を替えて。そして、それは大抵動詞を先頭に持ってくることで行われる。調べてみて分かった。

例えばこうだ。
通常:今日もブログを見てくれてありがとう!
倒置法:ありがとう!今日もブログを見てくれて

 
 さて、そこで考えたことがある。それはなにか?
 主語の次に動詞がある、英語では。これは自然に倒置法(日本語で言う)を使っているということになる。すると自然に気性が激しくなるんじゃないか? 使う言葉がみんな強調されているなら。
 欧米人の自己主張が強いのは文化や気質ではなく、言葉遣いに依るものではないかと思った。
 それと同じで日本人が引っ込み思案というのもまた文化や気質ではなく、言葉遣いにあるのではないかと思った。 
 
 使ってみよう倒置法を、何かを主張したいときに。


 実を言うと私は実感した。倒置法で書いていると気が強くなってきた。だが少々おかしい。いや、かなりおかしい。日本語としては読みづらいと思う。
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蒲生田岬の創作ノート

 何故か知らないが最近閲覧者数が4倍ぐらい増えている。PVからして新しい人が来て過去記事を一通り見ていったようだ。無料キャンペーンをしたからかな。


 私は他の人がどうやって話を作っているのかずっと知りたかった。創作ノートとか覗いてみたいと思っている。
 以前、月狂さんが創作ノートを晒していたので、私も蒲生田岬の創作ノートを晒してみることにした。月狂さんはノート1ページだけだったけれど、私のはもうちょい多くて、そして汚い。画質が悪いのはvita で撮ったから。kindle に背面カメラがついているときれいに撮れたんだけどなあ。

1.まず原案。登場人物と物語全体で何がどうなるか。それと大まかなプロット。
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2.登場人物の相関関係。4章のプロット(この時は2章にする予定だったようだ)
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3と4.各章のあらすじ
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5と6と7. 5章までのプロット。5の左下で分岐線が9つに別れているが、5つ目の下に黒い丸でもう一章ある。
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7と8と9.後半のプロット。あとで見て、書きやすいように線を引いて、物語を時系列に並べて書き込んでいる。

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最後の小さいノートは蒲生田岬への簡略地図とどんな場所だったか書き残したノート。

 他にもチラシの裏に書いたのがあったが、その部分は書いてしまうと捨ててしまった。
 こうやって読み返すと最初に思い描いていたのとはちょっと違う物になってしまったと思った。大きな流れは一緒だけれど。使わなかった物もあるし勿体ない気もする。
 こんなすっかすかの創作ノートでよく書けたなあ。なぜ書けたか自分でも分からない。
 でも月狂さんはノート1ページであんなに濃密で危険な小説が書けるんだから半端じゃない。


牛野小雪の小説はこちらから→Kindleストア:牛野小雪


2013年11月の牛野小雪

作家が感想文を書くのは禁止!?そんなアホな話あるの?→自分の領分でするならアリ
2013/11/12


 前にきんどうの記事で作家同士のレビュー交換は禁止だというのを読んだ気がする。
 どの記事かは忘れてしまった。
 その時は全然気にしなかったのだけれど、昨日読んだ本の感想を書いた後にふと思い出した。
 やべぇ、KDP のアカウント抹消されるかも!と不安になり急いでAmazon に問い合わせた。
 自分のブログなんだから勝手にすればいいじゃん?的な返事がきたのでほっとした。 
 いくらAmazonでもそこまで縛る権限はないよね。さすが自由の国アメリカ!
 しかし、Amazon内でのレビューは禁止されているかどうかはガイドラインを見てね♪とリンクを貼られた。文字が多くてまだ読んでいない。わざわざ貼るってことはダメなのかもしれない。誰かがKDP やレビューの規約を調べて読みやすいようにまとめた文章をきんどうさんに寄稿してくれないかなと他力本願する。続きを読む

『蒲生田岬』のリリース記事


秀子と奈津美は電撃の友情で結ばれた二人。これから先もずっとこの友情が続くと思っていた。
ひょんなことから奈津美はモデルの仕事をしたけれど、それが破滅の入り口だとは気付かなかった。
奈津美は死んで、秀子は謎のメールに悩まされる事になる。


試し読み


念写

 心の中で強く思った事、見た事を写し出す現象。
 時には月の裏側、未来の出来事など、自分が経験したこと以外の物を写す事がある。
 写す物は写真フィルムが一般的だが、パン、ケーキ、壁、紙、人肌に念写された事もある。
 これらの事から念写する材料は特に選ばないものと思われる。
 特別な能力者は意図して念写をするが、本人がその能力に気付いていない場合、意図(いと)せず念写してしまう事があるかもしれない。



 白い大鳴門橋のすぐ脇で渦潮が白く渦を巻いている。実際にこの目で見る渦潮は想像していたよりも小さくて静かだった。

 秀子は展望台から渦潮を見下ろしていた。隣には奈津美(なつみ)がいる。彼女の提案でここまで来たが、すぐに飽きてしまったようだ。

「何もないね」と奈津美がだるそうに言った。「私の想像していた渦潮ってもっとこう大きくて激しいものだと思っていたけど、こうやって見ると大したことない。子どもの頃に見たのはもっと大きくて恐かったんだけどなあ」

 奈津美は手を大きく広げた。

「地球温暖化のせいじゃない?」と秀子がふざけて言うと、奈津美は眉を上げて「まさか。それならチーズケーキが昔と比べて小さくなったのは?」と突然関係のないことを言った。

「それはお菓子屋の陰謀。値段は変えずに少しずつチーズを減らしているの。ケーキは小さく、スポンジは大きく。このままだとチーズケーキがスポンジケーキになってしまうのに誰も声を上げようとしない」

 あなたって世間知らずのお嬢さんなのという顔で秀子は言った。

「それじゃあスポンジケーキはどうなるの?」と奈津美が返してきたが、なかなか言葉が出てこなくて、一つ深呼吸して時間を稼ぎ「…その頃は……たぶんホットケーキぐらいかな」と秀子はかろうじて返した。

 奈津美がニヤリとした。秀子もニヤリとしていた。片方がふざけたことを言うともう片方もそれに合わせてふざけたことを言う。先に言葉に詰まった方が負け。今までの勝敗からして最初に仕掛けた方が負けるような気がしている。おふざけに先手なしだ。

 奈津美はおしゃれ人間だ。毛先、手の先、爪の先まで意識が通っている。どこをとっても秀子より洗練されている。一緒に歩いていると誰もが奈津美に目を向ける。

 秀子はださくない人間だ。別にそこを目指しているわけではないが、努力してもしなくても、ださくないになってしまう。

 二人はちぐはぐだった。だけどそれは見た目だけで、同じ心を持った二人だった。

 友情にも一目惚れがある。奈津美とは電撃の友情だった。

 大学の教室では学生達が思い思いに席を取っている。みんなバラバラに座っているように見えるが、よく見るとそれぞれのグループで集まり、大学の海でそれぞれの島を形成している。

 秀子は島に名前をつけていた。おしゃべり島。真面目島。居眠り島。色んな島がある。奈津美はおしゃれ島で、秀子はださくない島で生息していた。

 秀子はおしゃれ島に住む奈津美をいつも見ていた。理由はないが奈津美とは気が合いそうな気がしていた。それでも、おしゃれ島には近寄り難くて二人は言葉を交わすことなくずっとそのままだった。

 後期に単位を埋めるために取った授業で、秀子は一人孤島を作っていた。他のださくない島の住人達はその授業を取っていなかった。その授業には奈津美もいた。彼女もおしゃれ島の住人がいなかったので孤島を作っていた。

 ある日、奈津美がその授業を休んだ。次の週は休まずに来た。奈津美は授業が始まる前に秀子の後ろに座ると「ねぇ、先週の授業出た?」と声をかけてきた。

「出たよ」と秀子は答えた。

「良かった。それじゃあノート見せてくれない?」

「良いよ」

 それが二人の最初に交わした会話だった。

 奈津美は初めから馴れ馴れしい話し方だったが、秀子はそれを自然に受け入れられた。秀子も同じように馴れ馴れしく話した。奈津美も嫌な顔はしなかった。

 秀子は奈津美と気が合う。奈津美も秀子と気が合う。二人は自然と仲良くなる。

 この友情三段論法で奈津美とはすぐに仲良くなった。

 二人は来年大学を卒業する。就職先は決まっていた。

 何社受けても面接を通らなかったのに、一度内定が取れるとどんどん受かり始めた。秀子は合計六件の内定が取れて、そのうちの四件に内定辞退の電話をかけた。採用してもらうのも大変だが、内定を取り消してもらうのも大変だった。

 遠まわしに嫌味を言われたのが二件。「そういう時代ですからね」と円満に了承してくれたのが一件。罵倒されたのが一件。その会社には「会社まで来い!」と怒鳴られたが、恐いのでまだ行っていない。

 残った二件のうち、どちらへ行くかは決めているが、秀子はまた罵倒されるのではないかと不安だったので、まだ電話をしていない。

 二人とも卒業に必要な単位は取ってあるのでかなり暇だった。

 今日の昼過ぎに二人は奈津美の部屋にいた。奈津美は部屋をいつも綺麗に整えている。そんな中でカーテンに星や三日月の小物をぶら下げていたり、枕元に亀のぬいぐるみがあったりするのはちょっと不思議だった。部屋にクローゼットはあるが、その中は服と靴とバッグが目一杯に詰められていて、それだけでは足りないのか大きなタンスが一つある。一人暮らしの部屋には不釣合いな大きさだが、彼女みたいなおしゃれ島の人間にはこれでも小さいのかもしれない。

 二人はその部屋で若さを浪費していた。たまたま点けていたテレビのニュースで、画面一杯に広がる渦潮の画面とオーケストラの音が流れていた。それを見た奈津美が渦潮を見に行こうと言い出したのだ。

 それで二人は鳴門公園まで来た。駐車場から展望台まで歩いて渦潮を見たのだが、頭の中の渦潮と実際に見る渦潮は全然違うので拍子抜けした。

「すいません、写真撮らせてもらっても良いですか?」

 男の人が話しかけてきた。さっきから渦潮を撮っていた人だ。三脚とショルダーバッグを背負って、首にはカメラを二つも吊り下げている。いきなりだったので秀子は身構えた。ポロシャツのボタンを全て外して胸元を出しているのが気になった。

「自分で言うのはおかしいけど、あやしい者じゃないよ。ああ、そうだ。名刺」

 彼はショルダーバッグから名刺を出して二人に渡した。角が丸まった名刺には『塩田スタジオ カメラマン 塩田信夫』と書いてあった。

「ふりがなは振っていないけど、しおたのぶおって読むんだ。カメラマンのことなんて気にしないだろうけど、ほら、東マリコって知ってる? 僕、彼女の写真も撮ったことがあるよ」

「えっ、東マリコってあの東マリコ?」

 奈津美が大きな声を出した。秀子もその名前は知っている。徳島県出身で今売れっ子のファッションモデルだ。地元出身ということで彼女が出ると秀子もつい気になってしまう。台詞は棒読みだったが映画にも出たことがある。

 一時期ファッション雑誌の表紙が彼女で埋まったこともある。秀子はファッション雑誌を買わないが、その時だけは一冊買ってしまった。彼女は間違いなくおしゃれ界の住人、その頂点に住んでいる人だ。

「今も彼女の写真を撮っているんですか?」と秀子は訊いた。

「いや、さすがに今は撮れないよ。東京に行ってしまったからね。だけど、有名になる前は地元の服屋、呉服屋のモデルをしていたよ。彼女だけは頭一つ抜けていたなぁ。そうそう美容室のモデルもやってた。知らない? その写真を撮っていたのが僕さ。あの頃は本当に楽しかったなぁ。将来のビッグモデルを間近で見ていたからね。夢中でシャッターを切ったものだよ」と塩田さんは言った。

「ねぇ、ちょっと凄い人なんじゃない?」

 奈津美は声をひそめながら秀子に同意を求めた。

「写真の腕は使っていないと落ちるからね。それで写真を撮らせてくれそうな人をいつも探しているんだ。日本人は恥ずかしがり屋だからなかなか撮らせてくれなくて困るよ。どう? これから時間はある? もし良かったら撮らせてくれないかな? もし心配なら撮った写真は後で消すよ。僕は修行できたらそれでいいんだ」と塩田さんは言った。

「どうする?」

 奈津美は秀子に訊いたが、既(すで)にやる気満々だった。カメラで撮影されるのは恥ずかしいが奈津美が乗り気なので「ちょっとだけなら」と秀子は同意した。

 塩田さんの指示で二人は大鳴門橋を背景にして立った。奈津美はファッション雑誌みたいなポーズを取っていたが、秀子は棒立ちでピースするぐらいが精一杯だった。塩田さんは何枚か写真を撮ると「次は一人ずつ撮ってみようか」と言った。

「ひでちゃん先に撮ってもらいなよ」

 奈津美に背中を押されて秀子は一人でカメラの前に立った。

「う~ん、表情が固いよ~」と塩田さんは言った。

 秀子が緊張しながらも笑顔を作ると、すぐにカシャッと写真を撮る音が鳴った。友達同士で写真を撮る時は顔を決めた状態でしばらく待たされるが、塩田さんは表情ができた瞬間に写真を撮ってくれるので気持ち良かった。

「次はポーズ取ってみようか」

 カメラから目を離さずに塩田さんが言った。ドラマに出てくるカメラマンみたいな台詞だったので、秀子はつい笑ってしまった。塩田さんはその笑顔も逃さずに撮った。

「今の最高に良い笑顔だよ~」

 塩田さんがほめてくる。秀子は雑誌に載っている東マリコを思い出していた。塩田さんは秀子がポーズと表情が決まるたびにシャッターを切っていくので、なんだかモデルになったみたいで楽しくなった。笑顔だけではなくて悲しそうな顔、強く前を見据える顔、憂いをおびた顔、いたずら顔、アヒル顔、思いつく限りのポーズや表情を思いっきりわざとらしく作った。その度にシャッター音とおおげさな褒め言葉が後を追う。

 秀子はふと奈津美を見た。彼女は自分が撮られる時のために秀子と同じポーズと表情を練習していた。

「ごくろうさま! ちょっと疲れたかな。一度休憩にしよう」と塩田さんが言った。

 せいぜい十分ほどだと思っていたが、時計を見ると半時間も経っていた。

 秀子達は日陰に移ると今まで撮った写真を見せてもらった。奈津美も塩田さんを挟んでカメラの液晶画面を覗き込んだ。

「雑誌に載っている写真みたい」と奈津美が言った。

 確かに友達と携帯電話で撮り合う写真とは違う。表情が凄く良い。今までの人生でこんなに写真写りの良い顔はなかった。

「ひでちゃん、凄くかわいい」と奈津美が高い声を出した。

「うん、とっても良いよ」と塩田さんも低い声で賛同する。

 秀子は気恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「ひでちゃん、顔が真っ赤」と奈津美がからかった。塩田さんがカメラをこちらに向けて写真を撮ろうとしたので

「やめてください」と秀子は顔を横に向けた。

「どうする? この写真消そうか?」と塩田さんが言った。

「その写真、私の携帯電話に送れますか」と秀子は訊いた。

「今持っている機械じゃ無理だね。一度スタジオに帰れば君の携帯電話に送れると思うよ」と塩田さんは言った。携帯電話に送るということは塩田さんにメールアドレスを教えなければいけない。いきなり会った人にそれを教えるのは抵抗があったので「じゃあ、いいです。消してください」と秀子は言った。

「本当に良いの? アドレスを教えるのに抵抗があるなら僕のスタジオに来ればいいよ。そうしたら画像データだけじゃなくて写真も作ってあげる。雑誌ぐらいの大きさにして作ってあげるよ」と塩田さんは言った。

「ひでちゃん、写真にしてもらったら? もったいないよ」と奈津美は言った。秀子は一度塩田さんを見た。ボタンを全て外したポロシャツを見ていると、胸の辺りが嫌な気分に襲われた。

「消してください」と秀子は重ねて言った。

「そう」

 塩田さんは残念そうに声を出すと、新しい写真から順番にデータを消していった。ある写真にさしかかると「あっ」と秀子は声を出した。一番良い笑顔で撮れている写真だった。「やっぱりやめる?」と塩田さんが言った。

 しかし秀子は人生で一番写真写りの良い笑顔を目に焼き付けると「良く撮れているから、つい……でも消してください」と言った。

「これがベストショットだよ。消すには惜しいなぁ。でもしかたないね」と塩田さんはその写真を消した。

『削除しました』の文字が出ると、すぐに次の写真へ切り替わった。残りの写真はいつも通りの写真写りで、表情が固い。軽い虚しさを感じている間に秀子の写真は全て消えた。始めに撮った二人の写真も消えた。

 休憩が終わると、今度は奈津美がカメラの前に立った。始めはぎこちなかった表情は、塩田さんがシャッター音を出すたびに柔らかくなっていった。デジタルカメラなのにわざわざシャッター音を出すのは、お互いの気分を高めるためではないかと秀子は思った。

 おしゃれ界の人間だけあって奈津美は絵になった。塩田さんのわざとらしい褒め言葉も半分くらいは心がこもっていた。表情はもちろん、ポーズも雑誌から出てきたみたいに決まっている。秀子とは大違いだった。

 何もすることもないので秀子は渦潮を見ていた。シャッター音が不規則に聞こえて「いいねぇ」と塩田さんのわざとらしい褒め言葉が後に続く。それでも遠い景色を見ていると意識が遠くなっていった。

 秀子はぼんやりとした意識の中で、内定辞退の電話をどうやってかけようかと考えていたが、色々考えるよりも勢いで乗り切ってしまおうという気持ちになった。今日は平日の昼前だから人事担当の人もいるはずだ。

「ごめん、ちょっと電話」

 二人に声をかけて、秀子はその場を離れた。

 人目のない場所へ行くと秀子は電話をかけた。呼出し音が五回鳴った後に電話が繋がった。若い男の声で会社名と何かご用件でしょうかというお定まりの前口上が流れた。秀子は、先日内定を頂いた者だと名乗り、人事担当の人を出してもらえませんかと言った。少々お待ちくださいという声の後に通話保留のメロディーが流れてきた。
奈津美と塩田さんは楽しそうに撮影をしている。秀子は渦潮に目をやった。

 メロディーが切れて電話が繋がった。人事担当の人だった。秀子は内定辞退の旨(むね)を伝えた。今までかけた内定辞退の電話と違って言葉が流れるように出てくる。自分でも不思議だった。相手は残念そうな声で引き止めてきたが、もう決めたことですからと言い切ると相手は折れた。それで、罵倒されることもなく、遠まわしに苦情を言われるでもなく、あっさりと内定辞退が決まった。胸の中がすっきりとした。

 秀子が二人のところに戻ると「はぁ~あ、疲れた」と奈津美が声を漏らした。

「お疲れ、いい写真が撮れたよ」と塩田さんがねぎらいの言葉をかける。撮影は一時間ぐらいだと思っていたが、時計を見るとまだ半時間しか経っていなかった。

 さっきと同じように日陰へ移り、三人でカメラの液晶画面を覗いた。一つ一つ写真を見ていくと、ある写真で「いいね」と塩田さんが口を開いた。

「ほんとに、すごく良い」と奈津美も言った。秀子もその写真を見て「良い写真」と思わず声が出た。雑誌に掲載されているモデルのような洗練さはないが、これはこれで良い写真だった。奈津美の笑顔と体からあふれ出る生命力がそのまま写真に収まっている。

「どうする? 写真消す?」

 一通り写真を見終わると塩田さんが言った。

「写真にして貰おうかな」

 奈津美は少し悩んでから、そう口にした。

「写真にして貰うのって、どれくらいですか?」

「無料でいいよ。モデル料ってことで」

「それなら、写真にしてもらえますか」

「うん、明後日に僕のスタジオに来てよ。住所は名刺に書いている場所だから」

 受け取った名刺を裏返すと確かに大雑把(おおざっぱ)な地図が書かれていた。

「道路を挟んで正面に銀行があるから、そこを目印にすれば分かるよ」

「ひでちゃん、分かる?」奈津美が訊いた。

「大体の場所は」と秀子は答えた。

「一緒に来てくれる?」

「うん」

「よかった。それじゃあ明後日に待っているから」

 そう言って塩田さんは二人から離れていくと別の人に声をかけた。

 その後、秀子と奈津美はうどん屋に入った。せっかく鳴門まで来たのだから鳴門うどんを食べることにした。席に座ると二人は同じ物を頼んだ。

「あんなことってあるんだね」と奈津美は言った。

「なんだか緊張した」と秀子は言った。

「でもひでちゃん、途中からは乗り気だったじゃない」

「なっちゃんは撮られる前からやる気満々だった。私が撮られている間に色々練習していたの、見てたんだからね」

「気付いてたんだ。実は最初にひでちゃんを先に行かせて、私は様子を見るつもりだった」

「それずるい、私なんて始めはカチカチだったんだから」

「ごめんごめん、でもあの人、写真撮るの上手かったよね」

「うん、いい表情が出来たらすぐに写真を撮ってくれるから気持ち良かった」

「ひでちゃんも写真作ってもらえば良かったのに。なかなかあの顔で写真に写ることなんてないよ」

「あの人なんとなく信用できない。ポロシャツのボタンを外して胸元を出していたの気にならなかった?」

「なった。あのデザインは襟立てを前提に作られているのに、それを寝かせているんだから野暮(やぼ)だよね。そういうところが有名になれないカメラマンって気がする」

 奈津美はそう言ったが秀子には分からなかった。塩田さんと別れてまだ一時間も経っていないが、襟が立っていたかどうかは思い出せない。そういう細かいところで、おしゃれとださくないの分かれ目が決まるのかもしれない。

 うどんが二人の席に運ばれてきた。どんぶりが机に置かれると、だしの熱さと香りが顔いっぱいにぶつかってくる。二人は存分に音を立てながらうどんをすすった。

「ねぇ、彼氏とはまだ付き合っているの?」
うどんを食べ終えると突然奈津美が訊いてきた。

「まだっていうか、これからも付き合っていくつもりけど?」と秀子は答えた。

「もったいないよ」と奈津美は言ったが、秀子は彼氏一人で充分だった。自分には何人もの男を手玉に取れるほど気力、体力、対人能力がない。今の一人だけでも大変なので半分でも良いぐらいだ。それがもったいないと思ったことは一度もない。

 魅力的な奈津美の周りには人が集まる。そんな奈津美にはいつも彼氏がいた。しかし、いつも長く続かず三ヶ月ぐらいで別れてしまう。気が合わないのが理由らしいが、秀子は奈津美が付き合う男が悪いと思っている。

 奈津美の彼氏は大体二つのパターンに分けられる。片方は気が強すぎる男で、もう片方は気の弱い男だった。どちらも見た目はおしゃれだが、どことなく悪そうな男だった。気の強い方は暴力的だし、気の弱い方は裏でこっそりと下着泥棒をしそうな男だ。そんな男達だが奈津美は別れた後でも彼らを悪く言わないので、それを彼女に言ったことはない。

 しかし何故か奈津美はここ一年近く彼氏がいないようだった。秀子には彼氏がいるので少しだけ優越感があった。秀子の彼氏はどちらかというと気の弱い男だが下着泥棒はしそうにないタイプだ。ケンカをする姿は想像できない。

 秀子の彼氏は白馬に乗った王子様ではないが、白の軽自動車に乗っている。白タイツではなくジーンズを穿(は)いている。皇族でも王族でもないただの一般庶民だ。それでも秀子との相性は良い。別れる理由はなかった。それに奈津美が本当に別れさせたいのは別の理由がある。奈津美は長いこと彼氏がいないから嫉妬(しっと)しているのだ。

 秀子は奈津美の部屋から帰ってくるとベッドで体を横にした。もう夜だった。

 両親は県内に住んでいるが、大学からは遠いので部屋を借りて通っている。住んでいる場所は築十三年の二階建て、その二階に秀子は住んでいる。四畳半の部屋が一つ、三畳の寝室が一つ、二畳の風呂が一つ、一畳の押入れが一つある。外の空き地にコンテナ型の貸し倉庫があので、押入れには季節の服を入れるぐらいだ。

 秀子の彼氏は正人という。正人はその秀子より頭一つ分身長が高い。人ごみに紛れても彼の顔だけは常に浮いていた。お互い背が高すぎて変に目立つ。そんな二人だが、秀子だけは正人と一緒にいると自分が小さくなれた気分がして、その時だけはしゃんと背筋が伸びた。

 このまま二人の関係が続けば結婚するかもしれないなんて秀子は思っている。でもまだ早い。友達の友達の知り合いで早くも結婚が決まった子がいる。就職が決まった彼氏からサプライズでプロポーズされたらしい。正人の就職内定が決まった時は同じようなことがあるかもしれないと思っていたが、そんなことはなかった。やっぱりまだ早い。卒業したタイミングということもありえるけれど、それでもやっぱり早い。じゃあいつが良いのかと考えると、いつしても早いような気がした。

 秀子は正人に電話をかけた。

「もしもし」と正人の声が携帯電話から聞こえた。

「今日ね、なっちゃんと渦潮を見に行ったんだけど」と話し始めると「えっ、なっちゃん?」と正人は何故か驚いた。

「うん、なっちゃん。奈津美っていう子。何度か顔を会わせたことがあるから知ってるでしょう?」

「ああ、うん、知っているよ」

「渦潮は知ってる?」

「そりゃあ知ってるよ。現物はまだ見たことがないけど」

「今日はなっちゃんとその渦潮を見に行ったんだけどね。そこでプロのカメラマンに写真を撮らせてくれないかって頼まれた」

「へぇ、すごいね」

「それで色々撮ってもらったんだけれど、やっぱりプロは違う。写真映りが普段の二倍増しになってた」

「写真は?」

「その場でデータを消してもらった。だってほら最近色々と大変じゃない。勝手に写真を使われたり、ネット上に晒されたりするから。でも奈津美はあとで写真に現像してもらうからデータは消さずにおいたみたい。あさって一緒に写真を貰いに行く」

「ところで明日の約束は覚えている?」

「うん、釣りに行くんでしょう?」

 明日の夜は正人と釣りに行く約束がある。何度訊いてもどこへ行くかは教えてくれない。この前は鳴門の釣堀(つりぼり)へ行った。うちわぐらい大きな鯛(たい)を一匹と、あとはなんだかよく分からない小魚を何匹も釣った。竿と仕掛けは正人が用意していて、エサを付けるのも、釣り上げた魚から針を外すのも正人がやったので、秀子は海に糸を垂らして、魚がかかれば糸を巻くだけだった。

 時計を見るともう深夜の二時になっていた。まぶたが重たい。お互いに眠そうな声で話していた。そろそろ電話を切ろうと秀子は思ったが、その前に正人に聞いておきたいことがあった。

「ねぇ、私のこと好き?」と秀子は言った。

「うん、好きだよ」と正人は眠そうな声で答えた。なんだか嬉しくて胸の辺りがきゅんとする。

「どうしたの?」と正人は言った。秀子は背中を伸ばすと「それじゃあどこが好き?」と訊いた。

「えっ、う~ん」と正人は急に眠気が覚めた声を出した。それからしばらくして「ただ好きだよ。それじゃあだめかな」と言った。

「それじゃあだめ。明日までに考えておいてね」

 そう言って、秀子は電話を切った。

 携帯電話の画面を見ると、一件のメールが来ていた。件名のないメールだった。そのメールを開くと渦潮の画像が表示されていた。秀子が頭の中で思い描いていた大きな白い渦を巻いた渦潮だ。それ以外には何もない。差出人のメールアドレスもない。最近はこういうメールが届く。この前は二階建てのお屋敷が映った画像。その次は宝石店が映った画像。どのメールも差出人がなく、本文もなしで画像だけが添付(てんぷ)されている。気味が悪いが差出人のメールアドレスがないのでメールフィルターにかけることはできなかった。

 またメールが来た。

 受信ボックスを開くと、でたらめな英数字が並んだアドレスから送られていた。件名には《どうしてかしら?》と書いてある。秀子はそのメールを開いた。

《あなたのことを思うと胸がどきどきする。どうしてかしら?
ふと気付くとあなたのことを考えているあたしがいる。どうしてかしら?
あたしはあなたを知っているのにあなたはまだあたしを知らない。どうしてかしら?
あなたとあたし、ふたりはきっとうまくいく。》

 と書いてあった。

 その文章の下に画像が張られていて、黒髪の肌が白い女の子が映っていた。

 そこから長い空白があって

 《愛ラブメールは二人の恋を応援します!
 彼女とメールをしたい人はこのサイトへ!
 運命の出会いはここから始まる!》

 と書いてあり、リンクが表示されている。もちろんそこは開かずに、そのアドレスをメールフィルターに登録した。

 それから秀子は目を閉じるとすぐに眠った。


1時間に執筆できる物理的限界文字数


 この前、1日中書いて5000字/日を突破した。さすがにここまで書ける人はそうそういないだろうとGoogle で検索したら1時間で5000字書くという人がいた。更には1000、2000ぐらいは当たり前の様に出てくる。中には1万というのもあってビックリした。1日ではなく1時間である。私なんかは、今日は書け過ぎだろうと自分で自分が恐くなる時でも1000字/時なのでとんでもないことである。そんなわけでちょっと嘘臭い話だと思った。
 そこで1時間で物理的にどれくらい文字が打てるのか考えてみた。昔、ブラインドタッチの練習ソフトでは400字/分だった。他の人も400代が多かったので、人間が打てるタイプ数を400と仮定する。文章を打つなら、漢字変換があるので、実用的には半分の200字/分ぐらいだろう。それを60でかけると12000字/時になる。なんと、物理的に一時間に一万字打つのは可能性としてはありえる。それどころかあと2000は打てるようだ。
 10,000字/時の人は文字を打ち込んでいる間でも、言葉が枯れることなくどんどん溢れてきている状態だと思われる。私でもそんな状態はあるが、ほんの束の間の出来事で、一時間も続くなんて考えられない。でも存在可能性としてはありえる。世の中には凄い人がいるもんだ。

(おわり 牛野小雪 記)


2013年10月の牛野小雪

ブログ開始
2013/10/23

 ツイッターだけではなくブログも始めました。
 ここにはふと考えた雑感を書こうと思っています。続きを読む

一人暮らしの女性を襲うホラー小説『ドアノッカー』【kindle unlimitedで読めます】

恵は玲美の電話を受け、電話越しにドアをノックする音を聞く
微かな悲鳴とうめき声。それが最後に聞いた彼女の声だった。
玲美が死ぬと今度は恵の耳にドアをノックする音が聞こえ始めた。

試し読み


「私達って女として終わってない?」と(めぐみ)は言った。目の前には(れいみ)一子(かずこ)が座っている。四角いテーブルには、なめろうと一升瓶が置かれていた。
「普通、女が三人集まったらさ。間接照明のおしゃれなお店でワインをたしなみながら、ナイフとフォークで食べるような料理を食べて、上品におしゃべりするんじゃない?」と恵は言った。
 玲美と一子は顔を真っ赤にして、歯を見せながらにやにやしている。お酒が完全にまわっている証拠だ。
「そういうのは夜遊びに慣れていない子が背伸びしてやるもんでしょ。私達ぐらいになるとそういう(かた)(くる)しいことはやめて楽しくやるの」と玲美は言った。
 三人は油が染み付いた黒い看板の居酒屋にいた。女だけで入るにはためらわれるような店だが、半年前に酔った勢いでこの店に入ったのが通うようになったきっかけだ。店内の壁は看板と同じように長年酔っぱらいの酒くさい息を浴びて黒くなっていたが、ちゃんと手入れしているのか、きれいに黒光りしていた。店のおやじはやけに礼儀正しく、出てくる料理は他の店より一段上の美味さなのに値段は一段下の安さだった。あまり繁盛しないのは場所のせいもあるが店の外観が油で黒いことも一役買っているに違いない。
 三人は赤星病院という総合病院で事務の仕事をしている。残業がない職場なので、お金と暇があれば女子会ならぬ飲み会をした。
「おしゃれな女子会に似合うお酒と食べ物って何がある?」
 恵はなめろうをほおばりながら言った。
「やっぱりワインかな、それかシャンパン」と玲美が答えた。「それにおしゃれなお店でチーズフォンデュとかどう?」
「それ古いよ」と一子が言う。
「そうかな?」と玲美がわざとらしく頭をかいた。
「今時の女子会って何を食べるんだろう?」と恵は言った。
「チョコフォンデュ」と玲美がすぐに答えると
「またフォンデュ?」と恵はひやかすように言った。
「バーニャカウダっていうのもあったね。すぐに(すた)れたけれど。三つに共通するのは野菜かフルーツを何かにつけて食べること」と一子が考察した。
「それじゃあ、次も何かにつけて食べるものが話題になるの?」と恵が言った。
「分からないけれど、なめろうフォンデュじゃない?」
 玲美が箸でなめろうをすくって口に入れた。
「無い、無い、無い」と恵は顔の前で手を振った。
「私分かった」と一子が言った。「何かドロッとした液状のものに、食べ物を絡めて食べるものよね。それでおいしいもの」と一子は言葉を切った。恵と玲美は一子の方を見る。
「それは串カツ」と一子が言うと「無い、無い、無い」と恵と玲美は声を揃えた。
「そういえばチョコフォンデュもチーズフォンデュも二度漬けは禁止。串カツも一緒だね」と恵が言うと二人は笑った。
「話は変わるんだけれど、女子会ばっかりやっている人って彼氏がいないイメージじゃない?」
「彼氏がいたら女子会なんてやっている場合じゃないでしょう」と一子は言った。
「二人は彼氏いる?」と玲美。
「それがいないのよ」と恵が言うと「私もいない」と一子も言った。
「玲美は彼氏いるの?」と一子が言うと玲美は含み笑いをした。
「なに隠してるの、変に笑わないで言ってしまいなさい」と恵が問い詰めると「実はね、彼氏がいる」と玲美はあっさり白状した。
「え~、いつから?」と恵は声を上げた。
「三ヶ月前から。友達の期間を入れると五ヶ月かな。病院に彼が来た時に声をかけられた。よくある話で、最初は友達から始まって、落とせそうになったら彼女にするっていうあの手。まぁ、私はそういう手段だって始めから気付いていたけどね」と玲美は鼻を高く上げた。
「どんな仕事をしている人?」
「ドアを売る会社に勤めているんだって。住宅用から、工場、美術館、県庁に売り込むって前に言ってたよ」
「年収ってどれくらいあるんだろ?」
「一番多い時は九百万に届くかどうかで、もうちょっとで一千万に手が届くって言ってた」
「それってすごいよ」
「でも気をつけないといけないよ。年収九百万でも一千万でも、手取りがいくらあるか分からないし、その年収も基本給じゃなくて、半分以上がボーナスなら何かあった時にガクンと落ちちゃうから」と一子。
「だから、話半分で聞いてる。それに口が上手いってところがちょっと信用できないし」と玲美が言うと、少し間が空いた。
「でもね、話は面白いし、背も高くて、何よりいい男なの」と玲美は言って、にやりと笑った。
「ふーん、そうなんだ。彼氏っていえばさ、夜一人でいる時に欲しくならない? 私って一人暮らしだから、襲われたらどうしようかって恐くなる時がある」と恵が言うと「私もある」と一子が言った。「防犯のために見張りをしてくれる人がいると安心して眠れるのになぁ」
「彼氏じゃないけどさ、こういうのがあるよ」
 玲美がケータイを操作して、二人に画面を見せた。画面には丸いプラスチックの物が映っていて、その上にマモルクンと書いてあった。
「これを家に付けておくと、誰かがこれの近くを通った時にケータイにメールが送られてきて、誰かが家の中に侵入しましたって教えてくれるの」
「へえ~、どこで売ってるの?」と恵は言った。
「ここのサイトからでしか買えないみたい」
「値段はどれくらい?」
「五千円。配達は二週間後だけど、時間指定はできるし、代金引換か、銀行振込でお金を払えるから、クレジットカードを使わないで済んで安心だよ」
「まあ、考えておく」
「私は時間指定で夜八時に送ってもらって、お金はその時に払った。設置の仕方は任せて。私でも付けられるように丁寧に教えてもらったから私が付けてあげる」
「彼氏に教えてもらったんでしょ」と一子が言うと、玲美がエヘヘと笑った。
 時計を見るとこの店に来てから一時間半が経っていた。
「私ちょっとトイレに行ってくる」
 恵がそう言うと、一子が「私も」と言ってついてきた。二人でトイレに入ると、玲美も一緒に入ってきた。
 この店のトイレは意外に広くて、男女別になっているし、女子トイレに個室は三つあった。丁度三人で使える。それぞれ別々の部屋に入った。
「そろそろこの店出ない?」と恵は壁越しに言った。
「今飲んでいる焼酎が片付いたらね」と玲美の声が天井から返ってきた。
 三人同時にトイレの水を流して再び席に戻ると、玲美が瓶に残っていた焼酎を三人のコップへついだ。
「さっきトイレに行った時に思い出したんだけど」と玲美が言った。「ちょっと恐い話をしてもいい?」
「急になに」と一子は言った。
「私、呪われているかもしれないんだよね」
 玲美がそう言うと恵と一子の眉が上がった。
「場所はこの店なんだけどね」と玲美は語り始めた。
「私が一人でトイレに行った時にね、トイレに入ると個室は全部空いていたのよ。それで真ん中のトイレに入って用を足していたらドアをノックされたの。コンコンって。だから、入ってま~すって言ったんだけど、またコンコンってノックしてくるの。だから、もう一度、入ってま~すって言った後に気付いたの。隣は空いているのに、どうして私の所を叩くんだろうって。最初はあなたたちのイタズラかと思って、名前を呼んでみたんだけど返事がなくて、すごく恐かった。だけど勇気を出してドアを開けると」玲美はすうっと息を吸った。
「開けたら?」と恵は合いの手を入れた。
「そこには誰もいなかった。・・・・・・恐いでしょ?」
 玲美は焼酎のコップに口をつけた。
「そこそこね」と一子が言った。
「話はまだ終わっていないの」と玲美は続けた。「今度の話はね、自宅の話。トイレでノックがあった後の話」
「またトイレ?」と一子が言った。
「話の腰を折らないで、すぐ終わるんだから」
 玲美がそう言うと、一子は黙って話を聞こうという体勢になった。
「夜の八時ぐらいかな、一人でテレビをつけながらインターネットをしていたら、玄関を叩く音がしたの。その日は誰も呼んでいないし、親が娘の顔を見に来るには遅い時間だし、一体誰なんだろうって思った。変だなって思いながら玄関へ忍び寄って、そっとドアの覗き穴から外を見るとびっくりした。ドアの外には知らない男が立っていて、ドアをノックしているの」
「どんな男だった?」と恵は訊いた。
 玲美は恐怖に襲われたように目を大きくした。
「その男は青い制服を着ていて、その服と色が同じ帽子を目深に被っていた。そして、その手にはダンボールを持っていたの……」と言って玲美は二人を見た。「つまり宅配便の男がいたってわけ」と玲美は言った。
「なにそれ」と一子は焼酎に口をつけた。それを見た玲美はニヤリとした。
 三人はコップに残っていた焼酎を一気に飲み干した。
「宅配便のお兄さんがね。さっき言っていた防犯グッズ。あれを届けてくれたの。時間指定で八時にしていたのを忘れちゃってた」と玲美は言った。
「変な話しないでよ」と恵は言った。
「でもね、時々夜にドアをノックされたりしない?」
「私はないよ」と一子が言った。
「私もない、多分酔っぱらったおじさんが部屋を間違えたんじゃない? 私そういう話聞いたことがある」と恵は言った。
「そうだよね、私もそう思った。でも恐かった。一人暮らしは気楽で良いけど、こういう時は心細くなるんだよね」と玲美は言った。
 三人はそれで腰を上げて店を出た。三人の帰る場所は別々なので店の前で解散した。
 恵は部屋に帰ると玄関の鍵を上下二つあるうちの一つを閉めた。恵の住んでいる部屋はオートロック無しのエレベーター無し。六階建ての築十五年。部屋は四階で玄関に入ると廊下があって、突き当たりが居間とキッチン。その脇に寝室と物置があった。
 ドアには上下二つの鍵とチェーンがついていたが、毎回二つとも閉めるのは面倒なので下の一つだけを使っている。チェーンは一度もかけたことがなかった。この辺りは道路がきれいだし、不良がうろついていることもない。何なら鍵をかけなくても良いのでないかと思うぐらい治安が良かった。
 恵は居間に入ってソファーに倒れ込んだ。明日は休日なので、このまま眠ろうと思っていた。
 恵は携帯電話を出して、玲美が言っていた防犯器具を調べた。マモルクンという名前を思い出したので『防犯器具 マモルクン』と打って検索した。検索ページの一番上にマモルクンと出ていたので、そのサイトを見た。『マモルクンはあなたの代わりに家を見張ります。』と書いてある。
 恵は酔った勢いで画面の下の購入と書いてある場所を押した。代金の支払い方法が、代金引換、銀行振込、クレジットカードの三つの選択肢が出たので、代金引換を選んだ。画面が切り替わると、時間指定便になさいますかと出てきたので、はいを選んだ。ご希望の配達時間を選んでくださいと出てきたので夜八時を選んだ。すると画面が変わり、お買い上げありがとうございました。商品の到着は二週間後の予定になります。という画面になった。
 恵はもう後悔していた。玲美が話さなければ買わなかったのに。支払い方法も配達の時間指定も玲美が話していたのと同じだ。この無駄遣いは玲美のせいだ。

『火星へ行こう君の夢がそこにある』のリリース記事



【火星豆知識】

火星の1日は 24時間37分地球とほぼ同じ長さ。ただし1年の長さは 687日

【内容紹介】

人類初の有人火星飛行に挑む青年、一郎。
無重力の中で宇宙船に乗り込み、地球から遠ざかる彼を待ち受けるのは、壮大な火星への旅。しかし、その冒険はただの科学的ミッションにとどまらない。宇宙の果てでの孤独、広がる無限の静寂の中で一郎は自分自身と向き合う。
地球の喧騒とは切り離されたこの旅路で、一郎が見つけるものは――希望か、それとも絶望か。


この本を読むべき理由(ChatGPT)


火星へ行こう。
なんだそれは。中二病か? あるいはNASAのプロパガンダ?
違う。これは、人生のメタファーだ。

この小説を読む理由? あるとも、ないとも言える。
でも、わたしは読む。
なぜなら、文章が剥き出しだからだ。

どの小説も“洗練”されすぎている。
安全。
滑らか。
無菌室で育てられた子どものような小説が多すぎる。
その点でこれは異常だ。

文体がたまに崩れる。
主語が抜ける。
視点が迷子になる。
でも、そこで書き手が見える。

ああ、ここで作者は苦しんだな。
書けなかった。けど、書いた。
その“あがき”が、いい。

火星が出てくる。
けどそれは、リアルなSFじゃない。
アポロでもないし、イーロン・マスクでもない。

火星とは、逃避であり、希望であり、
絶望の先にチラつく可能性である。

火星へ行こう。
このフレーズを何度も読み返すと
「あれ、これ自殺願望じゃないか?」と思う瞬間がある。

けれど、違う。
ちゃんと生きようとしている。
読めばわかる。
ぐちゃぐちゃな日々を、どれだけ言葉で拾おうとしたかが。

登場人物? それはもう、どうしようもない連中ばかりだ。
夢を語るには遅すぎた。
でも語るしかなかった。

構成は甘い。
伏線は、張っているようで回収されない部分もある。
でもそれがいいんだよ。
人生に伏線回収なんてあるか? なあ。

この本は、読者に優しくない。
たぶん、途中で投げる人もいる。
でも、耐えて、読みきってほしい。
そうすれば、あの一文に出会える。

「あの一文」——それは、
作者があなたの存在を見抜いた瞬間だ。
読んでいるあなたが、なぜ読んでいるか。
それに応えるような言葉が、唐突に落ちてくる。

たった一行のために読む小説って、ある。
それだ、これは。

言い忘れていたが、これは“いい話”ではない。
でも、“本気”ではある。
「書かずにいられなかった」が全部に染みてる。

読み終えたあと、ちょっと疲れる。
でもその疲れが、悪くない。
体内に残る。ザラザラしたまま。

これは火星じゃない。
これは、地球の話だ。
もっと言えば、今、ここにいる、
あなたの話だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

試し読み


 星ひとつ見えない暗闇に青白い光に包まれた球体が孤独に浮かんでいる。種子島宇宙センターはもう見えないが、日本列島はまだ見えていた。

 宇宙船が地球を三周しながら航行速度まで加速すると、加速のGが無くなり船内を自由に移動できるようになった。その時に一郎は宇宙船の窓から地球を見たのだ。

 宇宙船はさらに地球を半周すると地球を離れ、火星まで行くことになっていた。人類初の有人火星飛行をするのだ。
 操縦席の赤いランプを点滅していた。

「こちら宇宙管制局。一郎さん、そちらに異常はありませんか?」

 管制局からの電話だった。一郎はイヤホンとマイクを着けていたので通話ボタンを押せばそのまま会話ができた。
「はい、今のところ異常ありません」と一郎は言った。

 五秒ほど間があった。地球にある管制局と距離があるので、電波が届くまでに時間がかかる。

「そうですか、貨物室の点検は終わりましたか? 終わったらまた連絡してください」

「これから確認してきます」

 一郎はそう言ってからしばらく待ったが、イヤホンは静かなままだったので電話を切った。

 操縦室から居住空間へ出た。広さは十畳ほど。

 その居住空間の奥に貨物室がある。廊下は無いのでドアを開けるとすぐに貨物室だった。貨物室のスペースは居住空間より三倍広い。居住室の下にはさらに大きな貨物室がある。

貨物のほとんどは水と食料で占められていた。他には火星で活動するための火星四輪車と、火星で生育実験をするためのバラの苗が十株あった。

 火星四輪車は電気で動く大きなバギー車で、宇宙船の太陽光パネルからバッテリーに充電する。満タンまで充電すれば三時間運転ができる。最高速度は時速二十キロ。

 バラは極地植生技術で作られた砂王と青姫というバラだ。

 砂王は太陽が照りつける砂漠でも育ち、半年間水が無くても枯れない品種で、葉っぱは針のように細くて硬い。白の五枚葉をしている。枝は薄い黄緑色でゴムのように柔らかかった。

 青姫は南極でも育ち、氷点下でも枯れないバラで、枝は深緑に黒を足したような暗い色をしている。そして鉄のように硬い。その枝からうちわみたいに大きな五枚葉が垂れ下がっていた。

 貨物は全て床にひもで縛りつけていた。床には紐をかけるための穴とフックがある。

 一郎は紐がゆるんでいないか確認した。特に火星四輪車は念のために紐を一度解いて結び直した。火星四輪車は貨物の中でも特に重いので壁にぶつかれば、宇宙船に穴を開けてしまう恐れがある。

 一郎が運転室に戻ると地球は夜に変わっていた。地上には人工的な黄色い光がクモの巣状に広がっている。

「貨物室の点検終わりました」

 一郎は管制局に電話をした。

「ごくろうさまでした、これから船は火星に向かうコースを取ります」と返事があった。

 船の進行方向が変わり操縦席から地球が見えなくなる。その代わりに今度は月が見えた。

 宇宙船には三台のノートパソコンがある。それを使って地球の管制局とメールのやり取りをする。インターネットも使えた。液晶テレビが一台あって、それで衛星放送を観ることもできた。カメラもあるが、一郎は地球を撮り忘れた事に気付いた。火星から帰ってくる時には忘れないようにしなければならない。

 紙の本は重量があるので持ってくることはできなかったが、電子書籍端末は持ちこめた。地球を出発する前になるべくたくさん本のデータを入れておいた。壊れた時のために同じ物を二つ持ってきている。あとは携帯ゲーム機。これも同じ物を二つ。

 一郎は居住空間に戻ると、本を読んだりゲームをしたりして時間を過ごした。

窓の外を見る度に月は大きくなり、やがて視界から消えた。

管制局から電話がきた。

「月を越えました。ここから先はまだ誰も行った事がない世界です。いってらっしゃい」

「それじゃあ、いってきます」

 一郎はそう言って電話を切った。目の前には黒い空間が見えているだけで火星はまだ見えない。

 時計を見ると地球時間で十九時になっていた。宇宙船には時計が二つある。青と赤のアナログ時計。青の時計は地球時間を表していて二十四まで数字が刻まれている。赤の時計は火星時間を表していて、二十五まで数字が刻まれている。二十四と二十五の間は他の数字より間隔が狭い。

 お腹が空いたので晩ごはんにした。貨物室から、きつねうどん、おにぎり、それとほうじ茶を持ってきた。

 きつねうどんはパック詰めされていて、レンジで温めて食べる。温めなくても食べることはできるが、あまりおいしくない。だしは地球で食べていた物と違い、粘り気があって粉っぽい。そして、うどんに絡む程度の量しかなかった。粘り気があるのは宇宙でだしを飲みこぼしても水分が四方八方に飛ぶことないようにするためだ。

 食べ物はうどんの他にもラーメン、カレー、肉じゃが、みそ汁、豚汁、たこ焼き、梅干し、白米、炊き込みごはん。とにかくスーパーで缶詰やレトルト食品として売られている物はたいていあった。汁物は全て粘り気がついていて粉っぽい。

 食後はほうじ茶をレンジで温めて飲んだ。これもパック入りでストローを使って飲む。

 それから歯を磨いた。宇宙で水は貴重品だ。歯ブラシではなくガムを噛んで磨く。宇宙用に作られた噛み歯磨きだった。最初はカチカチと音が鳴るほど硬いが、噛み続けているうちにガムは柔らかくなり、徐々に小さくなっていく。最後は飲み込んで終わり。

 ネット掲示板で人類初の有人火星行きの話題を探すと、一日で読みきれない量の書き込みがあった。三時間ほど掲示板を読んでいると、一郎は疲れたので眠ることにした。読み終わっていないところはパソコンにコピーして保存した。

 ベッドに入るとゴム製のベルトで体をベッドに固定した。宇宙だと体が浮いてあいまいな空間に投げ出された感じがする。

 部屋の明かりを消して、豆電球に変えた。初めての宇宙で眠れないと思っていたが、一郎は五分もしない内に眠り、眠ったと思ったらすぐに目が覚めた。宇宙では昼も夜も無いが、青い時計を見ると六時になっていた。地球ではもう明るい時間だ。一郎は窓の外に目を向けると暗い宇宙空間が見えた。

 朝ごはんのおにぎりとみそ汁を食べて、歯磨きも終えると、管制局に電話をした。

「おはようございます。定時(ていじ)連絡をします。火星はまだ見えません。異常も無しです」

 毎朝十時は管制局に連絡をすることになっていた。三分ほど待つと返事がきた。

「おはようございます。船は火星のコースを順調に進んでいます。良い一日を」

 地球から離れたので電波が届くまでに時間がある。火星まで行くと、地球と通信するに一時間もかかると聞いていた。

 一郎は居住空間に戻ると、ネット掲示板で自分のことが書かれていないか検索した。一回クリックして画面が切り替わるのに三分もかかった。今日も書き込みはあったが、三時間で読み終えた。一郎の事は、他の話題が埋め始めていた。

 昼ごはんを食べ終えると管制局から電話があった。電話に出て十分ほど無言のままだった。

「地球から距離が離れたので、これからの連絡をメールに切り替えます」

 電話から管制局からの声が聞こえた。

「はい、分かりました」

 一郎が電話を切ってから五分ほど経つとパソコンにメールが届いた。

〈メール確認です。このメールはそちらへ届いていますか? 届いていたら返信をしてください。〉

 一郎は返信の内容を考えたが気の効いた事が思い浮かばなかったので

〈メールは届きました。ちゃんと届いています。〉とだけ書いて送った。それから十分が経った。

〈返信を受け取りました。メールの送受信に問題はありません。確認を終わります。〉と管制局から返信がきた。

 これで一郎がすることは何も無かった。船は自動操縦なので勝手に火星まで飛んでいく。これから三十日間、一郎がやらなければならない事は火星に着くまでの時間を一人で過ごすことだ。といっても火星に行けば誰かが待っているわけではないので結局はずっと一人のままだ。

 火星に一年近く滞在し、十五日の日数で帰還する予定だった。帰りの日数が短いのは地球と火星の距離が一番近い時期に合わせているからだ。

 地球時間で夜になったのでベッドに入った。なかなか眠れないので、一郎は何故火星へ行くことになったのか思い出していた。


一年前に宇宙飛行士を募集する広告が、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット、あらゆる媒体で流された。『火星へ行こう、君の夢がそこにある』というのが宣伝文句だ。企画したのは火星開発公団という組織だ。

 募集要項には採用人数一人。仕事内容は人類初の火星到達、火星での簡単な実験と調査、そして火星からの帰還。健康な心と体を持つ人材を求む、と書いてあり、火星から帰還すれば報奨金一億円と書いてあった。さらにその後ろにカッコ付きで(この報奨金に税金はかかりません)と付け加えられていた。

 一郎は大学を卒業してから一年経つが、まだ一度も働いたことがなく、何をするでもなく日を過ごしていた。歳が二つ上の兄二郎も無職で三年間職についていない。さらに二歳上の長男三郎だけが兄弟でただ一人働いている。職業は植木職人だ。木を植えるより枝を切る事が多いので、枝切り職人の方が実態に合っているよと言っていた。

 ニュースでは三十五歳以下の失業率は五十%を超えて二人に一人が無職だと言っていた。討論番組では就職活動をあきらめた人を加えれば、六割強の若者が職に就いていないと言っていた。それが本当なら三人の内二人が無職ということで、一郎の兄弟がそのまま当てはまった。

 そんなある日、兄の二郎が、火星行きの募集試験を受けるから、お前も試験を受けろ、と一郎に募集のパンフレットを押しつけた。

 募集要項には身長百七十五センチ以下、体重七十キロ未満と書いてあった。大学に通っていた頃の一郎は、身長が百六十八センチ、体重は五十六キロと小柄な体型だった。

 パンフレットの続きには、年齢不問、学歴不問、犯罪歴無し、虫歯無し、病歴無しの人材を求む、と書いてあった。一郎は一応大学を出ているがこの試験では問題ないらしい。犯罪歴は当然無かった。大人しいというより気が弱い性格なので犯罪どころかケンカらしいケンカもしたことがない。

 母は歯磨きにうるさく、小さい頃から寝る前に五分以上歯を磨かせたので虫歯は一本もなかった。入院するような病気もしたことが無い。数年に一度風邪をひくかどうかだ。

 宇宙飛行士募集の試験内容は書類審査と健康診断をした後、さいころで八人に絞り、百日間の架空閉鎖実験を行う。閉鎖実験の合格者が二人以上出れば、もう一度さいころを振って一人に絞ると書いてあった。何故さいころで決めるのかは下の方に『私達は運がある人を求めます』と書いてあった。

 こんな怪しげな計画に一郎は気が乗らなかったが、二郎から一緒に試験を受けろと何度も言われ続けているうちに受けると言ってしまった。

 それから二週間経つと、二郎が一郎の部屋に入ってきて、火星開発公団と書かれた封筒を目の前に置いた。宛名は一郎だった。

 一郎が封筒の中を見ると、書類審査は合格。二週間後に、赤星病院で健康診断を受けてくださいと書いてあった。紹介状も入っている。二郎はそれを脇から見て、お前も受かったなと言った。

 健康診断の日、二郎と一緒に赤星病院へ行くと一郎と歳が同じくらいの人が百人ぐらいいた。みんな一郎より頭が良さそうで、元気に満ち溢れていたので、一郎は落としてもらえそうだった。

 病院の受付で紹介状を渡すと診察室の前に並んだ。この中なら俺が一番だな、全員倒せそうだ、と二郎が耳元でささやいた。試験者全員で戦うわけではないが、確かに二郎なら勝てそうな人ばかりだった。一郎は、もう一度並んでいる人達の顔を見たが、自分は誰にも勝てないだろうという後ろ向きの自信があった。

 過去に大きな病気をしたことがあるか、何か薬を飲んでいるのかと医者に訊かれ、胸に聴診器を当てられた。そのあと身長と体重を測った。尿検査と血液検査もした。心理テストを受けて、最後に歯の検診があり、虫歯無しと診断され、二時間もしないうちに健康診断は終わった。

 それから五日後に二郎は一郎の部屋に火星開発公団からの封筒を持ってきた。中を見ると、健康診断で異常は見つからなかったので、一週間後の架空閉鎖実験に参加するようにと書いてあった。

 二郎も封筒の中身を見せてくれた。やはり同じ内容で一週間後に架空閉鎖実験を受けるようにと書かれていた。

 翌日、夕飯が終わって一息ついた頃、二郎が一郎と一緒に火星行きの試験を受けることを両親に話した。父も母も突然のことで、しばらく言葉を発せずにいた。

 最初に口を開いたのは母だった。母は親をだましていたことについて怒った。


 母が半時間怒り続けて一息つくと、二郎は口を開いた。俺も一郎も就職してない、これから先できるかどうかも分からない。このままくすぶっているよりは火星に行って大きく出たい。それに火星から戻ってくれば、あいつは火星に行ってきたと言われて、どこへ行っても名前が通るようになる。そうすれば良い職も見つかるかもしれない、と言った。

 一郎もそう思っているのか、と母が訊いてきた。一郎は火星に行きたくないかもしれないと言おうとしたが、一郎もそう思っていると二郎が一郎の代わりに答えてしまった。間を置かず、それにもう試験を受けることは決まっているのだと火星開発公団からの手紙を母に見せた。

 母はそれを何度も読み返すと、勝手にすればいいと言い捨てて、足を踏み鳴らしながら寝室へ行って、勢いよくドアを閉めた。その音は家全体を揺らした。

 父はそんなにしてまで行きたいのなら勝手にしろと言って、それからは口を開かなかった。二郎は勝手にするよと言って横を向いた。家族全員が気まずい雰囲気になった。それは架空閉鎖実験の日まで続いた。

(つづきは本編で)

『火星へ行こう君の夢がそこにある』
火星行きのパイロットを募集する広告があらゆる媒体で流された。帰還すれば報奨金一億円。
兄の次郎が勝手に応募書類を送ってしまったので一郎はテストを受けることになった。
彼は試験を落ちるつもりで受けたのだが、何故か受かってしまったので一人で火星へ行くことになる。
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